ドキドキ!!修学旅行大作戦!!②
吊り橋効果という心理効果を知っているだろうか。これは、恋のドキドキと恐怖のドキドキを区別することができず、一緒に吊り橋をドキドキしながら渡ると、その相手に恋愛感情を抱いてしまうという心理効果のことだ。これはこのような実験で行われた。様々な年齢の独身男性を集め、2つのグループに分ける。一方は揺れる吊り橋を渡り、もう一方は揺れない頑丈な橋を渡る。渡りきったところで魅力的な女性がアンケートを行い、電話番号を渡して「結果が気になったら電話してください」と伝える。すると、揺れる吊り橋を渡った男性グループのほとんどが、この女性に電話したのに対し、揺れない頑丈な橋を渡った男性グループは1割程度の人しか電話しなかったという結果になった。つまり、揺れる吊り橋を渡った男性は、吊り橋によるドキドキを魅力的な女性を見たことによるドキドキと勘違いしてしまったということだ。
しかし、これには落とし穴がある。電話番号を渡す女性が魅力的でない(失礼な言い方で申し訳ないが)場合は、この効果が起こらないどころか、逆効果のなるようなのだ。たとえ、ドキドキする状況を作ったとしても、吊り橋を享受できるのはイケメンや美人だということだ。これは何とも悲しい現実だろうと思う。吊り橋効果は、霜月、神無月、如月さん、ベルさんのようなイケメン、美人なら効果を発揮するようだが、俺みたいな奴では逆効果になるらしい。つまり、吊り橋効果は、見た目に自信のある一部の人以外は実用的ではないということだ。
翌朝6時に目を覚ますと、霜月と十七里はまだ寝ていたので、俺は二人を起こさないようにそっと準備して、部屋を出た。二人が部屋に戻ってきたことに気づかなかったので、おそらく二人も俺を起こさないようにしてくれたのだろう。俺はいつも通り朝散歩を始めようと玄関に向かうと、弥生さんと皐月さんがいた。
「あ! ほんとに来た! 翔くん! チャオチャオ!」と弥生さんが意外そうな顔をして言いながら、俺にあいさつしてきた。
「だから言ったでしょ! 嘘じゃないって分かったなら、早く戻りなさい! あっ! 翔くん! おはようございます!」と皐月さんは、まるで弥生さんを邪魔者扱いするように言いながら、俺にあいさつしてきた。
「あぁ! おはよう!」と俺は返事をしたが、二人は構わずに会話を続けていた。
「え!? 今から私も一緒に散歩するんだけど…」と弥生さんが当たり前のようなテンションで言った。
「ちょっと! それだと話が違う! 確認をするだけだって…」と皐月さんは焦っているようだった。
「うん! でも、気が変わったの!」と弥生さんはあっさり答えた。
「チッ! 騙された!」と皐月さんは悔しそうにしていた。
「二人も朝早いな! 散歩でもするのか?」と俺は二人に尋ねた。
「うん! 翔くんが朝に散歩しているって皐月から聞いたから、一緒にしようと思って…」と弥生さんが答えた。
「俺と一緒に?」
「はい! 本当は私一人で来る予定だったんだけど…弥生にバレてしまって…」と皐月さんが申し訳なさそうな感じで言った。
「私に隠し事なんて10年早いよ!」と弥生さんが勝ち誇ったように言った。
「いや、俺は気にしないからいいけど…。でも、俺が朝散歩してるって、よく知ってたな!」
「それは、翔くんのことですから!」と言う皐月さんは、弥生さんに対して勝ち誇ったような態度になった。そういえば、皐月さんには俺の個人情報がどこからか漏れている疑惑があったんだった。皐月さん自身で調べているのか、はたまた誰かから情報をリークしてもらっているのか、どちらにしろ、皐月さんは将来、探偵とか記者に向いているんじゃないかと思った。
「フン! 私だって皐月の知らない翔くんを知ってるもんねー!」と弥生さんがまるで小学生のような張り合いを始めた。
「そうなの? たとえばなに?」と皐月さんが弥生さんを煽るように尋ねた。
「たっ、たとえば、翔くんはカフェインに弱いからコーヒーをあまり飲まない! とか!」と弥生さんが言った。
「知ってる! だけど、誰かとカフェに入った時は、相手に合わせて注文することもある!最近は抹茶ラテにハマっている!」と皐月さんはさらに詳しい情報を涼しい顔をしながら付け足した。
「じゃ、じゃあ! 翔くんは六月っていう名前でSNSを使っているけど、始めた当初は名前が違ったの! それが何か知ってる?」と弥生さんは質問形式で皐月さんに言った。
「JUNEでしょ! それくらい知ってるに決まってるでしょ!」と皐月さんは知っていて当たり前のように答えたが、俺は少し背筋が震えた。なぜ二人ともそのことを知っているんだ? 俺がJUNEという名前で活動したのなんて一週間くらいしかないし、当時のアカウントも消えているのに、だ。百歩譲って皐月さんが知っているのは、まだ分かるが、どうして弥生さんも知っているんだ、と思った。もしかして、俺のスマホが誰かにハッキングされて、情報を売られているのか、と心配になったので、今度点検することにした。
「二人とも! 話はそのくらいにして散歩に行かないか?」と俺は提案した。そうしなければ、俺の個人情報がどんどん流失してしまうことになるからだ。
「そうだね! じゃあ行こう!」と弥生さんは言いながら、俺の左腕に抱きついてきた。
「また、そうやって弥生はすぐに抱きつくんだから!」と皐月さんは言いながら、右腕に抱きついてきた。
「いや、ありがたいんだけど、さすがにこれで歩くのは…」と俺は言いながら、内心では個人の欲望と世間体との間で葛藤していた。
「そうだよ! 皐月が引っ付きすぎなんだよ!」
「私よりも、弥生の方が引っ付きすぎ!」
と、二人のバチバチした言い争いはしばらく続き、最終的に二人が納得して決まったことが、少し間隔をあけて歩くということだった。これって、結局誰も得しない選択なんじゃ…と思ったが、二人はそれで満足しているようだった。俺が余計なことを言ってしまったせいで……と内心すごく後悔していた。
「ちょっと寒いけど、朝の散歩って気持ちいいね! 知らなかった!」と弥生さんが言った。弥生さんの格好を見ると、薄着で寒そうな感じがしたので、俺は自分が着ていたユ〇クロのハイブリットダウンパーカー(ブラック)を脱いで渡した。
「え!? いいの?」と弥生さんが言ったので頷くと、「ありがとう!」と笑顔で言ってくれて、受け取って着た。
「ハクシュ! ほんと、冬の朝は寒いよね!」と皐月さんもわざとらしくくしゃみをしながら、俺の方をチラチラと何度も見て、様子を伺いながら寒いアピールをしていたが、格好を見る限り防寒対策はバッチリに見えたので、そこをツッコむことにした。
「いや、皐月さんは見たところ寒くなさそうなんだけど…」
「人によって体感温度は違うんです!」と皐月さんは粘ってきた。
「そうかもしれないが、さすがにこれ以上は脱げないな!」と俺は自分が薄着であることをアピールした。ハイブリットダウンパーカーを脱いだ俺の服装は、すでに2枚しか残っていなかった。それもヒートテックとモックネックのロンTだったので、これ以上脱ぐわけにはいかなかった。
「ダウンパーカーは保温性に優れているため、ヒートテックの上に着るのが理想だと聞いたことがあります!」と皐月さんは服の性能について語り始めた。「なので、弥生からダウンを返してもらって、私にロンTを貸してくれれば、問題ありません!」と皐月さんはキリっとした決め顔でとんでも理論を言った。
「いや、問題大ありだから!」と俺は思わずツッコんでしまった。
「じゃあ、私が弥生に貸すから、そのダウンと交換して!」と皐月さんは着ていたコートを脱いで、弥生さんに渡そうとした。
「いーやーだ! 私はこれでいいもん! 暖かくて気持ちいい!」と弥生さんはダウンパーカーを脱ぐ気配を全く見せずに、皐月さんの申し出を拒否した。それに対して皐月さんは、ぐぬぬといった表情をしていたが、突然何かを思いついたような顔になって、俺の方を見てきた。
「はい! 翔くん、寒いだろうから、これ貸してあげる!」と皐月さんは持っていたコートを俺に渡してきた。
「いや、それだと皐月さんが寒くなるんじゃ?」
「私は大丈夫! 中に着込んでいるから!」と皐月さんは厚着しているアピールをしながら、コートを渡してきたので、俺は「じゃあ、遠慮なく…」と言って、それを受け取り、着ることにした。そのコートを着るととても暖かかったので、俺は「ありがとう!」と皐月さんにお礼を言うと、皐月さんは照れているような、笑顔で喜んでいるようにも見えた。
それから、俺と弥生さんと皐月さんは、今日行くUS〇を一緒に回る約束したり、どこを回ったりするのかなどを話しながら20分程散歩し、宿に戻った。その後、朝食を食べたり、荷物をまとめたりして、バスに乗り、US〇のある大阪に向かった。分かってはいたが、平日の朝にもかかわらず人の多さに俺は圧倒されていた。ただでさえ、昨日一昨日と人の多さに圧倒されていたので、今日は控えめでいこうと思った。最悪、一日中レストランで一人読書でもしようか、と思ったが、さすがにそんなわけにもいかなかった。それに十七里の件も気になっていた。昨日のことがあったので、俺は霜月と相談して作戦は決行しないことにした。今日が今までで一番人が多いので、何が起こるか分からないし、俺たちが変に介入しすぎても良くないだろうと思ったからだ。あとは十七里と八月一日さんがどうするのか、黙って見守ることにした。
予想通り、入場してから昨日と同じメンバーが集まり、まずは〇リー・ポッターエリアに向かった。事前に回るエリアを話し合い、整理券を確保していたので、今日回るルートは大体知っていた。話し合いの時、十七里と八月一日さんが異常な〇SJ愛を語っていたので、詳しいだろうと思って二人に任せることにした。その結果、二人がオススメする人気のエリアを回ることになった。二人によると、イギリス生まれの大人気魔法ファンタジーの〇リー・ポッターエリア、不思議な黄色い生き物の〇ニオンエリア、子どもから大人まで大人気の赤いおじさん〇リオエリアは外せないようだった。二人は〇リオエリアに真っ先に行きたい様子だったが、整理券の入場時間が昼からだったので、先に〇リー・ポッターエリアに行くことになった。案の定、雛月さんたちも同じルートだった。
〇リー・ポッターシリーズは俺も好きだったので楽しみだった。また、著者のJ・K・〇ーリングさんの逸話や名言も好きだ。彼女はたくさんの失敗をしてきたらしい。〇リー・ポッターを書き上げ、いろんな出版社に送ったが何度も断られたらしい。それでも諦めずにいろんなところに送り続け、やっとのことで出版を受け入れてくれるところを見つけ、その結果、世界的に大ヒットしたということだ。一時は生活することすら困難な状況に陥ったこともあるらしいが、それでもめげずにやり遂げたらしい。彼女の名言でこんなものがある。『失敗は不必要なものを剥ぎ取ってくれるのです。私は、自分を偽るのを止め持てる全エネルギーを、私にとってもっとも大事だった小説に注ぐようになりました。もし私が他のことで成功してしまっていたら、本当にやりたかったことで成功することはなかったでしょう』。とても素晴らしい名言だと思う。この他にも、たくさんの名言があるので調べてみるといいだろう。名言はメンタルに良いということが分かっているので、辛い時は励ましてくれたり、やる気を高めたりすることができる。俺も時々、過去の偉人たちの名言を見て、頑張ろうという気持ちになることがある。
エリアに入った瞬間、〇リー・ポッターの世界に入り込んだような世界観に俺は感動した。作品一つひとつがとても細かく再現されており、職人の作品愛が伝わってくるようだ。俺としたことが、あまりの感動につい取り乱してしまったほどだ。アトラクションも楽しかったが、エリアを散策しているだけでも十分楽しかった。俺だけではない。他のみんなもとても楽しそうにしていた。ベルさんはどんどん進んで行き、一つの作品を見つける度に「ここに〇〇がありマスよー!」とみんなに教えてくれた。さらに、ベルさんは途中で「母国が恋しくなりまシタ!」と言いながら感傷に浸っているようだったので、一体何を思い出したのか、気になったので聞いてみた。すると、特に意味がなかったらしく、それっぽいことを言ってみただけだったらしい。何か特別な思い出でもあるのかと思ったが、特にないようだった。睦月会長も表情から察するに浮かれているように見えたが、それが〇リー・ポッターの世界によってなのか、隣で腕を組んでいる一ノ瀬さんによってなのか、分からなかった。どちらにしろ、楽しそうなのでよかった。そしてここで一つ気づいたことがある。昨日、一昨日に比べて、八月一日さんが積極的に十七里と話しているように見えた。ここ二日、八月一日さんは十七里を避けているように見えたが、何か心境の変化でもあったのだろうか、と思った。十七里も昨日のことで吹っ切れたのか、普通に話しているように見えた。何があったか分からないが、二人が話すようになって、少し安心した。午前中は、主に俺たちは〇リー・ポッターエリアを散策したり、食べ歩きしたりして過ごした。〇リオエリアの時間までもう少しあり、みんな小腹が空いたようだったので、俺たち男子4人で全員分の軽食を買いに行った。その間女子は散策の続きをしたり、休んでもらったりした。並んで待っている間、俺たちは十七里の現状を話した。
「十七里! どうしたんだ! 今日は? 八月一日さんと普通に話しているじゃねぇか!」と俺は少し嬉しさを表現しながら尋ねた。
「さ、さぁ? 僕にもよく分からないけど、風鈴が話しかけてくるんだよ!」と十七里も理由は分かっていないようだが、少し嬉しそうな感じで言っているように聞こえた。
「このまま良い雰囲気になれば、告白してもいいんじゃないか?」と霜月が提案した。
「そうだな! 行ける時にいっておいた方がいいだろう!」と神無月も霜月の意見に同意した。
「え!? でも、風鈴には他に好きな人が…」と十七里は躊躇っていた。
「それはまた別の話だ! 今パートナーがいないのなら、告白するのは自由だろ!」と神無月が言った。
「俺もそう思う! それに…十七里はこのままでいいのか?」と霜月が聞いた。
「僕は………よく分からない!」と十七里は少し考えてから答えたが、迷っているようだった。
「まぁ、自分が本当はどうしたいかなんて、すぐに分かれば、誰も苦労はしないからな!」と俺は十七里をフォローするつもりで言葉を掛け、続けて「まだ迷いがあるなら、もう少し考えてからでもいいかもな! 焦ってもいいことはないだろ!」と言った。
「そう……だな!」と十七里は納得したのか、してないのか分からない、はっきりしないような返事をした。十七里自身もどうするのか、迷っているようだったので、自分で決めるまでは、俺たちも余計な口出しをしないようこれ以上は聞かないことにして、話題を変えた。
みんなの分の軽食を買った後、女子が待っている場所に向かっていると、見た目的に少し年上のチャラい感じの男4人組に絡まれているのが見えた。睦月会長が前に立って応戦しているように見えたが、離れていたので、なんて言っているのか聞こえなかった。おそらく、ナンパか弥生さんのファンだろうと推測した。遠くからでもなんとなく状況は察することができた。チャラ男共が誘ってくるのを断っているが、なかなか諦めてくれないように見えた。そして、チャラ男の一人が八月一日さんの腕を掴むと、十七里が突然走り出して、その男に飛び蹴りをした。その男は吹っ飛び、残りのチャラ男三人も驚いた顔をしていた。
「風鈴が嫌がっているのに、気安く触るんじゃねぇ!」と十七里は怒った顔で、チャラ男共に言った。十七里がここまで怒ったのは初めて見たが、なぜだか少し嬉しくなった。それに、十七里の答えはもう決まっているように見えた。チャラ男の一人が十七里に殴りかかりそうだったので、俺は持っていたものを神無月に預けて、走って向かい応戦することにした。チャラ男の十七里に向けられた拳の腕を掴み、奴の腹を蹴って吹き飛ばした。
「みんな! 次の場所に先に行ってろ!」と俺はみんなの行動を促すように言った。
「でも! 翔くんは!?」と如月さんが心配して言ってくれた。
「大丈夫だ! 俺もすぐに行くから!」とカッコつけて言い、「時雨! 紫苑! みんなを頼む!」と言うと、二人の誘導でみんなは次の〇リオエリアに向かった。
「僕も手伝うよ!」と十七里は鋭い目つきでやる気になっていた。
「いや、いい! こんな奴らに時間を使うのはもったいないから、十七里も八月一日さんたちと一緒に行ってろ!」と俺は十七里の申し出を断った。
「でも……僕が始めたことだし……」と十七里はきっかけを作ったことを気にしているようだった。
「それは違う! 始めたのは奴らだ! だから適当にやり過ごして俺もすぐに行くから!」と俺が言うと、十七里も納得して、八月一日さんたちの後を追った。
「なんだお前? カッコつけたこと言いやがって! ヒーローでも気取ってんのか?」とチャラ男の一人が言い、チャラ男全員が笑い始めた。
「別にそんなつもりはないが、女の子の前でカッコつけたいとは思うだろ!」と俺は率直に答え、続けて「お前らもお前らでナンパを断られたら、すぐに引き下がれよ! そんなんじゃモテねぇぞ!」と俺は煽るように言った。
「ガキが! 大人を舐めてると痛い目見るぞ!」とチャラ男の一人が予想通り、キレたようだった。
「お前一人で俺たちを相手にできると思ってんのか!?」とまるで雑魚キャラが吐くようなセリフを別のチャラ男が言った。
「そうだな…」と俺は返したが、正直、どう対処しようか迷っていた。こいつらの相手をするのはわけなないと思っていたが、ここはテーマパークだ。乱闘騒ぎになると、テーマパークの人たちや学園の人たち、周りのお客さんなど多くの人に迷惑をかけることになる。最悪、今後学園の生徒が出禁なんてことになったら、たくさんの人に恨まれるだろう。かといって、話し合いで許してくれるような輩には見えないが、一応提案してみることにした。
「提案なんだが、ここはお互い引き下がることにしませんか?」と俺は丁寧に提案してみた。
「はあ? 何言ってんだ、お前? 怖くて怖気づいたのか?」とチャラ男の一人が笑いながら言い、他のチャラ男もクスクス笑っていた。
「はい。正直に言うと、怖くなりました!」と俺は心にも思ってないことを平然と言った。
「マジかよ!! こいつ!! どんだけカッコ悪いんだよ!」とチャラ男の一人が言い、キャハハという甲高い声で笑い始めた。
「なんだ? お前? 許して欲しいのか?」と別のチャラ男が言った。
「はい。先程は失礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした」と俺は心にも思ってないことを淡々と述べてから頭を下げた。この場を丸く収めるのなら、俺はこういうこともできるのだ。別にこいつらになんて思われようと、今後会うことはないので、どうでもよかった。それよりも早くみんなのところに戻りたかった。
「ハッ! こいつ本当にダセぇな! まぁ謝ったからって許さねぇけどな!」とチャラ男の一人が言いながら、殴りかかってきたので、俺は避けて足を引っかけると、その男は見事にこけた。
「てめぇ!」と言いながら別のチャラ男が襲いかかってきたので、同じように避けて足を引っかけると、そいつも派手にこけた。
残りの二人はすぐに襲ってこずに、身構えていた。すると「何やってんだ? 水無月翔?」という声が後ろから聞こえたので、振り返ると、恐竜のぬいぐるみハットを被った十文字がいた。
「十文字! 随分楽しんでいるようだな?」と俺は見た目で感じたことを聞いた。
「これか? いいだろ! 強そうで気に入ったんだ!」と十文字は自慢げに言ってきた。
「まぁ、そうだな!」と俺はとりあえず同意した。
「それより、お前は何してるんだ? 一人で?」と十文字が聞いてきたので、お前も一人じゃねぇか、と俺は心の中でツッコミを入れながら、事情を説明した。それを聞いた十文字は面白そうだということで、手伝ってくれることになった。俺が「乱闘になったら迷惑をかけるから、絶対に手は出すなよ!」と忠告すると、「承知!」とだけ答えた。そして俺と十文字は襲ってくるチャラ男たちの攻撃をできるだけ避けたり、受け流したりしてこちらからは手を出さないようい対応した。しばらく続けていると、チャラ男たちも疲れて諦めるかと思ったが、なかなか諦めなかった。その根性を別のことに使えばいいのに、と思いながら応戦していると、パークの警備員のような人の姿が近づいているのが分かった。それを見た俺は十文字とアイコンタクトをしてから作戦を決行することにした。俺と十文字は、チャラ男たちの腹に、素人では見えないスピードの素早いパンチを浴びせて、苦しんでいる奴らと無理やり肩を組み、事情を確認しに来た警備員に、一緒に遊んでいたアピールをした。チャラ男たちは苦しくて声を出せないので、俺が事情を説明して謝罪した。警備員に「紛らわしい行動はしないように」という忠告を受けて、なんとか誤魔化すことができた。チャラ男を近くのベンチに座らせ、俺と十文字はグータッチして、その場を離れた。
〇リオエリアに向かうと、みんな心配そうな顔で待ってくれていた。「大丈夫デスか?」、「大丈夫? 怪我してない?」と心配する声が次々に掛けられたので、真っ先に、大丈夫だということを伝え、チャラ男たちとのやり取りを説明すると、みんなホッとした顔になった。いろいろあったが、入場時間には間に合ったので、安心していると、如月さんが「そんなこと、どうでもいい!」と大きな声で俺を怒った。如月さんがここまで怒ったのを初めて見たので、俺は驚いた。如月さんは、俺のことをすごく心配していたようで、もし何かあったらどうしようと考えていたようだった。途中で何度も引き返そうとしたけど、危ないからという理由で、霜月に止められたらしい。今回の件は自分も任せてしまったから、責める資格はないけど、もっとみんなを頼ってほしいということだった。俺が一人でなんでも引き受けることに対して怒っていたようだった。如月さんが涙ながらに訴えてきたので、俺は申し訳ない気持ちになり謝った。そして少し沈黙が続いた後、我に返った如月さんが俺に対して平謝りしだした。「ごっ、ごめんなさい! 私なんかが出しゃばっちゃって…」と申し訳なさそうに何度も謝ってきた。突然の変貌に俺もあっけにとられて、頭の中は混乱し、なんて言葉を掛ければいいのか、分からなかった。すると、ベルさんが如月さんに声を掛けた。
「牡丹の言う通りデス! 翔サンはもっとワタシたちを頼らないといけまセン!」とベルさんは、如月さんに肩にそっと手を置いてやさしくフォローしながら、意見にも同意した。
「そうね! 水無月くんはなんでも一人でできてしまうから、もっと人を頼ることを覚えないと!」と睦月会長も同意していた。
「こう見えて私、結構力強いんだよ!」と弥生さんが全然盛り上がっていない力こぶを見せつけながら、強いアピールをしてきた。
「弥生の力なんて、当てにならないでしょ! 私なら遠くから気づかれないように攻撃できるよ!」と皐月さんが銃を撃つ構えをしながら言った。皐月さんのことだから少し現実味があるように感じた。
「それも翔くんに当たってしまったら大変でしょ!」と弥生さんが反論した。
「私はそんな失敗はしない! 普段から鍛えているから!」と皐月さんが答えた。
「それってゲームの話でしょ! 現実じゃ役に立たないから! それよりも私の力の方が役に立つに決まってる!」と弥生さんが自慢げに言った。
「弥生が近くにいたら、足手まといなるだけでしょ! それなら遠くにいる私の方がまだマシだから!」と皐月さんも負けずに応戦した。
「まっまぁ、二人が助けたいという気持ちは素直に嬉しいよ!」と俺は二人をなだめるように言うと、二人の言い争いは収まった。睦月会長以外のみんなは、弥生さんと皐月さんがここまで仲が良い? 言い争いをする仲だということを知らなかったようなので、驚いていた。そして俺がそのことに慣れているような対応をしていたので、いつの間にそこまで仲良くなったのか、ということを詮索されてしまった。弥生さんと皐月さんのおかげで、重かった雰囲気もすっかり変わり、和やかな雰囲気に戻った。ベルさんと如月さんは、最初に何を話していたのかも忘れているかのような様子で、詮索し始めたので、困っていた。その時、時計を確認すると、入場できる時間になっていたので、俺は〇リオエリアに話題を逸らし、みんなを先導して入場をした。このエリアも素晴らしいクオリティで、まるで自分がゲームの中に入り込んだ感覚になり、とても感動した。みんなテンションが上がり、童心に戻っているように見えたが、その中でも特に皐月さんが異常なテンションで興奮していた。普段、Vチューバーとしてゲーム実況で〇リオのゲームをやり込んでいるので、ゲーム愛が爆発しているようだった。ここでもいろんなアトラクションや体験型アクティビティをして楽しく過ごすことができた。グッズ売り場で頭がキノコの生物や恐竜と呼ぶには可愛すぎる緑の生物のグッズを見ていると、十七里が話しかけてきた。
「さっきはごめん。僕のせいであんなことになってしまって…」と十七里はまだ先程の件を気にしているようだった。
「まだ気にしていたのか! さっきも言ったけど、あれはあいつらが絡んできたせいであって、十七里のせいじゃないからな!」と俺は再度事実を述べた。
「でも…」と十七里はまだ申し訳なさそうな顔をしていたので、俺は話題を変えることにした。
「それよりも、あの行動は何だったんだよ?」と俺は気になっていたことを尋ねた。
「え!? あの行動?」と十七里は分かっていないようだった。
「八月一日さんを助けた、あのことだよ!」と具体的な行動を示すと、十七里も理解したようだった。
「あれは…咄嗟のことだったら…! 正直、自分でも驚いたよ!」と十七里は答えた。
「いやぁ、あれはカッコよかったなぁ! 『風鈴が嫌がっているのに、気安く触るんじゃねぇ!』って最高だった!」と俺は率直な感想を言った。
「それは言わないでくれ…」と十七里は恥ずかしそうに赤くした顔を片腕で隠しながら言った。
「無意識にあの行動が出たてことは、自分の本当の気持ちが分かったんじゃないか?」と俺は本質的な質問をした。
「………あぁ! ようやく分かったよ!」と十七里はスッキリした顔で答えた。その顔は、まるで今まで悩んでいたことが嘘のように感じられる程、決意に満ちているように見えた。
「なら、よかった!」と十七里の答えを聞いて俺も安堵した。
「今までありがとう! いろいろ助けてくれて…」と十七里はお礼をしてきた。
「俺は何もしてねぇよ! 逆に今回は余計なことをたくさんしてしまった気がする……。ごめん」と俺は今回自分が干渉しすぎたような気がしたので謝罪した。
「そんなことはない! たくさん助けてもらった!」と十七里はフォローしてくれるように言ってくれた。
「そう思ってくれるのはありがたいが、十七里は自分で答えを見つけたってことは忘れるなよ!」と俺は十七里の頑張りを肯定するように言った。
「それは……そうだな!」と十七里も納得してくれたようだった。
「それに、まだどうなるか分からないからな! 大事なのはこれからだ!」と俺は付け加えた。
「あぁ! なるべく悔いのないように努力するよ!」と言う十七里の言葉からは強い決意を感じた。
それから、俺たちは不思議な黄色い生き物、通称〇ニオンエリアに向かった。ここでもアトラクションに乗ったり、〇ニオンと一緒に写真を撮ったり、グッズを見回ったりして楽しい時間を過ごした。悲しいことに楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、気が付くと結構な時間が経っていた。そして、最後に目玉となるナイトパレードがあるということで、俺たちは見られそうな場所に移動することにした。すでにたくさんの人が沿道で待っていたので、俺たちは仕方なく後ろの方から見ることになった。ナイトパレードが始まる直前に十七里と八月一日さんがいないことに気づいた。おそらく、十七里が八月一日さんに告白するために、どこかに連れて行ったのだろうと推測していると、急に誰かに腕を引っ張られた。人が多かったので、誰に引っ張られているのか分からなかったが、人の間を縫うように進んで行った。しばらく進んでいると、急に腕が放され、俺の腕を掴んでいた人はそのままどこかに行ってしまった。みんなと逸れてしまったので、周りを見渡すと、斜め前に十七里と八月一日さんがいることに気づいたと同時にパレードが始まった。正直、二人のことも気になったが、勝手に聞くのは良くないだろうと思って、その場を離れようとすると、いつの間にか近くにいた如月さんとベルさんに腕を掴まれて、身動きが取れなくなってしまった。「ちょっ!! ここにいたらマズい…」と俺が小さな声で言うと、ベルさんが「シー」と言いながら、俺に静かにするように注意してきた。「いや、今はそれどころじゃ…」と小さな声で言いかけると、如月さんが「分かってる! でも、もう少し待って!」と言った。如月さんの視線を追うと、綺麗なナイトパレードではなく、十七里と八月一日さんの方だった。
「え!? 二人も気づいていたのか?」と俺は小さな声で尋ねた。
「二人もってことは、翔くんも気づいていたの?」と如月さんが質問で返してきた。
「いや。俺は気づいていたというよりは、十七里に相談されていたんだ!」と答えると、二人は驚いた顔をしてお互いを見つめ合った。
「ワタシたちも八月一日さんに相談されていまシタ!」とベルさんが言ったのを聞いて、俺は衝撃を受けた。
それから二人に話を聞くと、なんと八月一日さんは十七里のことが好きだったらしく、告白しようと思って如月さんとベルさんに相談していたらしい。しかも、修学旅行前に相談していたらしく、俺たちとほぼ同じ時期に二人別々に相談していたようなのだ。その相談を如月さんとベルさんは引き受けて、修学旅行でいい感じに二人っきりにする作戦を考えていたらしい。しかし、修学旅行直前になぜか二人の関係が悪くなり、それが続いているようだったので、どうすればいいのか困っていたらしい。作戦を決行しようにも、八月一日さんは十七里を避けているようだったし、清水寺ではバラバラになるというトラブルに巻き込まれるし、ということで打つ手なし状態だったようだ。そんな状態でも如月さんもベルさんも八月一日さんを励ましていたようだが、なかなか上手くいかなかったらしい。八月一日さんも申し訳ないということで、如月さんとベルさんに修学旅行を純粋に楽しんで欲しいと言って、諦めているようだったらしい。それが、今日になって態度が急変したようなのだ。八月一日さんがなぜ急に変わったのか、二人も分からなかったようだが、積極的に十七里に関わるようになっていたから、安心していたようだった。そして、八月一日さんは決意して十七里に告白しようとしているらしい。ここまで聞いて、俺たちは本当に余計なことをしてしまった、と感じて反省した。結局二人は両想いだということなので、何も悩むことなんて最初からなかったということだ。それを俺たちが介入したことで余計に混乱させてしまったかもしれない、と思い反省した。俺たちはお互いの状況を報告し、二人が上手くいくと確信したので、その場をそっと離れた。その後、十七里と八月一日さんがどんな告白をしたのか分からないが、ナイトパレードが終わった後に探していると、手を繋いで歩いているのが一瞬見えたので、上手くいったのだろうと思った。俺たちと合流すると二人ともすぐに手を放していた。なんだこいつら、ウブなのか、と心の中で思った。そして、俺たちは宿に戻り、いつもならすぐに休むところを、今日は違った。部屋に入って早速、十七里にどうなったのかを問い詰めることにした。普段は他人の恋愛なんて興味がないが、ここまでいろんなことを考えた結果、結局最初から両想いだったという結末に少しイラっとしたので、八つ当たりをすることにした。そもそも俺は文化祭の件で、十七里に復讐しようと考えていたので、いい機会だと思った。
十七里の話によると、ナイトパレードが始まる直前に、八月一日さんと二人っきりになるために、腕を掴んで移動しようと思っていたら、先に腕を掴まれて引っ張られてしまったらしい。おそらく八月一日さんも同じ考えだったんだろう。そして、移動した後、パレードが始まり、しばらく一緒に眺めていると、八月一日さんの方から話し始めたそうだ。
「条! ごめんね。条のこと避けるような態度をしてしまって…」と八月一日さんは最初に謝ってきたらしい。
「僕の方こそ、ごめん。この前、酷いこと言ってしまって…」と十七里はこの前の告白のことを謝ったらしい。
「え!? 何のこと?」
「何のことって、この前屋上に呼び出して言ったことだよ」
「え!? あれって告白じゃなかったの?」
「え!? どういうこと?」
「だってあの時、言ってくれたじゃん! 私と一緒にいたいって…」
「え!? でも、あの時、風鈴、泣きながら帰ったじゃん!」
「あれは……嬉しくて泣いていたの! それにどう返事をすればいいか分からなかったから、とりあえず逃げたの!」
「え!? ってことは!?」
「私……条のこと……好きだよ!」と八月一日さんに告白されて、十七里は内心とても喜んでいたらしいが、この話にはまだ続きがあった。
「でも……」と八月一日さんは深刻そうな顔になって言い、「でも、条は他に好きな人がいるんだよね?」と質問してきたらしい。
「え!?」とこの時十七里は混乱したらしい。俺も話を聴きながら八月一日さんが誰と勘違いしているのかということが気になった。十七里の好きな人は八月一日さんなので、他に好きな人なんているはずがなかった。そもそも、十七里が八月一日さん以外の女子と話している所を見たことがない。
「隠さなくてもいいよ! 条は………水無月くんのことが好きなんでしょ!」と八月一日さんは言ったらしい。
この時、十七里の頭はさらに混乱したらしい。後から話を聴いている俺も予想外の展開に頭が混乱しかけた。どうして八月一日さんは十七里が俺のことを好きだと勘違いしたんだ、ということが気になったので、十七里に早く続きを話すように急かした。十七里によると、八月一日さんは俺と十七里の仲が文化祭以降、急激に接近しているように感じたようで、そういう関係なんだと、思い込んだらしい。なので、十七里に告白され、嬉しさで逃げてしまった後、一度は戻ろうとしたけど、そのことを思い出して、もしかして、からかわれているんじゃないかと思ったらしい。それでどうすればいいか分からなくなり、一人で悩んでいたようだ。八月一日さんは、如月さんとベルさんに相談していたが、その件のせいで、自分の恋が上手くいかないと思い込んでしまったので、二人に協力してもらっても申し訳ないと思い、相談できなかったようなのだ。それが、昨日の夜にあることがきっかけで吹っ切れたらしい。八月一日さんは、何がきっかけか詳しく教えてくれなかったそうなので、それについては十七里もよく分からなかったらしい。とにかく、十七里は八月一日さんが勘違いしていることが分かったので、訂正しつつも改めて告白したらしい。
「ごめん。僕があの時はっきり言わなかったから、勘違いさせちゃったようだね!」と十七里はやさしい口調で言ったらしい。
「え!? 勘違い…?」と八月一日さんはまだよく分かっていなかったようだ。
「僕が好きな人は、風鈴だよ! 世界で一番好きなんだ!」と十七里は告白したらしい。
「え!? でも…水無月くんは?」
「水無月くんのことは一旦置いといて…」と十七里は俺の話題を横に置いてから話し始めたらしい。
それから十七里は八月一日さんと今まで一緒に過ごしてきたことを語りながら、思い出話を始めたらしい。そして最後に八月一日さんを見つめて「僕と付き合ってください!」と告白したらしい。それを八月一日さんが受け入れてくれ、カップルが成立した、という流れだったらしい。八月一日さんの勘違いの仕方が少し気になったが、とりあえず上手くいったことを祝福した。
温泉で一日の疲れを癒した後、部屋に戻ると霜月の友達が来ていたので、俺は昨日と同じようにロビーで読書することにした。しばらく一人で読書をしていると、八月一日さんが後ろから声を掛けてきた。
「やっほー! 水無月くん! こんなところでスマホを眺めて一体何を見ているの?」と八月一日さんが尋ねてきた。
「本を読んでるんだ!」と俺はスマホの画面を見せながら答えた。
「読書中だったんだ! じゃあ、話しかけると邪魔になっちゃうね!」と言う八月一日さんは何か言いたげな様子だった。
「邪魔とか思わないから、言いたいことがあるならどうぞ…」と俺は八月一日さんがなんて言いたいのか、なんとなく察しがついたので、促すように言った。
「そう……」と八月一日さんは言い、数回深呼吸したあと続けて「じゃあ、いろいろありがとう! あと、変な勘違いをしてしまってごめんなさい!」とお礼と謝罪をまとめて言った。そして内容は俺の予想通りだった。
「まぁ、勘違いも晴れたし、上手くいったのならよかった! ちょっと勘違いの仕方は気になったけど…」と俺は根に持っているような感じで言った。
「そそそ、それは、水無月くんと条があまりにも仲が良かったから仕方ないよ!」と八月一日さんは自分を正当化していいた。
「そもそも十七里と俺、そんなに仲が良く見えたか?」と尋ねると、八月一日さんは十七里と俺の仲が良く見えたエピソードを語り始めた。
八月一日さんの話によると、十七里は趣味に没頭するタイプだから、特に仲が良いという友達がいなかったらしい。友達がいないわけではなく、話したり遊んだりする友達は何人かいるが、どちらかと言うと、自分の趣味を優先しているタイプだったらしい。そんな十七里が、文化祭以降自分から俺に話しかける場面が増えたので、どう思っているのか気になって聞いたらしい。その時、十七里が「水無月くん? 普通に好きだけど…」と答えたらしい。それを聞いて八月一日さんは勘違いしてしまったらしい。今までいろんな勘違いやすれ違いが起こって、変な展開になってしまったと思っていたが、この話を聞いて、全ての元凶は十七里ということが分かった。やはり、十七里と関わると俺のエネルギーを無駄に消費してしまう、エナジーバンパイアということが分かったので、今後は関わりを減らそう、心の中で誓った。
「ありがとう! 条と仲良くしてくれて…」と八月一日さんがやさしい笑顔で言った。
「仲が良いかは分からないですけどね…」と俺は嫌味な感じで言ったが、八月一日さんは気にしていない様子だった。
「ふふっ! これからもよろしくね!」と八月一日さんが笑顔で言ってきたので、先程心で誓ったことを、もう少し様子を見てもいいかもしれない、と思い直した。そう言って、八月一日さんは部屋に戻って行った。
再び一人になったので、読書を再開した。10分程読書していると、突然後ろから誰かに目隠しをされた。「だーれだ?」と言う声から判断して、俺は「如月さん!」と答えた。すると、俺の目を覆っていた手が退いて、視界に電気の光が差し込むと同時に「せーかーい!」と言う如月さんの声が聴こえた。確認のため振り返ると如月さんが笑顔で立っていた。
「よく分かったね!」と如月さんが笑顔で言いながら、隣の椅子に座った。いつもより如月さんのテンションが高いような気がした。
「まぁ、ほぼ毎日聴いている声だから…」と俺は不愛想に答えたが、心拍数は急上昇していた。突然あんな風に目隠しされて驚いたのだろうと思った。
「ふふっ、そうだね! ところで、今日は何の本を読んでるの?」と如月さんは聞いてきた。俺がスマホを見ている時は、本を読んでいるということを知っているようだ。それも当たり前だった。今まで如月さんは俺が読んでいる本を毎回尋ねてくるということが相談部では習慣になっていた。本に興味を持ってくれるのは、読書好きの俺としては嬉しいので、如月さんにはいろんな本を紹介した。いくつかは、実際に読んで感想も聞かせてくれたので、嬉しかった。俺とは違う視点で捉えているので、同じ本でも新しい見方ができるようになった。
「今日はこれを読んでる!」と言いながら、スマホの画面を見せた。
「恋愛の…科学………。って、恋愛!?」と如月さんはとても驚いた顔をして言い、続けて「え? 翔くん…誰か好きな人できたの?」と尋ねてきた。
「いや、俺じゃなくて十七里のことで! ……恋愛って簡単には行かないんだなぁ、と思ったから改めて勉強してるんだ!」と俺は答えた。
「そっ、そうなんだ!」と如月さんは安堵の表情を浮かべているように見えた。おそらく、俺みたいな奴が恋愛をすることなんてあるのか、と考えていたが、それが違うと分かって安心したのだろう。
「いろいろあったけど、二人が上手くいって良かったね!」と如月さんが笑顔で言った。
「そうだな!」と俺も同意した。そして少し沈黙が流れた後、如月さんが発言した。
「ねぇ、あの時はごめんなさい」と如月さんは突然謝ってきた。
「ん? 何のこと?」
「翔くんに強く言ってしまったこと…」と如月さんは少し俯きながら言った。どうやらあの時のことを気にしているようだった。
「あぁ、あれか! 別に謝る必要はないだろ! 間違ったことを言ったわけじゃないし…」
「でも! 言い方が良くなかったと思う…。翔くんを傷つけちゃったよね?」
「いや、そんなに傷ついてない! 逆にあれくらいはっきり言ってもらったから、自分の課題が何か分かったよ!」と俺は如月さんをフォローするつもりで言ったが、内心は結構気にしていた。傷ついたわけではないが、あの時の俺は動揺していた。
「翔くんっていつもそうだよね! いつもやさしくて、助けてくれる!」と如月さんは、少ししんみりした様子で言い、続けて「でも、このまま甘えてばかりじゃいけないって思うの!」と真面目な顔で言った。
「そんなことはない! 俺だっていつもみんなに助けてもらっている!」と言い、続けて「相談も、文化祭も、料理勝負も、俺一人じゃ何もできなかった!」と例を挙げて反論した。
「そうだね! みんなで協力したから乗り越えることができたね!」と如月さんは一度俺の意見に同意し、続けて「でも、私は……! いつも翔くんを頼りすぎていた気がするの…」と言った。
「それは違う! 頼りすぎていたのは俺の方だ!」とつい熱くなって言ってしまい、続けて「俺の計画はいつも如月さんの負担が大きかった! 如月さんばかりに重荷を背負わせて、ごめん」と今までの反省点を謝った。
「重荷なんて思ったことない! 私は自分で選んでやっていたの!」と如月さんも熱くなっているようだった。
この時、俺と如月さんはお互いに熱くなりすぎて、顔が至近距離になっていることにようやく気付いて、一旦離れた。俺は心臓のドキドキが最高潮を迎えていたので、落ち着くために深呼吸をしながら、話題を変えようと考えた。胸のドキドキのせいで、なかなか思考に集中することができなかったが、ふと一つ思いついたことを聞いてみることにした。
「あ、あのさ! 如月さんって好きな人とかいるのか?」と俺はロビーの天井を見ながらあっさりと尋ねた。
「え!?」と如月さんの驚いた声が聴こえたが、その後沈黙が流れた。何と答えればいいのか迷っているのだろうと思い、如月さんを見ると、顔を真っ赤にして照れているようだった。この時、俺はなんてことを聞いてしまったんだぁー! と心の中で発言してしまったことを後悔していた。如月さんの好きな人が霜月時雨だということに、俺が気づいているということを如月さんは知らない。いくらバレバレだとしても、本人は隠し通せていると思っているので、無闇に聞くことじゃなかった。俺はすぐに訂正することにした。
「ごめん。答えにくい質問だったよな! 今のは忘…」と言いかけたところで、如月さんは発言した。
「いるよ!」と如月さんは俺の発言に被せて答えてから、続けて「いるよ! …好きな人!」と言った。まあ、予想通りの答えだったが、これを聞いた時、なぜか胸の辺りが少し苦しくなった気がした。
「そっか! 如月さんも上手くいくといいな!」俺の心臓は相変わらずドキドキしていたが、表面上では冷静さを保つように心がけ、笑顔を作って言葉を掛けた。
「ありがとう!」と如月さんは笑顔で答えてくれていたが、その笑顔は作り笑顔に見えた。そして少し沈黙が流れた後、如月さんが続けて「ねぇ……私の好きな人が誰か……知りたい?」と言ってきた。
「いや、そこまでは…」と断ったが、如月さんに俺の言葉は届いていない様子で、徐々に顔を近づけて言いそうな雰囲気になっていた。その近づいてくる如月さんの顔を見て、俺の心臓はさらに鼓動を早め、冷静な思考ができなくなっていた。そして、如月さんは、今にも言い出しそうに口を開けようとした瞬間、「牡丹! そこの売店に、こんなものが売ってまシタよ!」と言いながら、商品を持ったベルさんが勢いよくやってきた。それに俺と如月さんはビックリして、お互いに距離を取った。「アレ? 何か取り込み中でシタか?」とベルさんが聞いてきたので、「いや、何でもない!」と俺は赤くなった顔を隠しながら答えた。それから、「あ! やっぱり今日もいた!」と言う弥生さんと、その隣で「昨日は弥生が話したんだから、今日は私の番だからね!」と言う皐月さんが一緒にやってきた。また、そのすぐ後に、「翔! ここにいたのか!」と言いながら時雨と紫苑がやってきたので、あっという間にロビーが賑やかになってしまった。しばらくその場で雑談していると、見回りの師走先生に、もうすぐ消灯時間だから部屋に戻るように言われたので、俺たちは解散した。紫苑はまだ遊び足りないと言って、俺も誘ってきたが、さすがに疲れていたので断り、部屋に直帰して布団に倒れるように横になった。すると、一気に睡魔が襲ってきて、すぐに眠りについた。
翌日、目が覚めた時に時計を確認すると、6時だった。起き上がる時、少し疲れが残っている感じがしたが、そこまで気にする程でもなかったので、顔を洗ったり、歯を磨いたり、トイレに行ったり、着替えたりなど、いつも通りの準備をして朝散歩に行くことにした。玄関に到着すると、すでに如月さん、ベルさん、弥生さん、皐月さんが待っていた。
「あ! 翔くん! チャオチャオ!」と弥生さんが一番に気づいてあいさつしてきた。
「ハッ! しまった! 今日は私が最初にあいさつするつもりだったのに…」と皐月さんが悔しそうに言っていた。
「グッモー! 翔サン! 今日も一緒に行きまショー!」とベルさんが元気な声で言った。
「おはよー! 翔くん!」と如月さんは控えめな感じで言った。
「あぁ! おはよう! 何か今日は人が多いな!」と俺は見たまんま思ったことを言った。
「はい。本来、今日は私の番のはずなのに、みんなが勝手について来てしまいました。ごめんなさい」と皐月さんが申し訳なさそうな表情で謝ってきた。
「そんな順番があったんデスか!?」とベルさんが驚いた様子で真面目に聞いた。
「その順番は間違っているから気にしなくてもいいよ! 本来は私の番だから!」と弥生さんが訂正したことを堂々と言った。
「え!? 本当は弥生さんの番なんデスか!?」とベルさんが再度驚きながら聞いた。
「惑わされちゃダメだよ! 弥生の番は昨日で、もう終わっているから!」と皐月さんがベルさんに注意を促しながら言った。
「ベルちゃん! 皐月の言うことを信じたらダメだよ!」と弥生さんもベルさんを味方につけたいような発言をした。
「どどど、どっちを信じればいいんデスか?」とベルさんは目を回しながら困っているようだった。
「ベルちゃん! どっちも信じなくて大丈夫だよ!」と如月さんがベルさんをやさしく包み込むような感じでハッキリと事実を言った。
「まぁ、二人のいつものノリみたいなものだから、気にしなくていいと思う」と俺もフォローするような言葉を掛けると、ベルさんは安心したようだった。
ここまで話したところで、いざ散歩に行こうとすると、「あれ! みんな集まって何してるんだ?」と後ろから時雨がやって来て、尋ねてきた。隣には欠伸をしながら眠たそうにしている紫苑もいた。
「今から散歩に行こうとしたら、みんなも一緒に行くみたいで、集まっていたんだ!」と俺は状況を説明し、「時雨こそ、どうしたんだ?」と質問を返した。
「いや、毎朝翔がどこかに行っているから気になって、ついて来たんだ! 散歩だったんだな!」と時雨が答えた。
「まぁそんなことだろうと思っていたけどな!」と紫苑が欠伸をしながら言った。
「でも、こんなにいるとは思わなかっただろ?」と時雨が紫苑に確認するように聞いた。
「まぁそうだな」と眠そうな紫苑が答えた。
「俺たちも一緒に行こうと思ってたんだけど、さすがに多すぎるか?」と時雨は様子を伺うような感じで聞いてきた。
「いや、別に何人でもいいだろ! ただの散歩だし」と俺が答えたので、二人も一緒に行くことになり、今日は7人で散歩をすることになった。
散歩を始めてから気づいたが、俺以外のメンツが美男美女過ぎて、逆にフツメンの俺が浮いてしまうのではないか、と心配になった。普段はあまり自分の見た目や周りの評価など気にしないようにしているが、圧倒的な容姿を持っている人と並んで歩くと、さすがに少し劣等感を抱いてしまう。合コンでは、自分より少し容姿の劣っている友達を連れて行くと、相対的に自分がカッコよく見えるので、上手くいく可能性が上がるらしい。つまり、友達を引き立て役にするわけだ。今の俺がまさしくその引き立て役になっている気がする。いや、むしろ比べることすらおこがましいくらいに、オーラが違うので逆に気にしなくてもいいのかもしれない、と思い始めた。早朝ということもあり、あまり人もいないので、見られることもほとんどないだろうし、こんなことを気にしているのも俺だけだろう、と一人で納得しかけていた時、如月さんが話しかけてきた。油断していたので、思わずビックリしてしまった。もしかして、俺が挙動不審だったことに気づいて、注意しに来たのかもしれない、と思ったが、そんなことはなく普通の会話だった。
「なんだか賑やかな散歩だね!」と如月さんは笑顔で言ってきた。
「そうだな! いつも一人だったけど、たまにはこういう散歩もいいな!」と俺は冷静を保って答えた。
「ベルちゃん! 楽しそうだね!」と如月さんは先頭で笑いながら話しているベルさんを見て、言った。
「そうだな! 弥生さんや皐月さんとも仲良くなって、ほんとすごい人だと思う!」と俺は前で話している三人の姿を見て、思ったことを言った。そして数秒沈黙が流れた。
「ねぇ、翔くん!」
「ん? なんだ?」
「弥生ちゃんと皐月ちゃんのことも名前で呼ぶようになったんだね!」
「え!? あっ、ああ! そうだな! そう呼ぶように言われたから…」
「それに昨日は霜月くんと神無月くんも名前で呼んでいたよね!」
「あれは…その…なんていうか…勢いでそうなってしまったというか…」と俺は歯切れ悪く答えてしまった。なぜなら、昨日宿に戻ってから、そのことで霜月と神無月に散々からかわれたから、思い出したくなかったのだ。
「そうなんだぁ! じゃあ…私のことも、これからは“牡丹”って呼んでくれる?」と如月さんは、控えめな態度で提案してきた。それを聞いた時、胸がドキッとした。
「如月さんがそれでいいなら、そう呼ぶけど…」俺は必死に冷静さを装いながら、答えた。
「うん! 呼んで欲しい!」如月さんは笑顔ではっきり言った。
「分かった! じゃあこれからはそう呼ぶ!」と俺が答えてから再び沈黙が流れた。なんだか誘導されたような感じがしたが、気にしないことにした。
「え!? 呼んでくれないの?」と如月さんが焦った様子で尋ねてきた。
「ん? あ! 今呼んで欲しいってことだったのか?」と俺はこの時、勘違いをしたと思い込んだ。
「会話的に、如月さんはこれから名前で呼んで欲しいと言っているのかと思ったけど、そうじゃなく、今名前で呼んで欲しいということだったのか?」と思い違いをしている確認のために、続けて尋ねた。
「え!? あ! いや、それで合っているんだけど………。今も…その……呼んで欲しい…かな…と思って…」と如月さんは恥ずかしそうにしながら答えた。
「あぁ! そういうことか! 分かった!」と言って、いざ如月さんの顔を見ると、なんだか俺も恥ずかしくなってきた。ただ、名前を呼ぶだけなのに、どうしてこんなに胸がドキドキするんだ、という思いが俺の思考を乗っ取っていた。そして、ようやく小さな声で「牡丹…さん」と言うことができた。これで良かったのかと思ったが、如月さんの顔を見ると、嬉しそうに笑っていたので、とりあえず安心した。というわけで、俺はこれから如月さんのことを、「牡丹さん」と呼ぶことになった。みんなで20分程散歩をしてから、宿に戻り、荷物の整理をした。とうとう今日が修学旅行最終日である。
今日の予定は、一日団体行動で大阪城と通天閣に行き、それから帰ることになっている。十七里と八月一日さんの件も落ち着いたので、今日はゆっくりと観光することができると思っていたが、そんなこともなかった。大阪城では自称城マニアの紫苑が永遠とうんちくを披露してくるのがうるさいし、移動時間になってもベルさんがバスに戻ってこないから、みんなで探しに行ったら、天守閣のてっぺんから笑顔で手を振ってくるし、通天閣では、またもや弥生さんにファンが殺到するなど、最後までたくさんのトラブルがあり、なぜか俺も全部巻き込まれてしまった。帰りの新幹線に乗ってからようやく落ち着くことができた。しかし、いざ終わりが近づくと、少し寂しい気持ちになっている自分に気づいた。今までの旅行でこんな気持ちになったことがなかったので、自分でも少し驚いた。いろいろ大変なことがあった修学旅行だったが、振り返ってみると、結構楽しんでいたことに気づいた。旅行は一人でした方が、自由で気楽に過ごせるので良いと思い込んでいたが、たまには友達と一緒に旅行に行くのも良いものだな、と寝ているみんなを眺めながら思った。
家に帰り着くと、つゆりが出迎えてくれた。久しぶりに会うはずなのに、なぜかあまり久しぶりな感じがしなかった。修学旅行中はいろいろあって、結局つゆりに一度も連絡しなかったので、怒られるかもしれないと覚悟を決めていたが、笑顔で迎え入れてくれた。つゆりも少し疲れている様子だったので、「何かあったのか?」と尋ねると、つゆりは焦った様子で「なっ、何にもないよ!」と答えた。明らかに動揺していることが分かったので、俺が留守にしている間に、つゆりに何かあったのだろう、と推測したが、これ以上は聞かないことにした。つゆりが助けを求めてきたら、手を貸そうと思ったからだ。それに旅行の疲れがあったので、俺はすぐに風呂に入ってから、早めに就寝した。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




