10.みんなの相談役
「というのは感じで、君には私も期待しているんだ。ぜひぜひ引き受けてくれるとうれしいな」
「はい! 頑張ります!」
「おっ、即答だね~ いいのかい? もっと考えなくて」
「考えてましたよ。ずっと」
先生はキョトンと首を傾げる。
僕は考えていた。
昨日、この力を知った時から今まで。
なんの役にも立たなかった僕にもできることができた。
他にもやれることがあるんじゃないか。
今まで立ち止まっていた分、前へ進めるんじゃないかって。
「アレン?」
何より、僕はあの時願ったんだ。
誰でもない、大切な人を守れるヒーローになりたいと。
「……先生、僕は大切な人を守れるようになりたいんです。そのために必要なことなら、なんだってやれます」
「アレン……」
「はははっ、いいね。青春って感じの返事だ」
今まで散々俯いてきた。
後ろ向きな考えなんて嫌というほどしてきた。
どうせ何もできないと諦めていたんだ。
もう十分だろう。
俯く時間は必要ないんだ。
前を見よう。
そうじゃなきゃ、大切な人を守れない。
「じゃあ、課題は受理されたってことでいいね?」
「はい!」
「アレンなら引き受けるって思ってたよ。一緒に頑張ろうね!」
「うん。あれ? ニナも?」
自分でもいい流れを切ってしまったと思う。
僕たちはお互いにキョトンと首を傾げた。
「あれれ? これって私も参加していいんじゃないの? だから一緒に呼ばれたんだと思ってたんだけど」
「そうなの? えっと、先生」
僕たちは先生に尋ねることにした。
同じタイミングで顔の向きを変え、先生を見る。
「私が課題を課したのはアレン君だよ」
「じゃあ……」
やっぱり僕一人でやるということか。
最初からそうだと思っていたから驚きはしないけど、ニナは寂しそうにしている。
すると先生は続きを話し始める。
「ただ、別に協力をしちゃ駄目なんて彼女からは言われてない。アレン君がいいなら一緒にやってもいいんじゃないかな?」
ここでニナの瞳がキラキラっと輝く。
希望を見つけて彼女は僕に熱い視線を送る。
「アレン!」
「わ、わかってるよ。僕も一人よりニナが一緒にいてくれるほうが嬉しい」
「やった! 先生そういうことみたいです!」
「はっはっはっ、本当に若いな君たちは。見てるこっちが恥ずかしくなるよ」
やれやれと首を振り、先生は席を立つ。
「それじゃ話はここまでだよ。相談を募る方法は自分たちで考えるように。あとは二人で頑張りなさい」
「はーい! ポスター作ろうとポスター!」
「うん。それで興味もってくれたらいいんだけど」
「大丈夫! 私がみんなに伝えておくから! とっても頼りになるからなんでも相談してって!」
ニナは僕と違って友達が多い。
彼女の呼びかけなら応えてくれる人もいそうだ。
「さっそくニナがいてくれてホッとしてるよ」
「そんなことで安心しないでよ~ というかアレンも声掛けしなきゃ駄目だよ!」
「え、僕は……」
今日までずっと関りを避けてきた。
友達もニナ以外にはいないし、僕が声をかけたところで意味ないと思ってしまう。
いや……違うな。
僕は怖いだけだ。
今までと何も変わらなかったら……。
「先生から最後にアドバイスをしてあげよう」
悩む僕に先生は背を向けたまま語る。
「ここは子供たちの学び舎だ。そして君も生徒なんだ。そろそろ君も勇気を出す時が来たんじゃないかな?」
「先生……」
「先生いいこといいますね! 仕事は押し付けてくるのに」
「そこは今は考えないでくれるかな」
最後は締まらないまま逃げるように先生は歩いていく。
「アレン。私も一緒にいるから、頑張ってみようよ! アレンのいい所なら私がたくさん知ってるから!」
「ニナ……」
「自信もって! 私を助けてくれたアレンはすっごく頼もしくて、格好良かったんだから」
「――! うん、ありがとう」
先生に諭され、彼女の言葉に後押しされた。
そうだ。
いい加減、逃げるのはやめにしよう。
前を向くと決めたんだ。
これからは誰かと関わることから逃げたりしない。
僕は今日から、みんなの相談役になるんだ。
◇◇◇
「くそっ……くそ、くそっ!」
自室の花瓶を突き飛ばし、バラバラに割れて水が零れる。
魔獣が暴れた一件はラストが犯人だと学園中の噂になっている。
「あいつらの誰かがバラしたのか。あれだけよくしてやったのに……」
真実を話したのは取り巻きの……三人だった。
つまり全員である。
彼らは等しく、ラストに対して不満を抱いていた。
長らく耐えてきた鬱憤がこの機会に漏れ出たのだろう。
最初から彼らの間に信頼などなかった。
「どうしてこうなった? 俺は完璧だったはずだ……あいつか? あの落ちこぼれがいなければ……」
彼は怒りの矛先を探していた。
自分は悪くない。
そう言い聞かせ、責任を誰かに押し付けるために。
浮かんだのはニナの顔と、彼女が手を握って放さないアレンの顔。
「あいつのせいでニナは俺のものにならない。あんなやつをニナが選ぶから……」
逆恨みでしかない。
しかし彼にはそう思うしかなかった。
怒りで冷静さを失っている。
「心地いい憎悪だ」
「――!? 誰だ?」
ようやく背後に立っている男の存在に気付く。
「どこから入った? ここが誰の部屋だ……」
瞬時に気付く。
怒りさえ忘れるほどの恐怖によって。
彼は一目で悟った。
その男の異常さを……この世ならざる圧力を。
「ちょうどいい。お前は役に立つコマになりそうだ」
「な、なんだ! くるな……くるなああああああああああああああああああああ」
ユグリットの予感は当たっていた。
この学園に……否、世界に危機が迫っている。
彼らはまだ、何も知らない。
今日はここまでです!
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