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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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【番外編】暇を持て余したみこ(神)の遊び!!  

 人間は欲深い生き物じゃ。常に何かを欲しておる。地位や名誉を欲しておる者もいれば、お金を欲しておる者もいる。家や車などの物理的なものを欲しておる者もいれば、愛などという精神的なものを欲しておる者もいる。何を欲しておるのかは、人間によって様々じゃが、欲が消えることはほとんどない。あまりにもしつこくお願いしてくるから。仕方なく叶えてやっても、すぐに新たな欲を抱えて、再び懇願に来る。人間とはなんと欲深い生き物じゃろうか。叶えても叶えても、欲が衰えることがない。強欲じゃ。まぁ、その欲のおかげで、ここまで繁栄し、素晴らしい発明をしてきたことは確かじゃが、同時に多くの問題も抱えてきたようじゃ。地球温暖化や生物の絶滅、人間同士の争いなど、幾度の過ちを犯してきている。本当に人間は愚かな生き物じゃ。故に観ていて面白いのじゃ。

 余は、暦神社で祀られている神様じゃ。名前は……長かったので覚えておらん。適当にみこと呼んでおる。余は大体1500年ほどここに住んでおる。じゃから、多くの人間どもを観てきたが、今も昔も人間というのは変わらない生き物じゃ。ここに来るほとんどの人間が、自分の願い事を叶えるために来ておる。なんとまぁ、強欲じゃろうか。しかし、稀に面白い奴が訪れることもある。余の最近のブームは、そいつを見つけて一緒に遊ぶことじゃ。普段は霊体で誰にも見えておらぬが、その時は力を使って実体化しておる。

 最近だと、ちょっと前にある男と一緒に遊んだ。たしかそ奴の名は……松風という名前じゃった。こやつはなかなか面白い奴じゃった。松風は神に祈りに来ておるくせに、神様の存在を信じていなかったのじゃから。それに祈る内容はいつも同じで、ある女のことばかりじゃった。たしか女の名は……ゆの、という名前じゃった。なぜ、余にそんなことがわかるのかと言うと、余は神眼を持っておるからじゃ。この眼で見ると、相手の名前や生年月日、考えていることまでお見通しじゃ。ちなみに松風の歳は、25歳で参りに来る時はいつもスーツ姿じゃった。

松風はある日突然、暦神社にやって来て、それから毎日来るようになった。雨の日も雪の日も、暑い日も寒い日も、天気に関係なく来ておった。そして毎回「ゆのさんの病気が完治しますように!」と願っておった。何度も聞いておったから、叶えてやりたい気持ちもあったのじゃが、神様は人間の命に干渉してはならないという決まりがあり、手を出せないようになっておる。じゃから余も見守ることしかできないのじゃ。それは人間であるお主らが乗り越えて行かなければならぬことじゃからじゃ。

 ある冬の日、余は暇だったので松風に会うことにした。その日、松風は午前11時くらいに暦神社にやって来て、いつも通りに参拝しておった。その時、余は声を掛けたのじゃ。

「お主、毎日来ておるようじゃが、そんなに叶えて欲しい願いがあるのか?」余が声を掛けると、松風はゆっくりと振り返り、余を見つめてきた。

「お嬢さん、巫女さんなんですね。もしかしてここの住職の娘さんですか?」

「まぁそんな感じじゃ。」

「そっか。だから僕が毎日来ているのを知っているんですね」

「観っとたからな(上から)」

「名前を聞いてもいいですか?」

「みこじゃ」

「そうか、みこちゃんですか! いい名前ですね!」

「ちゃんは付けなくとも良い」

「え!? でも…」

「余が良いと言っておるのじゃから良いのじゃ。…それよりも、お主はなんという名なんじゃ?」

「僕は松風、水無月松風です」

「そうか。では松じゃな!」余がこのように言うと、松は呆気に取られたような顔をしておったので、「で、さっきの質問の答えはまだかの?」と答えを催促した。

「あ! そういえば、そうでしたね」松は思い出したような素振りを見せた後、真面目な顔になり「……はい。僕には、どうしても叶えてもらいたい願いがあります」と答えた。そして「でも、僕は無力だから、こうやって祈ることしかできません」と自分ではどうにもできないことを悔しそうに言っておった。

「そうか……。しかし松よ。お主、神様はいないと信じておるのに、どうして毎日参りに来るのじゃ?」

「え!? そんなことないですよ! 神様を信じているから、来ているんですよ!」松はそう言っておったが、余の眼は誤魔化せぬ。考えを見通すと「え!? どうして知ってるんだ!? 参り方が間違っていたのかな!?」と内心焦っておった。

「余に嘘は通じぬ。じゃから正直に述べよ。別に怒りはせぬ」

「……はい。正直に言うと、神様はそこまで信じていません」松は少し躊躇しながらも正直に答えた。そして「でも、信じていなくても、参りたい時があるんです」

「そうか…。何もしないよりかは、祈るだけでもしていたいということじゃな?」

「…はい」

「人間という生き物は本当に不思議な生き物じゃの!」

「え!?」

「よし! では今から余をもてなせ」

「は?」松は呆気の取られた顔で余を見つめていた。

「じゃから、余をもてなせと言っておるのじゃ」

「もてなせって、具体的に何をすればいいんですか?」

「それは……松が決めるのじゃ! 余は松に任せる!」考えるのが面倒になったので、余は松に丸投げをした。

「そんな急に言われても…」松は困っておる様子じゃった。

「何でもいいから早くゆくぞ!」余はそう言って先に走り出したが、松に「あ! ちょっと待ってください!」と大きな声で呼び止められたので、振り返ると、松が手を差し伸べてきた。

「なんじゃ? これは?」意味が分からなかったので、松に尋ねた。

「なんじゃって、手を繋ぎましょうってことですよ!」松は少し恥ずかしそうに答えた。

「どうして手を繋ぐんじゃ?」

「どうしてって……逸れないようにするためです」松は途中、濁してゴニョゴニョと言っておったが、心の中ではっきりと言っておったので意図は分かった。

「そうか! そうじゃな!」余が松の手を握ると、松も余の手をやさしく握り返してきた。


 それから松の案内で、余は街に来ていた。久しぶりに訪れた街並みは、数年、いや数十年前に来た時よりも賑やかになっておった。見たことのない店が立ち並び、余は興奮してしまった。そして一つ気になる店があったので、松に聞いてみた。

「松! この店は何の店じゃ?」

「あぁ、これはトルコ風アイスの店です! 餅のように弾力があり、よく伸びるアイスです」

「そんなアイスがあるのか!?」

「食べてみますか?」

「いいのか?」

「まぁ、これくらいなら…」松は財布を見て中身を確認してからそう答えた。毎日参拝に来ておるから、懐が厳しいのだろうが、余は遠慮なく奢ってもらった。そしてトルコ風アイスは松の言う通り、ものすごくながーく伸びるアイスで、美味しかった。

 

 それからまた街を散策しておると、今度はカラフルな丸いものを売っておる店が視界に入った。

「松! これはなんじゃ?」

「あぁ、これはマカロンです。砂糖と卵白とアーモンドを混ぜて焼き上げた洋菓子です」

「これも甘いのか?」

「はい。甘いですよ」

「そうか~」余はマカロンというカラフルなお菓子のことで頭がいっぱいになり、見惚れてしまった。

「食べたいですか?」

「え!? いいのか?」

「まぁ、まだなんとか…」松は再び財布の中身を確認してから答えた。

「ん~! このマカロンというお菓子も絶品じゃのう! 人間はこんな美味しいものを作ることができるんじゃのう!」余はベンチに座って、念願のマカロンを食べた。

「はぁ…」余が喜んでいる隣で松はため息をついておった。

「ん? どうしたのじゃ? 松よ?」

「あ! いや、ごめんなさい。ついため息をついてしまって…」そう言いながら急いで財布をポケットにしまっていた。余もさすがに申し訳ない気持ちになったので、少しお返しをすることにした。

「松よ! ちょっと近こう寄れ!」

「え!?」

「いいから早うせ!」そう言って、松が身体を近づけてから「よし! じゃあ目を瞑れ!」と指示をした。

「え!? なっ、何をするんですか?」松は警戒しているようだった。

「そんなに警戒せずとも変なことはせぬ。余を信じろ!」

「はぁ……。わかりました」松はようやく目を瞑ったが、内心は何をされるのか怯えておった。余はそんな風に怯える松の額を人差し指で軽くツンっと突いた。余の指が触れた瞬間、松の眉間にシワが寄ったのがわかった。

「もう良いぞ。目を開けても」

「え!?」と言いながら松はゆっくりと目を開けた。そして「今何かしましたか?」

「別にたいしたことはしておらぬ。気にするでない」余はそう言ったが、松は店のガラスに反射した自分の姿を見て、全身を確認しておった。特に額を何度も確認しており、その姿が挙動不審で面白かったので、余は久しぶりに大笑いしてしまった。

 

 それからまた街を散策しておると、ある店からいい匂いが漂って来ておった。

「松! あの店からいい匂いがすんじゃが、何の店じゃ?」

「あぁ、あれは焼肉です」

「なぬ!? 焼肉とな?」余は焼肉のことは知っておった。随分前にも食べたことがあったからじゃ。

「はい。焼肉食べ放題の店です」

「食べ放題じゃと!?」余はあまりの驚きに大きな声を出してしまった。そして「それはつまり、いくらでも食べて良いということかの?」と確認した。

「はい……。みこは食べ放題に行ったことないんですか?」

「ない! 余が前に行った時は3口だけ食べるのがやっとじゃった。」

「そうですか…」

「食べ放題か……。いいのう……」余は羨ましい気持ちで店の中の人間共を眺めていた。

「みこはまだお腹が空いているのですか?」

「ん? そうじゃが…」

「そうですか…」松はそう言って財布の中身を確認してから「よし! じゃあ焼肉食べ放題に行きますか!」と言った。

「え!? でもお主、お金がないんじゃないのか?」

「子どもがそんなこと気にしなくてもいいです! さあ、行きましょう!」松はそう言って余の腕を引っ張り、店に中に入った。

 それから90分の制限時間内に余はその店の全種類のメニューを食べた。松は30分程で満腹と言っており、早々に食べるのを止めておったが、余は時間いっぱいになるまで、食べ続けた。余はまだ余裕があったのだが、松や店員が驚いておるようじゃったので、少し控えたつもりじゃった。

 

 その後は、遊園地というところに行き、ジェットコースター、メリーゴーランド、空中ブランコ、バイキング、コーヒーカップに乗った。ジェットコースター、空中ブランコ、バイキングはなかなか迫力があり面白かったが、松は青ざめておった。コーヒーカップでは余が回転を速め過ぎたようで、松が酔ってしまっておった。そして最後に観覧車という乗り物に乗った。この乗り物はゆっくりじゃったから、松も落ち着いて景色観ておった。

「松よ、今日は楽しかったぞ! 良いもてなしじゃった!」

「そうですか! それなら良かったです」

「余をここまで満足させられる人間はそうそうおらん! 誇ってよいぞ!」

「はは…そうなんですね」

「むっ! お主、余の凄さを信じておらぬな?」

「いえ、そんなつもりは…」

「余は特別なのじゃぞ! 会おうと思っても簡単には会えないんじゃ!」

「あ! それって最近はやっている歌のことですか?」

「なに? 歌とな?」

「はい! ナンバー1にならなくてもいい。元々特別なオンリー1っていう歌です!」

「ほう……そんな歌があったのか!」

「あれ? この歌知らないんですか? 今すごく流行っているみたいですよ!」

「あいにく余はそういうのに疎くてな。じゃが、言いたいことはそんな感じじゃ! 余の場合、ナンバー1であり、オンリー1じゃがな!」

「そっ、そうなんですね…」松が少し引いておったので、話題を変えることにした。

「松よ、お主は何のために生きておるのじゃ?」余は真面目な顔をして聞いた。

「え!? なんですか? 急に…」

「じゃから、何のために生きておるのかと、聞いておるんじゃ!」

「何のために生きているか……ですか……」そう言って松は考え始めた。そして少し沈黙が流れた後、「正直、毎日が忙しくてあまり考えたことなかったですが、強いて言うなら、大切な人に笑顔でいてもらうため……ですかね」と答えた。

「お主にとって大切な人とは誰じゃ? 親のことか?」余は松の家庭事情を知っておったが、知らない振りをして聞いた。

「そうですね。親は大切です。生んでくれて育ててくれたことには感謝しています!」

「そうか、親が大好きなんじゃな?」

「はい。でも、僕の両親は、僕が小さい頃に事故と病気で亡くなりました。それで祖父母に引き取ってもらったんです」

「そうか…」

「祖父母には本当に世話になりました。二人ともやさしくて、いつも僕を気遣ってくれました。そのおかげで、今の僕がいるんです」

「そうか……。祖父母に恩返しをしたいんじゃな?」

「はい。でも、祖父母ももう亡くなりました」

 ここで少し沈黙が流れた。

「ところで、両親や祖父母以外にも大切な人はいるんじゃないのかの?」余はここで話題を切り替え、本題に入ることにした。

「え!? 他に…ですか!?」松は明らかに焦っておるようじゃった。

「そうじゃ! たとえば……恋焦がれる人とかいるんじゃないのかの?」

「そっ、それは……」松の顔は明らかに赤くなっておった。

「その反応じゃと、おるのじゃな? 名はなんという?」余が聞くと松は俯いた。

「ゆ………ゆの………ゆの…さんです」松は俯いたまま小さな声で答えた。

「そうか、ゆのというのか! その子はめんこいのかの? なんじゃ、そんなに照れて、恥ずかしいのか?」余が少しからかうと松は黙り込んでしまったので、続けて「まぁ良い。もうすぐ下に着くぞ。降りる準備をするぞ!」と声を掛けてやった。


 帰り道、街で福引をやっておったので、松に「やってみないか?」と誘うと、「福引券を持っていない」と言うので、余が持っておった福引券を一枚譲ってあげた。最初は受け取るのに抵抗していたが、今日のお礼と言うと、了承してくれた。そして松が箱の中からクジを引き、番号を確認すると、なんと一等を当ておった。一等の賞品は、沖縄旅行のペアチケットと10万円じゃった。松は信じられないというような顔をしており、しばらく固まっておった。まさか、先程分け与えた力をここで使うとは思っていなかったので、余もビックリしてしまった。

「お! おぉー!! 当たったよ! みこ!」ようやく現実に戻ってきた松じゃったが、興奮して喜んでいるようじゃった。

「そうじゃの」

 

 そして暦神社の前に着いた時、松はチケットと賞金を差し出してきた。

「これはみこのものです! ご家族と行ってください!」

「何を言うておる! これは松のものじゃ!」

「いや、でも、みこがくれた福引券で当てたものだから…」

「その福引券は余が松にあげた時点で、松のものじゃ。じゃから、そのチケットも松のものじゃ」

「でも……」

「余がそれを貰ったところで、上手く使うことなどできん」

「そんなことは…」

「ほんと、お主は面白い人間じゃの!」

「え?」

「そうじゃ! なら今日の最後にもう一度、参ってはくれぬか?」

「え? そんなことでいいんですか?」

「そんなことではない! 余にとっては大事なことじゃ!」

「あ! すみません。失礼なことを言ってしまいました」

「気にするな。それよりも、行くぞ!」余は松の手を引っ張り、一緒に境内をくぐった。その時、松は呆気に取られたような顔になっておった。おそらく余と手を繋いで中に入ったから、一瞬神の世界が見えたのじゃろう。余は松とそのまま拝殿まで行き、参拝するように言った。

「さぁ、今なら気分が良いから、何でも願い放題じゃぞ!」

「そっ、そうですか…」若干引き気味の松じゃったが、目を瞑ってから心の中で願い事を唱え始めた。その内容はいつも通り「ゆのさんの病気が完治しますように!」じゃったが、今回はそれに続いて「あ、あと、ゆのさんやみこ、大切な人たちが笑顔で暮らせますように!」という内容が追加されておった。

「フンッ! 松らしい願い事じゃが、今度はそこに自分も入れてみてはどうかの?」余は最後に言い残してから、霊体に戻った。

 その後、ゆっくりと目を開けた松がしばらく余を探しているようじゃったが、どこにもいないことを悟って帰って行った。

 それから数日後、今度はある女が暦神社に参拝に来た。そう、松が言っておった、ゆの、という女じゃ。彼女は手順通りに拝殿の前まで来てから、心の中で願い事を唱え始めた。ゆのの願い事は「松さんが幸せになりますように! 私のことを忘れますように」という内容じゃった。こやつが松の言っておった、ゆのなのかと思い、余は好奇心で声を掛けることにした。

「お主、浮かれない顔をしておるようじゃが、何かあったのかの?」

「え!? あなたは……誰? ここの巫女さん?」

「まぁ、そんな感じじゃ」

「そうなんだぁ! 名前はなんて言うの?」

「うっ! み、みこじゃ」

「みこちゃんか! 可愛い名前だね!」

「ちゃんは付けなくて…」と言いかけたが、ゆのに「今何歳なの?」と質問されたので、余のセリフは掻き消されてしまった。

「秘密じゃ…」

「えー! その年でもう年齢を意識してるんだぁ! 私の予想だと……うーん…6歳くらい…かな?」

「はずれじゃ」

「えー! 当たってる自信あったんだけどなぁ」

「余の歳を当てるなんて、誰にもできないことじゃ!」

「へぇー、そうなんだぁ!」

「そんなことより、お主の名前はなんていうのじゃ?」

「あ! そういえばまだ名乗ってなかったね! 私はゆの! 風待ゆのっていうの! よろしくね! みこちゃん!」ゆのはそう言って、握手を求めてきたので、余も応じた。

 それにしても、ゆののこの態度には余も驚いた。ほとんどの人間は、余を認識すると、なんとなくオーラを察してみんな畏まるのじゃが、ゆのだけは、なぜか妙にフレンドリーじゃった。ゆのの心を読んでも、余のことをただの巫女だとしか認識していないようじゃった。

「みこちゃん、この後何か用事ある?」

「ん? 特にないが…」

「じゃあ、ちょっと私と一緒に散歩しない?」

「まぁ、別にいいが…」と答えた瞬間に、ゆのは余の手を引っ張って「じゃあ行こう!」と言いながら笑顔で歩き出した。そして余とゆのは近くの公園を散歩し始めた。

「散歩って気持ちいいよね! 私、公園や自然の中を散歩するのが好きなの! みこちゃんは、散歩好き?」

「まぁ好きじゃな」

「そうなんだぁ。良いよね! 散歩…」

「ゆのはどうして散歩がそこまで好きなのじゃ?」

「え? どうしてだろう? あまり考えたことなかったなぁ……。気が付いたら好きだったの!」

「そういうもんなのか?」

「うん! そういうものだよ!」ゆのは笑顔でそう言い、続けて「あ! 私、自然の音とか景色が好きだから、それで散歩も好きになったのかもしれない!」と思い出したように言った。

「自然が好きなのか?」

「うん! 大好き!」ゆのは満面の笑みで言い、続けて「広大な海や高くそびえ立つ大きな山を見るとね、自分の悩みがちっぽけに感じるから癒されるの!」と少し真面目な顔をして言った。

「何か悩んでおるのか?」

「え!? あ! ごめん! そんなつもりじゃなくてね…」ゆのは焦って自分の発言を訂正しようとしておったが、余はさらに踏み込むことにした。

「悩んでおるようじゃな。それも人間関係で」

「え!? どうしてそれを?」

「なに、適当に言っただけじゃ! ほとんどの人間は人間関係で悩んでいるからの!」

「そうなんだ! 私、一瞬、みこちゃんが心を読めるのかと思っちゃったよ!」

「まぁ、読めなくもないがな……」余は少し誇らしげな態度で言い、「それよりも、ゆのは具体的に何を悩んでおるのじゃ?」と本題に入った。

「え!? 小学生相手に話すのは…ちょっと…」ゆのは余に話すのを躊躇しておった。

「子どもを見くびってはならぬぞ! 大人よりも純粋じゃから、率直な意見を聞くことができるはずじゃ!」

「そうかもしれないけど…(こんなこと話せない)」

「余はこう見えていろんな人の悩みを聞いてきた! じゃから何か役に立つことを知っておるやもしれぬぞ」

「その歳でそんなに! 巫女さんって大変なんだね…(なんて大人びた子なんだろう)」ゆのは同情していた。

「そうでもないぞ。余は楽しんでおる!」

「そうなんだ…(良かった)」

「じゃから、ゆのの悩みも聞いてやるぞ!」そう言うと、ゆのは少し考え込んでから、話し始めた。

「じっ、実は私、好きな人がいて、その人に幸せになって欲しいの!」ゆのは少し恥ずかしそうしながらに言った。

「そうか! 好きな人に幸せになって欲しいんじゃな」おそらく松のことじゃろうと思ったが、知らない振りをして繰り返した。

「うん(言っちゃった!)」

「じゃあ、ゆのはその人と付き合いたいということなんじゃな?」

「それは違う! (好きだけど…私は付き合えない)」ゆのは強く否定した。

「どういうことじゃ?」

「松さんを幸せにするのは私じゃない。私じゃ幸せにできないの(私が幸せにしてあげたかったのに…)」

「どうしてじゃ?」

「だって私は……」ゆのはそこまで言い、しばらく黙り込んでから、「長く生きられないから…」と悲しそうな、悔しそうな顔で言った。

「長く…生きられない?」

「うん。私、病気だから、長く生きることができないの」

「長く生きることができないから、その人を幸せにできないと?」

「そう。もし松さんと付き合うことができても、私はすぐにこの世からいなくなってしまうの。まぁ、松さんが私なんかのことを好きになる可能性もないんだけどね…。松さんは素敵な人だから!」この発言からして、松はあの時に当てた沖縄への旅行券をまだ使っておらぬようじゃった。何をちんたらしておるのじゃ! 早うせんと誰かに奪われてしまうぞ、と珍しく感情的になってしまった。

「その松さんって人が、ゆのの好きな人なんじゃな?」

「え?」ゆのは一気に顔を赤くして、恥ずかしそうに顔を手で覆い隠した。

「じゃあ、もし松さんが、ゆのと付き合いたいって告白してきたら、お主はどうするんじゃ?」

「え!? そっ、そんなこと、あり得ないから…(キャー! 想像しただけで興奮しちゃう!)」ゆのは明らかに動揺しておった。

「もしもの話じゃ。ないこともないじゃろう」

「それだったら、うっ、嬉しいけど……。断ると思う」

「病気じゃからか?」

「うん。きっと迷惑をかけちゃうだろうし(松さんはやさしい人だから)」

「そうか。それはゆのの本心か?」

「え!? う、うん! 本心だよ!」

「そうか。なら、お主はなんで泣いておるのじゃ?」

「え? あれ? なんで? どうして私、泣いてるの?」余の言葉を聞いて、ゆのは自分の頬を伝っている涙に触れてから、泣いていることを自覚したようじゃった。

「人間は本当に不思議な生き物じゃの。言っていることと、やっていることが違うこともあれば、言っていることと、思っていることも違うこともある。どうしてそんなにズレることがあるのかのう」

「え? (みこちゃんは何を言っているの?)」

「お主が今泣いておるとゆうことは、それが本心ということじゃないのかの?」

「そっ、それは…」

「今までいろんな人間を観てきたが、余の経験から言うと、自分の心に従って生きておるやつが、一番幸せそうに観えるがの!」

「でも、それだと、私は幸せになれるけど、松さんは幸せになれない! そんなこと、絶対にしたくない!」

「余と違って、人間は他人がどう感じておるのかわからないはずじゃが、ゆのは心が読めるのかの?」

「え?」

「松さんが何に対して幸せを感じるかは、本人しかわからぬ。幸せは主観的な感情じゃからな! もちろん、ゆのの幸せもゆのにしかわからぬはずじゃ」

「そう…だね…」

「他人のことを想うことも大事じゃが、もし長く生きられないのなら、自分のしたいようにしてもいいんじゃないのかの」そう言うと、ゆのはしばらくの間、泣いていた。そして落ち着きを取り戻した後に、覚悟を決めたような顔つきになり、こう言った。

「私、松さんにアタックしてみる! (もう決めた!)」

「それがゆのの本心か?」

「うん! これが私の本当の気持ちだよ! (もう決めた! 覚悟はバッチリ!)」今度のゆのは言っていることと、思っていることが同じじゃった。

「そうか。なら良かった!」

 

 それから、余とゆのは公園を一周してから、暦神社に戻ってきた。

「じゃあここでお別れじゃの! じゃあの。もしかしたら、また会うことがあるかもしれぬな」余はそう言いながら境内前の階段を片足ジャンプしながら一段ずつ上った。

「あ! ちょっと待って! みこちゃん!」ゆのはそう言ってコートのポケットを漁ってから、「これあげる! 今日のお礼に!」と言って、桜の花びらが付いたヘアピンを渡してきた。「貰ってよいのか?」と確認すると、ゆのは満面の笑みで「うん!」と言ってくれたので、早速髪に付けてみた。

「どっ、どうじゃ?」

「うん! すごく似合ってる!」

「そっ、そうかの」誰かに物を貰うのが初めてじゃったので、思いのほか嬉しかった。

 そして、余とゆのは別れたのじゃが、まさかこの後、あんなことになるとは、神である余ですら予想してなかった。


 ゆのと別れてから数年が経ったある夏の日、いつも通り本殿の上から参拝者を眺めておると、突然後ろから「みこちゃん!」と声を掛けられた。余は驚きながら慌てて振り返ると、そこにはゆのがいた。しかも霊体姿で。

「お主、ゆのか?」

「うん! そうだよ! 久しぶりだね!」

「その姿ということは…」余は察して、この後の言葉は控えた。

「うん。死んじゃった!」ゆのはあっさりと言った。

「随分あっさりとしておるの!」

「えー! そうかな? まだこの体には慣れてないんだけど…」ゆのは辺りを飛び回り、霊体の動きを確認しておるようじゃった。そして「それよりも、みこちゃんの方が驚きだよ! みこちゃん、神様だったんだね!」と一気に顔を近づけてきて言った。

「まあの」

「あの時は全然気づかなかったよぉー。普通の小学生かと思ってた!」

「まぁほとんどの人間は気づかんから、気にしなくても良いぞ」

「あ! そうなんだ!」

「じゃが、ゆのみたいに馴れ馴れしい人間もいないがな!」

「いやー、それほどでも…」からかったつもりじゃったが、なぜかゆのは照れていた。

「ところで、余に何か用があるのか? そのために来たんじゃないのかの?」余は早速本題に入った。

「あ! そうそう。みこちゃんにお礼を言おうと思って来たんだった!」ゆのはそう言って屋根の上で正座をしてから真面目な顔をして「あの時は、ありがとうございました!」と頭を深々と下げながら言った。

「なっ! なんじゃ急に!」

「あの時、みこちゃんが背中を押してくれたから、私は幸せな時間を生きることができたんだよ!」ゆのは顔を上げて、笑顔でそう言った。

 余はゆのと別れてから、その後どうなったのか知らなかったが、ゆのが詳しく教えてくれた。あの後、松に旅行に誘われ、一緒に旅行してから、付き合うことになり、2年後に結婚し、二人の子どもを授かったらしい。その時間はゆのにとって一瞬一瞬が幸せな時間だったらしい。唯一心残りがあるとすれば、子どもたちが大人になるまでそばで見守ることができなかったことらしい。ゆのはこの時、自分の欲深さについて言っておった。

「こんなに生きることができて、好きな人と一緒に過ごして、子どもまで授かったのに、それを最後まで見守りたいと思うなんて、私って結構強欲だったんだね!」

「人間とはそう言う生き物じゃ。じゃからこそ面白いんじゃがな!」

 それから、ゆのは空が暗くなるまで話をしてから、黄泉の国へ帰って行った。この時、今日がお盆であるということに気づいた。そして、もう会うことがないじゃろうと思うておったが、ゆのは度々現れるようになった。どうやら監視の目を盗んで許可なく下界に降りて来ておるようじゃった。ゆの曰く、「みこちゃんが一人で寂しいだろうから、一緒に遊んであげる!」ということらしい。まぁ、余としては黄泉の国のルールなど知ったことじゃないので、一緒に遊ぶのに問題はない。それに、少し嬉し…、いや、なんでもない。


 それからまた数年後、いつも通り一人で本殿の上から参拝者の願い事を聞いておると、やたらと同じ名前を聴くことがあった。それは、水無月翔という男の名前じゃった。いつからか、何度も聞くようになったので、さすがに覚えてしまい、どんなやつかと好奇心をそそられた。

最初にその名前を出したのは、黒髪セミロングで余みたいに可愛らしい15歳の女の子じゃった。その子は如月牡丹という名前で願ったことは「水無月翔くんに感謝の言葉を伝えられますように!」という意味がわからぬ内容じゃた。正直、願う暇があるなら、早く感謝すればいいのに、と思っておった。

 そしてまたある日には、片手に猫の人形を付けている女の子が、その名前を出しておった。二宮霞という女の子とカスミンという猫が願った内容は「水無月翔さんに恩返しができますように」じゃった。そんなこと願う暇があるなら、早く恩を返せばいいのに、と思っておった。

そしてまたある日には、眼鏡を掛けた藤皐月という女の子が「水無月翔くんに告白できますように! あわよくば付き合えますように! フラれてもお世話をすることができますように!」と強欲な願いを唱えておった。それにその思いが強すぎたため、願い事を声に出して言っておった。

 そして、ついにある夏の日、水無月翔本人が暦神社に現れたのじゃった。その時は金髪の外国人二人と一緒に来ており、参拝方法を教えているようじゃった。そして三人で一緒に参拝しておった。レオという名の金髪男は「姉さんと早く一緒に暮らせますように! あと、姉さんの周りに変な男(水無月翔)が寄り付きませんように!」と強く願ったおり、ブルーベルという金髪女は「水無月サンともっと仲良くなれますように!」と願っており、水無月翔は「ベルさんが早く日本に馴染めますように! あと、レオさんが日本で気分転換できますように!」と願っておった。こやつも松やゆのと同じように、他者のことばかり願っておるようじゃった。

 一目見ることができたので、余は満足しておったのじゃが、その日以降も水無月翔という名前を度々聴くことがあった。中でも一番驚いたのが、全身黒い服装で左腕に包帯を巻いて、片目に眼帯を付けた明らかに変な女の子が参拝に来た時じゃ。その子は長月桔梗という名前じゃった。余はいつも通り本殿の屋根の上から眺めておったのじゃが、なぜか桔梗と視線が合うことがあった。もしかしてと思い、余が右に動くと、桔梗の眼は左に動き、余が左に動くと、桔梗の眼は右に動いた。明らかに余の霊体の姿が見えておるようじゃった。今までも100年に一人くらいの割合で余の姿が見える人間がおったが、まさかこんな変な格好をした女の子が見えるとは、少し複雑な気持ちになった。いつもなら嬉しくて絡みに行くのじゃが、さすがの余も少し抵抗があった。桔梗も余の姿が見えているはずじゃが、特に騒ぐこともなく、普通に参拝して帰って行った。ちなみに桔梗は「水無月翔、いや、我が同胞が闇の力をコントロールできますように!」という余には理解不能なことを願っておった。もしかして、神である余ですら知らない何かを桔梗は知っているのじゃろうか、と少し警戒することにした。

 またある日には、余と同類の女の子も参拝に来ておった。その子は文月ひまわりという名前じゃったが、余と同じように見た目と年齢が合わないことで悩んでおるようじゃった。見た目は余と同じくらいに見えたが、一応高校一年生ということじゃった。余はそこまで気にしていないが、同じ境遇であることに親近感を抱いた。そんなひまわりの願い事は「背が伸びますように! あと、水無月先輩ともう少し仲良くなれますように!」という内容じゃった。

 そしてまた別の日には、余と同じくらい可愛くて人気のある雛月弥生という女の子が参拝に来ておった。弥生は定期的に参拝に来ており、最初は「六月さんに直接お礼を言えますように!」ということを願っておったが、途中から「翔くんと一緒に遊ぶことができますように!」という内容に変わっておった。

 さらに、水無月翔という名前は男の願い事にも登場するようになっておった。神無月紫苑という結構イケメンの男からは、妙に敵視されておるようじゃった。紫苑の願い事は「水無月翔に勝てますように!」ということじゃった。何か知らんが、勝負をしておるようじゃった。そういえば、赤髪の十文字紅という男からも敵視されておるようじゃった。紅の願い事は「水無月翔を打ち負かすことができますように! それと如月牡丹さんと付き合えますように!」ということじゃった。結果がどうなったのかは知らんし、あまり興味もそそられなかった。一方、霜月時雨というイケメンからも、水無月翔の名前が出ておったが、時雨は願い事というより感謝をしておるようじゃった。「翔、いつもありがとう!」と心の中で唱えておったからじゃ。

 それから新しい年を迎えると、翔は余の神社に三回も参拝に来ておった。しかも、全部違う女とじゃった。詳しい理由は知らんが、どうやら付き合わされておるようじゃった。それにしても三回とも楽しんでいるようじゃったが…。

 そしてついに、余は水無月翔に直接会ってみることにした。参拝を観ている限りでは、いろんな人間から慕われているようじゃったが、実際に会ってみないと、どんな人物なのか分からないと思ったからじゃ。そして、いざ会ってみると、なかなか面白いやつじゃった。いろんな食べ物を食べたり、いろんなところで遊んだり、まるで松と遊んだ時みたいじゃった。そして最後には桜の花が付いたかんざしをプレゼントしてくれた。余にプレゼントをくれたのは翔で二人目じゃった。久しぶりに楽しませてもらったので、余も恩返しをすることにした。

 翔と遊んだ次の日に、ゆのが久しぶりに降りてきた。

「もう! 最近私に対する監視が厳しくなってるんだよね! どうしたらいいと思う? みこちゃん!」ゆのは開口一番に愚痴を言ってきた。

「さあの? 余は黄泉の国のことは知らんからの」余は素っ気なく返事をした。

「そんなこと言わないで~。みこちゃんなら何とかできるでしょー」ゆのはそう言いながら余の肩を持って前後に揺らし始めた。

「余は生者の願いを聴くのであって、死者の願いは専門外じゃ~」余は揺さぶられながらも真面目に答えた。

「そんなこと言わないで~」ゆのは懇願しながら余の体を揺らしておったが、急に動きが止まり「あれ! 何それ? ひょっとしてかんざし? どうしたの?」と質問してきた。

「ん? これか! これはある人からプレゼントで貰ったんじゃ!」余は髪に付けたかんざしを見せびらかしながら、自慢するように言った。

「へぇー! そういうものを供える人もいるんだね!」

「まぁ、そうじゃな! どうじゃ、似合っておるかの?」

「うん! とっても似合ってるよ!」ゆのは満面の笑みでそう言ってくれた。

「そうか…。良かった」余は安心した。

「それよりも! みこちゃん! 私を助けて~」ゆのは再び余の身体を揺らしながら懇願し始めた。せっかく話題を逸らすことができたのに、今のゆのには通用しなかったようじゃ。

 

 ほんと、人間という生き物は不思議な存在じゃ。人間がいなければ余たち神も存在せぬ。余は人間が信じておるからこそ、存在することができておるのじゃ。つまり、神が人間を創造したのではない。人間が余たち神々を創造したということじゃ。そのためというわけでもないのじゃが、余は人間が好きじゃ。愚かで不合理で、失敗ばかりする人間はとても興味深い。いつになっても飽きぬ存在じゃ。じゃから、余はこれからも人間の行く末を見守っていこうと思っておる。


読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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