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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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【番外編】水無月つゆりはメランコリー!!②

 お兄ちゃんが家を出た数分後に私も出発した。待ち合わせの駅に到着すると、すでにみんなが待っていた。私、桜、六道くんは数日間の旅行らしくキャリーバックを持っていたけど、レオ・エイプリルだけ身軽な格好だった。私は特に気にならなかったけど、桜がレオ・エイプリルに理由を聞くと、「足りないものは現地で調達すればいい!」と答えたのを聞いて、お兄ちゃんと同じ考えだったのが、少しイラっとした。そんな話をしていると、発車時刻が迫っていたので、私たちはお兄ちゃんたちに気づかれないように、移動を開始した。それでも、さすがにレオ・エイプリルが目立っていたから、こんなこともあろうかと準備していた黒髪のカツラと黒ぶち眼鏡を渡して、変装するように言った。予想通り、最初は少し嫌がっていたけど、気づかれたら終わりだということ、あなたのために準備したということ、を伝えるとあっさりと変装してくれた。もう少し抵抗されるだろうと思っていたから、手間が省けて助かった。私も相談部の人たち全員と面識があり顔バレしているから、眼鏡を掛けて変装した。新幹線では、気づかれないように離れた車両に乗って、遠くから様子を伺うつもりだったけど、普通にトランプやゲームをして遊んでしまった。

 気づいた時には、もうすぐ京都に着く頃だったから、私たちは急いで今日の流れを確認し始めた。お兄ちゃんたちの予定は事前に確認していたので、私は把握していた内容を三人と共有した。まずは嵐山だ。お兄ちゃんは特に変わった様子はなかったけど、ベルさんのテンションがすごく高いのが分かった。勢いに乗じてお兄ちゃんの腕を引っ張ったり、背中を押したりと過度に触れているのが少し気になったけど、お兄ちゃんも楽しそうな顔をしていたので許すことにした。隣で見ていたレオ・エイプリルも、最初は憤っている様子を見せていたけど、ベルさんが笑顔で楽しそうにしていたので、それに感化されているようだった。私とレオ・エイプリルは観光というよりも、観察の方がメインで来たけど、桜と六道くんは関係ないから、好きに観光するように言った。二人はお兄ちゃんたちに顔バレしていないから、自由にしても問題なかったけど、六道くんは私たちからあまり離れなかった。桜は京都に初めて来たらしく、普通に観光を楽しんでいるようだった。私とレオ・エイプリルは、お兄ちゃんたちに気づかれないように遠くから見ることしかできなかったけど、自由に動ける桜が大玉みたらし団子やわらび餅を買って来てくれたので、とても嬉しかった。お兄ちゃんが食べたものと、一緒のもの食べることができたからだ。この時初めて、桜と友達で良かったと思い、心の底から感謝すると、桜も照れていた。さらに、桜は男を見る目があることも分かった。なぜなら、先程こんなやり取りがあったからだ。

「ねぇ! つゆりのお兄さんって、もしかしてあのカッコいい人?」と観察している私に桜が尋ねてきた。

この質問を聞いた時、私は、どうせいつもの流れになるんだろうな、と思っていた。いつもの流れとは、この質問に対して私が「うん!」と同意した後、お兄ちゃんのその日の服装や顔の特徴などを説明すると、必ず質問者は「え!? そっち?」と驚き、続けて「私が思ってたのは、もう一人のあのイケメンのことなんだけど…」言いながら、霜月時雨を指さすことだ。なぜか私の身の回りの人は、お兄ちゃんより霜月時雨がカッコよく見える割合が多いようだ。たしかに、霜月時雨もカッコイイと思うけど、私的には断然お兄ちゃんの方がカッコよく見える。身内だからひいきしているのではなく、素直にそう思っている。しかし、世間の評価は違うみたいだった。おそらくお兄ちゃんの魅力は、一般人には分からないのだろうと最近思うようになった。桜もただの一般人だから、どうせ同じ反応だろうと思っていた。なので、私は桜の質問にこう答えた。

「あー、多分、桜が思っている人と違うと思う…」と私は今までの経験で学んだことを活かした答えをした。

「え!? あれじゃないの? あの黒のハイブリットダウンを着ているカッコいい人!」と桜はお兄ちゃんの服装を言いながら、指さした。私は驚きながらも確認のため、桜が差している方向を見ると、間違いなくお兄ちゃんだった。それにお兄ちゃんの他に黒のハイブリットダウンを着ている人がいなかったので、桜は私のお兄ちゃんのことを言っているということが分かった。

「え!? 桜はお兄ちゃんがカッコイイと思うの?」と私はまだ信じられなかったので聞いた。

「え!? カッコイイじゃん! つゆりがいつも言っているから、どのくらいイケメンなんだろうと思っていたけど、想像以上だったよ!」と桜は言った。

「ふーん。桜も意外と見る目はあるみたいね!」と私は冷静さを保ちながら言ったけど、内心とても嬉しかったので、桜には後でお礼をしようと思った。

次の目的地、龍安寺では、見失わないギリギリの距離を保ちながら後を追った。レオ・エイプリルは追いかけながらも、世界遺産に登録されている石庭のことも気になっている様子だったから、私に任せるように言うと、石庭を凝視し始めた。レオ・エイプリルは、その美しさに感動した様子で「Beautiful!」と呟いていた。次の金閣寺では、桜が金色に感動していると、レオ・エイプリルが被っていたカツラを取り「オレの髪と同じだろ!」と自慢げに調子に乗って言った。レオ・エイプリルが突然カツラを取ったから、周りの一般客が驚いて、少し騒がしくなった。この騒ぎに気づいたお兄ちゃんがこっちを見ていたから、私はレオ・エイプリルの手首を掴み、急いで死角に隠れた。

「ちょっと! お兄ちゃんに気づかれるところだったでしょ!」と私はレオ・エイプリルを責めるように強い口調で言ったけど、あまり響いてはいない様子だった。

「いきなり腕を掴んだと思ったら、こんな場所に連れて来て…。一体何をするつもりだ?」とレオ・エイプリルは顔を赤くして照れた様子で意味不明なことを言った。

「この旅行は、お兄ちゃんたちに気づかれたらおしまいなの!」と私はレオ・エイプリルに旅行の目的を思い出させてから、「ただでさえ、あなたは目立つのだから、カツラは取らないようにして! 旅行を続けられなくなるから!」と問題点と約束を明確に伝えた。

「そっ、そうだな! 分かった!」とレオ・エイプリルは理解してくれた様子で、再びカツラを被った。そこに桜と六道くんがやってきたので、尾行を再開した。その後は特に変わったこともなく、お兄ちゃんが宿に入ったのを確認してから、私たちも自分たちが泊まる宿に向かった。

そういえば、宿の予約はレオ・エイプリルに任せていたから、私もどこに泊まるのか知らなかった。レオ・エイプリルの案内に従うまま付いて行くと、京都でもトップクラスの旅館に辿り着いた。今日はこの旅館に4人で泊まることになるらしい。旅館に入る前から私の期待は高まったけど、受付をしてから一つ気がかりなことがあった。レオ・エイプリルは一部屋しか予約しておらず、4人一部屋で過ごすことになっていた。もちろん部屋の広さなどが問題なわけではない。思春期の男女4人が同じ部屋で過ごすということが問題なのだ。これには六道くんも異議を申し立てたけど、嫌なら今から別に泊まれる場所を自分で探すことになる、しかも自費で…、とレオ・エイプリルに脅されたので、仕方なく従うことにした。私がレオ・エイプリルに任せたのがいけなかった、と思ったから、六道くんに謝ると、六道くんは「水無月さんは何も悪くない!」と私をフォローしてくれた。ちなみに桜は全く気にしていなかった。弟がいるから、いつもと変わらないらしい。それなら、私もお兄ちゃんがいるんだけど…と思ったけど、これ以上は不毛だと感じたので、この話題は気にしないことにした。それに、さすがトップクラスの旅館だけあって、おもてなしがすごくて、いつの間にか忘れて、満喫していた。

 温泉でゆっくり過ごした後、部屋に戻ると、4列に布団が敷かれていた。私は迷うことなく一番左の布団に飛び込むと、隣の布団にレオ・エイプリルが陣取ってきたので、「そこは桜の布団だから退いて!」と睨みながら言うと、しょんぼりしながらも素直に退いてくれた。結局、左から私、桜、六道くん、レオ・エイプリルの順番で寝ることになった。おそらく、お兄ちゃんは明日の朝6時に散歩するだろうから、それよりも前に起きて待ち伏せする予定で早く寝ようと思っていたけど、なかなかお兄ちゃんから連絡が来なかったので、寝ようにも寝られなかった。気が付くと23時を過ぎていたので、お兄ちゃんは私に連絡を忘れて寝てしまったのだろうと思った。私に連絡するのを忘れるということは、楽しんでいる証拠だと思ったけど、少し悔しかったから、報復としてイタズラをしようと思った。

 お兄ちゃんは、いつも朝起きてからスマホの充電をするから、その線を引っこ抜いて、スマホを使わせないようにしてやろうと思った。普段スマホをあまり使わないお兄ちゃんでも、さすがに修学旅行で使えなくなると困るだろうと思った。でも、自分ではできないので、誰かに頼むしかなかった。如月さんやベルさん、霜月時雨には反対されそうだと思ったので、消去法で神無月に個別に連絡することにした。予想通り、神無月はあっさりとオーケーしてくれたけど、部屋が違うから、別に人に頼むと言っていた。まぁ、ちょっとしたイタズラだから、別に失敗してもいいと思っていたので、私もそれでいいと了承した。そしてようやく私は眠りについた。時間は夜中の0時を過ぎていた。


 翌朝目を覚ますと、隣で寝ている桜はまだ布団の中で気持ちよさそうに眠っていたので、少し早めに目が覚めたのだろうと思い、時計に目をやると、朝の7時を過ぎていた。私は寝過ごしたと思い、「しまったー!」と言いながら、勢いよく布団から飛び起きた。予定では5時に起きて、お兄ちゃんの朝散歩を見守るはずだったのに、現在の時刻は7時12分。もうとっくに朝散歩は終わっている時間だ。昨日の夜、遅くまで起きていたから、朝起きるのに遅れたことを後悔した。私が布団の上で頭を掻きながらもがいていると、「おはよう! って、どうしたんですか?」と広縁でくつろいでいた六道くんが驚きながら尋ねてきた。この時、私は自分が一番に起きたと思い込んでいたから、声を掛けられてビックリした。隣を見ると、まだ寝ているのは桜だけで、六道くんとレオ・エイプリルは私よりも先に起きていたようだった。

「あ! おはよう! ごめん。気にしないで!」と私は乱れた髪を手で梳きながら冷静になろうとした。

「そっ、そうですか…」と六道くんは、見てはいけないものを見たかのような反応をしているような気がした。

「ところで、レオ・エイプリルはどこに行ってるの?」と私は六道くんにレオ・エイプリルの所在を尋ねた。

「詳しい行き先は分かりませんが、散歩に行くと言っていました!」と六道くんは丁寧に教えてくれた。

「そうなんだ! 六道くんは何してるの?」

「僕は、ただここから風景を眺めていただけです!」と六道くんはやさしい口調で答えた。

「何か気になるものでも見つかった?」と私は、なるべく先程のことを忘れさせるために質問攻めすることにした。

「いえ、特に変わったものは見つけてないですが、こうやって自然なものを見ていると、心が落ち着くなぁと思って…」と六道くんは風情を大事にしている様子で答えた。

「そうだね! 自然っていいよね! 私も好きだよ!」と意見に同意すると、六道くんが一瞬驚いたような顔をした気がした。そして少し沈黙が流れた。

「あの! 水無月さん!」と六道くんが改まった様子で、沈黙を破った。

「ん? なに?」と私は聞く態度を取った。

「水無月さんは…その……エイプリルくんのこと…どう思っているんですか?」と六道くんは質問してきた。なぜかレオ・エイプリルについての私の意見を聞きたかったようだった。もしかして、突然転校して来たレオ・エイプリルに、学年主席の座を取られた私を気遣っているのかもしれない、と推測した。レオ・エイプリルが来る前は、私と六道くんでトップを争っていたから、ライバルとして心配してくれたのだろう、と思った。六道くんは本当にやさしくて良い人だなぁ、ということが改めて分かったので、私も正直に答えなければならないと思い、真面目な顔をして答えることにした。

「レオ・エイプリル? 別になんとも思ってないよ!」と私は思っていることを正直に答えた。たしかに、主席の座を奪われた時は悔しかったけど、私は元々そこまで順位というものを重視していないから、すぐにどうでもよくなった。そんなことよりも、今はお兄ちゃんのことで忙しいから、レオ・エイプリルについて考えたことなんて一度もない。その答えを聞いた六道くんは、安堵の表情を浮かべた。

「そっか! じゃあ、水無月さんは、まだフリーってことなんですね!」と六道くんは尋ねてきた。

「フリー? 何が?」と六道くんが何を言っているのか分からなかったので、逆に聞き返した。

すると、六道くんは何かを決意したような顔つきになり、私に何かを言おうとした瞬間、襖が勢いよく開いたので、私と六道くんは驚いて、襖の方に視線を送った。その正体はレオ・エイプリルだった。カツラと眼鏡をしていなかったから、一瞬誰か分からなかった。

「フゥー。いい散歩だった!」と言いながら、上機嫌なレオ・エイプリルが帰ってきた。上機嫌な理由を聞くと、京都の街並みを気に入ったらしく、ただの散歩でも楽しかったらしい。そういえば、レオ・エイプリルは芸術にも長けているようだから、古き良き日本の街並みを気に入るのも納得だった。それに変装をしないで気軽に歩けたから気持ちよかったようだった。レオ・エイプリルが急に登場したことで、驚いて六道くんが何を言おうとしたのか聞き逃してしまったので、後から尋ねたけど、その時は「もう大丈夫です。 気にしないでください」と言われてしまった。六道くんは、あの時なんて言おうとしたんだろう、と思ったけど、それよりも、お兄ちゃんの方が優先だという思考が頭を覆ったので、次第に忘れていった。3人が起きていたので、そろそろ桜も起こしてあげることにした。あれだけ騒がしかったのに、桜は全く起きる気配もなく、気持ちよさそうに寝ていたので、少し起こすのを躊躇ったけど、お兄ちゃんを追跡しなければならないから、ここは心を鬼にして、掛け布団を勢いよく取った。


 今日のお兄ちゃんたちは、班行動の予定だ。団体行動と違い、周りに同じ学園の生徒が少ないから、見失わないように気を付けなければならない。私は班別のお兄ちゃんの京都散策ルートも事前に確認していたから、朝食の時にみんなに共有した。桜と六道くんは関係ないから、自由にしていいよと改めて言ったけど、二人とも私たちと一緒に付いてくることを選んだ。私が同じ状況なら絶対一人で回るのに、と思ったけど、考え方は人それぞれだなぁ、とも思った。まぁ二人が付いてくる理由として、私たちが散策する予定が観光地の定番中の定番な場所だからということもあるようだった。まず、私たちは伏見稲荷大社に向かった。お兄ちゃんたちよりも先に到着し、来るのを待った。

 少し待っていると、お兄ちゃんの姿が見えたけど、予想よりも班の人数が多かった。一班6人だと思っていたけど、倍の12人いた。もしかして、2班が合同で回っているのかもしれない、と推測した。しかも、班のメンバーの中には、あの雛月弥生さんがいた。私は、嬉しい誤算に感極まっていたけど、同時に一緒に回りたい誘惑に抗うことに耐えなければならなくなってしまった。お兄ちゃんの班の全員が境内に入ったのを確認して、私たちも後を付いて行った。昨日と同じくらい、いや、それ以上にベルさんのテンションが高いような気がした。レオ・エイプリルも「あんなにはしゃいでいるベルを見たのは初めてだ!」と言って驚いていたので、宿で何かあっとのかもしれない、と推測した。

 それから、お兄ちゃんたち全員がおもかる石をしていたので、私たちもやってみることにした。最初はレオ・エイプリルが挑戦した。「フン!」という掛け声と同時に持ち上げてから、ゆっくり置いた。感想を聞くと、「思ったよりも軽かったな!」とレオ・エイプリルはカッコつけて言っていたけど、表情からは明らかに重たそうな様子が見えたので、本当はどっちだったのか分からなかった。次に六道くんが挑戦した。見た感じは、楽々持ち上げているように見えた。感想を聞くと、「思っていたよりも軽かったです!」と六道くんは答えた。おそらく本当に軽かったのだろう、と思った。まぁ六道くんみたいに、やさしくて紳士的な人の願いは、是非とも叶って欲しいな、と思った。次に桜が挑戦した。持ち上げる前に気合を入れていたけど、いざ持ち上げると明らかに重そうにしているのが、すぐに分かった。というより、持っている時に「おっ、重い!」と自分で言っていたから、もう感想を聞くまでもなかった。石を置いた後、感想を聞かれるのを待っている様子だったから、一応聞いてみると、涼しい顔で「とっても軽かった!」と桜は堂々と嘘をついた。最後に私の番になった。まず石の前で手を合わせ、願い事を祈った。私の願い事はいつも決まっている。どこの神社でも『お兄ちゃんが幸せでありますように!』とお願いしている。そしてついでに『お兄ちゃんが私に〇〇してくれますように!』と付け加えている。〇〇の中には、その時私がお兄ちゃんにして欲しいと思っていることをお願いしている。たとえば、頭を撫でてくれますように、とか、今日はチーズハンバーグを作ってくれますように、とか、欲しいと思っているコスメグッズを買ってくれますように、などをお願いしている。私は意外と神様に気に入られているようで、今のところ願い事が叶う確率は8割を超えている。なので、今回も当然自信があった。今回は『お兄ちゃんが私に電話で修学旅行の様子を教えてくれますように!』を付け加えてお願いした。そして、いざおもかる石を持ち上げると、思っていたよりも重く感じた。そんなはずはないと思ったけど、自分を欺くわけにはいかなかったから、この言い伝えを信じないことにした。いざとなったら、神様に頼らなくても、自分の力でなんとかしてみせると前向きに考えた。そんなことを考えていると、お兄ちゃんたちが次の場所に行こうとしていたので、私たちも急いで追いかけた。

 次の目的地は清水寺だ。清水寺では人が多かったので、一緒に紛れていればそうそう気づかれないだろうと思って、お兄ちゃんたちとあまり離れすぎないようにして追跡した。お兄ちゃんの様子を見ていると、少し違和感があることに気づいた。お兄ちゃんの動きを見ていると、観光をしているというよりは、周りの人を気にしているようだった。それに霜月時雨と何かをやろうとしているように見えたけど、それが何かまでは分からなかったから、このまま様子を見ることにした。そして、そのまま特に何もなく進み、本堂まで着いた。私の思い過ごしかもしれない、と思っていると、お兄ちゃんと霜月時雨がアイコンタクトをしたように見えたので、何か行動するかもしれないと思い、待ち構えた。すると、急に一般の人たちが雛月弥生さんの存在に気づいて、どんどん集まって来て、あっという間に人で溢れかえった。それに私たちも巻き込まれて4人ともバラバラになってしまった。私はすぐにみんなに連絡をして現在地を確認した。こんなこともあろうかと、事前にみんなにはイヤホンを渡して、いつでも通話できるようにしていたから、逸れてもすぐに場所を確認することができた。それにドラマみたいに一人が指示を出しながら、それぞれが行動するという展開が少しカッコイイと思ったから、すぐに集まる必要はないと判断して、まずはお兄ちゃんの行方を探すことにした。レオ・エイプリルも個別にベルさんを探し始めた。

 しばらく周囲を見渡しながら探していると、思ったよりもすぐに見つけることができた。お兄ちゃんもさっきの人混みに巻き込まれて一人になっているようだった。遠くからでも焦っている様子が分かったので、おそらくさっきの現象は、お兄ちゃんがやろうとしていたことではないだろう、と推測した。お兄ちゃんはポケットからスマホを取り出したけど、誰にも連絡しているようには見えなかった。なんで早く連絡しないんだろう? と思いながら、私はふと昨日のことを思い出した。もしかして、スマホの電池が切れていて、連絡したくてもできないんじゃないか、と思った。結局、お兄ちゃんは連絡せずに、その場に立ち尽くして何かを考え始めたので、そうかもしれない、という疑念が拭えなかった。そのことを考えながら、お兄ちゃんを見ていると、一人の女性がお兄ちゃんの肩を叩いたのが見えた。彼女はたしか、文化祭の時にお兄ちゃんと一緒に劇の脚本をしたという八月一日風鈴という名前だった気がする。お兄ちゃんと最近関わるようになったらしいから、どんな人かよく知らないけど、なんとなく見覚えがあったので、思い出すことができた。とにかく、お兄ちゃんが知り合いと出会えたので、安心した。この後、二人で残りの人を探し始めるだろうと思っていたら、二人はそのような素振りを見せずに、普通に散策し始めたように見えた。どういうこと!? と思いながら後を追いかけている時、ふと一つの仮説が思い浮かんだ。もしかして、八月一日さんはお兄ちゃんのことが好きなのかもしれない、という仮説だ。それなら、二人で散策するのも頷ける。さらに、この展開は、もしかして彼女の作戦だったのではないか、ということに気づいた。そう考えれば辻褄が合う。おそらく、八月一日さんの作戦はこうだろう。まず、みんなで清水寺を散策してから、頃合いを見てみんなをバラバラにする。その時、お兄ちゃんの行方だけは見逃さないようにしてから、すぐに合流する。そして、お兄ちゃんと合流したら、その後は二人っきりで散策を楽しむ、というなんとも恐ろしい作戦だということに気づいて、私はゾッとした。そしてまさに今現在彼女の思い通りの展開になっている。このままではマズい、と思った私は、二人を引き離す作戦を考えながら、後を追っていった。すると、二人は地主神社の前にある恋占いの石がある場所で立ち止まったので、先程の仮説は証明されたと思った。ここで、桜が私を見つけてくれて合流することができたので、私は桜に、八月一日風鈴をどこかに連れて行くように指示を出した。

「桜! 丁度良かった! お願いしたいことがあるんだけど…」と私は初めてともいえるお願いを桜にすることにした。

「え!? お願い事? なに?」と桜も聞いてくれそうな態度だった。

「今あそこにお兄ちゃんと八月一日さんという人が、恋占いの石をしているんだけど…」と指を差して方向を示しながら言うと、桜はその方向に視線を向けた。私は続けて「次はお兄ちゃんの番だから、お兄ちゃんに気づかれないように八月一日さんをどこかに連れて行って欲しいの!」とお願いした。

「え!? そんなのできないよぉー!」と桜は驚きながら、私のお願いを拒否した。

「お願い! 桜にしかできないの!」と私は顔の前で手を合わせて、再度お願いした。

「どうして、二人を離れさせようとしてるの?」

「それは……お兄ちゃんが、彼女の恐ろしい罠にはまっているから!」

「恐ろしい罠?」と桜は首を傾げて分かっていない様子だった。

「とにかく、お願いね!」と私は桜の背中を押して、無理やり実行してもらうことにした。あまり考える時間もなかったから仕方がなかった。続けて「私がイヤホンで指示を出すから心配しないで!」と言うと、桜は少しずつ進み出し、八月一日さんに近づいて行った。そして、お兄ちゃんが目を瞑ったのを確認してから、桜に指示を出した。まず、八月一日さんの肩を叩いて振り返ってもらい、「あの! あなたを連れて来るように言われたので、一緒に付いて来てください!」と声を掛けてから、彼女の腕を掴み、そのまま引っ張って行く。そしてある程度離れたら、腕を放し、桜はそのままフェードアウトする。桜はテンパっているように見えたけど、指示通りにしてくれたので、無事、お兄ちゃんに気づかずに八月一日さんだけを連れて行くことができた。八月一日さんが突然いなくなったから、お兄ちゃんも驚いているように見えたけど、彼女の罠から救うにはこうするしかなかった、と私は自分の作戦を正当化した。イヤホンから「どこまで行けばいいのー?」と言う桜のヘルプが聴こえたので、私は「もう腕を放していいよ!」と言葉を掛けようとした時、「キャ!」と言う桜の声が聴こえた。「どうしたの?」と尋ねると、八月一日さんが急に立ち止まったから、驚いたらしい。怪我とかじゃなくて良かったと安心した。そして八月一日さんは「となり…」と言って、そのままどこかに行ってしまったらしい。意図的ではないけど、偶然にも知り合いに会えたようなので、一件落着したと思った。

私は、頑張ってくれた桜にお礼を言い、戻って来るように伝えてから、お兄ちゃんの観察を再開した。その直後、後ろから肩をポンポンと叩かれたから、振り返ると、私の視界には予想外の人物が飛び込んできた。そこには、お兄ちゃんに告白したという藤皐月さんと、その後ろに私の憧れの雛月弥生さんが立っていた。

「昨日から妙に視線を感じると思っていたら、あなただったの! 将来の妹!」と藤皐月さんが言った。

「あれ! あなたはたしか…翔くんの妹の…つゆりちゃん!」と雛月弥生さんが私の名前を憶えてくれていて、しかも呼んでくれた。普段ならこの事実に感動しているはずだったのに、今はお兄ちゃんの友達に見つかってしまったという危機感の方が強く、この状況をどう乗り越えればいいのか、頭をフル回転させていた。

「すごい偶然だね! こんなところで出会うなんて!」と言う雛月弥生さんの笑顔からは、純粋さが滲み出て、まるで天使、いや、女神のように見えた。

「そそそっ、そうですね!」と私は明らかに動揺を隠せずに返事をしてしまった。

「今、私たち修学旅行で来ているの! あ! 翔くんも来ているんだよ…って知ってるか!」と雛月弥生さんが自己完結している姿はとても神々しかった。そして続けて「つゆりちゃんたちは何で来てるの? 見たところ私服だから友達と旅行で来てるのかな?」と私に尋ねてきた。

「え…!? あ…! はい…! そんなところです…」とまたしても歯切れの悪い返事をしてしまった。

「そうなんだぁ! あ! じゃあ、私たちと一緒に回らない?」と雛月弥生さんは女神のような笑顔で誘ってくれた。

「え!? あ! それは…、とても…、嬉しいことなのですが…」と言いながら私の頭の中は、嬉しさと切なさが葛藤していた。雛月弥生さんと一緒に旅行ができるなんて、夢のまた夢だった。だけど、お兄ちゃんにバレるわけにもいかないので、私はどうすればいいのか分からなくなり、頭がショートしそうになっていた。

「弥生! 彼女と会ったのが本当に偶然だと思っているの?」と今まで黙っていた藤皐月さんがようやく口を開いた。

「え!? そうじゃないの?」と雛月弥生さんは藤皐月さんに言った。

「そんなわけないでしょ! 彼女はおそらく、水無月くんのことが心配で、黙って付いて来たんだと思う!」と藤皐月さんは言い、私の方に視線を向けてから、続けて「だからこうして、水無月くんに見つからないように隠れながら後を付けているんでしょ?」と質問してきた。

「え!? そうなの?」と雛月弥生さんも驚いた顔をして私を見てきた。

「えーと…それは…」私が答えに困っていると、藤皐月さんがさらに私の目的を推測し、語り始めた。私がお兄ちゃんの人間関係を心配していること、最近のお兄ちゃんが恋愛にハマっているようなのでそれを心配していること、修学旅行では何が起きてもおかしくないことなどなど。推測のほとんど正しかったので、反論の余地もなかった。この時、私は全てが終わったと諦めかけていた。

「へぇー! お兄さん想いなんだね!」と雛月弥生さんがやさしい声と笑顔で私の心を一瞬で癒してくれた。

「たしかに、水無月くんはカッコいいから、警戒するのも頷ける!」と藤皐月さんも私に共感を示してくれていた。この時、藤皐月さんの印象が少し変わった気がした。そして続けて「しかし、その心配は杞憂に終わるだろう! 将来の妹!」と言った。

「え!?」と私は藤皐月さんの言葉の意味が分からなかった。

「なぜなら、水無月くんを一番好きなのは私だから!」と藤皐月さんは堂々とした態度で、私に言った。噂では聞いていたけど、まさかここまで堂々としている人だとは思わなかったから、少し驚いた。

「皐月が一番だとは限らないでしょ!」と雛月弥生さんが頬を膨らませながら、少し怒った感じで、藤皐月さんに言っていた。この雛月弥生さんも可愛かったので、見ることで癒された。

「というわけで、将来の妹! あなた、水無月くんが今どこにいるのか、知っているでしょ?」と藤皐月さんは雛月弥生さんの言葉を無視して、私に尋ねてきた。

「え!?」と私はすぐに答えるのを躊躇った。このままお兄ちゃんの居場所を伝えてしまったら、私がいることがお兄ちゃんにバレてしまう。それに藤皐月さんは危険だ。お兄ちゃんはやさしいから気づいていないかもしれないけど、私の直観がそう言っている。この人には全てを見透かされているような感じがする。

「大丈夫だよ! あなたのことは水無月くんに言わないから…。約束する!」と藤皐月さんは私の考えを見透かしているような視線を向けて言った。さらに続けて「でも…もし教えてくれなかったら、どうしようかなぁ…」と脅してきた。

「クッ!」と私は打つ手がなくなり困ってしまった。

「もう! ダメだよ、皐月! つゆりちゃんをイジメたら!」と雛月弥生さんが助けてくれた。

「でも、弥生も早く水無月くんと合流したいでしょ?」と藤皐月さんが雛月弥生さんに尋ねた。

「それはそうだけど…」と雛月弥生さんが悲しそうな顔になったので、私は覚悟を決めた。

「あっちにいます!」と私はお兄ちゃんのいる方角を指さした。すると、藤皐月さんと雛月弥生さんは背伸びしたり、額に手を当てたりして、私が示した方角を見始めた。

「あ! いた!」と藤皐月さんが先に見つけ、その後すぐに雛月弥生さんも見つけたようだった。そして、雛月弥生さんは「ありがとう、つゆりちゃん! 今度また遊ぼうね!」と言って、お兄ちゃんいる場所に向かった。藤皐月さんも「ちょっと、弥生! 待ちなさい!」と言いながら追いかけたけど、少し進んだところで立ち止まって振り返り、「ありがとう、教えてくれて! 約束は必ず守るから心配しないで!」と言ってから再び後を追っていった。こうして、私はなんとか窮地を脱することができたので、安心した。雛月弥生さんと藤皐月さんの二人と話している時は、緊張なのか、恐れなのか、感動なのかよく分からない感情に襲われていたから、ずっと胸がドキドキして落ち着く暇もなかった。私は落ち着きを取り戻すために深呼吸をしていると、桜が戻ってきた。

 冷静になった私は、先程のことを改めて振り返ると、藤皐月さんに出し抜かれたような感じがして、悔しい気持ちが込み上げてきた。良いタイミングで桜が戻ってきたから、私はもう一度桜にお願いすることにした。雛月弥生さんには申し訳ないけど、藤皐月さんにやり返すために、今度はお兄ちゃんを誘い出す作戦を決行することにした。桜は「またぁ!」と嫌がっていたけど、今度はお兄ちゃんがターゲットだということを伝えると、なぜかやる気になってくれた。桜は、お兄ちゃんと面識がないから、私に気づくこともないだろうと思っていた。そして、雛月弥生さんと藤皐月さんが恋占いを始めたのを確認してから、作戦を開始した。要領は先程と同じ感じということを桜に伝えてから、細かいセリフなどは任せることにした。そして、桜は先程と同じようにお兄ちゃんの腕を掴んで引っ張って行き、途中でフェードアウトした。作戦は成功したけど、お兄ちゃんをまた一人にしてしまったことに罪悪感は微塵もなかった。戻ってきた桜に再びお礼を言うと、なぜか逆に感謝された。

 それから、お兄ちゃんの後を付けていると、今度は霜月時雨と合流することができていた。私はこれで安心できると思った。とりあえず、霜月時雨と一緒なら女子と二人っきりという展開にはならないからだ。と思っていたけど、お兄ちゃんはせっかく合流した霜月時雨と別れて、人探しを始めたようだった。どうして別れたのか理由が分からなかったから、私たちも分かれて監視することにした。私がお兄ちゃん、桜に霜月時雨の後を追うように分担した。そして、しばらくお兄ちゃんの後を追っていると、音羽の滝に着いた。お兄ちゃんはそこでベルさんと合流していた。なんだか二人でイチャついているのが気になったけど、私じゃどうすることもできないからと思いながら、見守っていると、少し離れたところに、暴れているレオ・エイプリルとそれを必死に抑えている六道くんの姿が見えた。私はすぐに駆け寄って何をしているのか尋ねた。六道くんの話によると、レオ・エイプリルは、ベルさんがお兄ちゃんとイチャついているのが我慢できなくて、間に割って入ろうとしていたらしい。そんなことしたら、今回の旅行が台無しになると思ったから、私もレオ・エイプリルを落ち着かせるため、なだめることにした。

「気持ちは分かるけど、今は堪えて! お願い、レオくん!」とレオ・エイプリルの目を見て言うと、意外とあっさり落ち着きを取り戻してくれた。レオ・エイプリルの件は簡単に片付いたけど、お兄ちゃんの方も黙って見過ごすわけにはいかなかった。どうしようかと考えながら周りを見渡していると、六道くんの顔が視界に入った。その時、ピンッと来た。六道くんならお兄ちゃんともベルさんとも面識がないから、どうにかできる、と思った。そして私は思いついた作戦を二人に話して共有した。私が考えた作戦はこうだ。まず、六道くんがお兄ちゃんたちにトイレの場所を尋ねる。すると、やさしいお兄ちゃんは案内して教えてくれるだろうから、一緒にトイレに行く。そして、おそらくお兄ちゃんも一緒に用を足すだろうから、その間に六道くんが先に抜け出して、ベルさんを他の場所に誘導する。誘導する時の誘い文句は、ベルさんのお菓子好きを考えて、「先にカフェで待っているように、と言っていました!」と言うと、純粋なベルさんならおそらく信じるだろうとレオ・エイプリルが言っていた。レオ・エイプリルはすぐに賛成したけど、六道くんも迷っているようだった。作戦内容が理想論過ぎて、それ通りに事が進まないと、上手くいかないんじゃないか、と心配しているようだった。そこは心配しなくても大丈夫と伝えると、最終的には納得してくれて、協力してくれることになった。そして、頃合いを見て作戦を開始し、私とレオ・エイプリルは離れたところから六道くんの様子を見守っていた。さすが六道くんといった感じで何の問題なく事は進み、お兄ちゃんとベルさんを離れさせることができた。レオ・エイプリルはベルさんの後を追い、私はお兄ちゃんが出てくるのを待った。無事作戦を終えた六道くんにお礼を言うと、六道くん自身も作戦通りに進んだことに驚いていた。そして六道くんは、レオ・エイプリルがまた暴走するといけないからという理由で、ベルさんの後を追いかけることにしたらしい。


 トイレから出てきたお兄ちゃんは再び人探しを始めたので、私も後ろから見守っていた。しばらく後を付けていると、お兄ちゃんが誰かとぶつかった。「あ!」と私も思わず声を出してしまったけど、お兄ちゃんが転ばなかったので、安心した。お兄ちゃんの反射神経もすごくて、咄嗟に相手の腕を掴んでいたから、怪我はしなかっただろうと思った。やっぱりお兄ちゃんはカッコいいなぁと思って見ていると、お兄ちゃんがぶつかった相手の姿が見えた。そして、その相手が如月さんだということが分かった。二人は何か話しているようだけど、よく聞こえなかったから少しずつ近づいていくと、突然如月さんがお兄ちゃんの腕を掴んで、私の方に向かって来た。もしかして、気づかれたかもしれないと思って、私は咄嗟に人混みに紛れると、二人はそのまま突っ切って行った。どうやら気づかれたようではなかったので、安心したけど、まだ油断はできないな、と思い気持ちを引き締めて、後を追った。

 二人の行先は音羽の滝だった。お兄ちゃんは、ついさっきベルさんと来たばかりなのに、今度は如月さんと来るはめになるとは、ほんと忙しい人だな、とお兄ちゃんの境遇に少し同情した。それでも、お兄ちゃんはやさしいから文句も言わずに付き合ってくれる。それがお兄ちゃんの良いところの一つだと私は思う。しかし、またもや女の子と二人っきりという状況は見過ごすわけにはいかないと思いながらも、私には何もできずに見守ることしかできない自分が悔しかった。それに、なんとなくだけど二人の距離が少しずつ近づいているように見え、私の頭の中の恋愛センサーが反応していた。二人が向かい合ったので、これは何か起こるかもしれない、とハラハラしながら見守っていると、途中で知らない女性が加わった。見た感じ、如月さんの友達のように見えた。彼女が加わってから、私の恋愛センサーも沈黙した。それから、お兄ちゃんたちは出口に向かい、バラバラになった班のみんなと合流していた。私たちも同じく合流して、尾行を再開した。その後は、特に変わったこともなく、宿に戻って行ったので、私たちも宿に帰った。雛月弥生さんと藤皐月さんに私の存在がバレてしまったけど、お兄ちゃんの様子を見る限り、知らなそうな感じがしたので、誰にも言っていないようだった。どうやら本当に約束は守ってくれたみたいだった。

 今日は、六道くんと桜のおかげで助かったから、お礼に何をして欲しいか尋ねると、桜は「雛月弥生さんのサイン!」と即答したので、後日お兄ちゃんにお願いすることを約束した。六道くんには一度、何も要らないと断られたけど、再度粘って尋ねると、「明日US〇で一緒に乗り物に乗って欲しい!」と答えたので、約束した。レオ・エイプリルも催促してきたけど、こいつは特に役になっていなかったし、逆に六道くんに迷惑をかけていたから、「何もしてやることはない!」とキッパリ言ってやった。レオ・エイプリルは一瞬落ち込んだように見えたけど、すぐに立ち直って「これから長いから、今わざわざそんなことする必要がないってことだな!」と意味不明なことを言っていた。今日は昨日以上に大変なことがあったから、疲れが溜まっていた。温泉に入ってゆっくりくつろいだ後、後はお兄ちゃんの連絡が来れば、寝るだけだった。しかし、いくら待っても来なかったから、今日も忘れて寝てしまったのだろうと思った。そのせいで、今日も眠りにつく時間が遅くなり、夜中の0時を過ぎてしまっていた。案の定、翌朝目を覚ました時は、7時を過ぎていたので、今日もお兄ちゃんの朝散歩を見守ることができなかった、と昨日と同じ感じで後悔していた。


 今日の予定は一日US〇である。ここも人で溢れており、お兄ちゃんには苦手な場所だろうと思った。もしかしたら、お兄ちゃんのことだから一日中レストランで一人本を読むなんてことも考えたけど、さすがにそんなことはなかった。昨日と同じメンバーが集まってから移動を始めたので、私たちも後を追った。お兄ちゃんたちは最初にハリー・ポッターエリアに向かっていた。お兄ちゃんたちは事前に準備していたのか、スムーズに入れたのに、私たちは入るまでに時間が掛かった。そして、やっと入れたかと思うと、その世界観に私は魅了された。お兄ちゃんのことをすっかり忘れてしまい、普通に楽しんでしまった。レオ・エイプリルも、まるで小さな子どもみたいにテンションが高かった。桜は相変わらずどこに行っても感動しているようだったし、六道くんもクールを装っていたけど、時折笑顔がこぼれているのが分かった。アトラクションに乗る時、昨日の六道くんとの約束を思い出したから、私は隣で一緒に乗ることにした。

〇リー・ポッターを十分満喫した後は、〇ニオンエリアに向かった。向かう途中で恐竜のぬいぐるみハットを被っている赤髪で強面の人とすれ違ったけど、ここではこんな人も浮かれてしまうんだなぁと思った。〇ニオンエリアでもいろんな可愛いものを見たり、一緒に写真を撮ったり、アトラクションに乗ったりして楽しい時間を過ごした。

 最後に赤いおじさんエリアに向かった。ここは入場整理券がないと入れないらしいから、無理だろうと思っていたけど、レオ・エイプリルが全員分の整理券を準備してくれていたから入ることができた。ここも、まるでゲームの中に自分が入り込んだような世界観に感動した。そして最後にナイトパレードを最後まで見て、みんなで「楽しかったねー!」と笑顔で帰っている途中で、ふとお兄ちゃんのことを思い出し、ようやく我に返ることができた時にはすでに手遅れだった。今日はお兄ちゃんのことをほとんど見守ることなく、普通に楽しんでしまった。もし、お兄ちゃんに何か起こっていたらどうしよう、と後悔していると桜と六道くんが慰めてくれた。少ししてから、落ち着きを取り戻した私は、過ぎてしまったことを受け入れることにして、明日に集中することにした。過去はもう変えることができないのだから、いつまでもウジウジしていてももったいない。それよりもこれからのことに集中する方が合理的だ。それに楽しかったのは事実だから、これはこれで良かったと思っている。


 旅行の最終日、目覚めた時はお馴染みの時間が目に飛び込んできた。案の定、昨日もギリギリまで待ったけど、お兄ちゃんからの連絡はなかったから、寝る時間が遅くなり、起きるのも遅れてしまった。それに、レオ・エイプリルが私より早起きして散歩に行っているのが少しイラっとした。起こしてもらうことも考えたけど、プライドが邪魔して頼めなかった。一番頼りやすい桜がこのざまだから仕方ないか、と隣で気持ちよさそうに寝ている桜を蔑むような眼で見ながら、思った。

 今日のお兄ちゃんは団体行動だから、一昨日に比べて私たちも見つかりにくいだろうと思ったので、自由に行動することにした。すると、大阪城で予想外な展開が起こり、危うくバレそうになった。お兄ちゃんたちがバスに戻った後に、私たちはゆっくり天守閣を見学していると、なぜかベルさんがいた。ベルさんは、外を見て笑顔で手を振っていたから、まだ見学時間だったんだ、と思って警戒していると、お兄ちゃんたちが明らかにベルさんを探している雰囲気だった。ということは、見学時間は終わっているけど、ベルさんがバスに戻ってこないから、みんなで探しに来たということだ。このまま天守閣内にお兄ちゃんや如月さんが入ってくると、バレてしまうかもしれない、と心配したけど、六道くんと桜が臨機応変に私とレオ・エイプリルを体で隠してくれたため、気づかれずにやり過ごすことができた。その後も、尾行を続けたけど、特に何も起こらなかったし、特段お兄ちゃんに何か変化があったようにも見えなかった。私たちは、お兄ちゃんたちに気づかれないように離れた車両に乗り、無事帰り着くことができた。駅に着いてドアが開くと同時に、私とレオ・エイプリルは一番に飛び出して、走って家に帰った。お兄ちゃんとベルさんに気づかれないためだ。桜と六道くんには降りる前に伝えたからモーマンタイ。後日改めて二人にはお礼をしようと思う。

 なんとかお兄ちゃんよりも先に家に着くことができた。ドアの鍵が開いており、開けると松さんが出迎えてくれた。

「おかえり。随分急いで帰って来たんだね」と松さんは冷静なトーンで言った。

「ハァハァ、ただいま! ハァハァ、松さん、ありがとう!」とまずは梅と雨の世話をしてくれたことにお礼を言った。

「楽しかったかい?」と松さんはやさしい顔で聞いてきた。

「ハァハァ……うん! ハァハァ…とっても、楽しかった!」と私は満面の笑みで答えた。

「そうか。なら良かった」と松さんは言い、外出の準備を始めた。

「あれ!? もう行っちゃうの? もうすぐお兄ちゃんも帰って来るよ!」

「あぁ。そうみたいだね。でも、ちょっと用事があるから行くよ」

「そう……なんだ」と私は少し寂しくなった。その気持ちに気づいたのか、松さんが私の頭に手をポンとやさしく置いた。

「つゆりも大きくなったね。しっかり成長しているようで嬉しいよ」と松さんはやさしい声で言った。

「当たり前でしょ! 私は松さんとゆのさんの娘で、お兄ちゃんの妹なんだから!」と私は松さんに心配をかけないように少し強がって言った。

「そうだね」と松さんは軽く微笑んでやさしい口調で言ってから、荷物を持って家を出て行った。私は松さんの姿が見えなくなるまで見送ってから、急いで玄関に戻り、とりあえず荷物を自分の部屋に詰め込んだ。そして走ってリビングに向かい、くつろいでいる振りを始めようとした時、お兄ちゃんが帰って来た。ドアを開ける音が聞こえたので、まだ少し息が切れていたので、リビングで3回深呼吸をしてから玄関に向かった。お兄ちゃんに怪しまれないように笑顔で出迎えたけど、少し様子がおかしかった。何か覚悟を決めているような、そんな感じがした。それに急に「何かあったのか?」って聞かれたから、焦って「なっ、何もないよ!」と明らかに動揺したような返事をしてしまった。その反応を見たお兄ちゃんは少し怪しんでいるようだったけど、それ以上は何も聞いてこなかったので、やり過ごすことができた。こうして、私の旅行は途中でいくつものトラブルに巻き込まれながらも、無事に終えることができた。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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