~魔法でも高学歴を目指します~
そうだ。俺は学歴だけは誰にも負けないんだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は気がついたら知らない身体に入っていた。最後の記憶は確か車にはねられるところだ。……それより前のことはあまり思い出せない。
ふむ。これが俗に言う転生というやつなのか。友人達がラノベを読んでなんやかんや言っていた気がする。実際に俺が転生するなら、もっとちゃんと話を聞いておけば良かった。
そしてこの身体の持ち主のステータスがぱっと頭の中に入ってきた。こいつの名前はブルー・チャート。15歳。全寮制の魔法中等科の入学式に出席しているところだ。
なるほど。魔法学校か。
いまいちどんなことを勉強するのか想像がつかないが、ハリーポッターみたいな世界だろうか?さあ、どんなことが俺を待っているのだろうか。あまり漫画に詳しくない俺でも流石にワクワクする。
「はじめまして!私、スタンシー!よろしくね!」
入学式後のざわざわした教室で、隣の席の女の子が笑顔で話しかけてきた。二重のくりくりとした瞳だ。亜麻色のボブの毛先が揺れて快活そうな印象を与えていた。
ふむ。魔法のことはあまり詳しくないし、クラスメイトと仲良くしておかないとな。
俺は笑顔で応じた。
「こちらこそこれからよろしく。」
「魔法学校ってどんな勉強をするんだろうね!楽しみだね!」
「だな。もし俺が魔法で苦労していたら色々教えてほしい。」
「こちらこそ勉強教えてほしいです!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
入学式直後は荘厳な教室に案内され、教科書配布があった。
古い木造の階段教室で、いかにもアニメに出てきそうだ。
白い髭を豊かにたくわえた、いかにも魔法使いといった老人が入ってきた。彼が担任のようだ。
「これより各科目の教科書を配るぞ!まずは詠唱学からだ!」
「詠唱学……?」
魔法についてよくわからない俺が思わず呟くと、
「知らないの?魔法にはね、呪文とか薬草とか魔方陣とか、色々な方法で発動できるの!中でも詠唱学はね、呪文を唱えるタイプの魔法を勉強する学問だよ!」
スタンシーが得意気に教えてくれた。
やはり先ほどきちんと挨拶しておいて良かった。転生において持つべきものは友人だな。
そして先生から分厚い教科書が配られた(というか先生が何か呪文を唱えると、目の前に本が現れた。)。中には炎の魔法や水の魔法など、様々な呪文とその解説が書いてあった。
「これから毎週、ここに書かれてある基本的な呪文の小テストを行う!範囲は今から配るプリントの通りだ!」
プリントを見ると、毎回500呪文程度範囲になっているようだった。まあまあ多いけど、できないことは無いくらいだなあ。
すると、
「げーっ!多いな!」
「毎週これ……!?」
といった悲鳴があちらこちらから聞こえた。
隣の席のスタンシーも「どうしよう……!」という叫びをあげていた。
いや。皆、落ち着いてくれ。
よく見ると大したことないぞ!?
呪文をよく見ると部分に分けることができて、
炎を表す接頭辞や、ものを操る時につく接尾辞などがある。要素の順番も規則性があるから、基礎的な呪文とそのルールさえ覚えればいける。
もちろん例外的な呪文もあるけど、そのくらいは頑張れば覚えられるはずだ。
とはいえ、ここは周りに合わせないとな!
と、いうわけで、俺も
「うわー、たいへんだー。」
と叫んでおいた。
次に薬草学の教科書が配られた。
現世の化学の授業と似ているようだった。それぞれの官能基の特徴や生成法を理解できれば面白そうだ。
……が、これについても教室のあちこちから「難しい!」という叫びが聞こえた。スタンシーも震えていた。
……もしかすると、これはお互いに牽制し合う作戦なのか!?
試験前に「俺、全然勉強してねーやー」って言うあれか!?
それなら俺もやっておこう!
「どうなってるんだー。」
さらに魔方陣学が配られた。
これは数学、特に微積分・二次曲線あたりが関係している……というか、記号が異なるだけでほとんど同じだ!
懐かしいなあ!高校時代、数学雑誌の懸賞を頑張ってたっけ。
……が、これも案の定、「やべー!分からねー!」「基礎からやり直さなきゃ!」という悲鳴が聞こえた。
隣の席のスタンシーに至っては泡を吹いていた。
ここでも叫んでおこう!
「訳わかんねー。」
とまあ、こんな感じで教科書(本当は魔導書というようだ)が配られていった。
最後に、教師から衝撃的な一言があった。
「今日を含めて3日間は入寮準備のために授業は無い。
しかし、4日目の授業初日、魔法学の実力試験を行う!」
教室内が今までで一番ざわついた。
いや、いきなりテスト!?スパルタな学校だな!?
先生はにっこりとして説明を続けた。
「実力試験といっても、皆が初等科で習ったものに毛が生えた程度であるはずだから、ゆったりと受けてくれ!
まあ、各自、教科書で予習しておいても損はないと思うがな。」
この説明で、教室がほっとした空気に包まれた。
そうか、初等科レベルか〰️……。
……いや、初等科レベルってどこまでだよ!?今日、この世界に転生してきた俺には何も分からないが!?
「ちなみに、この学校であまりにも成績が振るわない場合は退学もありえるからな~。」
え、もしかして、これは本当にピンチのやつ!?
ドキドキしながらふと横を見ると、スタンシーは半泣きの状態で震えていた。
「……な、なあ。初等科の内容ってこの教科書ではどこらへんか分かる……?」
俺はダメ元でスタンシーに聞いてみた。
「へ!?え、えっと、実は私、初等科の内容すら怪しくて、ちょっと分かんないや、ごめんね……。」
うーん。これはスタンシーはマジで分かっていないのか?それとも、説明がめんどくさかっただけか?
俺も同じ質問されたらめんどいもんな、後者かもなあ。
とりあえず、3日間、できる限りのことをするぞ!
魔法学校の寮は素晴らしかった。綺麗で広い個室、気持ちのよい共用スペース、ジムや魔法練習所も完備してある。
これは魔法の力か、金の力か?
俺の個室は既に荷解きが終わってあり、素晴らしい部屋が完成していた。
感心してぼけっとしていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
ドアを開けると、
「どうも!隣の部屋のバグリーです!これから皆で中庭でバスケするんだけど、一緒にどう?」
見るからに陽キャが入ってきた。俺にも声をかけてくれるとはありがたい……が、さすがにちょっと教科書を読まないと不安である。申し訳ないがお断りさせていただこう。
「ごめん、荷解きが全然終わってなくてピンチなんだ。また次の機会によろしく!」
「そっかー。じゃあまた今度誘うわ!」
そう言ってバグリーは帰っていった。
……さあ。3日間でできる限りの勉強をしてみよう。何年分皆に追い付けるだろうか……。
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