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2.図書館の司書

 時計の針を見る。

 午後五時半、そろそろ全ての授業が終わる頃だ。

 窓から差し込む光がオレンジ色に変化していた。

 僕は読んでいた本を閉じる。


「この話も面白かったな」


 僕が好んで読んでいるのは英雄譚だ。

 過去の実話もあれば、作者の妄想を膨らませた架空のお話もある。

 どちらも大好きだった。

 本の中の英雄は勇敢で格好良くて……誰もが選ばれた人間だったから。

 僕には一生縁遠い物語だ。

 だからこそ、憧れてしまうのだと思う。


「そろそろ片付けないと」


 あと三十分で図書館を閉める時間だ。

 返却された本の整理と掃除、最後に戸締りをして出る。

 一人でするには大変な作業だけど、僕にはうってつけのギフトがあった。

 『司書』のギフトのおかげで、本に関することなら忘れない。

 返却された本の位置や時期はバッチリ把握している。

 あとは本棚に触れるだけで、本の並び順や上下を揃えることもできる。

 便利な力だ。


「……まぁ、これ以外に使い道はないんだけどね」


 独り言を口にする。

 どうせ誰も聞いていないからと弱気なトーンで。

 すると、閉館間近になって扉が開く音がした。


「あ! やっぱりここにいた」


 僕を見つけた彼女は指をさす。

 ルビーのような瞳で僕を見つめ、ニヤっと笑みを浮かべた彼女は跳びあがる。

 二階にいた僕目掛けて。

 燃えるように赤い髪が靡き、スカートが翻る。

 いろんな場所が炎を連想させる彼女だけど、下着は真っ白だった。


「ちょっ、ニナ! 危ないよ!」

「全然危なくないよ! ほら、ちゃんと着地できたでしょ」

「そういうことじゃないから! 女の子なんだからもっとその……気をつけなきゃ駄目だよ。スカートでジャンプなんてしたら」

「――あっ」


 今さら気づいたのか、ニナは慌ててスカートを抑える。

 恥ずかしそうに頬を赤くして、じとーっと僕を睨みつける。


「……変態」

「ぼ、僕だって好きで見たわけじゃないよ」

「なにそれ! 私のパンツは見る価値もないっていいたいの!」

「そういう意味じゃないから!」


 この活発でボーイッシュな女の子はニナ・ブランドール。

 僕と同じ王都生まれの貴族で、家同士の交流があって小さい頃からよく遊んでいた。

 いわゆる幼馴染という関係。

 年齢も同じ十五歳で、同じ時期に学園に入学した。

 僕の大切な友達だ。


「そ、それでどうしたの? 図書館はもう閉まるよ」

「どうしたじゃないよ! アレン、また授業出ないで図書館にいたでしょ!」

「え、だって……僕には受ける資格なんてないから」

「またそういうこと言って! アレンもここの生徒なんだよ? 授業を受ける権利はちゃんと持ってるの!」


 ニナは力強く否定してくれる。

 心配してくれるのが伝わってきて、嬉しい。

 ただ……。


「ごめん、ニナ。僕は授業を受けたって意味ないんだ。こんなギフトしか持っていない僕が聞いても、得られるものなんてない……ここで本の管理をしているほうがずっと向いてる」

「アレン……」

「悲しい顔しないで。僕は大丈夫だよ。知ってるでしょ? 僕は本が好きなんだ。ここにいると落ち着くんだよ」


 本に囲まれたここは、僕にとって安らぎの場所でもあった。

 授業中は人も来ないし、ゆっくり本が読める。

 他人の視線や声を気にしなくていい。

 そう、ここにいれば……。

 

「アレンはそれでいいの? 逃げてるだけじゃずっとこのままだよ……」

「別に逃げてるわけじゃ……」


 いいや、本当はわかっている。

 僕はずっと現実から逃げてきた。

 学園に入学して半年以上経過して、ほとんどの時間をこの図書館で過ごしている。

 最初は授業にも出ていた。

 けど、すぐに出なくなった。

 居心地が悪かったんだ。

 皆……僕を見て憐れみや侮蔑の視線を向ける。

 名門貴族の落ちこぼれ、面汚し。

 何をしにこの学園に来たんだ、と小声で呟く。

 そんな彼らに嫌気がさして、逃げるように図書館へ足を運んだ。

 いつしか、学園での僕の居場所はここだけになった。

 授業も受けず図書館にいたから、先生に代わって管理をするようになって……。


 僕を司書と間違えるのも仕方がないよね。


「もうすぐ進級試験もあるんだよ?」

「わかってるよ。試験はちゃんと受けるから」

「本当に? まぁアレン勉強は私よりできるし、ちゃんと受ければ合格できると思うけどさ」

「うん。だから心配いらないよ」


 僕よりもニナのほうが心配だ。

 勉強のことじゃなくて、彼女の立場が。

 僕と彼女は全然違う。

 彼女は炎を操るギフトを複数所持していて、周囲からの期待も大きい。

 将来を有望視されている一人だ。

 そんな彼女が落ちこぼれの僕なんかと一緒にいることを、快く思わない人たちもいる。

 

「ねぇ、ニナ。もう僕には――」

「嫌だからね?」

「え?」

「私だけ進級するなんて絶対に嫌だから! アレンも一緒だよ」

 

 そう言って彼女は僕の手を握る。

 ギフトの影響かな?

 彼女の手はいつも温かい。

 

「……うん」


 結局、今日も言えなかった。

 僕にはもう関わらないほうがいい。

 そう言うべきなのに、彼女の手が僕を放してくれない。

 きっと、言ったところで彼女は変わらないと思う。

 ニナはそういう女の子だ。

 強くて、優しくて、格好良い。

 きっと彼女みたいな人こそ、物語のヒーローに相応しいんだと思う。

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