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DARK ー5人の怪盗ー  作者: 七梨
Determination
108/156

108.奴の動機

 


「ねぇ、おれも何か出来ないかな……?」


 慶音がソワソワと俺に問う。作業の輪に入れて欲しいようだが。


「だからお前は首を突っ込むなと言っただろ。そもそも俺たちが探している男の顔を、お前は知らないんだ」

「うん……」


 しょんぼりと肩を落とす慶音に見兼ねて、パワフルが優しく声をかける。


「慶音? こんなにお客さんが来ると思わなかったから、何か飲み物買って来てくれる? おつかいお願い」

「うん、分かった! みんな何がいい?」

「じゃあ、おれリンゴジュース」

「ボクコーラ」

「わし麦茶」

「オレ酒……」

「総志くん? ふざけてるの? 慶音が買ってくるんだけど?」

「オレもコーラでオネシャス……」

「俺はアイスコーヒー」

「分かった。えーっと……」


 慶音は青山に目を向けた。


「あっ、思い出した! 船で助けてくれた刑事さんだよね?」

「はっ!? まさか……あの時DKに人質にされてた!?」

「余計な事言うな慶音。コイツもアイスコーヒーで良いから行ってこい」

「はーい」


 船のダークでは慶音も変装していたから、青山は顔を知らなかった訳だ。

 慶音が出て行って、パワフルが俺を嗜める。


「高俊。もうちょっと言い方があるでしょう? 折角慶音が思いやりで協力するって言ってたのに。8つも歳が離れてるんだから、貴方ももう少し兄らしく大らかに振る舞いなさい」

「はっ? 兄貴!? どーなってんだ、お前の周りの人間関係は!」


 青山が素っ頓狂な声を出すのに、俺は失笑した。


「それは俺が聞きたい、俺にとっても青天の霹靂だった……。大体パワフル、俺はお前が叔母だなんて認めてないからな? 上から目線で叔母ヅラするな」

「認めるとかそういう問題じゃないでしょ、事実なんだから。全く、本当そういう負けず嫌いなところお子様よねぇ……」


 まさかりさん・エリンギ・じーさんが資料を見ながらクスクス笑い始める。


「は? おいクソ女、俺の事ガキ扱いしたか? それ以前から俺の事バカ扱いしてたよな? 忘れた訳じゃないぞ俺は」

「しょうがないじゃない。バカなんだから」

「それ甥に向かって言うか!?」

「ターカ〜」


 ひかるが俺の肩を抑えつける。


「はい、深呼吸〜。す〜、は〜」


 言われるがままに俺は息を吸って吐く。


「面白くて作業に集中出来ないから、ちょっと落ち着こうね」

「何が面白いって……?」

「だっテ、2人似てル……」

「挑発し合っとるのが、タカとタカが喧嘩しとるように聞こえるんじゃ……」

「DNAを感じるぜ……ププ」

「はぁ!?」


 堪え切れずに、4人は腹を抱えて笑い出す。

 俺とパワフルは眉を顰め、青山は空気に馴染めずポカンとしていた。


「お取り込み中悪いが、これを見てくれタカ」

「全然取り込んでない。見つかったか?」


 じーさんが俺に資料を差し出すと、他の皆もこちらに頭を向けた。

 履歴書に、1人の男の顔。


「ア」

「えっ」

「こいつ……!」


 今と比べれば髪色が違っていたりするが、紛れもなく谷田貝が写っていた。


「谷田貝……、じゃろ」

「あぁ……、間違いないな」


 俺は職歴に目を向けて、息を呑んだ。

 親父と同じ会社だ。職場が接点だったか。


 そして、書かれた名前に目を移す。


近藤類(こんどうるい)……。谷田貝とは似ても似つかない名だな」

「コンドウルイ……」


 と一度呟いたひかるが、あっと何かに気がついた。


「ねぇ、コンドウルイって、ウとイ抜かしたら“コンドル”になる」

「オォ~」

「言葉遊びじゃの」

「あのふざけた男なら考えそうな事だ」

「タカ、こんなのもあったヨ」


 エリンギが差し出した資料は、この谷田貝の会社の社員たちが、誰がいつからいつまで、どのような部署で働いていたかを詳細に示したリストだ。

 俺はそこから近藤類を探し当てた。


「2071年4月入社、だが翌年2072年7月には会社を辞めているな。……国会事件の5ヶ月前か。親父とは部署も同じだ」

「2072年7月26日に退社……? おい、確かこいつ今小渕っつったよな」


 青山が割って入って来た。


「あぁ」

「ちょっと待て、確かあの事件はその時期だったような……」


 青山が携帯で何かを調べ始めた。……流石刑事だけあって、関連する事件との紐付けが出来るのは使える。

 時間にして数十秒、青山はやっぱり……、と呟いた。


「糸原、2072年7月の小渕に関する事件と言えば、やっぱりこれしかない……」

「テレビに映してくれ」


 青山は事務所の小さなテレビに、携帯を同期させて画面を映した。ネットニュースだ。


「2072年7月24日、都内で小渕組の組頭の娘が、別の暴力団員に銃殺された事件」

「銃殺……!?」

「あ……、わし聞いたことがある」

「ん? オレも。何か話題になってたような」


 じーさんとまさかりさんがポツリと言った。


「何じゃったかの? 確かその殺された娘の組と、他方の……」

「丸田組か」

「そうそれじゃ、そやつらが抗争してたことが事の発端じゃろ?」

「組頭の娘はその見せしめに殺された、ってヤツだろ?」

「その後8月に小渕と丸田のドデカイ抗争が起きて、丸田は壊滅……」


 組頭の娘の銃殺事件も、それを皮切りに起きた小渕と丸田の大抗争も、俺だって知ってる。当時暫くニュースはそればかり反復していた。


「だが組頭の娘が殺されたからって、何だ? 谷田貝が会社を辞める理由になるのか、それは。暴力団をしながらまともな仕事をするとは考えにくい。その頃小渕とは無関係だったと考えるのが妥当な筈だ」

「それがあるんだよなぁ根拠……、今さっきお前が言ったろ。言葉遊びコイツならやりそうだって」

「何?」

「その組頭の娘……、小渕海(おぶちかい)という名を偽って…….矢田海(やだかい)と偽名を名乗っていたとか」

「谷田貝と響きが似てる……!」

「やっぱリ、無関係じゃないヨ! こんなに偶然が重なるわけなイ」

「もし谷田貝とこの女が唯ならぬ関係にあったとして、殺されたとなれば働いているどころではなかったのかもしれないな」


 4人は真相をほぼ解明したと、少し喜び始める。

 しかし俺も何処か腑に落ちず、青山はまだ考えていた。


「いや……まだ分からない。谷田貝の動機が小渕海の死だとしたら、長井を狙う理由は何だ? 今までの話で長井の名は擦りもしなかったが?」

「……確か二」

「パワフル、あんた長井や谷田貝と3人で何度か会ったんだろ? 何か心当たりは?」

「いえ……、ないわ。寧ろ長井に対してそんな強い憎悪の感情がある事すら気づかなかった。彼、ずっとヘラヘラとしてるでしょ。ああやって自分の感情を上手く隠してるんだわ」

「……そうか」


 ……。過去の谷田貝の発言の中に、もしかしたらヒントがあるかもしれない。熟考の余地ありだ。


「兎も角、谷田貝と親父の接点が分かった事と、小渕の組頭の娘が何らかの関わりがあると分かった事は大きいな。

 青山、可能な限り谷田貝――近藤類と小渕海の過去を調べてくれ。無論、長井に嗅ぎつけられないように」

「それはいいが……。もし近藤の動機が判明したとしても、奴が国会事件の黒幕であって高成を操ったという確かな証拠がないだろ。糸原高成やお前にあてられた奴からの手紙やメールからは、一切何も出てこないだろうし。これじゃあ逮捕出来ないぞ」

「いや、そんなことはない。俺は奴に“長井の死肉を喰らう”という最高のステージを用意する。……そう、奴は嬉々として鼠取りの餌に引っ掛かる」

「……?」


 俺は青山の方を向いて、ほくそ笑んだ。


「証拠がなければ、作るまでだ。だが万一の時、谷田貝に体術で対抗出来るのはこのメンバーの中で青山、お前しかいない。力を貸せ」


 青山は少し嬉しそうに、はぁと息を吐いた。


「要するに俺は用心棒って事かよ……。まぁいい、勿論手を貸す」


 青山が手を差し出すのに、俺はその手を弾いた。


「そういうのはしない」

「チッ、やっぱお前性格悪……。

 あ、そう言えば。俺と追いかけっこしてた脚の速いヤツは……君、だよな?」


 青山が恐る恐るひかるに問う。


「え、はい」

「だよな!? く〜っ、俺は女子に負けてた訳だ……」

「あはは……どうも……」

「ひかるは女子高生記録を持ってるからネ。そこらの男より速いヨ」


 何故かエリンギが自慢げに語り、青山は苦笑いした。


「記録持ちか、どおりで……。なぁ、悔しいから一度サシで勝負しないか? ちゃんとグラウンドで! 直線100メートル!」

「え〜……」

「頼む! 俺は刑事になってから駆けっこで負けたのが初めてなんだ! もう悔しくて悔しくて……。あんな障害が多い状況じゃなくて、ちゃんと公式的に俺を負かせてくれ!」

「やめろ脳筋バカ。完璧主義も大概にしろ」


 ――何だかもう、コイツを疑うのもバカバカしくなってきた……。








___________







 青山が持って来た資料は全て、必要最低限を除き事務所内でシュレッターにかけた。

 荷物をまとめ帰り際、青山がそう言えばと俺に問う。


「そうだ糸原、作戦の概要は後に聞くとして。お前、どうやってダークをするんだ? いや、監視が解けてから予告なしになら可能だろうが」

「当然、予告状は出すぞ。ダークは怪盗だからな」

「はぁ? 予告状なんか出した瞬間、お前はまた自由がなくなるぞ。ダークなんて出来る筈がない……!」

「そう言えば私も聞いてないわ。どうするの?」


 パワフルも口を挟んできた。


「そうだな、この段階まではあんたらの手を借りずとも出来る。だから黙って見ていろ」


 俺は4人の方を見て、ほくそ笑んだ。

 皆には大方作戦の概要は話している。皆深く頷いた。


「言わせてやるよ、警察に。『ダークをやってください』とな」

「はぁ……!?」


 疑問をはぐらかされた青山は、一瞬ものすごく不機嫌な顔をしたが。


「……ま、期待して待ってるよ」


 最後は鼻で笑って帰って行った。



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