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ユニークギフト『司書』でどんな問題もバッチリ解決! ~名門貴族の落ちこぼれでも物語のヒーローになれますか?  作者: 日之影ソラ
第一章

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25.英雄への一歩

 ギフトによる風じゃない。

 魔術によって強化され、周囲を切断するほど強力な風に進化している。

 風の色が変化し、彼自身もどす黒いオーラを纏う。


 僕は困惑していた。

 ありえない光景だからだ。

 人間には魔力がない。

 魔力は悪魔たちが宿す力で、僕たち人間の力ではないんだ。

 魔術を使うには魔力がなければいけない。

 だから、使えるはずがないんだ。

 それなのに……。


「どういうことですか! どうしてラスト君が魔術を!」

「簡単な話だよ。俺が誰よりも優れているからだ。魔力にすら選ばれるほどにね! 君たちには一生かけても追いつけない場所にいるんだよ!」


 彼は興奮しているのか、天井を見上げて高らかに語る。

 彼がどうして魔術を身に着けたのかはわからない。

 だけど今はそれを考えている余裕はない。

 こうしている間にも、彼女たちの命は危険にさらされている。


「やめてください。ラスト君」

「なにをやめる? お前が死ぬのは決定事項なんだぞ」

「……そうですか」


 今のが最後の確認だ。

 彼にはもう、退く気はないらしい。

 だったらやることは一つしかない。


「やめないというなら、僕が止めます」

「ふっ、図に乗るなよ。虫けらが」


 瞬間、彼は突風を僕に放つ。

 鋭利な刃物のように空間を斬り裂き地面を抉りながら僕に迫る。


「――【聖剣の英雄】!」


 咄嗟に僕はギフトを発動させ、聖剣プレアデスを召喚した。

 突風を聖剣で防御する。

 しかし威力に押されてそのまま吹き飛ばされてしまう。


「くっ」

「その力で魔獣を倒したのか。面白い。だがくだらないな!」

「っ……」


 聖剣で防ぎきれなかった。

 吹き飛ばされたのは自分からだ。

 あのままとどまっていたら、風に切り刻まれていただろう。

 証拠に、聖剣を握っていた手や腕からは血が流れる。


「アレン!」

「ニナ。君だけは俺に従えば助けてやってもいいぞ! これから永久に俺の道具として生きると誓えばな!」

「ラスト君……そんなの絶対に嫌だよ!」

「なんだと?」


 彼女はハッキリと断った。

 そして僕を見る。


「アレンは負けないから」


 その視線は僕に、信じていると伝えていた。

 彼女の信頼が僕の心を燃やす。


「そうか……なら仲良く死ねばいい。俺は新しい女を探すだけだ」

「させない」

「ん? なんだって?」


 僕は聖剣を構える。

 切っ先を天井に向けて、掲げるように。


「そんなこと僕がさせない。ニナは……みんなは僕が守る。僕の役目だ!」

「ふ、ふふふははははははははは! 面白い冗談を言うな~ 俺を笑わせて隙を作ろうとしているのか? だとしたら悪くない作戦だよ」

「そんなつもりはないよ。僕は本気だ」

「……なら不快だな」


 鋭い視線には殺気が宿る。

 彼は僕を殺すつもりだ。

 おそらく殺すことに躊躇はない。

 すでに彼は、人として越えてはいけない一線を越えてしまっている。

 魔術を身に着けた時点で、人をやめたようなものだ。


「僕はもう、君を人間だとは思わない」

「ああそうしてくれ! 俺もお前たちと同列に扱われるなんてごめんだ!」


 彼は人の道を外れた獣だ。 

 あの時に戦った魔獣のように。

 人々に害をなす。

 だから全力で戦う。

 覚悟は決まった。


「星よ――満ちろ」

「なんだ? 天井に夜空?」


 殺風景だった部屋の天井が夜空へと変化した。

 夜空には星々が輝く。

 中でも特に眩しく光る六つの星々。


「聖剣プレアデスは別名星の聖剣と呼ばれている。主人公は星の力を借りることで、邪悪な存在を退けてきたんだ」

「何を言って、よくわからないが見世物芸じゃ俺には勝てないぞ」

「見世物じゃないよ」


 確かにこの剣は本物じゃない。

 物語の主人公が使っていた剣を模して造られた偽物だ。

 それでも、宿った力は同じ。

 鏡写しのように、僕の姿と力は聖剣の英雄そのものと化す。


 彼は変化に気付く。


「なんだ? 俺の魔力が!」

「聖剣の力は魔を退ける。力が満ちたことで、ラスト君が放っている魔力を打ち消しているんだ」

「打ち消して……ふざけるな! そんなことができるか!」


 怒りに任せて彼は突風を放つ。

 僕は聖剣を一振りして、放たれた風を霧散させた。


「ば、馬鹿な……」

「ラスト君……」


 正直、勿体ないと思う気持ちもあるんだ。

 彼には才能があった。

 力を持っていた。

 その力を正しく使えば、きっと多くの人に必要とされたはずだ。

 

「だけど君は道を踏み外した。やっちゃいけないことをした。だから僕が罰を下す」

「ふざけるな……ふざけるなよ! 何様のつもりだ! なんなんだお前は!」


 僕は聖剣を両手で握る。

 そして――


「僕はアレン・プラトニアだよ。君が知らない、新しい僕だ」


 聖剣を振り下ろす。

 星の力を貯めた一振りは純白の斬撃を放った。

 ただの攻撃ではなく、魔を滅し浄化する力。

 この力は人間を傷つけない。

 彼の身体を守り、宿った悪しき力だけ力だけを消し去る。


 戦う決意と同時に、僕は決めていた。

 彼も守ることを。

 物語の英雄なら、決して道を踏み外した者も見捨てない。

 少なくとも僕が知る英雄たちは、そういう強い人たちで、僕もそうなりたいと思った。


「アレン!」

「ニナ」


 ラスト君が気を失ったことで、風の壁は解除された。

 一目散に彼女は僕のもとへ駆け寄り、抱き着く。


「やったねアレン! 格好良かったよ!」

「……ありがとう」


 その直後、歓声と拍手があがった。

 みんなが僕を見ている。

 その視線に宿っているのは感謝の気持ちだった。


 前に僕は思った。

 みんなのヒーローにはなれなくてもいいと。

 あの時の覚悟に嘘はない。

 だけど、なりたい気持ちがなくなったわけでもなかった。


 今ならなれる気がするよ。

 みんなを守れるヒーローに。

 この歓声が僕の背中を押す。

 英雄への一歩を踏み出させる。

これにて第一章完結です!

楽しんで頂けたでしょうか?


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現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!

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よろしくお願いします!!

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