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ユニークギフト『司書』でどんな問題もバッチリ解決! ~名門貴族の落ちこぼれでも物語のヒーローになれますか?  作者: 日之影ソラ
第一章

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22/30

22.変わっていく

 風は空気の移動。

 音は空気の振動。

 風を操ることができれば、音の通り道を塞ぐこともできる。

 たとえば、誰にも聞かれたくない話をするときに便利だ。


「ごあっ!」


 夜空の下。

 一人が血を吹き出して倒れ込む。

 すでにもう一人、腹部から大量出血して意識を失っている男もいた。

 残された最後の一人は怯えながら後ずさる。


「ま、待ってください! どうしてこんなことを!」

「わからないのか? お前たちが俺を裏切ったんだろう?」

「ち、違います。そんなことして――」

「言い訳は聞いていない。俺が聞きたいのは……」


 彼は怯える男の肩に触れる。

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべた直後、触れられた男の全身がずたずたに切り裂かれた。


「ぐあああああああああああああああああああ」

「そう。その悲鳴が聞きたかった」


 痛い痛いと涙を流す男の前で、彼は高笑いをしている。

 彼は楽しんでいた。

 傷つけられ涙を流す姿に興奮していた。

 相手がよく知る人物だったこともあるのだろう。

 

「お、お許しください……ラスト様」

「安心しろ、とっく許している」

「そ、それじゃ」

「ここから先は、俺が楽しみたいだけだ」


 ラストはかつての取り巻たちをボロ雑巾のように扱った。

 数分もすれば道端に三人は転がっている。

 なんども悲鳴をあげた。

 しかし彼が風のギフトで大気の幕を張り、音が外に漏れないようにしていた。

 故に。


「ふ、ふふ、ふははははははははははははは」


 この笑い声も聞こえていない。

 誰にも、何にも。


  ◇◇◇


「これより進級試験を開始する」


 男性教師の一声を合図に、学園の一年生たちは教室の移動を始める。

 今日はついに、僕たち一年生が二年生に進級するための試験が行われる。

 

「はぁ……ついに来ちまった」

「そうね……」


 始まる前からテンションが低いジーク君とフィオさん。

 先に筆記試験が行われる。

 二人ともあまり自信がないみたいだ。


「大丈夫だよ。あんなに勉強したんだから」

「そうそう! 二人とも自信出して!」

「お、おう! そうだな!」

「やれることはやったよね!」


 僕とニナで元気づけると、あっさり二人ともやる気になってくれた。

 すぐに気持ちの切り替えができるのも二人のいいところだと思う。


「フレンダさんは落ち着いてるね」

「え、そうでもないですよ。緊張はしています」

「フレンダさんは大丈夫でしょ! 頭いいし、私もいっぱい教えてもらって助かっちゃったよ!」

「そういってもらえると嬉しいです」


 彼女と出会って一月半が経過した。

 初めの頃はもっとオドオドしていたけど、少しずつ慣れていて自然体に近づいている気がする。

 ふと心の中で思う。

 あれからもう一月以上経ったんだ……と。


「アレンはちょっと緊張してる?」

「うん。僕は筆記の後が少し心配だよ」

「なぁに言ってんだ。お前はぜってぇー大丈夫に決まってるだろ」

「そうだよ! アレンはすごいんだってみんな知ってるから」


 ニナが満面の笑みで僕の褒めてくれる。

 ジーク君も本心からそう思ってくれているのがわかる。

 フレンダさんにフィオさんも、みんなが僕を認めてくれている。


「ありがとう」


 おかげで不安はなくなりそうだ。


 試験は二段階に分けられる。

 一つは筆記試験。

 人数が多いから、一年生は五つの教室に分かれてテストを受ける。

 内容はこの国の歴史からギフトに関する基礎知識まで。

 貴族なら知っていて当然の一般教養も含まれている。

 問題数はちょうどニ百問。

 制限時間一時間二十分で問題に取り組み、七割以上正解していると合格になる。

 

「それでははじめ!」


 合図で一斉に生徒たちはペンを走らせる。

 時間的にはギリギリ。

 解けて当然の問題だからシビアに設定してある。

 一問もつまらず解き続けてなんとか全問解き終われる計算だ。

 僕の席からはみんなの後ろ姿が見える。

 頭を悩ませたり、真剣に問題に取り組む姿勢が伝わる。

 

 みんなは大丈夫。

 僕も自分も真剣に取り組まなきゃ。


 暗記は得意だ。

 ギフトのおかげで、本に記載された知識は永遠に忘れない。

 僕にとって筆記試験は苦ではなかった。

 ただ知っている問いに答え続ける作業でしかない。

 

 不思議な感覚だ。

 少し前の僕なら、きっと無機質に問題と向き合っていただけだろう。

 それが今は、自分以外の誰かを心配したり、信じたり。

 一緒に進級したいと思うようになっている。

 

「ふっ」


 思わず笑ってしまう。

 一人でいくことが当たり前で、この先もニナ以外に関われる人間なんていないと思っていた。

 そのことを仕方ないと諦めていた僕はどこへ行ったのだろう。

 まるで本の中の登場人物のように、小さくとも大切なきっかけで僕は変わった。

 変わった僕を、僕自身が誇らしく思えることがとても嬉しい。


「そこまで」


 あっという間に時間が過ぎて、筆記試験が終わった。

 終わってすぐに、僕の元へ四人が集まってくる。


「あー終わった終わった」

「なんとか解き終わったぁ~」

「え、まじで? 全部か? すげぇなニナ。オレなんて最後の十問くらい間に合わなかったぞ」

「あたしも最後のほう適当に埋めたよ~ フレンダは?」

「私も最後までは埋めました」


 みんな各々の感想を口にしていく。

 全員の表情を見る限り、手ごたえは悪くなさそうだ。


「アレンは完璧でしょ?」

「だろうな。簡単すぎて笑ってたろお前」

「え、いや、あれはそういうんじゃないんだ」

「じゃあなんだったんだ?」


 それは……ちょっと恥ずかしくて言えないな。

 ただ嬉しかっただけだから。

 みんなが僕を認めてくれること、僕が僕を認められるようになったこと。

 こうして僕の元に集まるみんなを見て、僕はまた笑う。

 

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