大切なのは努力か、才能か!?②
そして当日、金城率いる金餅学院の屈強そうな生徒たちが続々とやって来た。
「よう、神無月紫苑に水無月翔! 今日はお前たちに俺らの才能を見せつけてやるよ! 格の違いを思い知るんだな!」金城が開口一番煽ってきた。
「ハッ! こっちこそお前ら全員叩き潰してやるよ! 才能なんかより努力が大事だってこと、はっきりさせてやる!」紫苑が言い返した。
最初、金城が持ち掛けた勝負は、バドミントンだった。シングルスとダブルスをそれぞれ一試合行うということだった。ルールは、1ゲーム21点制、3ゲームマッチで2ゲーム先取した方が勝ちとなる。金餅学院の代表は、金城曰く、県大会でベスト4になったという実力者らしく全員男だった。その相手を務める暦学園の代表は、一条さんと睦月会長・一ノ瀬さんペアになった。
「一ノ瀬さんってバドミントン部だったんだな! 知らなかったよ!」
「そうだよぉ! こう見えて結構バドミントン強いんだよぉ!」一ノ瀬さんは素振りをして強さアピールをしていた。
「そっか! 応援してるからな!」
「任せなさい!」一ノ瀬さんは手でグットをしていたので、頼もしく見えた。
「睦月会長もバドミントンやってたんですか?」
「そうね。初雪ちゃんと一緒に遊んだことなら、何度もあるわ!」
「それって、ほぼ初心者と同じじゃ…」
「心配は要らないわ! 初雪ちゃんとペアを組んで負けるわけにはいかないから!」
「そうですか…」
「さあ! 初陣で勝利の流れを作るわよ!」睦月会長が鼓舞した。
「オー!」一ノ瀬さんが腕を伸ばして応答していた。
そして言葉通り、睦月会長・一ノ瀬さんペアは圧勝した。一ノ瀬さんはいつもゆっくりおっとりしている印象だったが、バドミントンの試合となると、機敏に動いていたので、別人に見えた。それに二人の息もピッタリと合っており、最高のペアに見えた。
「次は、私の番ですね!」俺の隣に座っていた一条さんが立ちあがり、ラケットを左手に持って準備した。
「一条さんって左利きだったんだな!」
「はい! 左利きです!」
「頑張れ! 応援してる!」
「はい! ありがとうございます。………あの、水無月様…」
「ん? なんだ?」
「あ、あの、お願い事を一つしてもいいですか?」一条さんはモジモジしながら言った。
「お願い事?」
「はい。この試合で私が勝ったら、私のことを…な、な、な、名前で呼んでいただけませんか?」
「え!? あ、あぁ、全然いいけど!」
「そうですか! ありがとうございます!」一条さんの表情は最大級に明るくなった。
「次はそう簡単にはいかないからな!」金城が悔しそうな顔で言った。
一条さんの対戦相手は、金城曰く、県大会で準優勝したことがある実力の男子生徒らしい。体格的にも一条さんより一回り大きいので、結構厳しい試合になるかと思いきや、結果、一条さんの圧勝だった。相手はただ力任せに打ってくるだけで、一条さんはそれを上手く受け流していた。技術面では圧倒的に一条さんの方が上だった。
「勝ちました! 水無月様!」
「そうだな!」
俺と一条さんはハイタッチをした。
「で、では…」一条さんはモジモジしていた。
「ん? あぁ、そうだったな! 勝ってくれてありがとう、かるたさん!」それを聞いたかるたさんは、頭から湯気を出しながら倒れてきたので、俺は咄嗟に受け止めた。
「か、かるたさん! 大丈夫か!?」
「ハッ! すすす、すみません。あまりの嬉しさに、頭がショートしてしまいました」一条さんはすぐに意識を取り戻し、立ち上がった。
「そ、そうか…。それよりも、俺が名前で呼ぶのなら、かるたさんも俺のことを名前で
呼ばないとな!」
「え!? そそ、そんなこと…恐れ多くてできません!」
「いや、そんなことないから! 俺は大切な人には名前で呼んでもらいたいなぁ」
「………そ、それでは……か…かけ……翔……様……」
「様は要らないんだけどな!」
「そ、それだけは絶対にはずせません!」
「そっか…。あと、前にバドミントンで遊ぶ約束してから、まだできていなかったな!」
「え!? あれは社交辞令だと思っていましたが…」
「え! そうなのか! 俺は本気のつもりだったけど…迷惑だった?」
「そ、そんなことはありません! 私も一緒にしたいです!」
「じゃあ、近いうちバドミントンしような!」
「はい!」
ということで、近日一条さんとバドミントンをすることになった。
「クッ! 今の試合は、たまたまこいつらの調子が悪かっただけだ! 次はそうはいかないからな!」金城は結果を受け入れていないようだった。
そして金城が次に持ち掛けた試合は、卓球だった。1ゲーム11点制、7ゲームマッチで4ゲーム先取した方が勝ち。金餅学院の代表は、金城曰く、県大会でベスト4に入る実力者の女生徒らしい。対する暦学園の代表者は、牡丹さんだった。なぜ卓球部じゃないのかと言うと、卓球部はこの日練習試合で他校に遠征していたからだ。それで、中学の頃卓球部だった牡丹さんが代表になった。
「わ、私で大丈夫かな?」牡丹さんが不安そうにしていた。
「大丈夫デス! 牡丹ならきっと勝てマス!」ベルさんが励ましていた。
「うん! 頑張るね!」
「そういえば、牡丹さんが卓球するところ初めて見るな! ちょっと楽しみ!」俺は本音が漏れてしまった。
「ああ、あまり期待しないでね…」牡丹さんは恥ずかしそうにしながら言った。
そして試合が始まる前には多くの見物人が集まっていた。どうやら牡丹さんの隠れファンが集まったらしい。そして試合が始まった。序盤の流れは、牡丹さんが現役相手に結構いい勝負をし、点の取り合いだった。牡丹さんが点を取る度に、ファン共は喜びあったり拍手を送ったりして盛り上がっていた。さらに、牡丹さんの「さあ!」という声を聞いて癒されているようだった。体育館全体がそのような雰囲気になり、相手もやりにくくなったのか、途中からミスが増えて、結果、牡丹さんの勝利となった。
「さっすが、牡丹デス! とっても可愛かったデスよ!」ベルさんが勝った時のセリフとはかけ離れたことを言いながら、牡丹さんに抱きついていた。
「可愛いってなに? 試合と関係ないよね!?」牡丹さんは状況を理解していないようだったが、勝ったことにホッとしているようだった。
「か、可愛いな…。あの二人…」金城が牡丹さんとベルさんを見つめながら言った。
「は? 今なんか言ったか?」俺は睨みつけながら問いただした。
「な、なんでもない! 次だ! 次!」金城は誤魔化した。
次はバレー対決ということだったが、金餅学院のバレー部が誰もいないようだった。金城が焦って銀座に確認すると、バレー部全員、占いをしたらしく満足して帰って行ったらしい。どうやら、桔梗さんが女子バレー部全員の占いをしたようだった。ということで、バレー対決は暦学園の不戦勝ということになった。
その次はグラウンドに移動して、野球対決ということだったが、金餅学院の野球部員が誰もいないようだった。金城が慌てて銅山に確認すると、金餅学院の野球部員は、なぜか全員怯えながら帰って行ったらしい。銅山も理由を聞いたらしいが、誰も教えてくれなかったようで、よくわからないらしい。俺は何かあったのだろうかと思いながら、周りを見回していると、皐月さんが視界に入り、俺に向かってピースサインをしていた。どうやら、皐月さんが金餅学院野球部を何かで脅したようだった。おそらく知られたくない情報を掴んでいたのだろう。金城が電話をしても戻ってくる様子はなかったので、野球勝負も暦学園の不戦勝となった。
次は、サッカーのPK対決ということだった。今度はさすがに金餅学院の選手もおり、地元のユースチームメンバーの二人らしい。一人がストライカーで一人がゴールキーパーらしい。一方、暦学園の代表選手は、霜月時雨と十七里条憲の二人だった。現役のサッカー部員は都合上以下略。役割は、時雨がストライカーで、十七里がゴールキーパーをするらしい。十七里は以前サッカー部だったので、大丈夫だろうと思っていたが、ゴールキーパーはしたことがないらしい。それを知って、俺は少し不安になった。ルールは攻守順番で五回して、多くゴールを決めた方の勝ちとなる。ゴール数が同じ場合は、どちらかが外すまで続ける。コイントスの結果、時雨・十七里ペアが後攻になった。十七里がゴールの前に立ち、相手ストライカーがボールをセットして、緊張した雰囲気でPK対決が始まった。と思いきや、外野から八月一日さんが「条! 頑張ってー!」と十七里を応援している声が聞こえ、十七里が八月一日さんに笑顔で応答している間に、あっさりとゴールを決められてしまった。
「十七里! お前、試合中に惚気てんじゃねぇよ!」俺は十七里の胸ぐらを掴んで強めに言った。
「ん? どうしたんだ? 水無月くん? ハッ! もしかして、嫉妬?」
「そんなわけねぇだろ!」
「ハッハッハッ! そんな心配しなくても大丈夫だって!」
「そんな悠長なこと言っている暇…」
俺と十七里がこんなやり取りをしている間に、時雨があっさりとゴールを決めてくれた。周りには多くの観客が集まっており、特に女子たちは時雨の姿を見て、興奮して盛り上がっていた。そんな中でも時雨は冷静で爽やかな感じだった。二本目も両チームとも決めて三本目に入った。三本目では、十七里の読みが当たり、ボールと同じ方向に飛んだが、手を指でかすめてゴールに入ってしまった。次に時雨は難なくゴールを決めていた。そして四本目でゲームが動いた。十七里がゴールの右端の寄り、左側をがら空き状態にして、心理的に相手を揺さぶっていた。そんなのが通用するのかと半信半疑だったが、相手が勝手にミスをしてゴールを外していたので、効果はあったようだった。そしてそのままゲームは進み、結果5対4で時雨・十七里ペアの勝利となった。
「とりあえず勝ったぞ!」時雨が爽やかさを保ったまま言った。
「あぁ、ありがとう!」俺は感謝して、時雨とハイタッチをした。
周りの女子(金餅学院の女生徒も含む)たちは「キャー!」と言いながら、時雨の勝利に興奮していた。
「ホラ! 何も心配は要らなかっただろ!」十七里が自慢げに言った。
「お前はほとんど何もしてねぇじゃねぇか! 時雨が全てゴールしたから勝てたんだろ!」
「僕の揺さぶりで相手が動揺して一本外したから、勝てたんだ!」
「ま、まぁ、それもそうだな…」
「何か僕に言うことがあるんじゃないのかな?」
「あー、はい、お疲れ様でした!」俺は適当に答えてその場を去った。
次の勝負はテニス対決だった。ということで、暦学園の代表者は、もちろん俺とベルさんになった。しかし、金餅学院は男子ダブルスが2ペアいたため、こちらは人数が足りなかった。仮に六波羅を入れたところで一人足りない。なので、金城に交渉しようとしたら、つゆりと弥涼ちゃんが名乗り出てきた。来ていることを知らなかったので驚いたが、四乃森さんから事情を聞いて、応援に来てくれたらしい。二人は暦学園の生徒ではないので、始めは金城も参加を認めていなかったが、もうすぐ暦学園の生徒になる、ということをつゆりが言うと、金城は意外にもあっさりと参加を承諾した。金城は変な笑みを浮かべていたので、おそらく中学生相手なら簡単に勝てると思ったのだろうと推測した。金城曰く、俺たちの相手は県大会でそれぞれ優勝と準優勝をしたペアらしいので、金城も相当自信があるようだった。そのうちの一人は、銀座だった。銀座は、俺に蹴りを入れられたことを根に持っているようで、勝手にライバル認定されていた。
「いいのか? チームメイトが女だからって、俺たちは手加減しないぞ!」銀座が煽るように言った。
「そうデスか! それは良かったデス! お互い全力でやりまショウ!」ベルさんの天真爛漫の答えを聞いた銀座たちは、頬を赤くして見惚れていた。
「おい! 今何考えてたんだ?」俺は銀座たちを睨んで問いただした。
「ハッ! しまった! つい見惚れてしまった! ……まさか! これも作戦のうちか! 水無月翔!」銀座が本音を漏らしながら、謎な解釈をして俺を責めてきた。
「そんなはずないだろ! お前らが勝手にベルさんに見惚れてんじゃねぇか!」
「そうか! ベルさんというのか! 覚えておこう…」銀座が目を瞑ってベルさんの名前を脳にインプットしていた。
「なんだか、面白い人デスね!」ベルさんは他人事のように捉えているようだった。
そんなやり取りをしてから試合を開始した。ルールは一般的で、3セットマッチ、1セット6ゲーム先取で先に2セット取った方が勝ち。俺・ベルさんペアVS銀座・男子Aペア、つゆり・弥涼ちゃんペアVS男子B・男子Cペアの試合を隣のコートで同時に行った。俺・ベルさんペアもつゆり・弥涼ちゃんペアも調子良く、難なく第1セットを取ることができた。そして第2セットも順調に始まったが、俺は、相手チームの様子に少し違和感を抱いた。銀座の視線が目の前のことと隣の試合に行ったり来たりしていて、集中していないように見えた。いや、むしろ何かを企んでいるように見えた。そしてチャンスボールが来たので、ベルさんがスマッシュをしようと構えていると、銀座が隣のペアに何かサインを出した。すると、隣の奴がラリーを打つ振りをして、明らかにベルさんを狙っているのがわかったので、俺は咄嗟に「ベル!」と叫んで庇うために飛びついた。相手が打ったボールは俺の左肩に当たって、俺とベルさんは倒れ込んだ。
「え!? 翔サン! どうしたのデスか?」ベルさんは状況がわからず、戸惑っているようだった。
「お兄ちゃん!」、「翔兄!」と言って、二人が心配して駆け寄って来てくれた。
「いやー、すまない。つい打ち損じてしまった!」男子Bが駆け寄って来て、わざとらしく言った。
「打ち損じた? 何バカなこと言ってるの? 今のは明らかに…」つゆりの怒っている声が聞こえたので、俺は「いや、大丈夫だ! 問題ない!」と遮って立ち上がった。
銀座に休憩してもいいか尋ねると了承してくれたので、試合の途中だったが、お互い少し休憩することになった。その時、つゆりが事の顛末を伝えて、ベルさんが理解したようだった。
「そういうことデスか…」ベルさんがいつになく怖い顔をしていた。
「あいつら、絶対許さない!」つゆりも怒っているようだった。
「ウチを怒らせたこと、後悔させてやる!」弥涼ちゃんも怒っているようだった。
「あまり感情的になるなよ! これがあいつらの作戦なんだからな!」俺が声を掛けても、もはや届いていないようだった。
おそらく奴らの狙いは俺たちを感情的にして、ミスを誘うことだろうと推測できるので、その手には乗らないようにしようと思っていたが、女子三人はすでに感情的になってしまっていた。
「翔サン! ワタシ、ちょっと本気出しマスね!」ベルさんがマジ顔で言った。
「あ、あぁ…」俺はもう何も言わなかった。
それからベルさんの戦闘スタイルが明らかに変わった。今まではオールマイティだったベルさんが超攻撃的になっていた。しかも、現実では難しいと言われている某テニス漫画の技をいくつも決めていた。異常な回転を掛けたサーブ、いわゆるツイストサーブで相手を攻撃したり、超回転でポールの外からコート内にインする、いわゆるブーメランスネイクを決めたり、風が強くなった時、異常なバックスピンをかけて相手のコートから自分のコートにボールが戻って来る、いわゆる白鯨を決めたりしていた。銀座たちは唖然としており、もはや手が出ないようだった。そして俺たちのマッチポイント、最後はベルさんが一発目のスマッシュで、銀座のラケットを弾き飛ばし、跳ね返ったボールを二発目のスマッシュで銀座の腹に決めて銀座は膝から崩れ落ち、ゲームセットになった。最後の技は、〇滅への輪舞曲だった。そしてベルさんの決めセリフは「ワタシの美技に酔いな!」だった。とてもカッコいいベルさんの姿に、俺を含め周りの人たちも見惚れていた。そして隣の試合はつゆり・弥涼ちゃんペアが男子B・男子Cを(テニスで)ボコボコにしてKO勝ちしていた。つゆりは「あれ? もうおしまい? まだ足りないんだけど…」と言っており、弥涼ちゃんも「ウチもまだ鬱憤が晴れ切ってないんだけど…」とやり切れない感じだったが、とりあえず勝利したので、みんなで勝利の祝いとしてハイタッチをした。
負けが続いて焦った金城は、思考を変えて一旦スポーツから離れることにし、次は絵で対決することになった。暦学園の代表者はもちろん霞さんだ。一方、金餅学院の代表者の女子Sは、金城曰く、絵画コンクールで最優秀賞も取ったことがあるらしい。これはなかなか手ごわそうな相手だと思っていたが、霞さん、というよりカスミンは燃えているようだった。
「正直、絵で勝負するのは好きじゃニャいけど、今日は燃えているニャ!」
「ごめんな。無理にお願いしてしまって…」
「い、いえ…自分で引き受けたことなので…翔さんは気にしないでください!」
「無理してないか?」
「全然無理じゃないです…。たまには…こういう刺激も必要かなと…思って…」
「そうだニャ! 今日は絶対に勝ってみせるニャ!」
「頼んだ!」
ルールは、30分以内に校内にあるものを描くということだけで、技法や何を描くかは自由ということだった。勝敗の決め方は、どちらの学校にも属さない自称アート好きの一般人三人に、誰が描いたのかを伏せた状態で採点してもらい、より魅力的なものを選んでもらう、という風にした。判定がされるまで、俺たちにもどちらが描いた絵かわからないようにするため、師走先生が回収し、提示するようにした。なので、結果が出るまで、描いた本人と師走先生しか、どちらが描いたかわからないということだ。
30分後、霞さんと女子Sと師走先生が戻って来た。そして師走先生が提示した二枚の絵は、全く系統が違った。一枚は教室の風景を鮮明に描いた具象画でタイトルは『教室』、もう一枚は、正直何を描いたのかわからない抽象画でタイトルは『学校』だった。全く違うものを比べるのは難しく、三人の審査員も迷っているようだったが、なぜか抽象画の方から、目が離せなかった。たしかに、教室の風景画はとても繊細で30分で描いた絵とは思えないほどのクオリティーだった。色付けも全て色鉛筆のみでされており、魅力的だと思う。一方、抽象画の方は、丸や四角、三角などがいくつもあり、これらが学校の何を表しているのだろうかと考えさせられる、不思議な魅力があった。色使いは暖色系が多く、学校生活を楽しんでいる人が描いたのだろうと思った。結果、3対0で抽象画が勝利し、それを描いたのは霞さんだった。三人の審査員も特に抽象画が好きと言うわけではないらしいが、霞さんの描いた『学校』の魅力に惹かれたようだった。
「霞さん、抽象画も描けるんだな!」
「はい。この前の鑑賞で…面白いと思ったので…私も…挑戦してみようと…思って…」
「抽象画を人に見せるのは初めてニャんだ! どうかニャ?」
「あぁ! すごく魅力的な絵だと思う! なんかこの絵を観ていると、胸が高鳴ってくる気がする! 俺だけかもしれないけど…」
「そっか! それニャら、ボクたちの想いが伝わったってことだニャ!」
「ありがとう…ございます」霞さんは笑顔で嬉しそうだった。
次はライブ対決ということだった。単純に歌の上手さを競うのではなく、表現力、盛り上げ、演出など歌以外にも採点基準があるということだった。金餅学院の代表者女子Yは、アイドルグループのメンバーらしいが、聞いたことない名前だった。しかし、さすがプロということもあり、盛り上げ方は上手かった。対する暦学園の代表者は、言うまでもなく、大人気インフルエンサーの雛月弥生さんだ。まるで武道館ライブのような盛り上がりになり、学校関係なく全員が一つになった気がした。弥生さんは、歌唱、演出、盛り上げ全てを上回り、圧勝した。
次は、チェス対決ということだった。金餅学院は五人の代表者がおり、彼らは全員将来グランドマスターを目指すチェスプレイヤーということだった。俺は、彼らの相手を誰がするのか迷っていた。俺はチェスができないことはないが、そんなに強いわけでもない。紫苑も勝つ自信がないようだった。ベルさんが得意かもしれないと思ったので相談すると、うってつけの人がいるということを教えてくれたその時…。
「なんだ? ベルに『祭りがあるから来てみないか?』と誘われたから来てみれば、随分面白そうなことをしてるじゃねぇか!」という聞き覚えのある声が後ろからしたので、振り返るとレオさんが両手をズボンのポケットに突っ込んで立っていた。
そして事情を説明し、レオさんがチェスの相手をすることになった。しかも、五人全員を同時に相手にし、かつレオさんは目隠しをして行うということだった。さすがにそれはやり過ぎなんじゃないかと思ったが、レオさんは譲らなかったので、その条件で行うことになった。その結果、あっという間にレオさんが全勝した。
「お前ら、たいしたことねぇな! グランドマスターを目指すって言うから、もう少し強いのかと思ったが、ガッカリだ」
レオさんの言葉を聞いた五人は、落ち込んでいる人もいれば、負けた現実を信じない人もいたり、放心状態の人もいたり、闘志を燃やしている人もいたり、負けた原因を分析していたりする人がいた。おそらく今後伸びるのは、負けた現実をしっかりと受け止め、分析している人だろうと思った。
その後も、料理対決では鬼門コンビ、部屋の片付け対決では、御手洗さん、ゲーム対決では皐月さん、裁縫対決では桔梗さんと遊びに来ていた七星さんが勝利し、焦った金城は、再び対決内容をスポーツに戻すことにした。それでもボクシングでは十文字紅、柔道では五反田剛、空手では五所川原猛が勝利を収めていた。ていうか、さり気なく参加してくれた五反田と五所川原って誰だ? 二人ともガタイが良く、強そうな見た目をしていたし、実際強かった。とにかく勝ってくれたので、お礼を言おうとしたが、なぜか二人とも鋭い目つきで睨んできて、素っ気ない感じだった。水泳では、芙蓉葉月さんが平泳ぎ、ベルさんが自由形で完勝していた。
「ベルさん、水泳も得意だったんだな!」
「いえ、得意というほどでは…。小さい頃に習っていたので、泳げるだけデス!」ベルさんは謙遜していたが、明らかに速かったので、芙蓉さんがベルさんを勧誘し始めた。
「ベルちゃん! 是非とも水泳部に入らない? あなたならオリンピックでメダルも夢じゃないわ!」
「そそ、そんなことはないデス!」
「いいえ、あなたならきっと…」そう言って芙蓉さんは、未来のベルさんの姿を想像し始め、固まってしまった。
次は三人制バスケで対決をすることになった。ルールは一般的なルールと同じで、10分間の21点先取制で、攻撃の際は12秒以内に攻め切らなければならない。金餅学院の代表者三人の内の一人は、銅山だった。対する暦学園の代表者三人は、神無月紫苑、長月秋水、五味澄晴だ。彼らは全員バスケ経験者でメンバーは紫苑が集めた。紫苑曰く、このメンバーなら勝てるということだったので、信じて任せることにした。そして試合が始まると、点を取っては取られと、展開が速く進み、あっという間に15対15になった。ここで紫苑が仕掛けに出て、銅山からボールを奪い、シュートを決めて一歩リードした。そしてそのまま得点を重ね合い、結局紫苑たちが先に21点先取して勝利を収めた。真剣勝負だったようで、試合後はお互いに健闘を称え合っていた。試合中の紫苑はいつもよりカッコよく見え、その姿に四十九院さんも見惚れていた。
最後は音楽対決ということだった。ヴァイオリンとピアノで演奏するということで、金餅学院のヴァイオリニストは満を持して金城が出てきた。しかし、金餅学院のピアニスト緑石が自分の実力を見せびらかしたいようだったので、まずはピアノだけで演奏することになった。緑石は、ピアノでショパンの『エチュードOp.10‐4』を演奏した。素人の俺には細かいことがわからず、普通に上手いと思ったが、ひまわりさんは不満そうな顔をしていた。ひまわりさん曰く、「ミスなく忠実に弾いているだけで、全く面白くない。それに乱暴な弾き方」ということだった。その意見に腹を立てた緑石が、ひまわりさんに対して「じゃあキミはどんな演奏ができるんだ?」と煽ってきたので、ひまわりさんは「はぁ~仕方ないですね…」と呆れた様子で、久しぶりにピアノを演奏する気になったらしい。そしてひまわりさんは、ピアノ台に腰掛け、深呼吸を数回してから、モーツァルトの『きらきら星変奏曲』を弾き始めた。最初は、誰もが聴いたことあるはずのテンポで始まり、途中から急に速くなったり、いろんなアレンジをしたりして演奏していた。周りのみんなは、一度聴いたことあるはずの曲なのに、聴いたことない演奏でとてもワクワクして楽しんでいるのがわかった。この結果に緑石は納得いかなかったようだった。
そして金餅学院のヴァイオリニスト金城とピアニスト緑石は、パガニーニの『ラ・カンパネラ』を演奏した。『ラ・カンパネラ』は難易度が高いと言われているらしく、それを上手く弾きこなして、自分たちの実力を見せつけようという魂胆なのだろうと思った。実際とてもいい演奏だったと思う。弾き終わった後の二人は「どうだ!」というようなドヤ顔をしていたので、イラっとした。対する暦学園の代表者である、四十九院さんは演奏前に緊張しているようだった。さらに、金城を見て怯えているようだったので、ひまわりさんがやさしく声を掛けていた。
「大丈夫です。四十九院先輩ならきっと弾けます! 私は信じています」ひまわりさんはそう言って、四十九院さんの手をやさしく握っていた。
「……そうですわね。わたくしもあなたを信じていますわ!」四十九院さんも覚悟を決めた顔になった。
そして二人が演奏したのは『愛のあいさつ』だった。四十九院さんの演奏はいつもと少し違う感じがした。今までは緊張した様子で真面目な顔で演奏していたが、今はのびのびと楽しそうに笑顔で演奏していた。それが演奏からも伝わって来て、聴いている俺たちも楽しい気持ちになってきた。いつも途中で止まってしまう問題の箇所も難なく突破し、最後まで演奏しきることができた。演奏後には周りから拍手喝采が湧き起き、演奏した二人も満足そうな顔をしていた。結果、四十九院さん・ひまわりさんの演奏がより魅力的だったということで勝利を収めることができた。
「フン! 所詮才能に恵まれただけの、運のいい奴が!」金城は負け惜しみを言っていた。
「まだそんなこと言ってんのか? お前は!」紫苑が呆れた様子で言った。
「お前らも全員そうだ! 才能に恵まれただけで、たいした努力もせずに、いろんなことを簡単にできるんだからな!」
「俺たちがどれだけ努力しているのか、お前、知ってんのか?」紫苑が金城に尋ねた。
「は? 知るはずないだろ!」
「じゃあ、お前はどのくらいヴァイオリンの練習をしているんだ?」
「俺は毎日2時間練習している! お前らが遊んでいる間にな!」金城が感情的に答えた。
「四十九院さんはどのくらい練習しているんだ?」
「わたくしですか!? わたくしは…毎日、6時間…ですわ」四十九院さんは遠慮がちな態度で答えた。
「6時間! そんなはずないだろ! どうやったら毎日6時間も練習できるんだ? 嘘をつくな!」金城が取り乱しながら言った。
「嘘じゃありません! 本当です」四十九院さんは、真剣な顔ではっきりと言った。
「………!」金城は言葉が出ないようだった。
「お前らが言っている才能ってのは幻想だ! そんなものは存在しない! 自分の努力が足りないくせに、それを認めたくないから、才能って言っているだけだろ?」
「………」金餅学院の生徒はみんな黙っていた。
「何かに秀でている人はそれ相応の努力をしてんだ! その努力を才能なんて言葉で簡単に済ますんじゃねぇ!」紫苑が珍しく感情的に発言をしていた。おそらく紫苑は、誰よりも努力をしているから、四十九院さんに共感しやすかったのだろうと思った。それを見ていた四十九院さんはキューピットに心を射抜かれたようだった。
そして、約束通り金城含む、あの日四十九院さんをバカにした奴ら全員に謝罪してもらってから、金餅学院の生徒は帰って行った。帰る前に金餅学院の生徒数人は、暦学園の生徒とお互いの健闘を認め合い、これからも切磋琢磨する約束をしていた。こういう人たちが、今後能力を伸ばしていくのだろうと思いながら見ていた。
それから解散になったので、帰る準備をしていると、学園長が声を掛けてきた。
「やぁ、水無月くん! お疲れ様!」
「学園長! お疲れ様です。また何かご用ですか?」
「いやいや、今日は用事じゃなくてネ。キミにお礼を言おうと思ってネ!」
「お礼…ですか? 何の?」
「いや、キミが私のお願いを聞いてくれたから、助かったということをネ!」
「俺は別に学園長のお願いを聞いたわけではないですよ! 四十九院さんが助けを求めてきたから、手伝っただけです。それに、頑張ったのは俺じゃなくて、紫苑やひまわりさんたちです!」
「ハッハッハ! そうだったネ! 彼らにも後からお礼を言うヨ! でも、キミにも言っておきたいんだ! ……ありがとう……」
「こちらこそ、急にこんな催し物をするのに許可をくれて、ありがとうございました!」
「ハッハッハ! そうだネ。まさかこんな事態になると思っていなかったから、少し驚いたヨ! さすが、水無月くんだネ!」
「いや、発案したのは俺じゃないんですけど…」
「ハッハッハ! まぁ、全て上手くいったようで良かったヨ! 卯月ちゃんもまたヴァイオリンを弾けるようになったようだしネ!」
「そう…ですね…」
「ん? 何かあったのかい?」
「あ、いえ、ヴァイオリンは…大丈夫だと…思います」
「珍しく歯切れが悪いネ! 何か気になることでもあるのかネ?」
「あー、まだはっきりとはわからないので、言うことはできません。もしかしたら明日にはわかるかもしれないです」
「そうかネ! デハ明日まで待つことにするヨ!」
その日はそこまで話して、学園長と別れた。
翌日の学校では、俺の予想していた以上のことが紫苑に起こっていた。俺は疲れを取るために午前中は家で一人休み、昼休みに学校に行った。そこで目に入った光景は、四十九院さんが紫苑の腕に抱きついている姿だった。どうやら俺の予想通り、四十九院さんは紫苑のことが好きになったようだった。それもぞっこんだった。
「あら! 水無月くん! ごきげんよう!」四十九院さんは嬉しそうな笑顔であいさつをしてきた。
「あ、あぁ、ごきげんよう」
「なぁ、翔! どうにかしてくれないか?」紫苑が困り果てた様子で助けを求めてきた。
「紫苑にとっては、そんなのいつも通りじゃないのか?」
「いや、さすがにここまでベッタリされるのは初めてだ! 歩きにくくて困ってる」
「あら! でしたら、わたくしが抱っこして差し上げますわ!」
「いや! そんなことしなくてもいいって! 普通に歩きたいだけだから!」
「では、このまま普通に歩きましょう!」
そう言って、二人はラブラブカップル? のような感じで廊下を歩いて行った。
ちなみに、後日紫苑から聞いて知ったことだが、柔道の五反田剛と空手の五所川原猛は、勝負に勝ったら告白することにしていたらしい。道理で、試合前の二人が闘志むき出しにしていたわけだ。実際試合は白熱して、二人ともカッコよかった。あんな姿を見せられたら、何人かの女子は好きになるだろうと思う。やっぱり強い人はカッコイイ。彼らもまた、多くの時間を費やして練習に励み、あそこまで強くなったのだろう。それは素晴らしいことだと思うし、尊敬する。俺も見習わなければならない。実際数日前に彼らに告白しようか迷っている女子が相談に来たので、いつも通り本心を尋ねると、告白する気になったようだった。その後、彼ら彼女らがどうなったのかわからないが、上手くいっていることを願う。
紫苑も言っていたが、何かに秀でている人は、その能力を身につけるために多大な努力をしている。そんな人たちを見て、「才能があっていいな!」と言うような人たちは、自分が努力していないことを無意識に認めたくないのだろうと思う。人は何か特別な力や才能といったものに憧れるようだが、そんなものは存在しない。それは偉大なことを成し遂げてきた人を知ると、よくわかると思う。世界的に有名な偉人たちは、みな努力家である。それはスポーツ然り、芸術然り、ビジネス然り、どんなジャンルにも当てはまることだ。もし、何かを諦めてしまうとしても気にすることはない。新しいことはたくさんある。自分が何に興味を抱くかは、やってみなければわからないし、今の世の中はいろんなことができる。もし、夢中になれるものに出会えたのなら、迷わず挑戦してみよう。自分には才能がないと思い込んで、簡単に諦めることはない。正しい努力を根気強く続ければ、きっと実る日が来るはずだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
感想もお待ちしております。




