4.相応しい男
「つい話し込んじゃったね。もう帰ろう」
「うん」
僕たちは図書館を後にする。
鍵は全部で三本ある。
普通は学園で管理するのだけど、僕はなぜは一本をそのまま与えられていた。
残りは先生と、学園の校舎で保管している。
外に出ると、西の空に夕日が半分くらい沈んでいた。
反対の空には星が輝いている。
「まだ五時半なのに暗くなったね」
「そういう季節だからね」
「うん。ちょっと寒くなってきたかな」
今は秋も終わりごろ。
冬の寒さを徐々に感じ始める。
図書館の中は快適だけど、夕方から一気に気温が下がる。
温かい場所から寒い場所に移動したことで、身体がびっくりして少し震えた。
「寒い? 温めてあげようか? はい!」
「え、ちょっ」
僕の返事を待たずに、彼女は手を握ってきた。
彼女の手に触れた途端、ぽわーっと身体が温かくなっていく。
「『体温操作』、私のギフトの一つだよ。こうして触れ合ってる間なら他人にも使えるんだ。温かいでしょ? 」
「うん。ありがとう。ただその……このまま歩くの?」
「もちろん。手を離したらまた寒くなっちゃうよ」
「そ、それはそうだけど……」
女の子と手を繋いで歩く。
これにドキドキしない男の子はいないと思う。
ニナは平然としているし、恥ずかしいとか思わないのかな?
「あ、もしかして恥ずかしいの?」
「う、うん……それに僕と手を繋いで歩いてたら、ニナが変な目で見られるよ」
「別にいいじゃない。そんなの勝手に言わせておけばいいの」
「で、でも悪いし」
そう思って手を離そうとした。
だけど、彼女は僕の手を放そうとしない。
逆に強く握りしめてくる。
「ニナ?」
「私がこうしてたいの。周りなんて気にしてない。誰になんと言われても私は私、アレンはアレンでしょ? 堂々としていればいいんだよ」
「……」
本当に強いな……ニナは。
後ろ向きな自分が恥ずかしくなるほどに。
「それともアレンは、私と一緒にいるのは嫌?」
「そ、そんなことない! 僕だってニナと――」
「――遅いお帰りだね! ニナ・ブランドール」
僕の言葉を遮ったのは、目立つ金髪でいかにも貴族らしい男子生徒だった。
彼を見た途端、ニナが迷惑そうな顔をする。
「ラスト君……」
「やぁ、待っていたよ」
彼は爽やかに微笑む。
ラスト・エブリオン、それが彼の名前だ。
僕らと同じ学年で、見た目通り名門貴族の生まれ。
取り巻きの生徒たちといつも行動している。
今も後ろに三人連れていた。
彼と僕の間に交流はないけど、二ナの両親と彼の両親は古い友人らしく、昔から交流があるそうだ。
つまり、僕とは別の彼女の幼馴染……なんだけど。
「遅いから心配したよ。てっきり悪い男にでも掴まってるんじゃないかってね」
「心配しなくても大丈夫だよ。それと、待っててなんて言ってないよ?」
「言われなくとも待つさ。俺の大切な婚約者だよ」
「また適当なこと言って。婚約者になるなんて、私は認めてないからね」
という感じで、あまり仲はよろしくない。
婚約者の話もお互いの両親から持ちかけられている。
ただ、二ナのほうが激しく拒否していて、まだ正式には決まっていない。
彼の中ではもう婚約者になったつもりでいるらしく、そこもニナはイラつかせているみらいだ。
「相変わらず頑固だね。そういうところも可愛いけど。まぁいいさ。さぁ一緒に帰ろう」
「ごめんね。私はアレンと一緒に帰るから」
「アレン?」
僕の名前を聞いた途端、にこやかだった彼の表情は一変する。
「また彼か」
「……」
僕は睨まれて思わず目を逸らす。
その視線から感じるのは、明確な敵意だった。
僕は彼に嫌われている。
いや、嫌われているなんて程度じゃない。
「ニナ、前から言っているだろう? 友人は選んだほうがいい」
「なんのことかな?」
「はぁ、君の意見はなるべく尊重したいよ。でも彼はダメだ。名門貴族の落ちこぼれ、役立たずのロクデナシ……そんな男と一緒にいたら君の価値まで下がってしまうよ?」
「っ――」
全くその通りだ。
目の前で言われた悪口にも言い返せない。
だって同じことを僕自身が思っているんだから。
「何より男というのはよくないよ。君に相応しい男は俺なんだから。そんな不釣り合いな男と一緒にいるのは男として少々許せないな」
彼の言っていることは全て正しい。
僕は彼女の隣に相応しくない。
彼女は僕なんかと一緒にいるべきじゃない。
一緒にいるだけで、彼女に迷惑を……。
「関係ないよ」
だけど、こういう時はいつも彼女が言い返してくれる。
「私は自分の意思でアレンと一緒いる。私が誰と仲良くするかなんて、他人のラスト君に言われる筋合いはないよ」
「た、他人? 俺は君の婚約者だよ?」
「勝手に言ってるだけでしょ? いい加減嘘をバラまくとはやめてよね。迷惑してるんだから! もう行こう、アレン」
「え、う、うん」
彼女は僕の手を力強き引っ張り、ラスト君を無視して通り過ぎる。
すれ違いざま、ラスト君は激しく僕を睨んだ。
「よ、よかったの?」
「いいも悪いもないよ。私が決めたんだから文句は言わせない! アレンもアレンだよ! あんなに馬鹿にされたら言い返さないと!」
「い、いや言い返すのは無理だって。僕のギフトじゃ一生かけても」
「あーもう! そんなだから馬鹿にされるんだよ! もっと自信を持って! ギフトだって持ち主の成長で変化することがあるって知ってるでしょ? 今はダメでも、いつか物凄い力になるかもしれないんだから!」
「ニ、ニナ……」
彼女はいつになく激しく怒っていた。
馬鹿にされたのは僕で、情けないのも僕のせいなのに。
僕なんかのことで怒ってくれている。
「期待してるって言ったでしょ? あれ、嘘じゃないからね」
「……うん」