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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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【番外編】松風日記!!①  

 もう何度目になるだろうか。同じ夢を見るのは…。僕は今でも、キミが最後に言ったあの言葉を夢で見る。キミと過ごした日々は、僕にとってかけがえのない時間であり、僕は大切なことをたくさん教えてもらった。それに、たくさん迷惑もかけてしまった。けれど、僕の記憶の中のキミは、いつもやさしく微笑んでいた。そんなキミが僕に言った最後の言葉は「今までありがとう」だった。キミがいなくなってからもずっと、この言葉が鳴りやむことはない。僕の頭の中で聴こえるキミの声が、今も僕の心を揺さぶる。僕は決してキミのことを忘れない。毎晩夜空を見上げて、キミを探している。キミに逢いたくて、逢いたくて、声にならない声で、キミの名前を呼び続けている。この夜空の星々のどこかにキミがいるのではないかと思いながら…。いつかこの想いが届いた時に、返事があるのではないかと信じながら…。


 僕は幼い頃に両親を亡くしている。3歳の頃に父を事故で亡くし、その一年後に母が病気で亡くなった。正直あまり覚えていないが、母はシングルマザーになってから、僕を育てるために一生懸命に働いていたようだった。しかし、無理をしていたのだろう。体がついて行かず、少しずつ体調を崩していき、最後には二度と目を覚まさなかった。それから祖父母に引き取られた。祖父母はとてもやさしく、献身的に世話をしてくれたが、僕が高校に進学する前には二人とも病気で亡くなった。そして僕には身内が誰一人いなくなった。幸い、祖父母が貯蓄してくれていたお金があったので、僕は一人暮らしをしながら高校に通った。僕は不愛想で陰気なので、友達は一人もおらず、いつも一人で勉強か読書をしていたので、成績は良い方だった。そのおかげで高校は学費免除で通うことができた。別に勉強と読書が好きだったわけではない。それしかすることがなかったから、していただけだ。その反面、運動はからっきしダメだった。なので、体育の授業は図書室に籠って読書をしていた。

 この頃の僕は、感情というものを表に出すことがなく、常に無表情で一日を過ごしていた。嬉しい、楽しいといったポジティブ感情に限らず、辛い、苦しい、悲しいなどのネガティブ感情も特に感じることがなかった。というより、これまでに感じ過ぎていたので、キャパオーバーになっていたのだろうと思う。その反動で、感情をなくしてしまっていたのだ。クラスメイトからは、「お前、ロボットみたいだな」と言われたことがあるが、そう言われても、当時の僕は何も感じなかったし、今にして思えば、その通りだったと思う。この時の僕の目には、世界がモノクロに見えていた。何も感じることのない日々をただ淡々と過ごしているだけだった。生きる意味なんてない。なんで僕は生きているんだろう。そんなことを考えながら毎日過ごしていた。そんなロボットみたいな僕の前に、キミは現れた。

 キミのことを初めて認識したのは、高校二年生で同じクラスになった時だった。明るく元気で天真爛漫な性格のキミは、クラスの人気者でいつも周りには人が集まっており、僕とは正反対の存在だった。そんなキミがある日突然、僕に声を掛けてきた。

「水無月くん! 何の本を読んでいるの?」キミは好奇心旺盛な目をして聞いてきたが、僕は無視して本を読み続けた。それでもキミは「ねぇねぇ、何の本を読んでいるのー?」としつこく聞いてきた。

「何か用ですか? 風待さん…」僕は読んでいた本を閉じて、不愛想な態度で聞き返した。

「あ! やっと反応があった!」キミは笑顔になった。

「何か用ですか? 風待さん…」答えが返って来なかったので、同じ質問をした。

「うん! 水無月くんの読んでいる本を教えて欲しいの!」

「どうして知りたいんですか?」

「どうしてって……気になったから!」

「どうして気になったんですか?」

「それは…いつも本ばかり読んでいる水無月くんは、一体何の本を読んでいるんだろうって思ったの!」

「それは答えになっていません。僕はどうして気になったのかを聞いたんです」

「そ、それは…えーっと……! そうだ! 水無月くん、成績が良いから、同じ本を読むと私も成績が上がるかなって思ったの! 私、勉強が苦手だから…」

「それ、今思いつきましたよね?」

「え! そ、そんなことないけどなぁ…」キミは目線を逸らして誤魔化そうとした。

そんなキミを見ながらも、会話を早く終わらせたかったので、教えることにした。

「はぁ~。わかりました。今読んでいるのはこれです」僕はそう言って本の表紙をキミに見せた。

「影響力の…武器?」キミは本のタイトルを読んだ。

「これで用事は済みましたね。じゃあ、僕は本の続きを読むので、もう邪魔しないでください」そう言って僕は再び本を読み始めると、キミは「教えてくれてありがとう」と笑顔で言って、席に戻って行った。

 その日以降、キミは一日一回、必ず僕に声を掛けるようになった。最初は必ず「何の本を読んでいるの?」という質問だった。無視してもしつこく聞いてくるので、数日後には聞かれる前に本の表紙を見えるようにして、読書をするようにした。それでもキミはわざわざ僕に質問をしてきた。そして、いつの間にか本に関する質問はしなくなり、今度はキミの世間話を聞かされるようになった。ある日は天気の話だったり、またある日は好きな食べ物、嫌いな食べ物の話だったり、またまたある日には好きな音楽の話だったりと、キミは一方的に話し掛けてきた。途中、鬱陶しいと思ったので、「やめてくれ」と言ったが、キミはやめることなく、毎日必ず一つの話題を持って話し掛けてきた。ここまで来ると言っても無駄だと悟った僕は、キミの話を無視して本を読んでいたが、それでもキミは話をやめなかった。その態度のせいで、クラスメイトからは嫌われ、僕はさらに孤立状態になっていたが、そんなことどうでもよかった。

 そんな日々が続いたある日、キミは体調不良で学校を休んだ。僕は久しぶりに一人でゆっくり過ごせると思っていると、クラスメイトの男子に声を掛けられた。

「よう、水無月! お前に言いたいことがあるから、ちょっと面貸せよ」

「………」

「おい! 聞いてんのか?」

「………」

面倒そうだったので無視していると、奴は突然僕の胸ぐらを掴んできた。

「無視してんじゃねぇよ! お前、風待さんに話し掛けられるからって、調子に乗ってんじゃねぇか?」

「別に調子に乗っていない。言いたいことがあるなら、この場で言えばいい。わざわざ移動するのは面倒だ」

「そういう上から目線なところがムカつくんだよ! 常に他人を見下したような目で見やがって! 何様のつもりだ?」

「そんなつもりで見たことはない。それはあなたの勝手な思い込みだ。それに、上から目線と言うのなら、今のあなたの行動がそうではないだろうか?」

「てめぇ!」奴が殴りかかろうと拳を突き上げた時、「やめなさい!」という声が教室に響いた。声のした方に視線を送ると、隣のクラスの雪待椿ゆきまちつばきさんだった。彼女の姿を見た男は、僕の胸ぐらから手を放して、去って行った。彼女のおかげで、僕は奴に殴られずに済んだ。

「大丈夫? 水無月くん」

「はい…ありがとうございます…」

「もし、また何かされそうになったら、すぐに私に言いなさい!」

「はぁ…」

 雪待椿さんは、学校のマドンナ的存在だった。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、おまけに生徒会長までしており、全生徒の憧れのような存在だったらしい。興味のなかった僕でさえ、そのようなことを知っていたのだから、すごい影響力を持っていたのだろうと思う。クールでカッコよく、風待さんと違う人気があるようだった。正義感が強いため、僕みたいな奴が周りから疎まれていても、ほっとけない性格なのだろう。風待さん程ではないが、たまに僕に声を掛けてくることがある。話題は大体が勉強のことだった。テストでどこを間違えたのか、なぜ間違えたのかを聞かれたりした。もしかしたら、雪待さんは僕をライバル視していたのかもしれない。なぜなら、僕が首席で、雪待さんが二位だったからだ。正直、僕は順位なんてどうでもよかったが、雪待さんは気にしていたのかもしれない。

 そして体調が回復した風待さんが登校してくると、何事もなかったかのように、一方的な話が再開された。休みをきっかけに、なくなるかもしれないと期待していたが、そんなことはなかった。風待さんがいつも通り話し始めた時、僕は残念な気持ちと、少しホッとした気持ちを抱いた気がした。


 ある日、キミがいつも通り話し掛けてきた時、ある変化に気づいたので、尋ねてみることにした。

「前髪切ったか?」

「え!? どどど、どうして?」キミは驚きながら前髪を両手で覆って隠した。

「いや、少し短くなっているような気がしたから…」

「………」

「勘違いだったか…」

「ううん! 勘違いじゃないよ! 昨日自分で切ってみたの!」

「そうか…」

「へ、変じゃないかな?」

「別に変じゃない」

「ほんと?」

「ほんと」

「嘘じゃない?」

「そんなことで嘘をつくはずないだろ」

「じゃ、じゃあ、可愛い? 似合ってる?」キミは僕の目を覗き込むようにして聞いてきた。

「まぁ、似合っていると思う…」

「可愛い?」

「………」

「か・わ・い・い?」

「可愛いんじゃないか?」僕は客観的な意見を述べた。

「ほんと! やったー!」キミは笑顔で喜んでいた。


 ある日、天気予報が外れて、昼からどしゃ降りの雨が降り出した。幸い僕はいつも鞄に折りたたみ傘を入れているから、何の問題もなかったが、靴箱に行くとキミが困った顔をして空を眺めていた。明らかに傘を忘れているのがわかったので、仕方なく貸すことにした。「ん…」と僕は何も言わずに折りたたみ傘を差し出すと、キミは「え!?」と驚いてすぐには受け取らなかったので、僕はもう一度差し出した。するとキミは「傘…いいの?」と確認してきたので、僕は頷いた。キミはゆっくりと僕の差し出した傘を受け取り、「ありがとう!」と笑顔で言ってくれた。そして僕は、着ていたジャケットで頭を覆うようにして、雨の中を走って帰ろうとすると、キミに服の裾を掴まれて止められてしまった。

「水無月くん! 今、そのまま走って帰ろうとしたでしょ?」キミは少し怒っているようだった。

「そうだけど…」

「それじゃあ、水無月くんが濡れちゃうじゃん!」

「ダメなのか?」

「ダメに決まってるでしょ! ていうか、この傘、水無月くんのものなのに、どうして私に貸して、自分は濡れて帰ろうとするの!?」

「その方が良いと思ったから…」

「どうして?」

「僕が濡れて帰って、もし風邪をひいたとしても誰も悲しまない。でも、キミが濡れて帰って風邪をひいてしまうと、多くの人が悲しむからだ」

「………!」

「だから……これが最善策なんだ…」そう言って雨の中に飛び出そうとすると、今度は手首を掴まれた。

「そんなの……全然最善なんかじゃない! キミは大きな勘違いをしているよ!」

「勘違い?」

「キミが風邪をひいても、誰も悲しまないって言ってたけど、それは間違いだよ!」

「いや、間違っていない。僕には家族も友達もいない。だから僕が風邪をひいても…」

「私が悲しいの!」キミは僕の言葉を遮って言った。続けて「……水無月くんが風邪をひくと、私が悲しいの…!」と目に涙を浮かべながら言った。

 そして少しの間、沈黙が流れた。この間、どしゃ降りの雨音だけが僕たちの耳を覆って鳴り響いていた。

「キミは………キミは、どうしてそこまで、僕に…」

「最善策は! こうだよ!」キミは僕の言葉を遮って、傘を開いた。そして「はい。こうしたら二人入れるよ!」と言いながら、キミは体の半分だけ傘に入れ、もう半分を僕に入るように促してきた。

「それだとキミの体の半分が濡れてしまう」

「そ、それは、体を寄せれば大丈夫だよ!」

「それはいわゆる相合傘というやつですか?」

「そ、そうだけど…」キミは少し恥ずかしそうに答えた。

「キミと僕がそんなことをして、もし誰かに見られたら、明日学校で変な噂が流される。そうなるとキミの印象が悪くなってしまう」

「そんなの! 私は気にしない!」キミははっきりと言った。「ていうか、どうして私の印象が悪くなるの?」と聞いてきた。

「キミはみんなの人気者だ。みんなから好かれている。だけど、僕はその真逆、みんなに嫌われているから、一緒にいるとキミの印象が悪くなる」

「………」

「だから、もう僕には…」

「それが本当なら、キミの印象が良くなることもあるんじゃないの?」

「それはない。一度築いた印象はなかなか変えられないから、僕がどんなことをしても、みんなは悪い方に解釈するはずだ。それにもし印象が良くなるとしたら、こんな僕にもやさしくしてくれるキミの方だと思う」

 少しの沈黙が流れた。

「水無月くんは…私と相合傘するのが、そんなに嫌なの?」

「別に嫌と言っているわけではない。キミに迷惑が掛かるから…」

「じゃあ、しようよ! 全然迷惑じゃないから!」

「いや、さっき僕が言ったこと聞いてたのか? キミと僕が一緒にいると…」

「水無月くんこそ、私が言ったこと、聞いてた?」

「……?」

「私は、周りになんて言われても気にしない! 私は私のやりたいようにする!」キミは僕の目を真っ直ぐに見つめながら、力強くはっきりと言った。そして体を180度回転させ外を向き、顔だけ少し僕の方へ振り向き「だから、早く、私の隣に立ってくれないかな?」と再び相合傘を促してきた。

 今までの経験上、キミのしつこさはピカ一だということを知っているので、これ以上断り続けても不毛だと思った。

「はぁ~しょうがないから、入ってやる」そう言って僕はキミの隣に立った。この時僕は、久しぶりに軽く微笑んだ気がする。

 傘は元々僕のものなので、僕が持つことになった。その際、キミが濡れないようになるべくキミの方へ寄せていたので、僕の体半分はずぶ濡れだった。相合傘をしている間、さっきとは打って変わって、キミは一言も喋らなかった。少し気になったので、横目でチラッと見ると、キミの顔は赤く染まっているように見えた。キミは気にしないと言っていたが、そんなことはなかったのかもしれない。幸い、駅に着くまで知り合いとすれ違うことはなかった。

 しかし、翌日には学校で噂になっていた。教室に入った瞬間、周りの冷たい視線が、僕に集まるのを感じた。そしてクラスメイトのある男が、僕に聞こえるようにわざと大きな声で「昨日、風待さんと水無月、相合傘して帰ったらしいぜ!」と言っていた。周りの奴らも「マジ!?」、「今時相合傘って!」とバカにしたような言い方で笑っていた。僕たちは気づかなかったが、誰かに遠くから目撃されたのかもしれない。僕が学校に着いた頃には、すでに噂が広がっていたので、誰が最初に言い出したのか、特定できない状態だった。まあ、そんなこと僕にとってはどうでもいいことなので、いつも通り一人で読書を始めると、少し遅れてキミが教室にやって来た。

 キミがいつも通り元気なあいさつをしながら教室に入ってくると、友達と思われる女子たちが駆け寄り、心配の声を掛けていた。「ゆの! 大丈夫? 何もされなかった?」とか、「酷いこと言われなかった?」などと心配されていた。キミはいきなりのことで、何のことかわからない、といった様子で驚いていた。それで一人の疑り深い女の子が、「昨日ゆのが、水無月くんと相合傘したって噂が流れてるんだけど、嘘だよね?」と尋ねると、キミは「うん! したよ!」とあっさりと認めていた。その発言の後、しばらく教室が静まり返り、みんながキミに視線を向けていた。そして一人の女の子が「そ、そうなんだ! ゆのってほんとやさしいんだね。自分の傘に入れてあげるなんて」と言ったのが聴こえ、僕は思わず「え!?」と言葉が漏れてしまった。キミは咄嗟にその子の口を手で塞ぎ、焦った様子で僕の方をチラッと見た。キミは何か知られたくないことがありそうな雰囲気だったが、別に問いただすつもりもなかったので、そのままスルーしようと思ったが、周りの女友達が勝手に打ち明け始めた。

「でも、ゆのってほんと準備良いよね! いつでも傘持っていたら、昨日みたいな日でも困らないね!」黒髪ロングの女の子が言った。

「うんうん。私もゆのを見習って今日も持って来たもん!」ショートヘアの女の子が折りたたみ傘を見せびらかしながら言った。

「大きな貸しは、ちゃんと返してもらわないとね!」ショートボブの女の子が僕の方を横目で見ながら言った。

 彼女たちの話を聞く限り、傘を借りたのが僕で、貸したのが風待さんになっているようだった。まあ、噂なんてものはこんな風に勝手に脚色されてしまうものだから、正直どうでもいいが、一つ気になることがあったので、それを問いただすことにした。

 

 休み時間、キミはいつも通り話し掛けてきたので、僕はある質問をすることにした。

「キミ、もしかして昨日、傘持っていたのか?」

「え!? そ、それは…」キミは明らかに動揺していた。

「持っていたんだな?」

「うーん…どうだったかなぁ…」キミは腕組みをして考えるふりをした。

「はぁ~持っていたんだな…」

「………はい。…持っていました…」

「それなら、どうして言ってくれなかったんだ?」

「それは……忘れてたというか、なんというか…」キミは目線を逸らしながら言った。

「それ、嘘だろ。キミは嘘をつく時、必ず目線を逸らす。嘘をつくのが下手だからな」

「え!? そ、そうなんだ!」

「まあ、勝手に勘違いしたのは僕だから、責めるつもりはない。ただ確認したかっただけだ」そう言ってキミを見ると、なぜか嬉しそうな表情をしているように見えたので、「何か嬉しそうだな?」と尋ねてみた。

「うん! 水無月くん、ちゃんと私のこと見てくれていたんだ! と思って!」キミは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言った。

「と、とにかく、キミはいつも傘を持っていることがわかったから、これからは絶対貸さないから」僕はキミの笑顔を見て、一瞬心が揺らいだ。


 一学期の期末テスト、結果は僕が一位で、生徒会長が二位だった。そしていつも通り、生徒会長がテストについて話し掛けてきたが、その日は、他にも話したい話題があるようだった。

「水無月くん、ちょっと聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

「なんですか?」

「この前…あなたが…その…あ、あ、相合傘をしていたって聞いたのだけれど…本当なのかしら?」

「あぁーそうですね。本当です」

「……! そ、そう…珍しいわね!」

「まあ、成り行きで…」

「相手は、風待さんって聞いたのだけれど?」

「そうですね」

「最近、風待さんと仲が良いみたいね!」

「別に仲良くはないです。なぜか彼女が僕に興味を抱いているようで、毎日話し掛けてくるだけです」

「かっ、彼女!?」生徒会長はオーバーリアクションで反応していた。

「そう言う意味じゃないですよ」

「そ、そう…。ごめんなさい。取り乱したわ…」生徒会長はすぐに取り繕ってから「風待さんはどうしてあなたに興味を抱いているのかしら?」と聞いてきた。

「さあ、僕にもわかりません。ただ同じクラスになったから、話し掛けているだけかもしれません。風待さんはやさしい人ですから…」

「そうね。彼女はとてもやさしい。だけど本当にそれだけかしら? 周りから見ると、そんな風には見えないのだけれど…」

「そうですか?」

「同じクラスになる前に、何かあったんじゃないの?」

「そう言われても、特に覚えてないですね」

「あなたが覚えていなくても、彼女が覚えているかもしれないわ!」

「そうですか…? あんな可愛い子見たら、さすがの僕でも覚えると思うんですけどね…」

「か、か、か、可愛い! 水無月くん、今、風待さんのこと可愛いって言った?」

「え? はい。言いましたけど…」

「あああ、あなたは、風待さんのことが好きなの?」

「可愛いとは言いましたが、好きとは言っていませんよ」

「え? ど、どういう…?」

「すごく魅力的な人だと思いますが、生徒会長が思っている好きとは違います。僕が誰かを好きになるなんて、ありませんから……。それに……僕を好きになる人もいないですから…」

「そ、そう…」生徒会長は、安心なのか寂しさなのか、よくわからない複雑そうな顔をしていた。

「その点で言うと、生徒会長もとても魅力的ですよ」

「なっ! 急に何を言っているの! 褒めても何も出ないわよ!」生徒会長は急に褒められて照れているようだった。

 この時の僕は、誰も好きにならないと決めていた。なぜなら、僕が好きになった人たちは、すぐに僕を置いてどこか遠くへ行ってしまうからだ。それが物理的な距離なら、どんな手を使っても会いに行くけど、僕の好きな人たちは決して手の届かないところに行ってしまった。それはとても悲しくて、とても辛くて、とても痛い。そんな経験をもう二度としたくないから、僕は誰も好きにならないと決めた。それに、こんな僕を好きになる人なんて、いないと思っていた。


 夏休みのある日、図書館で本を読んでいると、可愛い女の子が声を掛けてきた。その子とは、私服姿のキミだった。見慣れない姿だったため、すぐにキミだということがわからなかった。キミはあまり本を読まないと言っていたのに、どうして図書館にいるのかと尋ねると、僕の影響で読書にハマったらしく、本を読みに来たらしい。そこで僕を見かけてので、声を掛けてきたということだった。自分が影響を与えたということで、少し興味が湧いたので、何の本を読んでいるのか尋ねると、キミはマンガばかり紹介してきた。一応本だが、僕が思っていたものとは違ったので少しガッカリした。

 それから、僕が本を読んでいると、キミは隣に座り、昔からある絵本を持って来て、読みながら、懐かしさに浸っているようだった。時折、僕にも同意を求めてくるので、僕は自分の読書に集中できなかった。なので、宿題をすることにした。勉強道具を準備して、宿題をしていると、本を探しに行っていたキミが、大きな絵本を持って戻って来た。

「ねぇ、水無月くん! こんな大きな絵本があったよ!」キミはまるで小学生のようなはしゃぎようだった。「って、いつの間にか宿題してるし!」と驚いていた。

「ビッグブックか。意外と重たいんじゃないか?」

「うん! なかなかだね!」

「懐かしいな。『はらぺこあ〇むし』か…」

「水無月くんも読んだことあるの?」

「あぁ、小さい頃に親に読んでもらったことがある」

「そうなんだぁ! 私もよく読んでたんだぁ!」

 僕は宿題を忘れて、ついキミと一緒に絵本を読んでしまった。

「久しぶりに読むと面白いね! 水無月くんって虫とか好きなの?」

「虫はそこまで好きじゃない。どちらかというと、動物の方が好きだ」

「へぇー! そうなんだ! じゃあ動物園とか水族館とか行ったりするの?」

「いや、どっちも行ったことない」

「え!? そうなんだ! じゃあもし行くとしたら、どっち行きたい?」

「そうだな。どっちも行ってみたいけど、今の気分は水族……」夏で暑かったので、僕は涼しさ優先で答えようとしていたが、ここで「ハッ! しまった。宿題を忘れてしまっていた…」ということに気づいた。

「また宿題するの?」キミはつまらなそうな顔をして言った。

「あぁ。……キミはしないのか?」

「私……宿題嫌いなの!」

「そうか…」

「水無月くんは宿題嫌いじゃないの?」

「別に嫌いじゃない。好きでもないけど…」

「そっか。水無月くん、勉強得意だもんね! この前のテストも一位だったし! 私なんか全然及ばないよ!」

「何位だったんだ?」僕は反射的に聞いた。

「え!? そ、それは…」キミは言うのを躊躇っているようだった。

「言いたくないなら、言わなくていい(そこまで興味ないから)」

「………私の順位……聞いても笑わない?」

「笑わない(どうでもいいから)」

「本当に笑わない?」

「本当に笑わない」

「ほんとにほんとに笑わない?」

「ほんとにほんとに笑わない。てか、正直どうでもいいから、言いたくないなら、言わなくても…」

「166位…」キミは小さな声で呟いた。

 そして少し間が空いた。

「へぇー、そっか。ありがとう、教えてくれて」

「笑わないの?」

「笑わないって言っただろ」

「166位だよ! 下から数えた方が早いんだよ!」

「それはこの前の順位ってだけで、それ以上でも以下でもない。勉強すれば誰だって成績は伸ばせる。それに……大切なのは学力だけじゃないからな」

 キミはポカーンとした顔をしてしばらく固まっていたので発言を続けた。

「キミはとてもやさしい心を持っている。人を思いやったり、笑顔にしたりする能力が極めて高いと思う。それは僕が持っていない素晴らしい能力だ」

 キミは表情を変えなかったが、頬が赤くなっていたので、褒められて恥ずかしかったのだろうと思う。

「私は! ……私は、そんなにやさしくないよ…」

「そんなことはない。クラスメイトは男女問わず、キミをやさしいと言っていた」

「水無月くんは! ……水無月くんも、そう思うの?」

「……あぁ。現に僕みたいな奴とも話してくれるからな。みんなが敬遠するのに、キミだけが、僕に声を掛け続けてくれている」

「迷惑じゃ…ないの?」キミは恐る恐る聞いてきた。

「そうだな…。最初は鬱陶しいと思っていたけど、さすがにもう慣れた。逆に話し掛けられないと、物足りなく感じる時もあるくらいだ」

 それを聞いたキミは一瞬驚いた顔をしてから、満面の笑みに変わった。

「え!? じゃあ、夏休み、私に逢えなくて寂しかったの?」

「別に寂しくない」

「私と話せなくて、物足りなかったの?」

「別に…。充実していた」

「今日、私の声を聞けて嬉しいの?」

「まあ、少しは…」

 キミはマシンガンのように早口で質問を浴びせてきたので、僕は考える余地もなく直感で答えてしまった。そしてキミはとても喜んでいた。

「じゃあ明日、一緒に遊びに行こう!」キミはテンションが高いまま遊びに誘ってきた。

「え? なんで?」

「だって、私と一緒に遊びたいんでしょ?」

「そんなこと一言も言ってないんだけど…」

 僕はそう言ったが、キミの耳には届いていないようだった。そしてキミは、「明日の朝10時に駅集合ね!」と勝手に集合場所と時間を決めてから詳しい内容を説明せずに、準備することがあると言って、速足で先に帰って行ったので、断る暇もなかった。後から断ろうにも、連絡先も住所も知らないのでどうしようもなかった。それに、僕は了承していないし、キミが勝手に言い出したことなので、行かなくてもいいだろうと思ったが、ふとキミの顔が頭に浮かんだ時、笑顔で誘ってくれたのを思い出した。もし無断で行かなかったら、キミはあの雨の日の時みたいに、悲しい顔をするのだろうか。そう思うと少し罪悪感に襲われたので、覚悟を決めて、明日約束したところへ行くことにした。もし面倒だったら、その時に断っても遅くないだろうと思った。


 翌日、僕は全身〇ニクロスタイルという久しぶりのオシャレをして、集合場所の駅に向かった。集合時間の10分前に到着したが、キミはまだ来ていなかった。それから時間になるまで待ったが、キミはまだ来なかった。まあ多少の遅刻は誰にもあるだろうと思って、もう少し待つことにした。そして1時間後、事故か何かに巻き込まれたんじゃないかと心配になったが、連絡手段がなかったので、ただ待つだけだった。そしてキミは、焦った様子で走ってやって来た。その姿はまるで天使か女神のように美しく、僕は思わず見惚れてしまった。僕のところに着いた時、キミは息切れをしており、呼吸を整えながら遅れたことを謝ってきた。

「ハァハァ、ごめんなさい。ハァハァ、遅れてしまって…ハァハァ…」キミは両手を膝につけた態勢で言った。

「無事でよかった。事故に巻き込まれたんじゃないかと心配していたんだ」

「ハァハァ、ごめんね。ハァハァ、心配かけて…」

「気にしなくていい。それよりもこれ…」

 そう言って、僕は事前に自販機で買っておいた水をキミに手渡した。もしただの遅刻なら走って来るだろうと思ったので、水が必要だろうと考えた。そしてこの推測は的中したようだった。キミは遠慮しながらも受け取り、一気に500mlの水を飲み干していた。相当喉が渇いていたようだった。

 そして僕から聞いたわけではないが、キミは遅刻した理由を述べ始めた。キミは昨日家に帰った後、どこに行こうか計画を立て始め、それが夜遅くまで掛かったらしい。そして寝るのが遅くなり、そのせいで起きるのも遅れてしまったらしい。それでも起きてからまだ時間に余裕はあったらしいが、着ていく服を選んでいなかったので、焦って選び始めたらしい。その結果、時間が掛かってしまい、家を出るのが遅くなって、遅刻したということらしい。

 キミは遅れて申し訳なさそうな顔をしていたので、気にするなと言葉を掛けたが、あまり効果がないようだった。なので、話題を変えるため、今日の予定を尋ねることにした。

「ところで、今日はこれからどこに行くんだ?」

「あ! そうだね。まだ、何も言ってなかったね! ちょっと待ってて…」キミはそう言って肩に掛けていた小さめのバッグを漁り始めた。そして「あれ? ない!」と焦り始め、隅々までバッグの中身を確認していた。

「何がないんだ?」

「今日の予定を書いたメモがないの! 昨日調べたことを書いたメモが!」

 そう言ってキミはバッグの中身を全部取り出して、近くのベンチに並べ出した。そこにはハンドクリーム、日焼け止め、手鏡、ポケットティッシュ、絆創膏などが並べられていた。全部出し終えてから、バッグを逆さまに持って何度も振っていたが、結局、探していたメモ用紙は見つからず、キミは再び落ち込んでしまった。

「ごめんね…。私、ダメダメで…」

「そんなことはない。誰だって失敗はある」

 そう言ってフォローしている時、駅に掲載されていたある広告が僕の視界に入ってきた。その広告を見て、僕は提案してみた。

「水族館……に行ってみないか?」

「え!?」

「いや、あそこに広告があるから、ちょっと気になって…。でも、キミが嫌なら他の場所に…」

「行く! そういえば、私も水族館に行く計画を立てていたの! 昨日水無月くんが行ったことないって言ってたから!」

「そうか…。じゃあ、決まりだな」

 ということで、キミと僕の初デートの行先は水族館になった。僕が初めてということだったので、水族館ではキミが先導してくれた。キミは行く先々で、見つけた魚たちの豆知識を披露してくれた。たとえば、マンボウはのんびり屋で、海面で横になっている様子を昼寝と思っている人が多いらしいが、あれは下がった体温を太陽光に当て、元に戻すためにしていることで、体力を回復させるために大事な行為らしい。オニイトマキエイ、別名マンタは、体の幅が7メートル、体重は2トンになる世界最大のエイであり、今までは長距離を回遊すると言われていたらしいが、実際には直径200キロ程の狭い海域に暮らしているらしい。4000キロ泳ぐこともあるマグロと比べると、随分狭い範囲で一生を過ごすそうだ。クマノミは、イソギンチャクがいないと生きていけないらしい。イソギンチャクの触手に触れると毒針が発射され、ほとんどの魚は死んでしまうらしいが、クマノミは特殊な粘液によって刺されることがないため、一緒に暮らしているらしい。しかし、そこから離れれば、他の魚に狙われて食べられてしまうらしい。ジンベイザメは、全長18メートルになる最大の魚類で、8000キロもの大回遊をするらしい。また、ジンベイザメは一回の出産で300匹の赤ちゃんを産むらしい。ハリセンボンは、名前が1000本なのに、実際の針の数は350本くらいらしい。

 こんな風にキミは魚の豆知識を教えてくれたが、その中でも驚いたのが、ダルマハゼの豆知識だった。ダルマハゼは体長3センチの小さな魚で、サンゴの枝の間に住んでいるらしい。オスとメスのペアで住んでいるらしいが、病気になったり、敵に襲われたりして、ペアの一方が死んでしまうことがあるようだ。そこに新しいダルマハゼが来ることがあるが、相手が異性とは限らない。その時、ダルマハゼは性転換というものをするらしい。オスが死んだ時に、他のメスがやって来ると、体の大きい方がオスへと性転換するらしい。逆にどちらもオスの場合には、小さい方がメスに性転換するらしい。ダルマハゼは相手に合わせて柔軟な対応をするらしいのだ。

「へぇー、キミは魚に詳しいんだな」

「えへへ…実は昨日頑張って調べたの!」

 どうやら、昨日キミの寝る時間が遅くなったのは、行先に迷っていたのではなく、魚について調べていたかららしい。僕が初めて行くということを知って、少しでも楽しくしようと思って、いろんなことを教えるつもりだったようだ。実際、知らない情報ばかりだったので、驚いたし、楽しいと思った。僕が率直に感想を言うと、キミはホッとした様子だった。

 それから僕たちはイルカショーやアシカショーを見たり、グッズ売り場で買い物をしたりした。魚のクイズ大会も開かれていたので、一緒に参加すると、なんと決勝戦まで行くことができた。予選の〇×クイズでは、途中わからない問題が何問かあったが、キミの勘を信じると、全て正解だった。そして決勝の早押しクイズでもキミは奮闘したが、おしくも準優勝だった。賞品として、手のひらサイズのピンクイルカのストラップをもらった。

 そんなことをしていると、あっという間に時間が過ぎ、気づいたら夕方になっていた。お互いあまりにも夢中になっていたので、ご飯を食べるのも忘れてしまっていた。一通り館内を見て回り満足したので、僕たちはお腹を満たすために近くのカフェに寄った。そこで僕はようやく気づいた。キミがものすごく疲れていることに…。そして申し訳ない気持ちになった。

「ごめん。僕に付き合わせてしまって…。キツかったよな?」

「ん? 全然大丈夫だよ! まだまだ元気100倍だから!」キミはそう言って、笑顔で力こぶを作って見せたが、無理をしているのがわかった。

「無理はしなくていい。気づかなかった僕の責任だ。帰りはタクシーで…」

「ダメ!」キミは僕の言葉を遮って大きな声で言った。

「……!」キミの言葉に僕は驚いてすぐに言葉が出なかった。

「タクシーだと、すぐに帰り着いちゃう…」

「その方が良いんじゃ…」

「それに、タクシーは高いよ!」

「それなら心配しなくても、タクシー代は僕が出すから…」

「そんなお金を使うくらいなら……私は…キミと歩いて帰りたい!」キミは真剣な表情で僕の目を見つめながら言った。

「どうしてそこまで…?」

「それは……」

 キミが何かを言おうとした時、注文していた料理とドリンクが運ばれてきた。僕は発言の続きが気になったが、キミは料理に夢中になっていたので、これ以上聞かないことにした。キミはオムライスとコーヒー、僕はナポリタンを注文していた。途中、キミがナポリタンを食べたそうな顔をしていたから、何口か分けてあげると、キミもオムライスを分けてくれた。メインを食べ終えた後、キミはデザートのチーズケーキを追加注文して、綺麗に完食し、満足そうな顔をしていた。

「ねぇねぇ! 次はどこに行きたい?」キミは唐突に聞いてきた。

「え? 次って?」

「この次だよ! まだ夏休みは残っているでしょ!」

「いや、そう言うことじゃなくて…」

「次はやっぱり動物園かなぁ~。それとも街でショッピングとか! あ、もうすぐ夏祭りもあるよね!」

 キミは僕の話を聞かずに、一人で勝手に妄想し始めた。そしてその妄想では、なぜか僕と一緒に出掛けることが前提になっているようだった。

「いや、出掛けるなら僕じゃなくて、友達と行けばいいだろ。その方が、キミも楽しいだろうし…」

 僕がそう言うと、キミは黙り込んで、静寂な間が空いた。その間聴こえたのは、カフェ店内に流れるクラシック音楽だけだった。

「今日一日……私はとっても楽しかったよ! 水無月くんは…どうだったの?」キミは僕の目を見ながら聞いてきた。そんなキミに僕は少し気圧されながらも、一日を振り返ってみた。そして率直な感想を言うことにした。

「僕も……楽しかった…」

「はぁ~よかったぁ!」

 僕の感想を聞いたキミは、一瞬驚いた顔をした後、大きくため息をついて脱力しながら言った。そして心配していたことを語り始めた。

 キミはデートの間中、僕が楽しんでいるのかわからなかったので、ずっと不安に過ごしていたらしい。なぜなら、キミが何かをしたり、何かを言ったりしても僕の反応は一つで、無表情で「へぇー、そうなんだ」と言うだけだったから、僕が楽しんでいないのではないかと、心配になったらしい。それでもキミは必死に話し掛けたり、誘導したりしたけど、結局、僕にとってはつまらないことだったのではないか、と気にしていたようだった。なので、僕の口から「楽しかった」という言葉が聞けて、一気に緊張が解れたらしい。

「ごめん。僕の反応が薄いばかりに、無駄に心配掛けたみたいで…」

「ううん。あれでも楽しんでいたということがわかったから、良かった! また一つ、水無月くんのことを知ることができたよ!」

 キミが笑顔でそう言ったのを聞いた時、僕は胸がドキッとするのを感じた。自分で驚いて、胸に手を当てていると、キミが「どうしたの?」と心配して声を掛けてきたので、僕は「何でもない」と答えた。

 それからキミは、夏休みの内にやってみたいことを思いつく限り挙げ始めた。先ほど挙げた動物園やショッピング、夏祭り以外にも、映画鑑賞や美術鑑賞、登山にも行ってみたいと言っていた。さすがにそれら全部をするには大変だと思ったが、キミは本気の目をしていた。それに僕も付き合って欲しいということだったので、可能な範囲でなら大丈夫ということを伝えた。

 その流れで、キミは僕の携帯番号とメールアドレスを聞いてきた。連絡先を知らないと困るということだったので、僕も了承してキミに教えた。キミの連絡先とメールアドレスは、僕の携帯に初めて登録された相手だった。

 そして、僕たちはその日のデートを終えた。家に帰り着くと、僕の携帯から始めてメールの受信音が鳴った。メールを開くと、キミからの感謝のメールだった。内容は次の通りだった。

 『今日は付き合ってくれてありがとう。とっても楽しかった! お魚さんたち可愛かったね! 特にイルカが可愛かった! その後のカフェの料理も美味しかったし、水無月くんとの話も楽しかったよ! 本当にありがとう!』

 さすがにこのままスルーするのはいけない気がしたので、とりあえず簡単な文章で返信することにした。『僕も楽しかったです。ありがとうございました。』とだけ打って、返信すると、1分後にキミから返信が来た。その内容は、2日後に夏祭りがあるから一緒に行かないか、ということだった。先程約束してしまったこともあったので、『わかった』と返信して了承した。すると、また1分後に返信が来て、絵文字で喜んでいるようだった。そして続けてメールが送られてきて、待ち合わせ場所と時間を示してきたので、『了解』と返事をした。すると、また絵文字で喜んでいるのと感謝のメールが送られて来て、続けて『おやすみ』メールが送られて来た。

 そして約束の日、待ち合わせは夕方5時だったが、僕は15分前に言われていた場所に到着し、キミが来るのを待った。もちろん全身〇ニクロ姿で…。そして今回も、キミは待ち合わせ時間には来なかった。もしかしたら、キミは遅刻癖があるのかもしれないと思って、気長に待つことにした。キミからの連絡やメールもなく。前回は1時間遅れで来たので、とりあえずその時間になるまで、ただじっと待ち続けた。

 そして待ち続けて1時間経ったので、さすがに電話をしてみることにした。もしかしたら忘れているのかもしれないと思ったからだ。しかし、電話は繋がらなかった。電波の届かないところか、電源が入ってないらしい。なので、メールを送ることにした。キミは花火を見たいと言っていたので、花火が終わる午後9時まで待っているということをメールで打って、送信した。もちろんキミからの返信はなかったが、僕はそのまま待ち続けた。しかしその日、結局キミは現れなかった。そしてその日以降、キミからの連絡もメールも一切来ないまま、夏休みが終わった。

夏休みが明けた初日、久しぶりにキミに逢えるだろうと思っていたが、キミは学校を休んだ。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想もお待ちしております。

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