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101.殴り込みに行くぞ

 


 その夜。

 さくら号は俺の誕生日と帰還祝いで、夜更けまで賑わった。


 この家には盗聴器が仕掛けられていて、常に長井の手の者が聞いている。それを考えると気持ち悪さはあるが、恐らくこの状況は2回目のダークの前後くらいからずっと――つまり半年以上前からだ。

 ……ある意味、慣れたものだ。ダークやコンドルに対する機密さえ喋らなければ、そこまで気にする必要はない。

 探し出して処分したとしても、また新たに仕掛けられる。イタチごっこになるだろう。これを仕掛けた犯人も長井に逆らう事が出来ないからだ。

 そしてこれからその犯人の処遇をどうするか――。その意図を全て聞き出してから、考えなければならない。


 楽しい会話もそこそこに、俺たちは2週間の空白を埋めるために情報交換をした。


 ダークの日、4人は谷田貝に廃工場へと連れて行かれ長井と対峙した。

 そこで俺が裏切り者に仕立て上げられ、失望した4人に俺を殺させようとしていた――。全く、信じられない程下衆なシナリオを用意していたものだ。

 あの時の俺は作戦失敗した事により冷静を欠いていた。もし長井の思惑通り廃工場へ行っていたら――。考えるだけで身の毛がよだつ。


 そしてその場で長井から俺とひかるの本名が暴露されるという、最悪なシチュエーションだったらしいが……。


「ひかるが女だと知ってた!?」


 俺は素っ頓狂な声をあげた。


「うン。……そんなに驚ク?」

「逆に何で気づかなかったんだよ高俊は……。一眼見て分かるだろ」

「ひかるが来た初日は、あまりにも興味が無さすぎて……」


 自己紹介で俺の偽名がバレてると気付くまでは、殆ど顔を見てなかった。

 と言いかけて、ひかるがしゅんと悲しそうな顔をしたので、俺はハッと口を噤んだ。


「でも何で黙って容認してたんだ。ここ女子禁制なのに」

「エーだってェ……。理由はお察しだったかラ……」

「は?」

「別に追い出す理由はなかったしのぅ……」

「面白半分で見たかったと言うか……ププ」

「何を??」

「ちょっと、もうやめてって……」


 ひかるが顔を赤くして言うが、3人の追及は止まらない。


「デ? どうなノ? タカは」

「だから何が? お前らちゃんと主語を話せ」

「察しろよ。ホント鈍いなそういうトコロ〜」

「は? バカにするなら怒るぞ」

「そもそもタカは、ひかるが何でさくら号に来たのか気付いてるノ?」

「だからもうやめてってばーッ!!」


 ひかるが顔を真っ赤にして絶叫するのに、俺はキョトンとする。


「ひかるは何で怒ってるんだ?」

「お、おお怒ってないよ!」

「お前がここに来た理由は言ってただろ。俺が死のうとしたのを見て助ける為だと。俺の笑顔を見るのが夢だって」

「それをみんなの前で言わないでっ!」


 ひかるは思わず顔を覆った。そしてそれを聞いた3人は、ニマァ……ととびっきりの笑顔になる。


「ボク……胸キュン死しそウ……」

「なっ、今のが胸キュンなのか!? これのどこが?」

「で。高俊はそれを聞いてどう思った?」

「どうって……。まぁそれは、有難いと……」

「それ以上は? ねーの?」

「それ以上とは……?」

「もー! 本当にやめて! うわああぁぁ!!」


 ひかるが叫びながら枕でまさかりさんやエリンギを殴り出した。

 ひかるが怒るのも、まさかりさんやエリンギが笑っているのも、俺は意味が分からず唖然とする。

 じーさんが苦笑いして言った。


「まさかり、エリンギ。もうこれ以上はやめてあげなさい……」

「だからひかるは何で怒ってるんだ?」

「タカ……、お前さんも完璧人間じゃないんじゃの……。そう言うところ、わしは好きじゃぞ……」

「は? じーさん、今俺の事ディスったのか褒めたのかどっちだ?」


 今度はひかるが俺を枕で殴った。


「痛っ、何だよ!?」

「タカのバカバカバカぁぁぁ!」

「はぁ!? 俺が何をしたって言うんだよ! 痛い! 怒る理由をハッキリ言え、俺だけ置き去りにするなっ」

「絶対言わない! タカは分からなくていいっ」

「だから何でだ!?」


 ひかるが何回も俺を枕で殴るのを見て、他の3人は腹を抱えて笑っていた。

 そして何故かひかるも途中から笑い出した。

 訳が分からなかったが、俺も叩かれながら笑うしかなかった。


 久々のさくら号の夜は、こうして更けていった。







___________








 翌朝。

 目覚めてすぐ、俺は5人のグループチャットにメッセージを送った。


『今日19時に公園に集合。大家の所に行く』


 俺の携帯の通話とメッセージは全て警察に傍受されている。用件を伝えず簡潔にそれだけ打った。訪問先が大家なら5人で動いても何の不自然もないだろう。

 今日は平日なので、皆が揃う時間帯を考慮した。


 そうして日も落ち切った頃、5人が公園に集まった。

 俺を除き4人は、けいの一件があってからパワフルに会っていない。皆どこか緊張していた。


「行くぞ。歩きながら話す」

「で、パワフルの所に行ってどうするんじゃ?」

「殴り込みに行くぞ」

「た、タカ」


 エリンギが俺の肩を掴み、神妙な顔で首を振った。


「いくらパワフルがやった事が許せなくてモ、暴力はダメだヨ?」

「バカ、本当に殴る訳ないだろ。これまでの事全部吐かせるんだよ。俺の推測が正しければ、もうアイツはダークに敵対しない」

「え?」

「さくら号では盗聴器のせいで言えなかったが、前回俺の前に現れたDKは、パワフルだ」

「えぇ!?」

「シッ。デカい声を出すな。俺は執行猶予中の身、24時間監視の目が付いている。腕に付けられたこの監視腕輪が位置情報を発信してるし、今だってどこかで警官が俺を尾行してる」

「えぇーっ!?」

「だからデカい声出すなバカ!」


 公園は数個の街灯のみで薄暗く、人気もない。


「あの女、今までダークの情報をリークしてたくせに、前回のダークでは長井に背く行動をした。今思えばアイツはあの時、廃工場に殺されに行こうとする俺を強引だが引き留めた。……俺を助けたんだ」

「そうなの?」

「パワフルは俺たちの敵か味方か、白黒ハッキリさせるぞ」


 それに俺は、あの女にもう一つ聞きたいことがある。





___________






 チャイムを鳴らすと、特に驚いた顔もせずパワフルは扉を開けた。


「こ、こんばんは〜……」


 後ろで一瞬けいが顔を覗かせたが、ハッとしてすぐに逃げた。


「来ると思ってたわ。……いや、5人全員で来るとは思わなかったけど」

「まあ、数の圧力ってヤツだな」

「殴り込みってヤツでス……」

「狭いけどみんな上がって」

「いきなり申し訳ないのぅ……」

「おじゃましまーす……」


 俺が4人の背後でパワフルを睨んでいると、奴は無表情で俺を見て目を逸らした。

 広くないリビングに通され、各々の場所に座ったり立ったりしてパワフルを囲む。


「先に聞いておく。ここに盗聴器は?」


 俺が聞くと、パワフルは自分の分だけ紅茶を用意して飲みながら失笑した。


「ある訳ないでしょう」

「単刀直入に聞く。さくら号に盗聴器を仕掛けたのはお前だな」

「えっ」


 はぁと、俺は深いため息を吐いた。


「俺たちの中に裏切り者がいると思い込んだばかりに、その可能性を思いつきもしなかった。……これは俺の失態だ。

 アンタはさくら号の合鍵を持っているし、俺達よりさくら号の事を知っている。皆が留守の間に盗聴器を器用な場所に仕掛けた。これで俺たちの誰かを通さなくても、ダークの作戦はアンタらに筒抜けだったと言う訳だ」

「そっかぁ……!」


 皆がパワフルを一斉に見ると、パワフルは失笑した。


「その通り。裏切り者がいると騒いだ高俊の勘違いのお陰で、私や長井は都合よくあなた達を撹乱出来た。気づくのが遅いくらいよ。バカね高俊」


 俺は舌打ちした。

 このクソ女本当に腹が立つ。俺の事をバカバカと言って来るのはこの女くらいだ……。

 しかも何故か下の名前呼び。そこまでの親密さはないのに、気色悪いのだが?


 だが苛ついていたのは俺だけで、他の4人は喜びを爆発させた。


「裏切り者はいないってそういう事だったんだね!」

「ヨカッタアアア!!」

「な? な? オレ言っただろ? そんなクソヤローはここに居ないって!」

「言ったっケ?」

「本当に踊らされ続けたのう……ホッとした」


 しかし俺は4人を見て、深くため息を吐いた。


「喜んでる場合か。長井を倒すまで盗聴器は外せないんだぞ」

「えぇ!?」



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