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104.ケジメは付けろ

 


 珍しく萎れた様子の俺を見て、パワフルは嘲笑した。


「あなたが他人にどうすべきか聞くなんて。滅多にないんじゃない?」

「記憶がないとは言え、多少なりとも非は感じている。……あんたの話が本当なら、けいの人生を捻じ曲げてしまったのは俺の我儘のせいだ。

 それはダークのこれまでの事とは無関係に、俺が償うべきならその通りにする。どうすべきかは俺じゃなくてあんたが決めるべきだ」


 パワフルは、その言葉に初めて柔らかく微笑んだ。


「……なら、あなたがやるべきは2つ。

 昨日の長井との通話、私も聞いていたわ。高成さんの動機と、あなたの本当の目的……長井を殺そうとしている訳じゃない事と、“セプテンバー計画”とかいうクソみたいな計画もね」

「おい、あんたも未だにさくら号を盗聴してるのか」

「元は私1人で盗聴してたから。途中から長井の元でもやるようになったのよ。

 高成さんの動機、私も気になっていた事だった。あの人が己の意思で人を殺すだなんて思えなかったから。だから高俊、慶音の為にも国会事件の真実を白日の元に晒しなさい」

「!」

「いずれ……慶音が中学生になった頃、本当の事を全部話そうと思ってた。でもその時実の父親が殺人犯で処刑されたって、あなたと同じ絶望を慶音にも味合わせる訳にはいかない……。それが濡れ衣だと知ってしまったから尚更。

 私も出来る範囲で手を貸す。……まああなたの言う通り、長井の味方のフリをしつつという制約があるけどね」


 ……コイツの言っている事は(青山の時よりは)理解できる。理由もハッキリしているから、信用もできる。


「それはあんたに頼まれなくても成し得るつもりだ。で、2つ目は?」

「慶音と仲直りしなさい」

「は?」


 俺は率直に驚いた。まさかパワフルの口から、その旨発言があるとは。


「あんた、俺をけいから遠ざけたいんじゃなかったのか?」

「あなたに慶音をどうこうしようっていう悪意がない事は分かった。さくら号に来たのも、ただ何も知らずに高成さんの言う事を信じて来ただけと言うのも。

 それに慶音はあなたの事が大好きで、嫌われた事に食欲も落ちるくらいショックを受けてる。ダークを自分のせいで窮地に陥らせたことも、本当に負い目を感じて後悔してる。……私の事は兎も角、慶音の事は許してあげて欲しい」

「……」


 俺は小さく溜息を吐いて、ゆっくりと口を開き直す。


「そもそもの始まりは、けいが俺との約束を破ってあんたにダークの事を口外したことだ。それさえなければ長井に俺たちの正体や作戦が露呈することもなく、前回の作戦で全てが完遂していたかもしれない。……勿論、たらればの話だが。だから俺はその件に関してはけいを許すつもりはない。

 だが親父は、国会事件の後絶望するであろう俺に、仲を修復して欲しいという願いを込めてこの手紙を残した。……俺はその想いを、反故にする事は出来ない」

「なら……」

「でもこれはもう、俺だけの話じゃない」


 俺は4人の方を見て問うた。


「お前らはどう思う?」

「え?」

「俺はこの2人が身内で親父が望んでいるから、けいと元の鞘に収まる事を選ぶかもしれない。だがそれはお前らには関係ない話。

 けいとパワフルの裏切りがなければ、5人の中で裏切り者を疑いあう事もなかったし、俺とまさかりさんは殴り合いの喧嘩をすることもなかったし、1億人の前で配信が成功して長井を倒せたかもしれない。

 お前らはただ、俺の家族の問題に巻き込まれただけなんだぞ。俺にもパワフルにも……もっと怒ったっていい」

「……」

「特にひかる。お前は誘拐されて2週間もむさ苦しい暴力団達に監禁された。一番酷い目にあった。おいパワフル、あんたひかるが女だって事知ってたのか?」

「……知ってたわ」


 ひかるは、唇を噛んで俯いた。


「あんたも加担したんだろ、ひかるの誘拐に。男の俺達よりもひかるが誘拐される事の方が、最悪の事態になる可能性は考えなかったのか?」

「長井の人選よ。高俊なら分かったでしょう?

 男女関係なくあなた達の中で誰を欠かさせれば、長井の要求通りに作戦を遂行させられるか。……光里ちゃんを選んだのは合理的な判断だった、私が反論する隙はなかった」

「言い訳は聞きたくない。俺とあんたの因縁に無関係な4人を平然と巻き込んだ。俺たちは5人でダークだ。コイツらに謝罪して許しを得ない限り、あんたと手は組めない」


 パワフルは俯いて、眉間に皺を寄せて言った。


「……それもそうね」


 そしてパワフルは立ち上がって、4人に頭を下げた。


「私は高俊への怒りで、あなた達4人の命運は正直眼中に無かった。どうでも良かったからあそこまでの事が出来た。だけどあなた達とこれからちゃんと手を組むと言うなら、ここはケジメを付けるべきね。

 本当に、今までの事ごめんなさい。特に光里ちゃん、怖い想いをさせて申し訳なかったわ」


 4人は顔を見合った。

 最初に口を開いたのは、ひかるだった。


「最初から、あなたとけいには怒ってません。誘拐された時は何もされてないし……。事情も理解出来たし、納得もしました。

 でもだからこそ、今度はタカに全て力を貸してください。悪いのは全部、長井と谷田貝だから……」

「……約束するわ」


 それから他の3人も、ぽつりぽつりと口を開いた。


「ボクも怒ってないヨ、けいはただパワフルに自慢したかっただけって言うのは分かるシ……」

「わしも事情は全て理解出来たから、今の謝罪の言葉で十分じゃよ」

「オレはけいにはちょっと怒ってたけど。……まぁ、高俊が許すって言うならオレもそれでいい」


 ハァと、俺は失笑した。


「本当に甘いなお前らは……。こんなに色々と翻弄されて来たのに……」

「だって、本当に心の底からの謝罪だもん。もう怒れないよ」

「それにタカ、パワフルが味方につく事は悪いことではないじゃろ? 要するに、長井のスパイという事になる」

「……流石じーさん。不本意だがその通りだ。

 しかし茨の道だ。先程も言ったがパワフルを擁護するという事は、さくら号の盗聴器は外せないし、俺たちの中に裏切り者がいて疑いあうフリを続けなければならない」

「盗聴器だけじゃないわ。長井はあなた達の携帯電波も傍受する腹積りよ」

「えぇーっ!?」

「まぁ盗聴器の存在がバレてしまった時点で、それくらいの手は打って来るだろうな。

 だが、俺たちはダークでありDKでもある。過去4度世間を欺いて来た役者だ。それくらいの監視の目を欺くなんて、訳もないだろ?」


 俺はほくそ笑んだ。






___________






 俺はけいと2人で話す事になり、他の4人は先に帰った。

 けいの部屋の前で、俺にパワフルが言う。


「いい? 慶音には私から本当の事を伝える。あなたと兄弟関係にある事は秘密よ」

「……分かった」

「にしても、高俊、あなた……」


 パワフルが俺の顔をまじまじと見て言った。


「高成さんや明香音より、父に似てるわ」

「は!?」


 父って、要するに俺の祖父の事か?

 木谷の祖父とも俺は面識が無いのだが……。


「いえ、余計な事を言ったわ……。あなたとの接点は今後多分無いでしょう。気難しい人で糸原の人間を嫌ってたから、会うとしたら本人の葬式ね」

「……」


 パワフルは、扉をノックした。


「慶音、入るわよ」


 パワフルが部屋に入ると、けいは勉強机にいた。

 けいは俺の姿を見るなり、目を丸くした。


「タカ……」

「タカくんが慶音と仲直りしたいって、来てくれたのよ」

「え……っ」

「じゃ、あとは2人でね」


 パワフルは俺を部屋に入れて、自分は出て行った。

 2人きりになり、けいは俯き押し黙った。

 俺はけいの顔を、そっと盗み見た。


 ……慶音。お前が俺の弟なのか。

 よく考えてみれば、母さんの名前の“音”の字をお前も貰っている。

 親父が死んでから、俺は天涯孤独の身だと思っていた。それがまさか、死んだと聞かされていた弟が生きていたなんて。

 実感が湧かない。現実味がなさすぎて、正直感動もない。


 慶音を幸せにする事は親父の悲願であった筈なのに、俺がそれを阻害した。……なら親父が出来なかった分、俺はそれをパワフルと共に成し得る義務がある。


「……慶音」


 あだ名じゃなく慶音呼びした俺に、少し驚いた様に顔を上げた。


「お前が俺との約束を破った事、許した訳じゃない。ケジメは付けてもらう。ダークには今後、一切関与させない」

「……」

「だが、それを約束すると言うなら。……またさくら号に、遊びに来て欲しい」

「え……?」

「いや……、これは俺じゃなくて、皆がそう望んでる事なんだが……」


 咄嗟に照れ隠しの嘘が出た。


「お前は俺の事、随分慕ってくれてるな。俺の何処がいいんだ?」

「え……っ。カッコいいところ!」

「カッコいい?」


 ビジュアルの話か……? 高校の頃『性格は悪いが顔だけは良い』とよく揶揄(やゆ)されていたものだ。烏合の衆共がカァカァ騒いでいるとしか思わなかったが。

 ……いやでも、そんな訳ないだろ。相手は小4男子だぞ。


「うん。頭が良くて、ダークのリーダーで、みんなに慕われてて頼りにされてて……。

 おれもね、タカみたいな男になりたいんだ。それでもしもの時は、お母さんを守れる男になる」


 俺は失笑した。

 今の言葉、パワフルが聞いていたら泣いて喜んでいたであろう。……まぁ、俺はあのクソ女にそれを伝える義理はないが?


「頭が良くなりたいのか。じゃあ勿論勉強も大事だが……。慶音、お前将棋は知ってるか?」

「え、分かんない……」

「俺もお前くらいの時に、母さんに教えて貰った。知略と先を読む力が鍛えられるゲームだ。今度教えてやる」


 慶音は、満面の笑みで頷いた。


「うん……っ!」



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