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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
52/78

自信をつけたいなら、まず行動しよう!!

 巷では「自信を持って行動せよ!」という言葉をよく耳にする。みんなも一度や二度、聞いたことがあるのではないだろうか。しかし、普段から何事に対しても自信を持っている人は一体どれ程いるのだろうか。俺が思うに、おそらくそのような人たちは少ないだろう。何か新しいことや経験したことのないことなどをする時は、自信なんてないのが当たり前だ。自信があるように見える人でも、内心では怯えているのかもしれない。それは決して恥ずかしことではなく、人間として正常の反応だ。なので、何かをする時には、自信を必ずしも持たなければならない、というわけではないということだ。むしろ自信がない方が上手くいくこともあるだろう。なぜなら、自信がないことで、しっかりと準備をすることができるからだ。やったこともないことに対して謎な自信を持っていると、準備を怠ったり、細かいところまで目が行き届かなかったりして、失敗してしまうリスクがある。その点、自信がなければ、最後まで気を抜かずに準備することができるだろう。

 多くの人は、自信がないために夢や望み、本当にやりたいことなどに挑戦しないことがある。こういう人たちは、もっと自信が持てるまで力を最大限発揮できないから、目標を達成できない、と思い込んでいる。自信が持てない主な理由は5つある。期待が大きすぎる、自己評価が厳しい、恐れに囚われる、経験が不足している、スキルが不足している、の5つだ。これらに陥っていると自信を持つ前に諦めてしまうことになる。しかし、この考えの人たちは自信について勘違いしている。自信をつけたいなら、まずは行動をすればいい。そうすれば自信はあとからついてくる。自信がなくて行動していない人は、いつまで経っても自信をつけることなんてできない。自信をつけたいなら練習が必要だ。何かのスキルを習得するには練習するのが当たり前だろう。手っ取り早く簡単に身につくスキルなんてない。スポーツ然り、音楽然り、自信も然り。

 新しいスキルを身につけるには、4つのステップがある。1つ目はスキルを磨くことだ。たとえば、テニスが上手くなりないなら、ラケットを振る、ボールを打つなど、絵が上手くなりたいなら、たくさん絵を描くなどだ。言い換えるとひたすら練習するということだ。2つ目は、実際に使ってみる、だ。ある程度スキルを磨くことができても、それだけでは上達はしない。そのスキルを効果的に使うことが大事だ。テニスの場合だと試合をすることだ。3つ目は、結果を評価することだ。身につけたスキルを使った結果、何が効果的で、何が効果的でなかったかなど、自分を責めることなく評価することだ。そして4つ目は、必要ならやり方を変える、だ。得られた結果によって、上手くいくやり方を増やしていき、上手くいかないやり方は変える。このサイクルを繰り返すと、自信は勝手についていくだろう。しかし、これは言うは易く行うは難しである。恐れや不安で途中で挫折してしまうこともあるだろう。失敗して諦めたくなる時もあるだろう。それらの感情を抱いたとしても心配しなくてもいいし、自分を責めなくてもいい。それらの感情は、人間として正常な証拠だ。それに、本当の自信とは、恐れのない状態ではなく、恐れとの関係が変化した状態のことだ。

 多くの人は、恐れることが悪いことだと思い込んでいるのではないだろうか。恐れは弱さの表れだ、恐れは能力を損なう、恐れは足を引っ張る、自信を持っている人は決して恐れない、などと思っていないだろうか。これらは全て間違いだ。そもそも人間には、新しいことをする時に必ず恐れの感情を抱くようにインプットされている。つまり、恐れは弱さの表れではなく、正常な反応だということだ。それに恐れを上手く使えば、自分の能力を高めてくれる。一流のスポーツマンやアーティストたちは、恐れや不安を感じた時、意図的に高揚している、盛り上がる、湧き上がるなどと表現することで自分の能力を高めているらしい。信じられないかもしれないが、考え方の違いで、良くも悪くもなるということだ。それに、恐れの感情が足を引っ張ることはない。恐れに対する自分の態度で身動きが取れなくなる人が多いのだ。

 人の成長には、コンフォートゾーンから出ることが欠かせない。コンフォートゾーンとは、快適な空間という意味で、その場にいると心地よく感じる場所のことだ。人によって様々だが、誰にでもコンフォートゾーンはあるだろう。俺のコンフォートゾーンは家だ。コンフォートゾーンにいると快適なので、ずっとその場に留まっていたいと思うことがあるが、ずっとコンフォートゾーンに籠っていては、人は成長することができない。そこから飛び出すことで、いろんなことを学んだり経験したりすることで成長できるのだ。しかし、コンフォートゾーンを出て、リスクを冒す時は、人は必ず恐れを感じる。それは正常な反応なので心配する必要はない。その恐れに囚われずに、淡々とやることができれば、恐れはいつの間にかなくなり、自信に変わっているだろう。

 つまり、最初から自信がある人なんていないのが正常だ。自信がないからと言って行動を起こそうとしない人には強くこのことを言いたい。自信がないからこそ上手くいくこともある。恐怖症など過度に恐れを感じる人は、専門医に相談することを勧めるが、そうでないなら、行動してみよう。最後にもう一度、大事なことを言っておこう。自信がなくても、まずは行動しよう。そうすれば自信はあとからついてくる。


 12月28日、午後1時、この日は珍しく霞さんから誘われてスケート場に来ていた。滑り方を教えて欲しいと相談されたので、行ってみると、霞さんの他に桔梗さん、ひまわりさん、七海さん、御手洗さんの一年ズが揃っていた。それに、御手洗さんの彼氏の五味くんもいた。俺はスケートがそこまで上手くないので、俺よりも上手いだろうと思われる時雨と紫苑を誘って三人で来た。順番にスケートシューズを借りて、ベンチで履き替えている時、カスミンが声を掛けてきた。

「あ! その靴下! カスミンたちがプレゼントしたやつじゃニャいか?」

「ん! あぁ、そうだな! どう? 似合ってるかな?」

「うーん。良いんじゃニャいか」カスミンがそう言って、霞さんも頷いていた。

「そっか! ありがとう!」

 

 俺の準備できた頃には、みんな先に滑り始めていた。俺の予想通り、時雨と紫苑は滑るのが上手かった。前だけではなく、後ろ向きにも滑っていて、慣れているようだった。それに、いつも通り周りの女子たちから注目を集めていた。ここまでは予想した通りだったが、驚いたこともあった。ひまわりさんの滑りが、まるで妖精が舞っているかのような可憐な動きで見惚れてしまった。ジャンプしたり、高速回転したり、とプロのような滑りをしていた。ひまわりさんが近くに来たので、俺はたまらず声を掛けた。

「ひまわりさん、スケート上手いんだな!」

「そうですか? ありがとうございます。一応、前に習っていたことがあるので。」

「そうだったのか! だからあそこまで上手く滑ることができるんだな!」

「いえ、久しぶりなので、まだ感覚が戻ってないです」

「え!? あれ以上のこともできるのか?」

「はい。ていうより、さっきのはまだ何もしてないですよ!」

「ははっ…。そうなのか…」あまりの実力の違いに会話が成立しないことを悟ったので、これ以上は聞かないことにした。ひまわりさんはもう少しで感覚が取り戻せそうということで、スピードを上げて先に行った。

 

 茫然と立ち尽くして、ひまわりさんの後姿を見ていると、桔梗さんが話しかけてきた。

「汝よ! どうしたのだ? そんなところでボーっと立ち尽くして?」

「え!? あぁ、いや、圧倒的な実力差があると、嫉妬の感情すら抱かないんだなぁ、と思って…」

「ん? 汝は何を言っておるのだ?」

「いや、ごめん。何でもない! それにしても、桔梗さんも滑るのが上手いんだな!」

「フン! 当然だ! 我を誰だと思っている! 今は闇の力を宿しているが、以前は氷の力を操っていたのでな!」

「え!? 桔梗さんもスケートを習っていたのか?」

「習ってはおらぬ! 毎年冬になると家族で遊びに来ていたのだ!」

「あぁ! そういうことか!」

「そんなことより、汝! 我が渡した力をコントロールするブレスレットをしているようだな!」

「え! あぁ! これか! せっかく桔梗さんに貰ったから、つけないとご利益が得られないかもしれないと思って! 似合うかな?」

「そっ、そうだな! なかなかいいと思うぞ! 秘められた力を感じる!」

「そっか! ありがとう!」

「で、では、我は先に行くぞ!」桔梗さんはそう言って、先に進んで行った。


 桔梗さんの後姿を見送っていると、今度は七海さんが声を掛けてきた。

「先輩! いつの間にひまわりちゃんや桔梗ちゃんとも仲良くなったんですね!」

「ん? そんなに仲良く見えるのか? 俺は普通に接しているだけだけど…」

「ふーん。先輩にとってはそれが普通なんですね!」七海さんが含みを持たせた感じに言った。

「あああ、あの! このあと、どうすればいいんですか?」霞さんが壁につかまりながらゆっくりと前に進み、震えた声で俺たちを呼んだ。

「お! 準備ができたみたいだな!」と俺が言うと、霞さんが頷いたので、続けて「じゃあ、練習を始めるか!」と言って、スケートの練習を始めることにした。

 霞さんの現状を確認すると、壁から手を離せないくらい不安定で一人で立とうとしても、バランスを崩して倒れそうになる程だったので、まずは壁につかまったまま前に進む練習をした。両手で壁を掴んでいるとバランスが悪いので、俺は霞さんの左手を掴み、転ばないように気を付けながらゆっくりと前に進んだ。その状態に少しずつ慣れた様子だったので、今度は一人で立つ練習を始めた。足の角度に気を付けるように言うと、始めは何度か転びそうになったが、徐々に一人で立てるようになっていった。次は、滑り方の練習をした。俺が左側、七海さんが右側で霞さんを支え、交互に足を出すように声を掛けながら一緒に滑った。この時も、何度か転びそうになったが、決して弱音を吐くことなく、練習していた。支えられた状態である程度滑れるようになったので、一度休憩することにした。霞さんと七海さんにベンチで休んでもらっている間に、俺は自販機に飲み物を買いに行った。霞さんはホットココア、七海さんはカフェオレと注文を受けていたので、注文通りのものを買い、二人のいるベンチに戻って隣に座った。

「ああ、あの! ごめんなさい。せっかくの遊びに私の練習に付き合わせてしまって」霞さんが小さな声で言った。

「何言ってるの! 謝ることなんてないよ! 私たちも楽しんでるんだから! ね! 先輩!」七海さんが同意を求めてきたので、俺も真面目に答えることにした。

「そうだな! 元々練習するつもりで来たんだから、気にすることはない!」

「でも、私がもっと上手くできていたら…」霞さんは申し訳なさそうな顔で言った。

「そんなことないよ! 少しの練習であれだけ滑れるようになったんだから、すごいことだよ! ね! 先輩!」七海さんが再び同意を求めてきた。

「そうだな! 霞さんが頑張ったから上達は早い方だと思う! 次は一人で滑れるように練習だな!」

「私、一人で滑れるかな…。自信ないです」霞さんが不安そうな顔をして言った。

「霞ちゃんなら大丈夫だよ! 私だってできるんだから! それに、最初は誰だって自信なんてないよ! ね! 先輩!」

「そうだな! 何かに挑戦している時に自信がないのは当たり前だ! 自信ってのは、少しずつ練習を積み重ねて、ある程度できるようになったらつくものだからな! だから、自信がないからって悲観的にならなくてもいいと、俺は思う!」

「ありがとう、ございます」霞さんは小さな声で言った。その顔は心配事を解消したように見えた。それを聞いた七海さんはホッとした顔をしているように見えた。

「それにしても、霞さんはどうして俺に練習を依頼したんだ? 俺よりもひまわりさんや桔梗さんの方が上手いと思うけど…」俺は気になっていたことを率直に尋ねた。

「そそ、それは…」霞さんは答えに困っているようだった。

「先輩! そんなの、先輩と滑りたいからに決まってるじゃないですか!」七海さんが困っている霞さんの代わりに答えてくれた。

「え!? 杏ちゃん!? それは…」霞さんはまるで信頼していた人に裏切られたかのような反応をしていた。

「そっか! まぁ俺もスケートは久しぶりだから、誘ってくれてありがとな!」俺が感謝すると、霞さんは顔を赤くして俯いた。

「先輩! 罪な男ですねぇ」七海さんが含み笑いしながら言った。


 休憩中、俺は滑っているみんなを眺めていた。時雨は一人で黙々と滑っており、紫苑は知らない女子たちと一緒に滑っていた。御手洗さんと五味くんは手を繋いで、明らかにラブラブカップルということが分かるくらい、自分たちの世界だけで滑っているようだった。とりあえず、上手くいっているようだったので安心した。桔梗さんは一人で佇んで何かを言っているようだった。何を言っているのか聞こえなかったが、おそらく何かを呼び出す詠唱をしていたのだろう。ひまわりさんは、男にナンパされているようだったが、ナンパ男の背格好が、小学生くらいに見えたので、おそらく同級生と思われたのだろう。なんて声を掛けられたのかは聞こえなかったが、ひまわりさんの目つきが明らかに殺意のある目に変わり相手を見ていた。それに驚いたナンパ小学生も慌てて逃げだしていた。そんな光景を見ていると、霞さんと七海さんがココアとカフェオレを飲み干したので、練習を再開することにした。

 先程のおさらいから始め、俺と七海さんが支えて一緒に滑り、途中で手を放して一人で滑るようにした。最初は曲がれなかったり、止まり方が分からなかったりして転ぶこともあったが、少しずつ上達していき、練習を始めて2時間後には、一人で滑れるようになっていた。霞さん自身も自分の上達ぶりに驚いているようで、七海さんも自分のことのように喜んでいた。それから二人は楽しそうに笑顔で滑り始めた。途中、七海さんのテンションが高くなり、霞さんの手を掴んでから、自分を軸にしてクルクル回りだし、遠心力を使って、霞さんの手を離した。それが思いのほかスピードが出てしまい、霞さんは驚いて混乱しているようだった。両手をバタバタと振りながら、焦っている顔をしていたので、止まり方を忘れているようだった。このままだと霞さんが勢いよく壁にぶつかってしまい、怪我をするかもしれないと思ったので、俺は全力で壁側に移動して、なんとか霞さんがぶつかる前に受け止めることができた。

「ふー。間に合ってよかった! 怪我はないか?」

「あ! はい! 大丈夫…です。ありがとう…ございます」

「二人とも大丈夫か?」時雨が心配して駆けつけてくれた。

「あぁ! なんとか怪我はしなかった!」

「そっか! よかった!」時雨が安堵の表情を浮かべて言った。

「あ!!」霞さんが何かに気づいた様子で言った。

「どうした?」俺は驚きながら聞いた。

「カスミンが…」と霞さんが言ったのを聞いて、手を見るとカスミンがいなかった。先程手を激しく振っていたので、どこかに吹っ飛んでしまったのかもしれないと思った。

「カスミンが行方不明か! 近くに落ちているだろうから、探そう!」俺は提案した。

「あ! それは大丈夫! もう見つかっているから」と時雨は言い、続けて「だけど、ちょっと…」と気まずそうに言いながら、カスミンを差し出してきた。時雨が持っていたカスミンは無惨な姿になっていた。顔は汚れ、胴体は破れ、右手も千切れかけていた。それを見た霞さんは言葉を失い、涙目になっていた。霞さんにとってカスミンがどれ程大切な存在か、なんとなく分かっていたので、俺はどう言葉を掛ければいいか迷っていた。そこに桔梗さん、ひまわりさん、御手洗さんが心配して駆けつけてくれた。霞さんと俺は大丈夫でカスミンが重体だということを伝えると、三人は一度安堵のため息をつき、それからカスミンを復活させる作戦を提案してきた。まず、桔梗さんの裁縫技術で、破れた胴体と千切れそうな右手は修復できるということだった。そして、汚れの方は、御手洗さんの家がクリーニング店を経営しているらしいので、そこで綺麗にできるということだった。その提案を聞いた霞さんの表情は、希望が差したようだった。ということで、桔梗さんは早速、カスミンの修復を始めた。桔梗さんは、こんなこともあろうかと、裁縫道具を常に持ち歩いているらしい。初めて知ったその新情報に驚いたが、そのおかげで今回は本当に助かった。桔梗さんの裁縫技術を初めて見たが、素人の俺から見ても手馴れているのが分かった。破れていた箇所があっという間に修復され、カスミンは見事復活を果たした。汚れ以外は元通りになったカスミンを見て、霞さんも安心したようだった。これでなんとか一段落と思ったが、七海さんの姿がないことに気づいた。スケートリングやベンチなど周辺を見回してもいなかったので、俺は会場周辺を探し始めた。すると、入り口近くのベンチに一人で座っている七海さんの姿があった。その後ろ姿からは、明らかに落ち込んでいるのが分かった。

「ここにいたのか! 探したよ!」と俺が声を掛けると、七海さんは手で目を擦っていたので、おそらく泣いていたのだろうと思った。

「先輩…」七海さんの声は覇気がなく、その姿は抜け殻のように見えた。俺は少し距離を置いて隣に座った。七海さんは何も言わなかったので、俺の方から話しかけてみた。

「よかった。まだいてくれて。先に帰ったんじゃないかと思ったよ」と言ったが、七海さんの反応はなかったので、続けて「みんなのところに戻らないか?」と提案してみると、今度は首を横に振って拒否の反応があった。

「どうして戻りたくないんだ?」俺は理由を尋ねた。

「先輩……。私、またやってしまいました」七海さんはようやく口を開いた。

「また?」俺は繰り返した。

「私、いつもこうなんです。すぐに調子に乗ってしまって、いつも誰かに迷惑をかけてしまうんです」七海さんは自分のしたことを反省しているようだったが、少し過剰に反応しているように感じた。

「たしかに、さっきのは危ないところもあったけど、いつもそうってわけじゃないんじゃないか?」七海さんが傷心しているので、俺はなるべく慎重に言葉を選んで対応するように心がけた。

「いつもなんです!」七海さんは感情的に声を張り上げて言い、続けて「いつも調子に乗ってしまって…。最後には、みんな離れていくんです…」と悲しそうな顔で言った。おそらく過去に何かあったのだろうと推測した。

「みんな、離れていく?」俺が七海さんの言葉を繰り返すと、七海さんは過去の話を始めた。

 七海さんは昔から明るい性格で、お調子者で、誰かと仲良くなるのに苦労したことがないらしい。この話を聴いて羨ましいな、と思った。友達は多い方だったが、ある程度仲良くなると、調子に乗ってしまい、友達を危ない目に合わせてしまうことがあったようだった。七海さん自身は好奇心旺盛で、いろんな場所に行ったり、いろんなことを試したりするのが好きらしいが、それに付き合っていた友達が、ターザン中にツタが切れて川に落ちたり、冒険中に足を滑らして山の斜面から落ちたりして危ない目に合うと、少しずつ七海さんから距離を取るようになったらしい。そして気づいた時には、七海さんの周りには誰もいなくなっていた、ということが過去にあったらしい。それから、人と関わる時はあまり調子に乗らないようにセーブしていたらしいが、今日は久しぶりにその枷が外れてしまったらしい。霞さんが一人で滑れるようになったことがとても嬉しくて舞い上がってしまった、と七海さんは言っていた。それでも、霞さんを危険な目に合わせてしまったことに変わりないので、そのことを反省しながら、後悔しているようだった。それに、これで霞さんや他の人にも嫌われて離れて行ってしまう、と思い込んでいるようだった。

「七海さんは、みんなに嫌われる、と思っているようだけど、七海さんはどうなんだ?」

「え? どうって?」

「七海さんは、霞さんや桔梗さん、ひまわりさんたちを嫌いになるのか?」俺は七海さんの本心を聞き出すための質問をした。

「そんなこと! 嫌いになるわけないじゃないですか!」七海さんは感情的だったが、はっきりと自分の気持ちを言った。

「じゃあ、七海さんはみんなとどうなりたいんだ? これからも仲良くしたいのか、離れて行ってもいいのか…」

「そんなの……。仲良くしたいに決まってるじゃないですか…」七海さんは涙を流しながらそう言ったので、俺はひまわりさんにもらったハンカチを渡した。七海さんも何も言わずに受け取った。

「そっか! じゃあ、やることは一つだな!」

「え!?」

「自分が間違ったことをしたと思った時にやることと言えば…」ここまで言うと、七海さんも何をすればいいのか、察してくれたようだった。

「でも、私のせいで、霞ちゃんの大切なカスミンが…」七海さんはカスミンの心配をしているようだった。おそらく、カスミンのボロボロの姿を見てしまって、ショックで逃げ出してしまったようだったから、その後の展開のことを知らないのだろうと思い、説明することにした。

「あぁ! それなら大丈夫だ! 桔梗さんと御手洗さんが何とかしてくれることになった! たぶん元に戻せると思う!」

「本当ですか!?」

「あぁ!」

「ほんっと、よかったぁー!」七海さんは、安堵の表情をしてから上を向いて、その後息を吐きながら俯いた。

「それに、悪いと思っているのは、七海さんだけじゃなさそうだけどな!」

「え!?」七海さんが俯いていた顔を上げて、俺を見た。

「あ! こんニャところにいたのかニャ! 探したニャ、ななみん!」桔梗さんの手によって修復されたカスミンとその横で心配そうな顔をしている霞さんが、タイミング良く見つけ出してくれた。

「霞ちゃん!」七海さんは振り返って霞さんとカスミンを見ると涙を流していた。

「え!? ななみん、どうしてニャいているニャ! もしかして、翔くんにニャにかされたのかニャ?」カスミンが七海さんに尋ねたが、七海さんは泣いていて、すぐに答えることができそうではなかったので、カスミンに怪しまれてしまった。

「違う! 先輩は何もしてないよ。私が悪いの…」七海さんは涙を拭いながら、訂正してくれたが、言葉選びが悪かったため、余計に怪しまれてしまった。

「いくら翔くんでも、親友をニャかせたら、許さニャいニャ!」カスミンの眼が本気に見えたので、さすがにマズいと思って、弁解しようとしたら、七海さん先に話し出した。

「霞ちゃんは…私を…まだ、親友だと思ってくれているの?」七海さんは恐る恐る言った。

「え!? そうだよ! 杏ちゃんは私の親友だよ!」霞さんが当たり前のように言った。

「でも、私のせいで…カスミンが大変なことになっちゃったよ」

「あれは事故だから仕方ないよ」

「私があんなことしなければ…」

「杏ちゃんだけが悪いことなんてない! 私が落ち着いていれば、防げたことだから…」

「霞ちゃんは何も悪くない! 私が悪いの……。嫌いになっちゃう…よね」七海さんは悲しそうな顔をして言った。

「そんなことないよ!」霞さんはやさしい顔と口調で七海さんに言った。

「ななみん! ニャにか勘違いしているようだから言うけど、二人の間でニャにかトラブルが起きた時は、どっちかが100%悪いニャんてことはニャいんだよ! かニャらずどちらにも落ち度はあるんだニャ!」

「でも…」七海さんはまだ納得していないようだった。

「ボクたちは感謝しているニャ! ななみんのおかげで、霞ちゃんもここまでスケートが上手くニャったんだから!」カスミンがそう言う隣で、霞さんは何度も頷いていた。

「それに、ななみんにはいつも助けてもらっているから、感謝しているんだニャ!」

「嫌いになるなんて、絶対にないよ!」霞さんは小さい声でも、はっきりと七海さんの眼を見て言った。

その言葉を聞いた七海さんは、再び泣き始め、「ごめんなさい。私が調子に乗ったから、霞ちゃんとカスミンを危ない目に合わせてしまって…」と謝っていた。

「私もごめんなさい。杏ちゃんに心配かけちゃって…」と霞さんも謝っていた。それから七海さんは頭を霞さんに近づけ、霞さんは七海さんの肩をやさしく抱いていた。

 とりあえず、一件落着した後に、桔梗さんやひまわりさんなど他のみんなも駆けつけてきた。七海さんがいなくなったということで、心配して探していたのだ。みんなが到着した時には、七海さんが泣いており、霞さんに肩を支えられていたので、俺が泣かせたという流れになり、桔梗さんとひまわりさんから責められた。自己弁護しようにも、二人は聞く耳を持たなかったので、困っていると、落ち着いた七海さんが冗談だったことを伝えて、俺の疑いは晴れた。そして、七海さんはみんなに謝っていた。

「ん? 汝はどうして謝っているのだ?」桔梗さんが率直に尋ねた。

「え!? だってみんなに心配かけたから…」七海さんは唖然とした顔で答えた。

「たしかに、心配はしたけど、それは私たちが勝手にしただけだから、杏ちゃんが謝る必要はないんじゃないかしら」ひまわりさんが当たり前のような態度で言った。

「ビックリしたけど、具合が悪いとかじゃなくてよかった!」御手洗さんが安心した顔で胸に手を当てながら言った。

「さぁ! もう一度滑りに行くニャ!」カスミンがそう言いながら、霞さんが七海さんに手を差し伸べた。七海さんはその手を掴み、みんなでスケートリングに戻り、再び滑り始めた。俺は、一年ズが笑顔で仲良く滑っている姿を、リング外のベンチから眺めていた。その時、五味くんが隣に座って声を掛けてきた。

「水無月くん…ちょっといいかな?」

「ん? あぁ、いいよ!」

「この前助けてもらったのに、まだお礼を言えてなかったから」五味くんはそう言って態勢を整え、真面目な顔をして「本当にありがとう!」と頭を下げてきた。

「そんなたいしたことはしてないから、あまり畏まらないでくれ! 今があるのは、五味くんと御手洗さんがしっかりと向き合ったからだ!」

「ふふっ、聞いてた通りの反応だ! あ! それと、僕のことは澄晴って呼んでくれないか?」

「ん? 分かった! じゃあ俺のことも翔って呼んでくれ! 澄晴!」

「うん! よろしく! 翔!」

 そんな会話をしていると、一年ズが一緒に滑ろうと呼んでいるようだったので、澄晴は立ち上がり、向かう気だった。

「翔は行かないのか?」

「俺はもう少し休むよ!」

「そっか! じゃあ先に行ってる! あ! それと、この前の借りは必ず返すからな!」澄晴はそう言って、再び滑り始めた。


 それから、みんなが滑っている姿をボーっと眺めていると、頬に突然熱い何かが触れたので、驚いて飛び上がってしまった。

「すみません。そんなに驚くとは思わなくて…」七海さんが申し訳なさそうな顔で、逆に驚いているようだった。熱さの正体は自販機で買ったホットのカフェオレだったようだ。

「え? あ! あぁ、オーバーリアクションで逆に驚かせようと思ってな!」俺は自分のビビりを隠すために、あたかもわざと驚いたような風にして言った。

「それ、本当ですか?」七海さんは疑いの眼で俺をジーっと見てきた。

「すみません。嘘です。普通に驚きました」七海さんの圧力に耐えられず、俺は真実を白状した。

「え!? 嘘だったんですか!」七海さんは意外そうな顔をして言った。どうやら俺は早とちりをして、自分からボロを出してしまったようだ。もう少し粘っていたら、誤魔化すことができたかもしれない、と少し後悔した。

 俺が内心後悔していると、七海さんは持っていたカフェオレを差し出してきた。俺はありがたく受け取り、カフェオレ代を取り出そうとしたが、「これはお礼なので、お金はいりません!」と七海さんに言われたので、その行為に甘えることにした。そして、七海さんは隣に座って、自分の分のカフェオレを飲み始めた。

「先輩…。さっきはありがとうございました! 先輩がいなかったら、私、仲直りできなかったかもしれません」

「ん? そんなことないと思うけどな。俺がいなくても、七海さんと霞さんたちなら、仲直りできてたと思うけど…」

「でも、先輩の励ましのおかげで、私は自分の本心に気づくことができました!」

「それに気づいたのも七海さん自身だ。俺はただ、質問しただけだ」

「先輩って、いつもそうやって謙遜してますけど、自分を褒めたりしないんですか?」

「自分を褒めることはある! たとえば、美味しい料理を作ることができた時とか、分からなかった問題を解くことができた時とか!」

「そうなんですね! じゃあ、相談部でたくさんの人の悩みを解決していることも、褒めていいんじゃないですか?」

「それは俺の力じゃないからな!」

「どういうことですか?」七海さんが頭の上に? を浮かべていたので、俺は持論を語ることにした。

 悩みとは、自分で解決するものだ。時には人を頼ったり、助けてもらったりすることもあるだろうが、最終的には自分で乗り越えなければならないことだ。それを解決できたってことは、自分が頑張った証だ。何もしないで悩みを解決できる人なんていない。自分が行動をしたから、解決できたのだ。その事実を、悩みを解決した人たちに知ってもらいたいと思っている。そうすれば、自己効力感や自己信頼感なども自然と高まり、次に大きな壁にぶち当たっても、乗り越えていけるだろう。大事なのは行動することだ。悩んでいるばかりで、何もしなければ解決なんてできない。そういう視点で見ると、今まで相談部に来た人たちは、すでに行動を起こしたと言える。自分の悩みを解決するために、相談部を頼ってきたのだから、それは立派な行動だ。その結果、無事解決することができたのなら、それは、その人自身の努力の成果だと俺は思う、ということを七海さんに語った。俺の語りを七海さんは頷きながら聴いてくれたので、とても話しやすかった。

「つまり先輩は、相談者の悩みが解決したのは、その人自身が行動したからであり、その人が努力したから、と言いたいんですか?」七海さんが俺の話の要約をして尋ねてきた。

「まぁ、そんな感じだな!」

「でも、助けてくれる人がいたから、乗り越えることができたっていう風に考えることもできませんか?」

「そうだな! そういう見方もあると思う! でも、その考えでも、俺がいたから解決できたなんて驕る理由にはならない!」

「どうしてですか?」

「俺はいつもみんなに助けられているからだ! 俺一人じゃ解決できなかったことも、みんなに助けられたから、乗り越えることができた!」そう言っている時、俺の頭には相談部のみんなの顔が思い浮かんでいた。そして続けて「それに、七海さんや霞さんなら、大丈夫だろうと思っていた!」

「信じていたんですか? 私のことも…?」

「あぁ!」

「どうして私のことも信じられるんですか!? 私は相談部でもないし、先輩とはあまり関わったこともないのに…」

「あまり関わったことがなくても、知っていることはある! 七海さんが霞さんたちを大事に思っていること、御手洗さんの件で動いてくれていたことを、俺は知っている!」そう言うと、七海さんは驚いた顔をして、固まってしまったので、続けて「こう見えて人間観察は得意だからな! 可愛い人に気づかれずに見るのは俺の自慢の能力だ!」と少しふざけた感じで言った。それを聞いた七海さんは、顔を赤くし、そのことを隠すように一度後ろを向いてから、再びこっちを向いた。

「先輩、ズルいです。そんなこと言われたら……」七海さんはその後も何か言ったが、声が小さすぎて聞き取れなかった。そして続けて「霞ちゃんが相談部に入った理由がようやく分かりました!」とはっきり言った。

「え!? そうなのか! どういう理由なんだ?」俺は躊躇わず好奇心で聞いた。

「それはですねぇ…」と七海さんが言いかけたところで、「それは、翔くんを監視するためだニャ!」とカスミンが後ろから突然割り込んできた。全く気配を感じなかったので、俺と七海さんは驚いた。

「二人でニャにを話しているのかと思えば、ななみん! 勝手に翔くんに変ニャこと言わないでくれるかニャ?」カスミンは異常な圧で七海さんに迫っていた。その隣の霞さんもダークなオーラを纏っているように見えた。

「ご、ごめん。そんなつもりは…」さすがの七海さんも二人の圧に押されて、素直に謝っていた。

「そっか! それニャら、いいニャ!」七海さんの謝罪のおかげで、霞さんたちからダークなオーラが消えた。どうやら事なきを得たようだ。

 それから、滑ったり休憩したりを繰り返して、午後5時に解散した。


 後日、霞さんからある画像が送られてきた。その画像は、カスミンがピカピカになり、リニューアルカスミンになった写真だった。そのカスミンは胸を張って、堂々とした姿で写っていた。その返信に「前よりもたくましくなったように見えるな!(笑)」というメッセージを送ると、霞さんから照れているスタンプが返ってきた。褒めたわけではなかったが、嬉しかったのならよかった、と思った。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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