27.後日談
「二人とも進級おめでとう」
「ありがとうございます。先生」
進級が決まって最初の休日。
僕とニナは先生に呼び出され図書館にやってきた。
「無事に合格できたみたいで私もホッとしているよ」
「ねぇ先生、お祝いの言葉なら今日じゃなくてもよかったですよね? なんでわざわざお休みの日に呼び出すんですか!」
「おやおや、ご機嫌斜めだね。なにか予定でもあったのかな」
「ありましたよ! 今日はアレンと一緒に遊ぶつもりだったのに」
それは僕も初耳だった。
別に約束をしていたわけでもないので、ニナが一方的にそのつもりだったのだと思う。
もちろん僕は嬉しい。
きっと呼び出しがなければ、ニナが僕の家に迎えに来てくれたのだろう。
「それは悪いことしちゃったかな? でも大丈夫だよ。私の用事は一時間くらいで終わると思うからね。その後で二人っきりを楽しむといい」
「うぅ……はーい」
この表情は納得していないな……。
それだけ僕と遊ぶ時間を大切にしてくれているということだ。
「一時間ですか」
「そうだよ。君たちにはどうして聞いてほしい話があるんだ」
「僕たちだけですか? 他のみんなは?」
フレンダさんに続いて、ジーク君とフィオさんも僕たちの活動に協力してくれることになった。
二人の協力は僕にとって心強い。
特にジーク君とはよく訓練で戦っているし、同じ男子生徒で気兼ねなく話せる。
先生からの話ならおそらく相談事に関することだろう。
それなら三人も一緒でいいような気がした。
だけど、先生は首をふる。
「いいや、この話はあまり広げたくないんだ。本当ならアレン君、君にだけ伝えたいんだけど……」
「え、私はダメなんですか?」
「君は常に彼と一緒にいるからね。アレン君も一人くらいは情報を共有できる相手がいたほうがいいと思ってね。特別だよ。それに君、どうせ遠ざけても関わろうとするだろう?」
「もちろんですよ! アレンのことですから!」
彼女はトンと胸を叩いて同等と返した。
僕もニナに隠し事をし続ける自信はなかったりする。
ニナは僕の表情の変化にもよく気付くから、きっとすぐバレるだろう。
「そういうわけで、他人には絶対に聞かれたくないから休日にしたんだよ」
「……そんなに重要な話、なんですか?」
「うん。極めて機密性の高い話だ。君たちも心して聞きなさい」
僕たちはごくりと息を飲む。
先生の表情も真剣そのものだった。
「といっても、君たちも気になっているはずのことだよ」
「え?」
「――魔術」
その単語に僕はびくりと反応する。
「いいや、魔力というべきかな? 君はもっとも近くで見たはずだよ」
「……はい」
鮮明に思い出せる。
進級試験でラスト君が見せた力。
足元に描かれた術式と、全身からあふれ出る異質な力。
彼は人間でありながら魔術を行使した。
「君も知っていると思うけど、魔術は悪魔の力だ。彼らは身体に魔力を宿している。魔力を消費し様々な効果を発動させる……それが魔術。過去に起こった大戦で、この力のせいで人類は大敗した。神のギフトを与えなければ、今のこの時代も悪魔たちが支配していただろうね」
その歴史は僕も知っている。
様々な本で語りつくされている。
脚色された部分も多いけど、悪魔や魔力の説明は共通していた。
魔力を持っているのは悪魔と、悪魔に力を与えられた魔獣だけだ。
「もしやと思ったんだ。君が以前に戦った魔獣……あれは強化されていた。おそらくは魔力を追加で与えることで」
「魔力を与える? そんなことができるのって」
「そうだよ。魔力を持っているのは悪魔だ。つまりは、悪魔によって力を与えられたのさ。あの魔獣も、そして……」
「ラスト君も?」
ぼそりとニナが呟いた。
先生は一呼吸おいてから頷く。
「で、でも先生! 悪魔なんて本当にいるんの?」
「いるよ。そこは間違いない」
断言した先生を前に、ニナは背筋を伸ばす。
悪魔の存在は歴史上や物語ではよく語られている。
しかし現代ではあまり馴染みがない。
理由は単純、誰も見たことがないからだ。
僕も、もちろんニナも。
「大戦後、彼らは魔界に逃げ帰った。支配者を失い、相当なダメージを負っていた彼らは僕たちの世界への侵攻を断念した。だけど諦めたわけじゃない。彼らは虎視眈々と狙っている。長い年月をかけて準備している」
「……もしかしてそれが、先生が前におっしゃっていた嫌な予感……ですか?」
「ああ、よく覚えていたね。そうだよ。あの時は不確定経ったから濁したけど、もはや断言するべきだろう。魔術を扱う人間が現れた時点で、彼らが介入しているのは明白だよ」
「……ラスト君は、どうなったんですか?」
僕に負けたあと、彼は王城から派遣された騎士たちに連行された。
それからどうなったかは知らない。
話を聞いて、彼ならなにか知っているのではと思ったんだ。
「残念ながら、彼はもう目覚めないだろうね」
「え……」
「勘違いしないで。君のせいじゃない。 魔術を使ってしまった代償さ。本来、あの力は人間には扱えない。それを無理やり使った反動だよ」
「……そうなんですね」
そのことを彼は知っていたのだろうか。
知らずに使っていたのなら、いっそ哀れだと思う。
彼のしたことを許すつもりはないけど、見方によっては彼も被害者だ。
「一体誰が彼に……」
「そこだよ。君たちに話しておきたかったのは」
そう言って先生は顔の前で手を組む。
今日一番の重たい空気を醸しだしながら、先生は口を開く。
「この学園に、悪魔と繋がっている者がいる」
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