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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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悲しい時は泣いてもいい!!  

 親や教師などの大人から、泣いてはいけない、泣いたら恥ずかしいなどと、言われたことはないだろうか。なぜ大人たちは子どもにそのようなことを言うのだろうか。泣いても何も解決しないからだろうか。たしかに、悲しいことが起こってしまった後では、泣いたところで何も変化しない。しかし、泣く行為には意味がある。感情をさらけ出すことによって、落ち着きを取り戻すことができる。子どもを見ていると分かるが、一日中ずっと泣き続けている子どもはいない。必ずいつかは泣き止んで、再び遊びだす。泣く行為は、自分の感情に正直に生きている証なのだ。

 ところが、大人になってくると、泣く回数が減ってくる。これは自然なことなので、気にする必要はないが、中には自分の感情を偽っている人もいる。悲しいのに無理やり笑ったり、怒っているのに楽しそうな振りをしたりしている。このように、自分の感情に嘘をつくと、精神的に良くない。さらに、過度にネガティブな感情を避けようとしている人もいる。悲しみや怒り、不安などを恐れて感じないことが良いことだと思い込んでいるような人だ。しかし、これは間違った考えだ。人間である以上、ネガティブ感情を抱くのは当たり前であり、それがあったおかげで、今の我々がいると言っても過言ではない。つまりネガティブ感情は我々が人間であることの証である。それを避けよう、無くそうとしても不可能である。それよりも受け入れて、上手く付き合っていく方がいいだろう。泣くことも然り、泣くことはけっして悪いことでも、恥ずかしいことでもない。泣くことは人間である証なのだから。


 今日から新学期。みんなは始業式に参加しているが、俺は遅れて学校に到着したので、一人教室で本を読んでいた。元々、今日は昼までなのだから、来なくても良かったと思うが、家にいても特にすることがなかったので、なんとなく来てみた。しばらくすると、クラスメイトが戻ってき始めた。どうやら始業式が終わったようだ。俺は、構わず本を読んでいると、牡丹さんとベルさんがいつも通り笑顔であいさつをしてくれたので、俺も返した。少し遅れて時雨もやって来て、俺の右隣の席に座った。

「なぁ、翔。今日は部活どうする?」時雨が尋ねてきた。

「ん? まぁ俺は特にすることないから、この後部室で本でも読もうかなって思ってたけど…。自由参加でいいんじゃないか?」

「そっか! じゃあ俺も行くわ!」

「今日は昼までだから、多分、誰も来ないだろ」

「そうだな。遊びに行く人が多いだろうな」

 そんな話をしていたが、いざ部室に向かうと牡丹さんとベルさんと紫苑も来ていた。牡丹さんは部室が落ち着くからという理由で、ベルさんはここの方が楽しいことがありそうという理由だった。意外だったのは紫苑だ。おそらく友達から遊びに誘われているだろうが、なぜか部室にいた。理由は特にないらしい。無意識に部室に来たようだった。

今日は一年ズが全員用事で休みだった。霞さんは絵の納期が迫っているらしく、桔梗さんは、服を作っているがなかなか苦戦しているらしく、ひまわりさんは生徒会の仕事だった。なので、久しぶりに二年だけの相談部になった。といっても、今日相談に来る人はいないだろうと思っていたが、早速俺の予想は外れるのであった。

 それぞれ、ゲームしたり、勉強したり、読書したりしていると、ドアをノックする音が聴こえた。時雨が「どうぞ」と声を掛けると、ゆっくりとドアが開いた。そこには見覚えのある女の子が一人立っていた。「しっ、失礼します」と言って、女の子は部室に入って来て、正面の椅子に座った。その間、俺たちは遊んでいた道具を片付けて、姿勢を正していた。

「えーと、一条さん…だったかな?」時雨が思い出しながら名前を尋ねた。

「あ! はい! 一条です。一条かるたです!」彼女がそう答えたのを聞いて、俺は思い出した。たしか彼女は、御手洗さんの時に少しだけ関わったことがあった女の子だ。一年B組で、なぜか俺のことを水無月様と様づけで呼んでくれる子だ。その子が今ソワソワしながら俺たちの目の前に座っていた。

「今日は、相談に来たってことでいいのかな?」時雨がやさしい声で尋ねた。

「あ! はい! そうです」一条さんは目線を激しく動かしながら落ち着かない様子に見えたので、少し落ち着かせた方がいいだろうと思い、雑談をしてみることにした。

「一条さん。久しぶりだな! 冬休みは何をして過ごしてたんだ?」俺は一条さんに尋ねてみた。

「え!? わわ、私ですか!? 私なんかの話よりも、水無月様はどう過ごされたのですか?」一条さんは質問で返してきた。

「俺? 俺は、テニスしたり、テレビゲームしたり、百人一首や羽根つきしたり、川を渡ったりしたかな!」

「かっ! 川を渡ったんですか!?」

「まぁいろいろあって、成り行きで…。時雨と紫苑も一緒に渡ったぞ!」俺がそう言うと、一条さんは二人に視線を送り、時雨は作り笑顔に、紫苑は胸を張って堂々とした態度になっていた。

「すっ、すごいですね…」一条さんは感嘆しているようだった。

「一条さんも何かをして過ごしたんじゃないのか?」俺は再度尋ねた。

「わ、私は……」一条さんは何かを言いたそうな感じをしながら、言えないようだった。そして続けて「そうですね。家族と過ごしていました」と少し落ち着いた様子で軽く微笑んで言ったが、なぜかその笑顔が無理をして作っているように見えた。

「そっか。一条さんは兄弟姉妹はいるのか?」一条さんは冬休みに何かあったのかもしれないと思ったので、なるべく慎重に言葉を選ぶようにした。

「妹が二人います。中学生と小学生の…」

「そっか。一条さんは長女なんだな! 二人とはどんな関係なんだ?」

「仲が良いと思います。二人とも可愛いし、とってもやさしいので…」

「そうなんだ。よく遊んだりするのか?」

「はい。一緒にショッピングに行ったり、スポーツをしたりします」

「スポーツもするのか! 何のスポーツをするんだ?」

「私たちはよくバドミントンをします。祖父が好きだったので、その影響でみんなバドミントンが好きになりました!」

「バドミントンか! いいな! 俺も好きだ。結構キツいよなぁ?」

「はい。いつもヘトヘトになります」ここで一条さんの顔から少し本当の笑顔が見えた気がした。続けて「水無月様もお好きなんですね!」と言った。

「あぁ! テニスとは違った面白さがあるから、たまにするんだ!」

「ワタシもバドミントン好きデスよ! 楽しいデスよね!」ベルさんが状況を察してか、元気な声で言った。

「エイプリル様もですか!」一条さんは驚いた顔をしていた。

「ハイ! 良かったら、今度勝負しまセンか?」ベルさんが挑戦状を突き付けた。

「わっ、私とですか!? そんな…恐れ多いです」一条さんは謙虚…というより異常なほどの腰の低さだった。

「バドミントン、面白そうだね!」牡丹さんが流れに乗って言った。

「バドミントンなら俺も得意だから、翔に勝てそうだな!」紫苑が調子に乗った様子で俺を挑発してきた。

「は? 俺がバドミントンで紫苑に負けるはずないだろ!」俺は挑発に乗った。

「なら、今度勝負してみようぜ! そうすればどっちが強いかはっきりするだろ?」紫苑はさらに挑発してきた。

「そうだな! 徹底的に叩きのめしてやるよ!」俺は紫苑の挑戦を受けることにした。

「んん! ん!」時雨がわざと咳払いをしたので、俺は我に返ることができた。

「あ! ごめん、一条さん。ついいつものノリで…」俺はほったらかしにしてしまった一条さんに謝罪した。

「い、いえ! 気にしないでください。私も水無月様がバドミントンする姿を見てみたいです!」一条さんは謙虚な態度で俺をフォローしてくれた。

「じゃあ、今度、体育館を借りてみんなでバドミントンをしまショウ!」ベルさんが元気な声で提案してくれた。

「そうだね! その時は一条さんも一緒に!」牡丹さん自然な流れで一条さんを誘ってくれた。

「えぇ!? いいんですか?」一条さんは遠慮しながらも、誘ってもらえて少し嬉しそうな感じに見えた。

「うん! 私はあまりしたことないから、いろいろ教えてもらいたなぁ!」牡丹さんが一条さんにお願いした。

「わっ、わかりました! 私で良ければ…」一条さんが承諾してくれたので、近い日にバドミントンをすることが決まった。おそらく、今までの経験からすると、みんな負けず嫌いなところがあるため、真剣勝負になるだろうと予想した。俺も早速今日から練習しようと、心の中で決めた。

「そういえば、俺はこの前、祖父とテニスをしたんだけど、一条さんもおじいさんとバドミントンをしたりするのか? もしかしておじいさんがコーチとか?」俺がこの質問をすると、一条さんの表情が一気に暗くなり、俯いて黙ってしまった。どうやら、この話題が地雷だったようだ。気をつけていたつもりだったが、踏んでしまったので、俺はすぐに謝罪することにした。

「ごめん。聞かれたくないことを聞いてしまったかな」俺は謝罪したが、沈黙が続いたので、もう一度謝ろうとすると、一条さんは顔を上げて作り笑顔になった。

「いえ、すみません。水無月様は全然悪くありません…」そう言う一条さんの声は震えているような気がした。そして続けて「あの、水無月様に一つ聞いてもいいですか?」と尋ねてきた。

「あぁ。何個でもいいよ」俺は真面目な顔で答えた。

「もし答えたくなかったら、答えなくてもいいので…」一条さんは念を押していたので、俺は「わかった」と返事をして、聞く態勢になった。

「水無月様は、今まで大切な人と別れた経験はおありですか?」

「その別れるっていうのが、どの程度なのか聞いてもいいか? たとえば、物理的な距離なのか、もう会うことができない距離なのか」

「もう会うことができない距離です」

「そうか……。それなら、何度か経験してる」

「そうなんですね…。その時はどんな気持ちでしたか?」

「そうだなぁ。やっぱり悲しかったかな」

「そうなんですね…。では、その悲しみをどう乗り越えたんですか?」

「どう乗り越えたか…か。そうだなぁ、ただひたすら泣いて、時間が経ってから、ようやく受け入れることができた感じ…かな?」

「そうなんですね……」一条さんがそう言ってから、少し沈黙が流れた。

「誰か、大切な人を亡くしたのか?」俺は直球な質問を投げかけ、少し沈黙が続いた後、一条さんは答えてくれた。

「はい…。大好きだった祖父が年末に亡くなりました」

「それは…辛いな」俺は一条さんの気持ちに共感するように言った。

「はい。でも、私が悲しんでいる暇はありません。妹たちがいるので、私がしっかりしないと!」一条さんは作り笑顔を絶やさずに答えていた。

「ん? 一条さんは今どういう気持ちなんだ?」俺は率直に思ったことを尋ねた。

「え!? 私ですか?」一条さんは不意を突かれたような感じだった。

「あぁ、おじいさんを亡くしてから、今の一条さんの気持ちを知りたい」

「今は……よくわからないです。悲しい気持ちはあると思うんですが、私が悲しむと、妹たちも辛いと思うので、いつも笑っています」一条さんはそう言って、笑顔を作った。

「そっか。それは大変だったな」と言って俺は立ち上がり、一条さんの座っているところまで歩いて近づいた。そして一条さんの頭にポンと手を乗せてから「よく頑張ったな!」と言った。

「え!?」一条さんは状況が読み込めずにいるようだったが、俺は構わずやさしく頭を撫で、持論を述べることにした。

「妹がいるから、悲しいけど泣かないようにしてたんだな。その気持ち、わかるよ! 俺にも妹がいるから」俺は自分も経験したことだったので、共感を示しながら説得力を持たせた。続けて「でも、長男長女だって同じ人間だ。悲しい時は泣きたくなる時もあるだろう。俺も前は勘違いしていたけど、泣きたい時は泣いてもいいんだよ!」そこまで言うと、一条さんの目が、少しずつ潤い始めたようだった。

「自分の感情に嘘はつかない方がいい! 辛い時に無理やり笑ったり、楽しんだりしなくてもいい。そうすると、余計辛くなるだけだ。今の一条さんを見てると、とても辛そうに見える」俺の話を一条さんは何も言わずに聴いてくれていたので、もう少し続けた。

「もし、妹たちの前で涙を見せたくないのなら、いつでもここに来ればいい! 俺たちが受け止めてやる!」そう言うと、一条さんは周りを見回した。そして目から涙が零れ始め、頭を俺の胸に寄せてきて声を上げて泣き出した。ようやく我慢していた感情を表すことができたようだった。


 それから、そのままの状態で5分程経った頃、一条さんは落ち着いたようだった。

「すみません。水無月様の前で取り乱してしまいました」一条さんは涙を拭いながら、キリっとした顔を作ろうとしていた。

「少しはスッキリしたかな?」表情を見た感じ、心配はなさそうだったが、一応尋ねた。

「はい! お陰様で胸にあったモヤモヤがなくなった感じがします! ありがとうございました!」一条さんは心からの笑顔で答えた。

「俺は何もしてない。ただそばにいただけだ!」

「それがとても心強かったです」

「誰かが悲しんでいる時は、ただそばにいて、そっと抱きしめるといい時もあるらしいからな!」

「はい! 水無月様の胸の中、とても温かかったです! 今度はもっと強く抱きしめてください!」一条さんは満面の笑みと元気な声で言った。その時、後ろから妙な圧力を感じたが、怖くて振り向くことができなかった。

「そっ、それは、ちょっと…」せっかくの申し出を俺は渋々断った。

「フフッ! では、今度は人のいないところでしましょう!」一条さんは俺の耳のそばで小さな声でそっと言った。


 その日の夜、俺は日記を書きながら、一条さんとのやり取りを振り返っていた。一条さんを見ていると、おじいさんがどれだけ大切な人だったかがわかった。俺も今まで、ゆのさんや桃華さんという大切な人を亡くした経験をしているので、一条さんの気持ちにすごく共感できた。それに家族内の立場も似ていると思った。一番年上だと、下の子の前で弱音は吐けないという気持ちになりやすいが、同じ人間である以上、どこかに捌け口は必要だろうと思う。一条さんはたまたま俺たちを信じてくれたから上手くいったが、メンタルの問題を解決することは難しい。俺も自分で言っていたことを、いざできるか、と問われれば難しいかもしれない。本当に一条さんは強い人だな、と思った。


 それから2ヶ月程経ち、3月中旬のある日、俺の耳に信じられない言葉が入ってきた。陽じいが事故で亡くなったということだった。陽じいが散歩していた時に、大きめの地震が来た。陽じいは転ばないようにすぐに態勢を低くして保っていたらしいが、近くに倒れた子どもがおり、そこに地震でひび割れたブロック塀が倒れそうになっていたので、急いでその子どもを突き飛ばして、助けたらしい。それで自分が下敷きになり、病院に運ばれたが、間に合わなかったらしい。

俺は信じられず、すぐに病院に向かった。病室に着くと陽じいはベッドの上で寝ており、隣に真珠ばあが座っていた。俺がそっと陽じいの手を握ると、とても冷たかった。その姿は前にも見たことがあった。ゆのさんが亡くなった時と似ていた。俺は昔のことを思い出しながら、感情が込み上げてきていた。今にも涙が溢れ出そうになった時、つゆりと弥涼ちゃんが同時にやって来たので、俺の涙は収まった。そして二人は、寝ている陽じいに抱きついて涙を流していた。その姿を見た俺は、自分は泣かないで強くあろうと静かに誓った。

 葬式では俺の知らない人ばかりだったが、みんな陽じいのことを慕っているのだけはわかった。みんなが泣いている中で、俺は泣かなかった。俺は陽じいに、つゆりと弥涼ちゃんを任されている。二人の前ではけっして涙なんか流せない、と思っていた。そんな俺を心配してか、松さんが声を掛けてきた。

「翔、少し無理していないか?」松さんは心配そうな顔で俺に声を掛けてきた。

「え!? そう見えるか?」俺は強がって答えた。

「あぁ。翔はやさしいからな。つゆりや弥涼ちゃんの前では泣かないようにしているんだろ?」

「別に……そんなことはないけど…」図星をつかれて俺は答えに詰まった。

「無理はするな。もしキツくなったら、僕がいるから…」松さんはやさしい口調で言い、それ以上は何も言わなかった。

「あぁ、ありがとう」


 それから忌引きの期間が終わり、俺は学校に行った。つゆりが切り替えて最後の中学校生活を過ごしていたので、俺も行かないわけにはいかなかった。始業時間の5分前に教室に着き、牡丹さん、ベルさん、時雨にあいさつして、いつも通り自分の席で準備をしていると、教室のドアが勢いよく開いた。

「翔様!」と言いながら、かるたさんが勢いよく教室に入ってきて、俺に近づいてきた。

「かるたさん! おはよ…」あいさつをしようとしたら、かるたさんがいきなり俺の頭を包み込むように胸に抱き寄せた。

「え!? ちょっ! ど、どうした?」俺は状況がわからずに混乱していた。

「大丈夫です。翔様には私がついてます」かるたさんはやさしい口調で言ってくれた。

「いや、そうじゃなくて…」俺は少しの力で振り解こうとすると、逆にかるたさんがギュッと力を強めたしまった。

「翔様の事情は聞きました。だから、私の前では無理しなくてもいいんですよ」かるたさんは俺の頭をやさしく撫でながら言った。その言葉を聞いて、俺は胸がキュッと苦しくなり、気が付いたら、涙が頬を伝っていた。

「あれ? なんで、こんな?」俺は自分の涙の原因がよくわかっていなかった。

「あの時は私が助けられたので、今度は私が翔様の力になります」かるたさんはそう言って、俺の頭を撫でながら、やさしく抱擁してくれた。それがとても心地よくて、心が少しずつ温かくなっていった。そしてこの時、ようやく気づくことができた。俺が悲しい感情を偽っていたことに。それをかるたさんは気づかせてくれたのだ。かるたさんがやさしく抱擁してくれたので、俺の我慢していた悲しみの感情が溢れ出て、涙が流れたようだった。気づかせてくれたかるたさんに、お礼を言おうと思い、顔を上げようとしたが、かるたさんが力を強めたので、動かすことができなかった。すると、廊下の方からドタドタという激しい足音が近づいてくるのが聴こえた。

「ちょっと! あなた! ここで何をしているんですか!?」ひまわりさんが勢いよく現れて言った。そのすぐ後に桔梗さんもやって来た。

「わわわ、我が同胞を泣かせるとは、その不敬は万死に値する!」桔梗さんが焦った様子で言った。そして疲れた様子の霞さんが少し遅れてやって来て、状況を理解できずに周りを何度も見回していた。

「いや、これはそうじゃなくて…」俺は、かるたさんの擁護をするために、再び顔を上げようとしたが、かるたさんにさらに強く押さえつけられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

「大丈夫です! 周りは無視しましょう」かるたさんは微笑みながら言った。

「ちょっと、聞こえてるんですけど! 先輩が嫌がっているから、早くやめなさい!」ひまわりさんが、ケンカ腰に言った。

「翔様には今そばにいてくれる人が必要なのです! 私はただそれを請け負っているだけなので、口を挟まないでください!」かるたさんが煽るように答えた。

「なら、それは私の仕事だから、あなたは教室に帰っていいよ!」皐月さんが突然現れて、かるたさんを引きはがし、俺の頭をやさしく包み込んだ。

「ちょっと、先輩! 翔様は私の胸の中で癒されていたんです! 返してください!」かるたさんは皐月さんから奪い返そうとしていた。

「あなた、翔くんに尽くすところが少し似ていると思っていたから見過ごしていたけど、私の勘違いだったみたい。これ以上は好きにさせないから!」皐月さんがかるたさんのことをはっきりとライバル認定をしていた。

「私も先輩のことはずっと見過ごしてきましたけど、これだけは譲れません」かるたさんも受けて立つ覚悟のようだった。

「かるたさん、皐月さん、ありがとう!」俺が二人に笑顔で言うと、二人の争いは一時収まった。続けて「その気持ちだけで嬉しいよ! 俺はもう大丈夫だから!」と感謝した。

 気が付くと、周りはみんな唖然とした顔をしており、始業の時間は過ぎて、師走先生も前に立っていた。そこで、とりあえず事態を収拾し、一年と皐月さんには教室に帰ってもらった。

 最後は変な風になったが、とにかく俺は助けられたことに変わりない。もしこのまま自分の感情を偽ったまま過ごしていたら、どんな風になっていたかと考えるだけで怖くなる。悲しい時は泣いてもいい、ということを教えて、教えられる出来事であった。

 この出来事の夜、俺は松さんに電話をした。心配しているかもしれなから、もう大丈夫ということを伝えるためだ。松さんはいつも通りワンコールで電話に出た。最初は最近の出来事で雑談した後、俺が「たくさん泣いて整理することができたら、もう心配しなくても大丈夫だ!」ということを伝えると、松さんも「そうか…」と安心したような声で言った。その後、真珠ばあに電話をした。予定していた花見を内容変えて行おうと思ったからだ。陽じいが亡くなってしまったため、中止になるはずだったが、俺はどうしてもしたいと思った。当初の予定では、真珠ばあが来る予定だったが、俺とつゆりが真珠ばあのところに行くことを伝えると、迷っているようだったが、最終的に了承してくれた。

 3月下旬、俺とつゆりと真珠ばあと弥涼ちゃんは、公園で花見をした。弁当は俺とつゆりが作って持って行った。散歩をした後、弥涼ちゃんがバドミントンの道具を持ってきていたので、つゆりと弥涼ちゃんで勝負することになった。二人が真剣勝負をしている間に、俺は真珠ばあにある提案をした。

「真珠ばあ、もし良かったら、俺たちと一緒に住まないか?」

「え!?」

「一人だと、寂しくならないか?」

 少し沈黙が流れた。

「ありがとう。翔くんは本当にやさしいわね」真珠ばあがやさしく微笑みながら言い、続けて「でも、遠慮しておくわ」と丁寧に答えた。

「そっか…」予想はしていたが、まだ少し心配だった。

「心配してくれてありがとう。でも、ばあは大丈夫よ! 近くには弥涼ちゃんも住んでいるし、友達もいるからね。それに…」真珠ばあはやさしい顔で言った。俺が気を遣っているつもりが、逆に気を遣われてしまった。そして続けて「翔くんとつゆりちゃんもいるからね!」と満面の笑みを浮かべて言った。それを聞いて俺の心配はどこかへ吹き飛んだ。真珠ばあが無理して言っているのではなく、本心からそう言っているのが伝わってきたからだ。

「これからも定期的に遊びに来てもいい?」俺は真珠ばあに尋ねた。

「ええ、もちろん!」真珠ばあも笑顔で答えた。

 それから俺は、桜の花びらが舞う中、白熱したバドミントンをしている二人の元に行き、混ぜてもらうことにした。

 

 その日の帰り道、暦神社の前を通りかかった時、ふと何かが囁くような声が聴こえた気がしたので、俺はつゆりに先に帰るように言って、境内の中に入った。耳を澄ましていると「あの時の借りはちゃんと返したぞ!」と囁いているような気がしたので、俺はなんとなくお礼をすることにした。賽銭を入れ、二礼四拍手一礼をし、心の中で「ありがとうございました!」と感謝の言葉を送った。すると、境内の木々が風になびき始め、俺にはその音が喜びを表現しているように聴こえた。この時、ようやく俺もここの神様と仲良くなれた気がしたので、試しにおみくじを引いてみると、大凶だった。どうやら俺と暦神社の神様は一生仲良くなることができない、と改めて悟った。

 というより、大凶のおみくじを始めて見たのでビックリした。本当に存在しているとは思わなかったので、逆に珍しいと思い、いい気分になった。どこかでおかっぱ頭の女の子に笑われているような気がしたが、俺はショックを受けるどころか、心は晴れ晴れしていた。俺は大凶のおみくじを引いた証拠を写真を撮っていたので、それをつゆりに見せて自慢すると、つゆりは素っ気ない感じで「ふーん、良かったね」と一言だけの感想だった。この時、ようやく自分が変なテンションになっていることを自覚し、我に返ることができたので、いつも通り落ち着いて過ごした。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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