本当にあった怖い話
ごきげんよう!! ひだまりのねこです。
今日は先日体験した怖い話をひとつしようかと思います。ホラーが苦手な方でも大丈夫だと思いますが、自己責任でお願いしますね……。ふふふ。
その日の朝はひと際寒く、雪が舞ってもおかしくないほど冷え込んでいた。
あまりの寒さに目を覚ました私だったが、起きた瞬間、言い知れぬ違和感を全身で感じ取っていた。
そう……目に映るのはいつもの景色、いつもの部屋……のはずなのだが。
だが、何かが違う……? 違和感が拭いきれないのだ。
少しぬるく感じる布団にくるまりながら、用心深く周囲を確認する。
とりあえずと、布団にくるまったまま、枕元に転がしてあったスマートフォンに手を伸ばす。
今思い出しても身の毛がよだつ。結果的に、その行動は正解だったのだが。
電源を入れ、スマートフォンの画面を見た瞬間、私は全身の血が凍りつくような恐怖感に襲われることになる。
そう……私は寝坊したのだ。
迷っている暇も、落ち込んでいる暇もない。
『並行動作』と『高速思考』、消耗が激しいため普段はオフにしている超級スキルを迷うことなく発動する。
出し惜しみしている余裕などないし、そんな場合ではない。
幸いと言っていいのか分からないが、睡眠時間が増えた分、頭の働きは冴えわたり、身体のキレも申し分ない。
起床してから、家を出るまでの個人最短記録を大幅に更新することに成功し、駆け足で駅へと向かう。
だが、ここで焦ってはいけない。
並の人間ならここで全力疾走してしまうところだが、私は違う。
駅まではアップダウンの激しい道を20分。飛ばし過ぎると確実に途中でへばる。
ただでさえ、私はかばんが重いのだ。ペース配分を誤ればゲームはそこで終わってしまう。
絶妙なペース配分を保ちながら小走りを続ける。
やはり余分に寝たことが効いているのか、いつもより身体が軽いのがわかる。
もしかしたら羽でも生えたのかもしれない。
今なら飛べるかもしれないが、確認してみるのはリスクが高過ぎる。
軽やかなステップで最後の階段を登りきれば、もう駅は目の前だ。
……どうやら間に合ったようだ。
無事駅に到着したことによる安堵感と勝利の余韻にしばし浸る。
だがこの時はまだ知らなかったのだ。
本当の恐怖の時間はまだ始まってもいなかったということに。
「あれ……? 定期が無い……?」
普段定期が入っているはずの場所に定期が無い。
並の人間なら荷物をひっくり返して探しまわるところだが、私は違う。
単に空っぽだったから探す余地が無かったとも言うが。言い方は大事。
並の人間なら、気持ちを落ち着かせるために深呼吸のひとつでもするところだが、私は違う。
パンパンのはずの、リュックも空っぽだった……。落ち着いている場合ではない。
閉め忘れで全開になっているリュックがだらしなく垂れ下がり、まるで私を嘲笑っているかのように感じる。これは……普段パンパンにしている意趣返しなのか?
嫌な予感がして振り返ってみれば、ところどころに私の荷物が落ちているのが見える。
まるで現実感が無い。夢の中で美術館巡りをしているような他人事な感覚。
ふふふ、なんてシュールなのかしら? こういうときどんな顔をしたらいいのかわからないよ。
そうか……これが現実を認めたくないときの心理状態なのか。うむ、勉強になるな。
考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ。
マイナス思考がこれ以上加速しないようにとりあえず『並行動作』『並行思考』をオフにする。
とにかく、定期と財布だけは回収しないと……。
こういうとき、大切なことは、ポイントを絞ることだ。この程度で動揺はしない。数々の修羅場をくぐり抜けてきた私を舐めるな。
前向きに考えるならば、リュックは少しずつ開いていったはずで、荷物は駅周辺に集中しているはず。
幸い感染症の影響で落ちている荷物に触れようとする者はいない。
まさか貴様に感謝する日が来るとはな……オミクロン。
断じて私の荷物が怪しいからではない……ぞ。
結局、家の前まで戻る羽目になった。ここまで20分、ここから駅に戻るのにも20分かかる。
遅刻は確定、それは甘んじて受けよう。
だが、無い……財布と定期だけがどうしても見つからない。
キャッシュカードも財布に入っているから、お金すら下ろせない。定期が無いから会社で借りるわけにもいかない。
最悪の事態を想定して、家に通帳を取りに戻る。
いつもなら頼もしいはずの金属製の玄関扉が、今日は一段と重く感じる。
そして……扉を開けた瞬間、私の目に飛び込んできた光景……私は生涯忘れることはないだろう。
あ……玄関に財布と定期落ちてる。
カバンの閉め忘れ……怖いよねっていうお話。
その日以降、病的にカバンの閉め忘れが気になるようになったのは言うまでもない。