14.見えない視線
授業が終わり、生徒たちが下校していく。
西の空に夕日が沈む頃。
僕たちも図書館を出発する。
「それじゃ合流までよろしくね」
「うん。もし私が先に見つけたら、その場で懲らしめておくからね!」
「頼もしいけど無茶はしないでね。ニナも女の子なんだから」
「大丈夫だよ。危ない時はアレンが助けてくれるって信じてるから」
ニナはまっすぐな信頼を僕に向けてくれる。
僕はもちろんだと答えた。
もし不審者を特定できないと、被害がニナにも及ぶ危険性がある。
必ず見つけ出さないと。
「じゃあ私たちは先に行くね」
「プラトニア君……よろしくお願いします」
「うん。任せて」
何より、一人で苦しんできた彼女のためにも。
僕は改めて決意を固める。
先に二人は学園を出発した。
二人を見送った僕は、一旦反対方向へ歩く。
一目のないところを見つけたら、ギフトの力を発動させて動物に変身する。
僕は翼を広げた。
最初に変身したのは鳥、種類は鷹だ。
候補になっている三人は、それぞれ別方向に帰宅する。
地上では難しいけど、上空からなら三人を時間差を最小限にして確認できる。
鷹は特に目がいい。
「それにしても空を飛ぶ体験ができるなんて夢みたいだなぁ」
オレンジ色から深い藍色へ変化する空を飛ぶ。
鳥のように空を自由に飛び回りたい。
小さい頃にそんなことを思ったことがあった気がする。
まさか実現するとは思っていなかった。
身体の使い方は、ギフトで本を開いた時に共有される。
僕のギフトで得られるのは能力だけじゃなくて、主人公が物語の中で体験した経験も含む。
聖剣を抜いていきなり使えたのもそのおかげだ。
「さて、感動してる場合じゃないな」
楽しむために空を舞っているわけじゃない。
僕は最初の一人を視界にとらえる。
もっとも可能性が高い二年の男子生徒だ。
友人と楽しそうに帰っている。
「不審な感じは……ないな」
彼らの『千里眼』は一般的なタイプだ。
先生や学園長のように特殊なものは見えない。
遠方を見る『千里眼』は、見たい方向に視線を向ける必要がある。
彼が見ているのは友人の顔で、向かっている方向も異なる。
「彼じゃないのか。他の二人も確認しておこう」
他の二人は女子生徒だった。
可能性は低いと思いつつ確認して、やはり不審な動きはない。
二人も友人と帰宅していて、視線は友人たちに向けられている。
念のために三回ほど往復して確認してからニナたちの元へ向かった。
二人はちょうど街中を歩いている。
人通りはそこまで多くなく、見通しがいい。
僕は上空から周囲を確認した後、一旦降りて黒猫に変身してから辺りを散策した。
しばらくして、二人は静かな道へ入る。
歩いているのは二人くらいだ。
夕日も完全に沈み、少ない街頭だけが道を照らす。
「あ、ア、じゃなくて猫ちゃんだ! 可愛いー」
二人の前に姿を見せた僕にニナが反応して、危うく名前を口にするところだった。
僕は彼女に抱きかかえられる。
周りには野良猫と戯れている女の子に見えるだろう。
僕はニナに囁く。
「三人は違ったよ。周りも確認したけど、不審な人はいなかった。そっちは?」
「ずっと感じる。学園を出てからずっと……私も見られてる気がする」
フレンダさんが怯えている。
ニナが一緒にいても、やっぱり見えない視線は怖いんだ。
学園を出てから感じているなら、本格的に彼らではなかったことが証明された。
問題は今も続いているのに、周囲に誰もいないこと。
僕もかすかに視線を感じている。
辺りは確認したし、匂いも辿った。
音にも注意を払っている。
なのに……。
見つからない。
見えない、感じない。
それでも気配はしっかりとある。
『不可視』のギフトを使っているなら、目に見えないだけで音や匂いは残るはずなのに。
違うギフトがあるのか?
どちらにしろこのままじゃ帰れないな。
「ニナ、フレンダさんに伝えて」
◇◇◇
ガチャリと扉を開けて部屋に入る。
女の子二人と、抱きかかえられた黒猫が一匹。
「お邪魔します!」
「狭くてごめんなさい」
「ううん。私はこれくらいの広さのほうが落ち着くよ。ここに一人で暮らしてるんだね」
「はい」
僕は猫のまま二人の会話を聞く。
下校中に犯人を見つけることができなかった僕たちは、そのまま彼女の家までついていくことにした。
女の子の部屋に男の僕が入ることに申し訳なさはある。
ただ、家の中まで被害が及んでいる現状を知っていて放置もしたくない。
ニナは僕の気持ちを代弁するように言う。
「ごめんね? 急に家に行きたいなんて言って」
「いえ、嬉しいです。一人じゃ……不安なので」
「フレンダさん……」
一緒にいることで心細さを解消できるならよかった。
とりあえず今は視線を感じない。
ニナが家までついてきたことで警戒したのだろうか。
今夜は何もないかもしれないな。
「ごめんなさい。ここまでしてもらって」
「ううん! 気にしないでよ! 私でよかったら毎日でも一緒にいるからね!」
「ありがとうございます。でも……そこまで迷惑はかけられません」
「迷惑なんかじゃないよ。友達が困ってるのを放っておけないんだ」
「友……達?」
「うん! 今日話したばかりだけど、私はフレンダさんを友達だと思ってるよ!」
ニナは眩しいくらい明るい笑顔でそう言った。
照れくさそうに、図々しいかもしれないけどね、と付け加えて。
そんなことない。
きっと、僕とがそう思ったようにフレンダさんも同じことを思っただろう。
二ナの優しさに僕が救われてきた。
「ありがとう……ございます」
ふいに思う。
彼女は少し、僕に似ている気がする。
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