周りの人で自分の人生が変わる!!
12月31日、大晦日。一年で最後の日だが、俺にとってはただの一日となんら変わりはない。いつも通りに起きて、いつも通りにルーティーンをこなし、いつも通りに読書したり、ご飯を食べたりして、いつも通りに眠る。これが俺にとっての大晦日であり、世間一般の若者ように、街に集まってはしゃぎながらカウントダウンをするなんてことは、ありえないのだ。大晦日には大掃除をするという家庭もあるらしいが、俺は普段から定期的に掃除しているので、特にする場所はない。それに、俺の家はそもそも物が少ない方だと思うので、断捨離するということもあまりない。つゆりは、毎年友達の家で年越ししているので、俺はいつも一人で年越しをしていた。大晦日をそんな風に過ごし始めて、何年も経つので、俺にとっては普通の一日として認識されていた。そしてこれからも変わることはないだろうと思っていた。しかし、今年の大晦日は、いつもと少し違うようだった。どうやら、俺の予想は、いつの間にかよく外れることが当たり前になってきているようだ。
俺はいつも通り6時に起床し、いつも通りのルーティーンを行った。そして、運動後のシャワーから出た後、水分補給のために冷蔵庫に水を取りに行くと、キッチンにはつゆりと四乃森さんがいて、何やら料理を作っているようだった。
「あれ? もしかして今日家で集まったりするのか?」俺はつゆりに尋ねた。
「あ! うん! そうだよ!」つゆりは手を休めることなく答えた。
「お兄さん! おはようございます!」四乃森さんが礼儀正しくあいさつしてきた。
「おはよう! クリスマスぶり…なのかな! 今日もゆっくりしていってね!」俺は社交辞令のあいさつを返した。
「はっ、はい!」四乃森さんは畏まったような返事をした。
「じゃあ、俺、ちょっと外出してくるわ!」
「え!? どこに行くの?」つゆりが作業中の手を止めて、驚いた顔をして聞いてきた。
「いや、特に行く当てはないけど…。家にいたら、つゆりたちの邪魔になるだろ?」
「あ! そういうこと! それなら心配しなくても、お兄ちゃんも参加メンバーに含まれているから!」つゆりは当たり前のように言い、止まっていた手を動かし始めた。
「え!? 何で俺も? 知らない人と一緒って嫌なんだけど…」俺は本音を言った。
「大丈夫! お兄ちゃんも知っている人だから!」
「え!?」俺が驚いていると、四乃森さんが「ささ! お兄さんはソファで座って待っていてください!」と言いながら、俺の背中を押してきたので、言われるがままに移動させられてしまった。ソファに座った後、俺は考え事をしていた。俺がつゆりの知り合いで知っている人と言ったら、この前のクリスマス会で一緒だったレオさんと六道くんくらいしかいない。ということは、今日来る予定の人はその二人だろうと推測した。それにしても、ついこの前、クリスマス会で一緒にパーティーをしたのに、こんなにすぐにまたパーティーをするとは、どこのパリピですか? と言いたくなってしまう。そんなことを考えながら水を飲んでいると、インターホンが鳴った。
「お兄ちゃん! 私、今手が離せないから、出てくれる?」とつゆりにお願いされたので、俺は玄関に向かい、ドアを開けた。
そこには、マフラーで顔を半分以上隠し、目しか見えない明らかに不審者のような人が立っていた。
「フォフォフォ! メリークリスマス!」とその人は言った。大晦日だというのに、メリークリスマスと言っているので、この時、不審者であると確信したが、適当に扱うと何をするのか分からなかったので、なるべく丁寧に対応することにした。
「あのー、訪問先を間違えていませんか? 家は水無月ですが…」
「フォフォフォ、間違えておらぬぞ! 水無月翔くんだろ?」その人の答えを聞いて、俺は内心焦っていた。俺の知らない人が、なぜか俺の名前を知っている。どこかで情報が漏れているかもしれない、と俺は身の危険を感じた。
「どうして俺の名前を知っているんですか? あなたは誰なんですか?」俺は率直に尋ねてみた。
「フォフォフォ、そんなに私の正体が気になるのかな?」その人が少し笑いながら言っているように聞こえたので、誰かのおふざけかもしれないと思い、少し強気にでることにした。
「いえ、そんなに気にならないですが、誰か分からない人を家に上げるわけにはいかないので、では!」と俺は言いながらドアを閉めようとすると、その人は「ちょちょちょ、ちょっと待って!」と巣の声になって、慌ててドアを閉めさせないように引き留めてきた。その時、顔を覆っていたマフラーが下がり、ようやく正体が分かった。
「あ! 弥生さん!」怪しい人の正体は雛月弥生さんだった。
「翔くん! チャオチャオ!」
「どうしたんですか? 何か用ですか?」
「うん! 今日は招いてくれてありがとう!」弥生さんは笑顔でそう言ったが、俺には何のことかさっぱり分からなかった。
「ちょっとお兄ちゃん! 弥生さんをいつまで玄関に立たせているつもりなの! 早く丁寧にもてなしてよ!」つゆりが見かねて俺に文句を言い、弥生さんに対しては「弥生さん! 兄が鈍くてすみません。どうぞ、上がってください!」と丁寧に対応していた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔しまーす!」そう言って弥生さんはブーツを脱いで、俺の家に上がってきた。
「ほっ! 本物の雛月弥生さん!」四乃森さんが弥生さんを見て、目をキラキラさせながら感動しているようだった。
「へぇー、ここが翔くんの家かぁ!」弥生さんはリビングを見回しながら言った。
「弥生さんはどうぞ、こちらで休んでいてください!」つゆりの腰は低く、とても丁寧な態度で弥生さんをソファに案内していた。
「うん! ありがとう! つゆりちゃん!」弥生さんが笑顔でそう言うと、つゆりは昇天しそうになっていた。
「それにしても、いつの間に計画していたんだ? 俺、全然知らなかったんだけど…」
「それは、私がつゆりちゃんに言わないようにお願いしたから、つゆりちゃんを責めないで!」
「いや、責めたりはしないけど、急だったから驚いただけだ!」
「だったら作戦は成功だね! 翔くんを驚かせるために計画したんだから! ね! つゆりちゃん!」弥生さんがつゆりに向かって親指を立てグーのポーズをすると、つゆりも同じように返していた。
どうやら、この計画は数日前に動き出したらしい。弥生さんがクリルマス会に参加できなかったから、それをつゆりに相談すると、大晦日にしないか、とつゆりが誘ったらしい。弥生さんも大晦日はフリーだったので、大丈夫ということになり、今回の計画を立てたとのことだった。それなら俺にも相談してくれればいいのに、と思ったが、クリスマス会に驚かされたから、仕返しをしてやろうと思ったらしい。俺が弥生さんに何をしたのか、心当たりがなかったので、尋ねたが、教えてくれなかった。
そんな事情を聞いていると、再びインターホンが鳴った。つゆりは準備で忙しそうだったので、俺が玄関まで行き、ドアを開けると、先程と同じように顔を半分以上隠して、目しか見えない状態の人が立っていた。
「あのー、もしかしてあなたは…」
「フッフッフッ! メリークリスマス! なんとあなたにプレゼントが当たりました!」とその人は言いながら、持っていたベルをリンリン鳴らした。
「いや、だからキミは…」
「あなたは普段から善を積んでいるので、私は感心しているのです! これはその行いに対する感謝の気持ちです!」とその人は言いながら、ラッピングされた箱を差し出してきた。
「いや、クリスマスはもうとっくに終わっているので、これは受け取れません!」俺は、彼女の正体には気づいていたが、流れに乗ることにして、懇切丁寧に受け取りを拒否した。
「フッフッフッ! そんなことを言わずに受け取ってください!」彼女は諦めずに押し付けてきた。
「いえいえ、知らない人から物を受け取るなと、小さい頃に教わったので、遠慮します!」と言いながら俺も突き返した。
「私はサンタですから、あなたは知っているはずです! ですから受け取ってもいいのです!」彼女は粘って押し付けてきた。
「サンタは何人もいると聞きました! だから知っているサンタと知らないサンタがいます! そんなに顔を隠しているサンタを俺は知らないので、受け取ることはできません!」俺も意地になって受け取りを拒否した。
彼女とそんなやり取りをしながら、いつ終わるのだろうと思っていると、弥生さんが様子を見に来て、流れが変わった。
「翔くん? さっきから何をしているの?」俺の戻りが遅かったので、弥生さんが気になって様子を見に来たようだった。
「弥生!?」彼女がそう言うと、顔を覆っていたマフラーが緩んでようやく素顔が見えた。
「皐月!?」弥生さんが彼女の顔を見て言った。
そう。彼女の正体は、藤皐月さんだ。俺は、最初から気づいていたが、なかなか言わせてもらえなかったので、ノリに合わせる方に途中でシフトチェンジしたが、この二人の反応は予想外だった。
「どうして弥生が翔くんの家にいるの!?」皐月さんが驚いた顔をして言った。
「皐月こそ、どうしているの!?」弥生さんも皐月さんと同じ顔をして言った。
「ちょっと! どういうこと? 翔くん!?」二人が声を合わせて俺に聞いてきた。
「いや、俺も分からないんだけど……。なんで二人が驚いているんだ?」俺は何も分からないので、逆に聞き返した。
「だって、今日は私とつゆりちゃんが計画したことで、皐月は参加する予定じゃなかったから…」弥生さんが計画の内容を少し教えてくれた。
「何を言ってるの? 今日のことは、私と将来の妹が計画したことなんだけど…」この発言からして、どうやら皐月さんもつゆりと何か計画しているようだった。この時、俺たち三人は事情を知っているだろう人物が一人思い浮かんだので、急いでリビングに向かった。
「つゆりちゃん!」「つゆり!」「将来の妹!」と俺たち三人はそれぞれ言い、「これはどういうこと?」と声を合わせてつゆりに尋ねた。
「あ! 藤さんも到着したんですね! これで全員揃いました! 料理はもう少し時間が掛かりそうなので、先に遊んでいてください!」つゆりは手を休めることなく答えた。
「いや、状況の説明をしてほしいんだけど…」俺は忙しそうなつゆりに対して、まずは説明するように促した。
「ささ! 三人とも! 今日は私たちがおもてなしをするので、座って待っててください!」四乃森さんがそう言いながら、背中を押してリビングに誘導するので、俺たちは流されてソファに座った。その時の四乃森さんが、あまり詳しいことは聞かないで、というような顔をしていたので、つゆりにはそれ以上追及しないことにした。しかし、現状を知るために、俺たち三人は知っていることの情報共有を始めた。
弥生さんの話は先程聞いた通りで、今度は皐月さんに詳しい経緯を聞いた。皐月さんも今日のことは数日前に計画し始めたらしい。つゆりに、この前の貸しを返して欲しい、という条件で相談すると、承諾してくれたので、準備を始めたらしい。皐月さんの計画では、最初は皐月さんと俺とつゆりの三人で遊び、途中から皐月さんと俺が二人で出掛けるという計画だったらしい。皐月さんが言っていた、この前の貸し、の内容と、つゆりのことを将来の妹、という独特の呼び方なのは少し気になったが、スルーすることにした。
二人の話をまとめると、つゆりが二人に相談されて、ダブルブッキングしたようだったので、俺は謝った。
「翔くんが謝ることないよ! ごめんね。責めちゃうような言い方して…」弥生さんが慌ててフォローしてくれた。
「そうだよ! 謝らなければならないのは、弥生だけなんだから!」皐月さんが続けてフォローしてくれた。
「ちょっと! どうして私だけが謝らなければいけないの?」
「だって、翔くんと将来の妹を困らせたでしょ!」
「それなら、皐月だって同じでしょ! ていうか、皐月が謝りなさいよ!」
「私は将来の妹と同盟関係みたいなものだから対等な関係なの! 一方、弥生はお願いをして受け入れてもらえたのだから、立場的には一番下なの! だからここは弥生が謝るべきだと思う!」
「私たちの関係を皐月の勝手な論理に当てはめないでくれる! 私とつゆりちゃんは友達なんだから!」弥生さんのこの発言に俺もつい頷いてしまった。
「それを言ったら、私とつゆりちゃんは将来姉妹になるのだから、私たちの方が深い関係になるから!」皐月さんがムキになって言った。
「さっきから気になってたけど、どうして皐月がつゆりちゃんと姉妹になる前提ではなしているの! 私かもしれないでしょ!」弥生さんがムキになって反論した。
「え!?」俺は弥生さんの発言に驚いて、つい声を出してしまった。
「あ! いや、今のは言葉の綾というか…なんというか…」おそらく、弥生さんは俺とつゆりを気遣って言ってくれたのだろうと思うが、俺が驚いたせいで、弥生さんも変に意識してしまい、困っているようだった。
「ついに本性を現したね! 弥生!」皐月さんが警戒したように言った。
そんないつも通りの言い争いをしていると、突然「ごめんなさい!」という声が響いた。声のした方に視線を送ると、つゆりが頭を下げて謝っていた。そして続けて「お二人やお兄ちゃんは悪くありません! 全部私のせいでこうなったんです」と頭を下げたまま言った。
「そ、そんなことないよ! つゆりちゃんは悪くない! つゆりちゃんは私たちのお願いを聞いてくれただけなんだから!」弥生さんがフォローした。
「そうそう! 将来の妹は全然悪くない! だから顔を上げて…」皐月さんもつゆりを気遣ってくれているようだった。
「でも、私がもっと上手く立ち回っていれば…」つゆりは自分の行動を反省しているようだった。
「それは、もう過ぎたことだから、気にする必要はない! 私も少し強引なところがあったと思うし…。言いにくかったでしょ? ごめんね」皐月さんがつゆりを気遣って謝った。
「それは……。それでも…」つゆりは言い淀んでいたので、図星だったのだろう。
「つゆりちゃん! ごめんね。気を遣わせてしまって!」弥生さんもつゆりに謝った。
「い、いえ! 私のミスなので、二人が謝る必要はないです! ごめんなさい」
「そんなに気にしなくていい! 将来の妹! 予定を少し修正しなければならないけれど、私は弥生が一緒でも構わないから…」
「そうだよ! つゆりちゃんは気にすることないよ! 私は皐月がいてもいなくても全然気にしないから!」
二人はつゆりをフォローしながらお互いを煽り、再びバチバチしていたので、俺が間に割って入ることにした。
「よし! じゃあ話はまとまったってことで、早速遊ぶか!」俺は無理やり話を終わらせ、話題を擦り返ることにした。
「そうだね! 翔くん! 何して遊ぶ? ゲーム? トランプ?」皐月さんはすぐに切り替えて、俺の提案に乗ってくれた。
「私、翔くんとゲームしてみたい!」弥生さんもその流れに乗って言った。
「弥生には聞いてないんだけど…」皐月さんは弥生さんを睨みながら言った。
「俺もゲームをしてみたいな! この前二人がしていたのを見て、一緒にやりたいなぁって思ってたし!」
「そうだね! じゃあゲームをしよう!」皐月さんが同意をしてくれ準備をしてくれた。
つゆりは、もう少し料理の準備があるということで、キッチンに戻り、四乃森さんもつゆりの手伝いをしていたので、大乱闘のゲームを俺と弥生さんと皐月さんの三人ですることになった。このゲームは昔から何回もやっていたから、それなりに強いだろうと思っていたが、二人も結構強くて、いい勝負だった。途中から四乃森さんも加わり、四人対戦になった。四乃森さんはゲーム初心者で、最初の方は俺たちより圧倒的に弱かったが、少しコツを教えると、あっという間に上達して、いい勝負をするようになった。一通り盛り上がったところで、つゆりの料理の準備ができたということで、昼休憩をとることにした。
つゆりが作ってくれた料理は、握り寿司、天ぷら、ローストビーフ、フライドチキン、サラダ、ヴィシソワーズ、コンソメスープなど多種多様だった。寿司は新鮮な魚を選ぶところから始め、捌いたり、酢飯を作ったりなど、まるで老舗の寿司屋さんのような手順を一人でやっていた。つゆりがいつの間にか、ここまでできるようになっていたことに、俺は驚きながらも、嬉しさもあった。今日は弥生さんがいたので、いつも以上に頑張ったらしい。どの料理も逸品で、みんなにも好評だった。
「ほんっっっとに美味しい! つゆりちゃん! 私の家に一緒に住まない?」弥生さんはつゆりの手を握って懇願しており、つゆりもその状況に顔を赤くして照れて、答えを迷っているようだった。
「さすが将来の妹! どれもとても美味ね!」皐月さんがそう呟いたのが聴こえた。
「つゆりちゃん! 今日のために頑張ったもんね!」四乃森さんはつゆりの努力を知っているような発言をした。
「ちょっと! 桜! それは言わない約束でしょ!」つゆりは焦った様子で四乃森さんに言った。
「そうだったんだ! ありがとう! つゆりちゃん!」
「これを作るのは大変だったでしょう! ありがとう! 将来の妹!」
「ありがとな! つゆり!」俺はつゆりの頭を撫でながら言った。
みんなから感謝され、つゆりは今までで一番顔を赤くして照れており、言葉も出ないようだった。
昼食後は、トランプを使ってババ抜きをすることになった。ババ抜きと言っても、一般的なババ抜きではなく、二人対戦で行う心理ゲームだ。皐月さんがふと「そういえば! 翔くんって相手の心を見抜くのが得意だよね!」と突然思い出したかのように言ったのをきっかけに、弥生さんが興味を持ったので、することになった。
ルールは単純で、相手が1から4までの4枚の数字カードと1枚のジョーカーを合わせた5枚のカードを好きな順番で横に並べ、その中から俺がジョーカー以外のカードを全部引くというゲームだ。少し前にテレビで見てからカッコいいと思ったので、俺も練習をして、なんとかできるようになった。これは相手の心を透視するとか、考えていることが分かるなどのスピリチュアルではなく、仕草や視線、声のトーン、質問の受け答えなどで、相手を誘導する尋問みたいなものだと思っている。一流のFBIやメンタリストもこのテクニックを使っているらしい。それはあまり上手くできないが、人によっては分かりやすいこともあり、弥生さんはとても分かりやすかった。良い言い方をすると、嘘が付けない純粋な人だということだ。悪い言い方をすると、騙されやすいということだ。三回挑戦したが、俺の全戦全勝だった。次に皐月さんと三回対戦した。一回戦目は俺が勝ち、二回戦目は、皐月さんの勝ち。勝負は最終戦に持ち込まれた。二回戦目の敗因としては、皐月さんが無を貫いたので、上手く誘導できずに、ジョーカーを引いてしまった。それを克服するために、俺は皐月さんの心を揺さぶることにした。先程はゲームに関することを質問して負けてしまったので、今度は皐月さんをとことん褒めることにした。すると少しずつボロが出始めて、最終的に勝つことができた。皐月さんは負けたはずなのに、ゲームを終えた後、とても嬉しそうに満足しているようだった。つゆりは 前に何度か俺の練習に付き合ってくれ、もう懲りたらしく、今回はしないということだったので、次は四乃森さんと対戦した。四乃森さんもとても分かりやすく、あっさりと勝つことができた。というより、四乃森さんは対戦中なぜか俺とほとんど目を合わせることがなかったので、シャイな人なんだな、と思った。
その後は、大富豪や7並べ、ポーカー、ブラックジャックなどのトランプゲームをしたり人生ゲームをしたりして遊んだ。そして、人生ゲームで最下位だった弥生さんに一位だったつゆりが、一つだけ命令することになった。つゆりは恐れ多いということで、命令を拒否していたが、最初に決めたルールだったので、守らなければならないという雰囲気になり、渋々承諾した。弥生さんは「私にできることなら何でも構わないよ!」とやる気満々で待ち構えていた。そして、つゆりが弥生さんに命令した内容は、生歌を聴きたい、ということだった。弥生さんも「そんなことでいいの!?」とあっさり承諾し、家でカラオケをすることになった。テレビを動画サイトに繋ぎ、マイクとスピーカーを持ってきて準備万端。あの人気インフルエンサー兼アーティストの雛月弥生さんの生歌をまさか家で聴くことができるとは思ってもいなかった。弥生さんはつゆりにリクエストを聞き、その曲を歌ってくれた。弥生さんが歌い終わった後、つゆりは感動して泣いており、隣で聴いていた四乃森さんも涙を流していた。それを見て対抗心を抱いたのか、今度は皐月さんが持ち歌を歌い出した。皐月さんが一番を歌ったところで、つゆりと四乃森さんは驚いた顔で見ていた。四乃森さんが「この歌声…すごく似ている…」と呟いていたので、正体がバレるのも時間の問題だな、と他人事のように思った。皐月さんが歌い終わると、つゆりと四乃森さんは拍手をしていたので、俺も拍手を送った。
「藤…さん。すごく歌がお上手ですね! それに五月さつきさんというVチューバーの歌声に似てました!」四乃森さんがとうとう確信に迫る発言をした。
「あ! それだ! 私も誰かに似ていると思ってたけど、その人だ!」つゆりもようやく気づいたという感じで言った。
「あ! その人ね! 私だから似ているのは当然だよ!」皐月さんはあっさりとネタバレをした。
「え!?」つゆりと四乃森さんは声を揃えて言った。
「そんなあっさり言っていいのか!?」俺は思わず尋ねた。
「大丈夫だよ! 別に隠しているわけじゃないから…。それにこの二人なら変に言いふらしたりはしないだろうし…」皐月さんは全く心配していない様子で答えた。
「ほんと皐月って、そこらへんあっさりしてるよね!」弥生さんが慣れた様子で言った。
「えーーーーー!!」つゆりと四乃森さんが今度は大きな声で揃えて驚いた。
「え!? ほっ、本当に本物の五月さつきさんですか!?」四乃森さんが皐月さんに尋ねた。
「本物かもしれないし、偽物かもしれないよ!」皐月さんはからかうように言った。
「いや、絶対本物だ! 何で今まで気づかなかったんだろう…」つゆりはようやく真実に辿り着いたかのような顔をしていた。おそらく今までのことを振り返って、違和感を抱いた時のことを思い出したのだろう。
「いろんな人に絡まれると面倒だから、言いふらさないでね!」皐月さんは「シー」というポーズをしながら内緒にするようにお願いした。それなら最初から言わなければいいのに、と俺は思っていたが、口に出さないことにした。
「あ! はい!」二人は内緒にすることを約束した。
それからカラオケ大会になり、つゆりと四乃森さんも歌っていた。俺も歌うように促されたが、頑なに断って、今回は聴くことだけに徹した。
そして午後5時になったので、今日のパーティーはお開きすることになった。
「本当はこのまま一緒に年越ししたいんだけど、私、明日仕事だから…」弥生さんが残念そうに言った。
「新年早々仕事なんて、すごいです! その配信、絶対観ます!」つゆりが憧れの眼差しを送りながら言った。
「私も明日は朝から同業者と配信する予定なんだよね。こんなことなら、断っておけばよかった! いや、今からでもキャンセルしようかな!」皐月さんは真面目な顔をして言いながら、ポケットからスマホを取り出した。
「いやいや、さすがにドタキャンはマズいだろ?」皐月さんは本気でやりかねないので、思わずツッコんでしまった。
「でも、私にとって優先すべきことは、翔くんと年越しすることだから!」皐月さんは真面目な顔をして俺の眼を見ながら言った。
「正直、その気持ちはとてもありがたいけど、明日の配信も観てみたいんだよなぁ!」俺は苦し紛れに言った。
「そうなんだ! 分かった! 明日頑張るね!」皐月さんはあっさりと納得してくれたので、安心した。そのやり取りを隣で見ていた、弥生さんとつゆりが何も言わずにジト目で俺を見ていたが、気づかない振りをした。
「あ! そういえば、今日のお礼に渡すものがあったんだった!」弥生さんはそう言って、持っていた荷物から、ラッピングされた袋を取り出し、俺とつゆり、四乃森さんにそれぞれ渡した。つゆりと四乃森さんは興奮して、早速開封しだしたので、俺も自分の分を開封することにした。つゆりと四乃森さんへのプレゼントは、弥生さんがプロデュースしているコスメグッズとサイン入りの最新アルバムだった。二人は感動しており、四乃森さんは「使うのがもったいないから、飾っておく!」と目を輝かせながら言っていたので、弥生さんが「そこは使って欲しいんだけど!」とツッコミを入れていた。俺へのプレゼントは、以前貰った香水とは別の香りの香水とサイン入りアルバム、それに遊園地のペアチケットだった。これは誰かさんと同じで、暗に今度誘えという訴えなのだろうか。弥生さんは笑顔だったので、その真意はよく分からなかったが、とにかくありがたく頂戴し、感謝した。
「そういえば! 私も翔くんたちにプレゼントを用意しているんだった!」皐月さんはそう言って、荷物からラッピングされた箱を取り出し、俺たちに配り始めた。先程同様、中身を確認すると、Vチューバー五月さつきの〇んどろいどとサイン入りアルバムだった。この時、皐月さんは最初から正体を隠すつもりがないんだな、改めて思った。さらに、俺にはそれに加えて、博物館や美術館のペアチケットが入っていた。皐月さんのことだから、これは「今度誘え!」という意味なのだろう、と解釈した。とにかくこれもありがたく頂戴し、感謝した。それに、つゆりと弥生さんと皐月さんは、どこか似ているところがあるかもしれない、と感じた。
俺は二人を家まで送ろうと思っていたが、いつの間にか弥生さんがタクシーを呼んでいたので、二人はそれに乗って帰るということになり、家の前で見送ることにした。皐月さんは、タクシーに乗る直前まで俺と帰ると言って抵抗していたが、弥生さんに無理やり乗せられていた。四乃森さんはつゆりが送っていくことになり、俺は先に家の片づけを始めた。静かになった家で俺は一人考え事をしていた。大晦日をこんな風に遊んで過ごしたのは初めてだったので、少しパリピの気持ちが分かった気がした。今までは家族か一人で過ごすことが多かったが、友達と過ごす大晦日も悪くないな、と感じた。以前の俺だと、何かの行事に関係なく、一人で過ごすことが当たり前で、その方が良いとさえ思っていたが、最近は大事な人や友達と一緒に過ごすのも楽しいと感じるような心境の変化が起きている。人間は社会的な生き物なので、他者と関わることで幸福感を抱くのは当然としても、自分がこんなに楽しいと感じるとは思っていなかった。正直、今後何かがあって、今のこの関係性が全てなくなったら、強い孤独に襲われるかもしれない、という恐怖があるが、それを理由に、他者との関りを遮断してしまうと、せっかくの人生を有意義に過ごすことができなくなるだろう。友達は少なくて構わない。ただし、その人たちとの良い関係を大切にしたいと俺は思う。孤独な人が、良い人間関係を築くと寿命が15年延びるという研究もある。もし、孤独で行き詰っている人がいるのなら、引っ越しを検討した方がいいかもしれない。人は思っているよりも住んでいる環境や周りの人たちから影響を受けているが、その事実を知っている人はあまりいない。周りの人や隣人により、ポジティブにもネガティブにも影響を受けているのだ。たとえば、仕事の能力は伝染しやすく、隣に座っている人によって、生産性が10%も左右されると言われている。つまり、集中して何かに取り組みたい時は、集中している人の隣に座った方が良いということだ。幸福度も伝染するようで、幸福な人と付き合うと、自分も健康になって幸福になれるということだ。
一方、厄介な事実もある。ポジティブな影響に比べ、ネガティブな影響の方が7倍の感染力があると言われている。他者のストレスは受動ストレスとして感染するらしく、これにより自分の脳の認知力、判断力、ストレス耐性などが奪われてしまい、不健康になってしまうのだ。もし、頻繁に愚痴を言う人やネガティブな発言しかしない人が近くにいるのなら、離れた方がいいかもしれない。自分では意識していなくても、相手から影響を受けている可能性はあるので、適宜、人間関係を振り返った方がいいだろう。
今の俺は、いい人たちに囲まれていると思う。俺のことをいつも信頼してくれている牡丹さん、俺に新しい経験をさせてくれるベルさん、俺にできないことをたくさんしている弥生さん、なぜか俺のことをなんでも知っている皐月さん、俺が間違ったことを言うと指摘してくれるひまわりさん、スピリチュアルで俺を驚かせてくれる桔梗さん、控えめだけど一番みんなのことを気遣っている霞さんと、たまに毒舌になるカスミン、いつも凛としていて困った時は頼りになる睦月会長、たまに何を言っているのか分からなくなるが俺のことを大事に思ってくれているつゆり、調子に乗るとイラっとするが実は努力家の紫苑、みんなにやさしい時雨など、他にもいろんな人と関わってきたが、こんな俺が、こんなにやさしくて思いやりのある人たちと関わることができて、本当に幸せに思う。
昔はいじめられたり、孤独を感じたりして、誰も味方がいないと思い込んでいた時期もあったが、環境さえ変われば、自分も変わることができる。もし、今現在、人間関係で悩んでいる人がいるのなら、これだけは言っておきたい。自分にやさしくしてくれる人や味方になってくれる人は、必ずどこかにいるので、諦めないで欲しい。世界は広く、いろんな人がいる。もし、目の前のことに囚われて、全てを投げ出したいと思っているのなら、まずは自分にやさしくしよう。そう思うのは誰だってあるし、悪いことではない。そして、落ち着くことができたなら、一度視野を広げて世界を見てみよう。そうすれば、今まで見えていなかったものを見ることができるかもしれない。これは、言うは易く行うは難しだが、焦らず取り組んで欲しいと思う。一度きりの人生、誰と付き合うかは自分で選ぼう。
つゆりが帰ってきた後は、特に何かをすることなく、ゆっくりと過ごした。俺は読書をし、つゆりは弥生さんと皐月さんの動画を観ていた。晩御飯は昼食の残りと、年越し蕎麦を作って食べた。そして、いつもの時間にお風呂に入り、俺は11時に就寝した。少し興奮しており、すぐには寝付けなかったが、20分くらいで眠ったと思う。しかし、夜中の0時に突然スマホのアラームが耳元で鳴って、起こされることになった。普段はスマホを寝室に持ち込まないようにしているので、なぜ俺の枕元にスマホが置いてあったのか、と疑問に思ったが、おそらくつゆりの仕業だろうということはすぐに分かった。しかもサイレントモードを解除して音量を最大にしていたので、さすがに驚いた。俺は起き上がり、電気をつけて、スマホを見ると、グループチャットに、あけおめメッセージが届いていた。ほとんどのコメントが0時0分に来ており、記念すべき新年の一番はベルさんだった。おそらく、時計を見ながら押す準備をしていたのだろう。そんな光景が簡単に想像できて、少しクスっとした。みんなこんな時間まで起きているんだな、と思いながら、俺も「あけましておめでとうございます!」というシンプルなメッセージを送って、電気を消し、再び床に着こうとすると、今度は着信音が大音量で鳴り響いた。サイレントモードにするのを忘れていたので、俺は驚いてスマホを宙に投げてしまい、危うく落としてしまいそうになったが、ギリギリのところでキャッチできた。まずは着信の音量を小さくしながら、電気をつけてと、マルチタスクをこなし、画面を確認すると、牡丹さんからだった。
「はい!」俺は応対した。
「あ! あけましておめでとうございます! 翔くん!」牡丹さんが開口一番に言った。
「あぁ! あけましておめでとうございます! 牡丹さん!」俺も返事をした。
「翔くん、もう寝ていると思ってたけど、返信があったから電話しちゃった! 迷惑…だったかな?」牡丹さんが心配そうな声で言った。
「迷惑じゃない。寝ていたのは事実だけど、つゆりに起こされてしまったから!」俺は率直に答えた。
「そうなんだ! ありがとう! 電話に出てくれて!」牡丹さんは安心したような声で言った。
「牡丹さんはずっと起きていたのか?」
「うん! 私が一番にメッセージを送ろうと思っていたのに、ベルちゃんに一番を取られちゃった!」
「そうだったんだな!」
「でも…」牡丹さんはそこまで言って少し黙り込んだ。
「でも?」俺は何を言おうとしたのか気になったので、繰り返し尋ねた。
「今年は翔くんと一番に話せたからよかった!」
そう言われて、俺は心拍数が急上昇するのが分かった。気を遣って言ってくれているのは分かっているが、これは本能的な現象で回避不可避なので、仕方かなく受け入れるしかなかった。
「そっ、そうだな! 俺も話せてよかった! 今年もいい年になりそうだ!」俺は声を震わせながら答えた。
「昨年は翔くんにとっていい年だったの?」牡丹さんにそう聞かれて、俺はさっきの発言が無意識に出たことに気づいた。
「え!? まぁ、そうだな! いろんな人たちと出会うことができて、いろんな経験もすることができたからな! 牡丹さんとも仲良くなったし!」俺が率直な感想を言うと、牡丹さんは何も言わなくなり、少し沈黙が流れた。
「あれ!? 牡丹さん? どうした?」俺は電話が切れたかと思って、声を掛けた。
「え!? あ! ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃった!」牡丹さんの応答があったので、電話が切れていないことが分かりホッとした。
「もう夜遅いからな! 眠くなってもおかしくない時間だ!」おそらく牡丹さんは眠気に襲われていたのだろうと思った。
「そっ、そうだね! じゃ、じゃあ、そろそろ電話切るね! 出てくれてありがとう!」
「そうだな! 寝不足は健康に良くないから早く寝ないとな!」
「今年もよろしくね! 翔くん!」
「あぁ! 今年もよろしく!」
そう言って電話を切り、電気を消して床に着こうとすると、また着信音が鳴り響いた。またもやサイレントモードにするのを忘れていたが、今回は音量を下げていたので、驚きはせず、冷静なまま電気をつけ画面を見た。相手は桔梗さんだった。
「はい!」と俺が応答すると少し沈黙が流れてから、桔梗さんの声が聴こえ始めた。
「我が同胞よ! こうして無事に新たな輪廻を迎えられたことを嬉しく思うぞ!」
「あけましておめでとう! 桔梗さん!」俺は普通に返事をした。
「前世ではいろいろと助けられたからな! 今世では我が手を貸すことを約束しよう!」
「俺の方こそたくさん助けられたよ! それに、いろいろ楽しかったし!」
「まっ、まぁ、これからも悪魔は出続けるだろうからな! また、一緒に戦ってくれると我も助かるのだが…」
「そうだな! 今年もよろしく!」
「そっ、そうか! よかった! 用はそれだけだ! ではまたな!」
そう言って、俺たちは電話を切った。そして今度は、サイレントモードに忘れずにしようと操作していると、弥生さんから着信があった。
「はい!」
「あ! 翔くん! あけおめチャオチャオ! お昼ぶりだね!」
「あけましておめでとう! 今日仕事なのに、まだ起きてたんだな!」
「うん! 翔くんに電話するまで寝ないようにしてたから!」
「半日前に会って話していたんだけどな!」
「それとこれとは別だよー! 昨日と今日は西暦が違うんだから!」
「そんなもんなのか?」
「そうだよ! それにしても、翔くんなかなか繋がらなったんだけど、誰かと電話していたの? ハッ! もしかして皐月とか?」
「いや、電話はしていたけど、皐月さんじゃなくて、牡丹さん、桔梗さんと電話をしていた」
「そうなんだ! 油断したなぁ。ちょっと出遅れちゃった! でも皐月には勝ったからよかった!」いつの間にか電話をすることが勝負になっているようだった。この流れで行くと、皐月さんからも電話が掛かるんだろうな、と推測して、もうしばらく寝られないことを覚悟した。それから、弥生さんと新年のあいさつをして、電話を終えた後も、霞さんとカスミン、ひまわりさん、時雨、紫苑、皐月さんと次々に電話が掛かってきて、その応答で寝ることができなかった。気が付いたら午前3時になっており、電話も鳴らなくなったので、ようやくゆっくり休めると思って、電気を消して床に着こうとすると、またスマホが光り出した。画面を確認するとベルさんからだったので、電気をつけて電話に出た。
「はい!」俺は睡魔を堪えながら応答した。
「Oh! ようやく繋がりまシタ! 翔サン! HAPPY! NEW! YEAR!」午前3時だというのに、ベルさんのテンションは高かった。いや、逆に深夜のテンションになっているのかもしれない、と思った。
「あぁ! HAPPY NEW YEAR to you too!」俺も同じ感じで答えようとしたが、もう声を出す力がほとんど残っておらず、ローテンションで新年のあいさつをした。
「Thank you for everything last year! May this year be a happy and fruitful!」(昨年はいろいろとありがとうございました! 今年があなたにとって幸せで素敵な年になりますように!)ベルさんは久しぶりに英語であいさつしてきた。
「Likewise!」(こちらこそ!)俺も英語で返事をしたが、頭は朦朧とし始めていた。その後もベルさんは英語で何かを言っていたが、何を言っているのか聞き取れずに、電話は終わってしまった。そして俺はようやく眠りにつくことができた。
しかし、その睡眠も長くは続かず、午前5時に突然つゆりが部屋に押しかけて来て、無理やり起こされてしまった。頭がボーっとしていたので、つゆりが何を言っていたのか、よく聞き取れなかったが、とりあえず言われるがまま従い、着替えて、外出することになった。外の寒さで少し目が覚め、それから、ただただつゆりについて行き、高台でベンチに座った。この時ようやくつゆりの目的が分かった。どうやら初日の出を見に来たらしい。つゆりは初日の出を見るのが初めてだったらしい。俺も初めてだった。というより、今までは興味もなかった。なぜなら、今までは年越しも普通の一日と同じだと考えていたから、たとえ一年の最初の日に太陽が昇る光景を見たとしても、特に感動することもないだろうと思っていた。実際今でもそう思っている。日の出なんて、晴れた日なら一年中見るチャンスがあるのだから、そんなに特別なものと思ったこともなかった。そんな考え事をしながら、いざ見てみると、思っていたよりも綺麗に見えたので、これはこれでありかもしれない、と思い直すことにした。それに何より、つゆりが感動して喜んでいたのが分かったので、そのことの方が俺にとっては嬉しかった。そんな風に思えるのなら、また初日の出を見に来てもいいかもしれない、と思った。
そして、外が完全に明るくなった頃に家に帰り着き、俺は移動しながらアウターを脱いでそのまま布団にダイブした。とりあえず、昼頃まで寝ようと思っていたが、よく寝付けなかったし、午前10時には、牡丹さんとベルさんが尋ねて来て、初詣に行くことになったので、開き直って寝ないことにした。完全に寝不足で、脳が正常に働かないので、今日は特に発言に気をつけようと思った。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




