107.一堂に会す
2074年7月下旬ーー
これまでダークは特に大きな動きはなく過ごしてきた。
監視腕輪が枷になっている以上俺の位置情報が完全に把握されているのに加え、1歩外に出れば常に直接警察の監視がついている。下手には動けないという訳だ。
だがセプテンバー計画を阻止するため、8月中にダークをしなければならない。
よって俺は監視の目を掻い潜りながら、陰で最終決戦の計画を立ててきた。
次のダーク、成さねばならないことが多い。
まずは長井を倒し、セプテンバー計画を阻止する。そもそも長井を倒す方法――前回の作戦でダークが国会事件の動画を流す事を阻止され、信頼も失った事から、同じ手は使えない。しかしあの時と状況が変わった。それ以上の打開策を用意できる段階にいる。
平野に危害は加えない。しかしどうやって長井を倒すその直前まで長井を欺いてやろうか。
長井政権を潰して『死肉を喰らう為』にやって来るだろうコンドル――谷田貝が国会事件の黒幕である事も暴く。
そして完全に“ダークに関与している”という疑いが晴れた訳ではないさくら号の4人の潔白を、示さなければならない。
更にもう1つ、俺たちがダークから完全に抜け出すために必要なことがあるが……。
あいつらにも、まだこの事だけは言えていない。いつか必ず言わなければならないが……。
夏が近づいてきた……、というよりもう夏だ。
近くの図書館からの帰り、俺はさくら号にもっとも近いコンビニに立ち寄り水を買った。
その間も俺は、やはりダークのことが頭から離れないでいた。
長井に王手をかけるには、今一つしっくりとくる駒が不足している。……最近将棋をやり過ぎているせいか、表現が美しくないな。
「おい糸原」
とにかく俺たちだけでは手が足りない……、というより、能力不足。
「糸原高俊くん」
次のダークは絶対に失敗できない。
確実に王手をかけるには、やむを得ないがあいつを――。
「糸原!!」
「!?」
背後で大きな声を出され、驚いて振り向く。
「……青山」
「今日は俺がお前の監視担当なんだ。しかも、俺だけ」
「気づかなかったな。もう尾行されるのに慣れてしまった。怖いな、慣れとは」
青山が俺の言葉に苦笑いしながら一歩ずつ近づく。
「本当は無闇にお前と話すなと松浦に言われているんだが、今日は用事があってな」
青山は左手に持った鞄を叩いて見せた。
「課題の提出期限が近かったな。提出先は、ここで良かったか?」
「あぁ、……そうだな」
『親父の出身校と勤めたことのある会社の名だ。
親父が在籍していた時期の学校関係者及び社員を、全員写真付きで事細かに調べ上げ、その資料を俺に見せて欲しい。余力があれば、親父の交友関係も全て。
とにかく、親父の連絡先を知っていそうな人物全てだ』
本当にやって来たのか……、長井にバレれば目を付けられるであろうリスクを冒しつつ。
正直、コイツの立場と能力は買っている。味方に引き入れたい。
だがその動機が『正義の為』という漠然としたものだ。青山にとってダークに味方するメリットに俺は共感出来てないし、パワフルと違って合理的な理由ではない。
「……」
「おい、まだ俺の事信用してないのか。宿題もちゃんとやって来たし、何より今の今まで俺が隠し持ってる証拠を出してないだろ?
俺の目的はお前と全く同じ。長井を倒す事と、国会事件の真相を明るみに出す事だ」
そう、青山は真っ直ぐ俺を見て言った。
……まぁ、青山の言う通りか。俺をこの後裏切るつもりなら、最初からここまであの音声データを隠し持っておく必要はない。
「……ダークの事を話すのは、その課題の出来高次第だな」
「はぁ、分かった。でもお前のその上から目線めちゃくちゃ腹が立つ。年上には敬語を使えよ」
「断る。俺は“己を取り繕うべき時”と”本当に敬うべき相手”にしか敬語は使わない」
「なぁ、お前ってやっぱり性格悪いよな? よく言われないか?」
「『性格悪いな』って直接言ってくる奴の方がよっぽど性格悪いだろ」
「……やっぱりよく舌が回る。腹立つ……」
「戯言吐いてる暇があったら行くぞ。時間のかかる作業だ」
「何処でやる? お前のルームシェアか?」
「さくら号には盗聴器が仕掛け直されてるから、アンタを連れていけない。長井の手の者が常に監視している」
「は!? 話が読めないが?? つーかじゃあ何処で話す?」
「ダークのメンバー以外の味方の所だ」
俺は歩きながら、青山に状況を説明した。
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「パワフル、これから作業するからここかアンタの家を貸してくれ」
不動産事務所に押しかけた俺と青山を見て、パワフルは怪訝な顔をする。
「仕事中なんだけど? アポ取って来なさいよ」
「俺が気軽に電話出来ないの知ってるだろ」
「と言うか、何で刑事さんも一緒なのよ……」
その言葉に、今度は青山が怪訝な顔をする番だった。
「何故俺が刑事だと……? 糸原、俺のこと言ったのか? この方は?」
あぁそうだった、と俺は失笑する。
「そう言えばお前ら2人、銃口を向け合った仲だったな。コイツは大広間にいたDKだ」
「は!?」
「それ……言う必要ある?」
「あとさくら号の大家で、一応……俺の叔母でもある」
「叔母!? 情報量が多いな!?」
「一応って何よ一応って」
「まあ色々あって今はダークの味方だから、大広間でコイツがやった事は水に流してくれ。おいパワフル、お前も協力しろ」
「何するの?」
「谷田貝が長井を狙う動機を探るぞ」
「……成程。さくら号じゃ出来ない作業って訳ね。仕事が終わったら手伝うわ」
俺はさくら号の4人にも『来れたら来い』と連絡を入れ召集をかけた。
青山は持ち込んだ資料を机の上に出した。……一度じゃ抱えきれない程の大量のA4用紙だ。
「……凄い量だな」
「お前が無茶振りしたんだろうが。しかも今時データじゃなくて紙で持ってこいって……」
「この作業は絶対に長井に悟られてはいけないんだ。データよりこっちの方が情報が漏れる可能性低いだろ」
「いい加減教えてくれ。『絶対に長井に悟られてはいけない作業』って何だ? ここまでやって来て俺だけ蚊帳の外はないだろ」
「……分かった。全部話す」
国会事件の真相や黒幕の存在、そしてダークの目的、ダークの現在の長井との関係性、セプテンバー計画の事など、余す事なく青山に打ち明けた。
その間にさくら号の4人は各々部活や仕事を中断してまで来てくれ、1時間経つ頃には全員事務所に揃った。
そして何故か慶音もやって来て、狭い事務所内に8人がひしめき合った。
「うわ……。これ全部?」
青山が持って来たあまりの資料の多さに、ひかるが思わず声を漏らす。
「で、わしらは何を手伝えばいいんかの?」
「この中に谷田貝がいないか探してくれ。本人も言っていたが“谷田貝”という名は偽名だ。名前はアテにするな」
「分かったが、これはどういう人物のリストなんじゃ?」
「親父……、糸原高成の連絡先を知り得る人物たちだ。これでどうにか、奴の長井殺害の動機を探りたい」
「なるほど……」
国会事件の黒幕・コンドルが谷田貝である事は、パワフルを含め既に言っている。
谷田貝と面識がない青山と慶音を除き、俺たち6人でその資料の山を6等分して、資料に添付されている人物の顔を1人1人見ていく。
見終えたら、見落としの可能性を排するため、ローテーションして慎重に作業を行なう。




