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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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告白のベストタイミングとは!?

 好きな人ができた時、いつ告白するのか迷っている人は多いだろう。知り合ってすぐに告白する人もいれば、長い期間一緒に過ごした後に告白する人もいるだろう。では、告白にベストなタイミングはあるのだろうか。実はあるようなのだ。しかも男女で違うということが分かっている。結論から言うと、告白は知り合ってから1~3ヶ月以内がベストだということだ。女性は相手と知り合った瞬間に恋愛対象になるかどうかを考えているが、男性は友好的な恋愛から発展させようとする傾向がある。女性の場合、1~3ヶ月以内に相手から告白されなければ、興味がないと思い込み身を引いてしまうことがある。一方、男性はまずは友好的になろうとするところから始めるため、9~12ヶ月程気持ちを伝えられないこともある。つまり、女性から見ると知り合ってから3ヶ月以内に告白されなくても、まだチャンスはあるということだ。逆に男性は、3ヶ月以内に行動しないと、女性から興味がないと思われてしまう可能性があるということだ。そして恋愛において、女性は付き合った後の関係を持続することを考えているのに対して、男性は付き合うまでが勝負と考えている傾向がある。

 では、理想の告白というものはあるのだろうか。それもあるらしい。ある研究によると、最も成功しやすい告白とは、気持ちを伝えてから、どういう風にしたいかを言う、ことらしい。分かりやすく言うと、『好きです! 付き合ってください!』ということだ。しかし、これでは味気ないという人もいるだろう。これは一番単純に言っただけで、もちろんもっと自分なりに工夫してもいい。大事なのは、出会った時やデートで抱いていた感情により自分がどんな行動をしたのか、ストーリーにして伝えることだ。そして最終的に、どうなりたいのかを伝えることも忘れないでおこう。女性が男性に告白する場合は、端的に言っていいこともある。注意点として、知り合ってから9ヶ月を越えると友達関係から抜け出せなくなる可能性が高まるようなのだ。また、新しい恋の6割から7割は夏に始まることが多く、クリスマス直前と3月の年度末シーズンはカップルの別れる可能性が高まるらしい。別れる原因としては、イベントに対する価値観の違いや卒業で遠距離になるからというものがあるらしい。さらに、告白は何度までならしてもいいのかと思ったことはないだろうか。男性から女性に告白する場合に関して言えば朗報がある。結論から言うと、一度フラれても諦めない方がいいということだ。女性は告白で男性を試すことがあるということだ。つまり、男性は意中の相手に対して好きだということを誠実に伝えると、相手の心を揺さぶることができるということだ。これは女性から男性に告白する場合は当てはまらないので、気を付けるように…。

 こんな風に告白に関することを勝手に述べてきたが、俺は今まで一度も告白したことがない。つい先日、人生で初めて告白されたが、あれは本当に驚いた。はっきりと答えていないし、まだ返事は要らないと言っていたが、このまま放置するわけにもいかないだろう。まさか告白一つで自分の心がここまで揺れ動くとは、実際に経験するまで思わなかった。普段からいろんなことを調べているが、まだまだ分からないことはたくさんあるんだな、と思った。とりわけ、自分のこともよく分からないのである。


 ある日の放課後、静かな部室で読書を楽しんでいると、突然ドアが勢いよく開いた。俺はそれにビックリして、心拍数が急上昇した。ドアの方に視線を送ると、赤髪短髪の見るからにヤンキーっぽい奴が「邪魔するぞ!」と言って、部室に入ってきそうだった。俺はビックリさせられてムカついていたので、「邪魔するなら帰れ!」と奴を睨みつけながら大きな声で強めに言い返した。すると、奴は「お、おう。そうか! 悪かった」と言って、ドアを閉めて帰って行った。奴が素直に帰って行ったことに安心していると、バタバタと走って来る足音が近づいてくるのが聞こえた。そして、その音は部室の前でやみ、再びドアが勢いよく開いた。その正体は赤髪で「いや、そういう意味じゃねぇから!」と驚いた顔で大きな声でツッコんできた。「なんだ、こいつは?」と心の中で思いながら、俺は奴を蔑むような眼で見つめた。直感で俺の苦手な種族だろうなと感じていたからだ。「まっ、まぁ、落ち着いてそこの椅子にどうぞ」と霜月が冷静に赤髪を誘導したので、こいつの相談を受けることになってしまった。とはいえ、赤髪が俺を指名するとは限らないので、俺は指名されないように心の中で祈っていた。俺は赤髪のことを当然知らないのだが、奴が部室に入ってくる時、妙に睨まれている気がした。もしかして、さっきの言葉遣いが癇に障ったのだろうか、と思ったが、それはお互い様だ。俺も奴の態度に腹を立てているのだから。というより、入室する時は、ノックしろと教わったことがないのか、こいつは最低限のマナーもできないのか、と憤りを感じていた。俺がそんな風に感じていると、「あ!」と如月さんが言った。「ん? どうしたの? 如月さん?」と霜月が聞くと、如月さんは赤髪に向かって「十文字くん……だよね?」と言った。赤髪は驚いた顔をして「俺のことを覚えているのか?」と言った。如月さんは「え? う、うん、覚えてるよ」と答えた。それを聞いた赤髪は笑顔になり、嬉しそうだった。どうやら、如月さんと知り合いのようだ。霜月がいつも通りの流れで聞き出した情報によると、奴の名前は十文字紅じゅうもんじくれない。スポーツ科のクラスで、元陸上部だったらしいが、今はボクシング部に所属しているらしい。話している途中、奴は何度も俺を睨みつけてきた。そんなにさっきのことを根に持っているのかと思っていたが、そうではないことがこの後の話で分かった。

「じゃあ、十文字くんは誰にこの中で誰に相談しますか?」と霜月は赤髪に聞いた。

「俺はお前にリベンジしに来た!」と赤髪は俺の方を向いて指を差し、突然訳の分からないことを言い出した。

「はぁ? なんのことだ?」と俺は聞いた。

「覚えていないのか?」と赤髪は聞き返してきた。

「だからなにを?」と俺は聞き返した。

「くっ、また俺をコケにするのか、水無月翔!」と赤髪は悔しそうに言った。

「あんたがなぜ俺のことを知っているのか知らないが、俺はあんたのことを知らない!」と俺は正直に答えた。何度見ても奴の顔に全く見覚えがなかったからだ。しかもなぜか恨みを買っているような気もするが、それも心当たりがなかった。すると、隣に座っていた如月さんが人差し指でチョンチョンと俺の肩をつつき、耳を近づけるように俺にジェスチャーをした。その合図に従って、如月さんに耳を近づけると、如月さんは小声で、赤髪の情報を教えてくれた。如月さんによると、赤髪と俺が絡んだのは一年以上前、俺と如月さんが初めて話した時らしい。如月さんがチンピラに絡まれていたというあの話だ。チンピラは二人だったらしいが、そのうちの一人がこの赤髪だったらしい。その話を聞いて、うっすらと記憶が蘇りそうになりかけたが、結局思い出せなかった。

「まっ、まあいい。お前が俺を覚えていようといまいと関係ねぇ! 俺がお前を倒すことに変わりはねぇんだからな!」と赤髪は少し動揺しているかのように、声を震わせながら言った。

「いや、関係あるから! 俺、知らない人に倒されたくないから!」と俺は言ったが、心の中では「まぁ倒されるつもりもないけど…」と思っていた。

「それもそうだな! …じゃあ早く思い出せよ!」と赤髪は意外と素直に納得してから、要求してきた。

「まぁ、そう言っても思い出せないものは仕方がない! 今回は諦めてくれないか?」と俺は要求し返した。正直、もう関わるのも面倒だと思い始めていたからだ。

「そういうわけにもいかねぇ…」と赤髪は食い下がってきた。

「どうして、そんなに翔サンを目の敵にするのデスか?」と横からベルさんが質問した。俺もそれは気になっていたことだった。

「そっ、それは…」と赤髪は言ってから、如月さんをチラッと見て、理由を語り始めた。

赤髪の話によると、一年以上前、駐輪場で如月さんを遊びに誘っていた時に、突然俺が現れて文句を付けてきたから、ムカついて脅してやろうと思ったらしいが、返り討ちに合い、プライドを傷つけられたらしい。そのことで恨んでいるのかと思いきや、それではないらしい。その時赤髪は自分の弱さを自覚して、情けなく感じたらしい。入学してから陸上でも勉強でも上手くいかずにどちらも中途半端になり、毎日テキトーに遊んでいたらしい。そんな時にあの事件が起こって、赤髪は心が入れ替わったらしい。自分を強くするために、ボクシング部に入部して、毎日のきついトレーニングも頑張ってきたらしい。ボクシングは経験なかったらしいが、やっているうちに自分が強くなっているのを感じて、楽しくなってきたらしい。その成果もあって、今では体も引き締まり、赤髪は俺たちに自慢げに上半身を見せびらかしてきた。たしかにいい身体だった。訓練の時に、強くなるために常に目標としていたのが、俺だったらしい。時には、サンドバックを俺に見立てて殴り倒したり、ランニングでは俺が常に目の前で走っているのを想像したりして訓練していたらしい。そして、ある程度実力がついたので、俺にリベンジするために今日やってきたらしい。

「よかったじゃないか! 自分が夢中になれるものに出会えて!」と俺は拍手をしながら赤髪を褒めた。

「そうだな! まさかボクシングにここまで熱中するとは自分でも思わなかった!」と赤髪は照れながら言った。

「それにそこまで鍛え上げるのは大変だっただろう? たくさん努力したんだな!」と俺は続けた。

「あぁ! いつも中途半端だったから、これだけは途中で諦めたくないって気持ちが強かったからな!」と赤髪は嬉しそうに答えた。

「一体どうやって鍛えたんだ?」と俺は話題を逸らすために質問した。俺の作戦通り、赤髪は喜んで訓練のやり方を具体的に説明しだしたが、途中で気づいてしまったようだった。

「って、今日はそんな話をしに来たんじゃない!!」と赤髪は大きな声でツッコんできた。

「チッ、もう少しですべて丸く収まりそうだったのに…」とつい本音が漏れてしまった。

「さすが、俺のライバルだな! 油断してお前の口車に乗せられてしまうところだった!」と赤髪は言った。

「いや、ライバルって思っているのはあんただけで、俺はなんとも思っていないんだけど…」と俺は正直に言った。

「それが水無月翔だ! その相手を見下したような感じ、それがお前だ!」と赤髪は真面目に言っているようだったが、こいつ随分失礼なことを言っていないか、と俺は思った。俺は別に見下しているつもりはないんだが…。それにこいつには何を言っても聞き入れてもらえる気がしなかった。以前の六波羅の時と同じ匂いがする気がした。

「てか、そのリベンジって一体何をするつもりなんだ?」と俺は根本的な質問をした。

「それはもちろんボクシングだ!」と赤髪は堂々と答えた。まさかとは思っていたが、こいつは本当にアホなんだな、とこの答えを聞いて確信した。

「いや、ボクシングで俺があんたに勝てるわけないだろ!」と俺は客観的証拠により判断した見解を述べた。

「なんだ? やる前からもう負けるのが怖いのか?」と赤髪は煽るように言ってきたが、そんな安い挑発に乗る俺でもなかった。

「当たり前だろ! てか、人を殴るのも自分が痛い思いをするのも嫌いなんだよ…」と俺は答えた。

「よくそんなことを言えるな! 一年前、俺にあんなことをしておいて!」と赤髪がツッコんできた。

「それは……たぶん……自己防衛的な……感じだと思う」と俺は覚えていなかったので、その時の自分の気持ちを考えて言った。

「じゃあ、お前は俺の勝負を受けてくれないのか?」と赤髪は不安そうな表情で聞いてきた。

「正直に言うと、受けたくない!」と俺はきっぱり答えを言った。

「じゃあ、俺はこの後どうすればいいんだ…」と赤髪は頭を抱えながら悩み始め、如月さんをチラッと見た。

さっきから気になっていたが、赤髪は話している時もチラチラ如月さんを見ていた。こいつもしかして、と思った俺は、推測を確認するための質問をすることにした。

「どうしてそこまで勝負に拘るんだ?」と俺は聞いた。

「それは、お前に勝って俺が強くなったことを認めさせるためだ!」と赤髪は答えた。

「認めさせるって、誰に?」

「お前にだ! あと、俺自身が実感するためでもある!」

「他にはいないのか?」

「ほっ、他には……」と赤髪は言って、如月さんをチラッと見た。それを見て俺は続けて質問した。

「勝負であんたが勝ったら、何かするつもりなのか?」と俺は直球な質問をした。

「そっ、それは……。お前には関係ない!」と赤髪は一回如月さんをチラッと見てから誤魔化そうとした。

「そうか…」と俺は言ってから、一連の流れを振り返った。その結果、俺の予想では赤髪は如月さんのことが好きで、俺に勝負で勝ったら、告白をしようと考えているように感じた。そういう展開は、マンガやドラマなんかで見たことあったので、あり得ないことではないだろう。しかし、現実はフィクションのようにはいかない。俺が赤髪の勝負を受ける義理はないし、痛い思いもしたくなかったので、断ろうとしたら、文月さんに部室の隅に呼び出された。そこには、二宮さんと桔梗さんもおり、俺と一年ズのミニ相談会が始まった。

「先輩も気づいていると思いますが、十文字先輩はおそらく如月先輩に気があります!」と文月さんが小さな声で言った。

「そうだな」と俺は小さな声で答えた。

「そして、おそらく勝負に勝ったら、告白するんじゃないかと思います!」と文月さんが言った。

「俺もそう思う」と同意した。二宮さんと桔梗さんも頷いていた。それだけ分かりやすかったということだ。赤髪の反応を見れば、誰でも分かるだろうと思う。おそらく如月さんとベルさん以外は、赤髪の気持ちに気づいているようだった。ベルさんは、勝負の方が気になって、そのことに気づいていない様子だった。

「では、勝負を受けるんですね!」と文月さんが聞いてきた。

「え? 受けないけど…」と俺は正直に答えた。

「え!? どうして受けないんですか?」と文月さんは驚いて大きな声になって立ち上がった。そのことにすぐに気づいた文月さんは、手のひらでやさしく口を押えて、周りにお辞儀をしてスッと座った。

「どうして受けないんですか?」と文月さんは再び小さな声で聞いてきた。

「え、だって痛いのが嫌だから…」と俺は正直に答えた。

「それはそうですが、十文字先輩の覚悟はどうするんですか?」と文月さんが聞いてきた。

「そんなの俺には関係ない。別に勝負をしなくても告白はいつでもできるし、他にも方法はある!」と俺は答えた。

「でっ、でも、勝負に勝った時に告白した方がカッコよくないですか?」と文月さんは食い下がってきたが、いつものように論理性がなく、感情的な意見が多い気がした。

「そうかもしれないが、それは相手が俺じゃなくてもできることだ! たとえば、公式試合に勝った後とかでも…」と俺が反論すると、文月さんは言葉に詰まったようだった。

「でも、水無月くんはそれでいいのかにゃ?」とカスミンが俺に対して何か言いたいことがあるような感じで発言した。

「どういうことだ?」と俺は聞き返した。

「相談では、けっして自分の意見を押し付けてはならない! クライエント自身が決めたことを支援することが目的だったはずにゃ!」とカスミンは言った。それを聞いて俺は言葉に詰まった。今俺がしていることが、そのルールに反するように感じたからだ。そしてカスミンは続けて言った。

「今、水無月くんがしていることは、意見の押し付けじゃにゃいか?」とカスミンに問い詰められた。

「たっ、たしかにそうかもしれないが、クライエントの態度が悪かったら断ることもあるってルールもあったはずだ!」と俺は苦し紛れに反論した。

「彼の態度はそこまで悪くない気がするんだけどにゃー! 最初はビックリしたけど、その後は真面目に相談しているにゃ!」とカスミンは言って、二宮さんも頷いていた。正直、俺も同意見だった。最初はただのヤンキーが冷やかしにでも来たのかと思ったが、赤髪は真面目に相談に来ていたのである。言葉遣いはあまりよくないが、態度はそこまで悪くなかった。

「汝はどうしてそこまで断ろうとするのだ? そんなに痛いのが嫌なのか?」と桔梗さんが質問してきた。

「嫌だ!! というより、これを引き受けても俺になんのメリットもないし…」と俺は答えた。

「汝はメリット、デメリットを考えて今まで相談を受けていたのか?」と桔梗さんがさらに質問してきた。

「それは……」と俺は言葉に詰まってしまった。桔梗さんに言われて、俺は自分の考えが利己的になっていることに気づいた。そして、桔梗さんが続けて発言した。

「そうじゃないはずだ! 汝は今まで多くの迷える子羊を救って来た! その時にメリット、デメリットを考えていたのか?」と桔梗さんは熱弁するように言った。そして続けて「汝はとてもやさしい! だからこそ、我が同胞として認めたのだ! そして、これからも多くの人を助けることだろう! 我はそう信じている!」と桔梗さんは熱く語った。俺はそれを聞いて覚悟を決めた。なぜかは分からないが、どうやらこの三人も、俺と赤髪を勝負させたいらしい。単に勝負事が好きなのか、勝った後の告白というシチュエーションが好きなのかは分からないが、さすがに逃げられそうではなかった。ミニ相談会を終え、俺は自分の席に戻った。

「すまない。待たせた」と俺は謝った。

「あ、あぁ」と赤髪は緊張している顔で答えた。それから数秒間沈黙が続いてから俺は発言した。

「受けてやるよ! その勝負!」と俺は言った。

「え!?」と赤髪は唖然としていた。

「だからその勝負、受けてやるって言っているんだ!」と俺は再び言った。それ聞いた赤髪は明るい表情になった。

「本当にいいのか?」と赤髪は疑り深く聞いてきた。

「あぁ!」と俺は素っ気なく答えた。

「よしっ! これでやっとリベンジできる!」と赤髪はガッツポーズして喜んでいた。

「で、いつするんだ?」と俺が聞くと、赤髪はルールを説明しだした。

ルールは俺と赤髪で話し合って決めた。試合は明日の放課後四時三十分、場所は敷地内のボクシング場。三分間一ラウンドのみ行う。どちらかが一発でも決めたら終了。試合時間内に決まらない場合は、延長戦は無しで引き分けにすることにした。

「言っとくが、やるからには負けるつもりはないからな!」と俺は赤髪に宣言した。

「望むところだ!」と赤髪は答えて、部室を後にした。

「ボクシング対決デスか! なんだか燃えマスね!」となぜかワクワクしているベルさんがシャドーボクシングをしながら言った。

「でも水無月、ボクシングなんてやったことあるのか?」と神無月が聞いてきた。

「あぁ! 前にキックボクシングを習ったことはある!」と答えた。

「そうだったのか!!」と神無月は驚いていた。

「でも結構前だろ? 大丈夫なのか?」と霜月が心配して聞いてきた。

「まぁなんとかなるだろ」と俺は適当に答えた。実際、今の俺にできるとこはほとんどなかった。前にやっていたとはいえ、続けなければ衰えるのは必然だ。今日明日なにかやったとしても、格段に強くなることなどないのだ。ローマは一日にして成らず。もちろん赤髪は真剣なので、俺も相応に受けようと思う。全力を出すし、負けるつもりもないというのも本気だ。しかし、力量の差を考えると厳しいだろうと思っている。根性論でどうにかできるわけではないのだ。

「あんまり無理しないでね。明日応援に行くから!」と如月さんがやさしく言ってくれた。

その日の夜、俺は動画を見ながら、シャドーボクシングをした。


 翌日の放課後四時二十分、ボクシング場には相談部以外にも噂を聞きつけた野次馬がチラホラいたので、みんな暇なのかと思った。たった一日で噂になるとは、改めて学校の閉鎖感を感じた。周りを見回していると、藤さんの姿もあった。五分前になり、お互い準備を終えた後、ルールを確認してから、椅子に座って集中モードに入った。そして時間になったので、立ち上がりリングに上った。赤髪を前にすると、異常な闘気を感じた。鋭く俺を睨みつけるその目は、昨日とは別人のように感じた。試合のゴングが鳴り、一ラウンド三分間の試合が始まった。俺は前後にステップを踏みながら、腕で顔を守り、相手のパンチを警戒した。赤髪も様子を見ているようで、軽いジャブを何度か打ってくるだけだった。俺も攻撃をしようと、ジャブを打った瞬間、赤髪の激しいワンツーが襲って来た。状態を引いて何とか回避ができたが、避けられたのは運が良かったからだ。何度も同じ回避はできないだろうと思った。たとえ三分間でもラッシュが来れば、守り切れないと思ったので、一か八か狙ってみることにした。赤髪の動きをよく観察して、一瞬構えが緩んだような気がしたので、パンチをしたが、見事に顔面にカウンターをくらって俺は倒れ込んだ。一瞬世界が揺らいだように見え、気が付いたら試合に負けていた。赤髪は両手を上に伸ばし、勝利の雄叫びを上げ、会場を盛り上げていた。俺の隣には藤さんがいた。俺が倒れたと同時にリングに上がったようだった。倒れた俺に膝枕をしてくれて、「よく頑張ったね!」と言い、頭をやさしく撫でてくれた。そして、赤髪が近づいて来て、手を差し伸べてきた。赤髪は「いい試合だった! ありがとう!」と言った。俺は「あぁ!」と答えて、手を握り返し立ち上がった。


 試合も終わったので、部室に戻り、帰る準備をしていた。試合の決着をみんなに聞くと、俺は十文字の右ストレートを左頬にくらって倒れたらしい。

「イヤー、なかなか見ごたえのある試合でしたネ!」とベルさんが余韻を楽しんでいるように言った。

「彼のあの目つき怖かったにゃ!」とカスミンが言った。

「十文字先輩、強かったですね!」と文月さんが言った。

「そうだな!」と俺は答えた。

「しかし、汝もよく耐えていたな!」と桔梗さんが俺をフォローしてくれた。

「カッコよかったです!」と二宮さんが小さい声で言った。

「そうだな! 何ラウンドかしたら勝てたんじゃないか?」と霜月が言った。

「いや、実力に差がありすぎた。あのまま続けていたらもっとボコボコにされていたと思う!」と俺は正直に答えた。

「まぁ、俺は水無月が派手に負けるところを見られて満足だけどな!」と神無月が調子に乗ったことを言った。

「じゃあ次はお前が試合してみるか? 俺が十文字に話しておくよ!」と俺は言い返した。

「いや、それはいい。遠慮する」と神無月は焦ったような顔で拒否した。

「翔くん、顔どうもない?」と如月さんが心配しているような顔で聞いてきた。

「あぁ、もう大丈夫だ!」と俺はカウンターをくらった左頬に触れながら答えた。

「そっか! よかった! お疲れ様だね!」と如月さんは笑顔で言ってくれた。

帰る準備を終え、靴箱に向かうとそこには十文字が、待っていた。

「如月牡丹さん! あなたに話があります!」と十文字は如月さんを誘った。その姿や顔からはとても緊張しているのが伝わってきた。覚悟を決めて、如月さんに告白するのだろう。

「ん? なに?」と如月さんは十文字に聞いた。

「ここではちょっとアレなんで……付いて来てくれませんか?」と十文字は言った。

「ん?」と如月さんは、状況を飲み込めていない様子で、俺たちに顔を向けてきたので、俺はフォローをすることにした。

「何か如月さんに用事があるみたいだな! 邪魔しちゃ悪いから先に帰るわ!」と俺は如月さんに言った。

「そう……みたいだね。…うん、分かった! みんなは先に帰ってて!」と如月さんが言ったので、俺たちは靴箱で如月さんと別れて先に帰った。

 正直、如月さんの答えは分かっていた。如月さんは霜月のことが好きなはずだから、十文字の告白は断るだろう。しかし、なぜかモヤモヤした気持ちがずっとあった。家に帰っても家事に集中できずに、つゆりに「何かあったの?」と心配される程だった。ボーっとしながら皿洗いをしていると、ふと机に置いている俺のスマホに通知が来ているのが分かった。俺は何気なくスマホを手に取り確認すると、如月さんからの着信履歴が残っていた。慌てて電話を返すと、ワンコールで応答があった。話したいことがあるから、今から会えないかということだった。時間は夜の八時に迫っていたが、電話の如月さんの声が少し寂しそうな感じがしたので、何かあったのかと心配になり、会う約束をして俺は家を出た。時間も時間なので、待ち合わせ場所は如月さんの家の近くにある小さな公園にした。俺は久しぶりに自転車に乗り、全速力で公園に向かった。公園に着くと、如月さんはすでに到着しており、ブランコに座っていた。俺は自転車をとめ、走って如月さんのところまで向かった。

「如月さん!」と俺は声を掛けた。

「翔くん…」という如月さんの顔は少し寂しそうに見えた。そして続けて「ごめんね、こんな時間に呼び出しちゃって」と謝ってきた。

「そんなことは気にしなくていい。それよりも何かあったのか? 十文字に何かされたのか?」と俺は聞いた。

「ううん。十文字くんは何も悪いことしてない。ただ、私がビックリしちゃっただけ…」と如月さんは言った。ということは、おそらく十文字は如月さんに告白したのだろうと思った。

「そうか…」と俺は安堵した。そして少し沈黙が続いた。

「翔くんは気づいていたの? 十文字くんの気持ちに…」と如月さんは聞いてきた。

「まぁなんとなくは…」と俺は正直に答えた。特に誤魔化す意味もないと思ったからだ。

「私だけだったのかな? 気づいていなかったの…」と如月さんは少し不安そうに言っている気がした。

「いや、たぶんベルさんも気づいていなかったと思う!」と俺は答えた。

「じゃあ、他のみんなは気づいていたんだ!」

「まぁ、分かりやすかったからな!」

「そんなに分かりやすかった?」と如月さんは焦っているような態度で聞いてきた。

「あぁ、最初の相談の時、明らかに如月さんを意識しているような態度が多かったからな!」

「そんなに!?」と如月さんはビックリしていた。

「十文字とよく目が合わなかったか?」と俺は質問した。

「うーん、あまりよく分からなったかな。私、いつも翔くんのことばかり考えているから…」と如月さんが言った。

「え!?」と俺は予想外の発言に一瞬思考が停止してしまった。

「あ! いや、今のは、そういう意味じゃなくて、翔くんならどんな風に答えるんだろうって、いつも観察しているって意味で…」と如月さんは恥ずかしそうにしながら、早口で先程の発言を訂正していた。

「あ、あぁ、そうか! ごめん。俺も変な勘違いしそうになった!」と俺は言ったが、その時、少し胸がモヤモヤした気がした。

「でも、私って鈍感なんだね! そんなに分かりやすいのに気づかないなんて…」と如月さんは自分の鈍化さを恥じているように言った。

「そんなことはない! 誰でも自分のことが一番分からないもんだからな!」と俺は率直な意見を言った。そして続けて「それに好意に対して男性は自惚れやすく、女性は控えめに捉えるという説もあるらしい!」と説明した。そう、男性は、好意を向けていない相手に対して、あの子、俺のこと絶対に好きだろ! と勘違いしやすく、女性は、好意を向けている相手に対して、あの人が私を好きになるなんてことはない! と思いやすい傾向があるらしい。思春期の頃に多くの人が経験するのではないだろうか。俺は………ノーコメントで…。

「そうなの!?」と如月は驚いていた。

「あぁ! だからそんなに気にしなくてもいいと俺は思う!」

「そっかぁ!」と如月さんは安心した様子で言った。その時の如月さんは、さっきよりも表情が明るくなっている気がしたので、俺も安心した。

「そのことを気にしていたのか?」と俺は聞いた。

「え? あっ、うん! そうだよ!……ごめんね、こんなことで遅い時間に呼び出しちゃって…」と如月さんは申し訳なさそうに言った。

「あっ、いや、気にしなくていい! 解決したのなら、よかった!」と俺は言った。

「ありがとう!」と如月さんは笑顔で言ってくれた。

それから、俺は自転車を押して、如月さんを家まで送ることにした。その帰り道、如月さんが突然発言をした。

「私ね……断ったの! ……十文字くんの告白!」

「そっか…」と俺は言って、それ以上は何も聞かなかった。というより、聞けなかった。その時、俺の心拍数は急上昇していたからだ。自転車を全速力で漕いだからかもしれないと思ったが、もう時間も経っていた。俺はなぜか分からない症状に襲われていたのだ。如月さんもそれ以上は何も言わなかった。ただ、家に着くまで夜風に当たりながら、俺と如月さんは夜道を歩いていた。

如月さんを家に送った後、俺は自転車に乗って走っていた。一人になると落ち着いたので、もしかしたら刺激過多になっていたのかもしれないと思った。振り返ると、今日は大勢の人が見ている中でボクシングをしている。それに顔を殴られて脳も揺れただろう。それで体に異常が出て、心拍数が急上昇したのだろうと思った。そう思うと、なんだかスッキリした気持ちになった。人間は分からないことがあると、不安になるというが、それが解決できると落ち着くようにできている。それを改めて実感した。家を飛び出したときは急いでいたので、気づかなかったが、夜空は綺麗な星でいっぱいだった。その星々を眺めていると、流れ星が見えた。綺麗だったので、自転車を降りて、しばらく星空を眺めながらスマホを取り出し、思わず写真を撮った。上手く撮ることができたので、それを相談部のグループチャットに貼り付けて無言で送信した。我ながら変なテンションだった。みんなからそれぞれ返信があった。

「綺麗な夜空デスね!」とベルさんから返信があった。

「翔!? どうした?」と霜月から返信があった。

「闇に光る数多のエネルギー! さすがは我が同胞! いいセンスだ!」と桔梗さんから返信があった。

「綺麗!」と二宮さんから返信があった。

「先輩、意外とロマンチストなんですね!」と文月さんから返信があった。

「俺の方が綺麗で迫力のある星空を撮れる!」と神無月から返信があった。

この神無月の発言をきっかけに、みんなが撮った星空の写真の投稿合戦が始まった。最初はみんな真面目に星空の写真を投稿していたが、途中でベルさんが明らかにネットから拝借したと思われるオーロラの写真を投稿してから、大喜利合戦に変わってしまった。五稜郭やヒトデなど何かしら星に関連のある画像だったが、桔梗さんが明らかに関係ないだろうと思われるアニメキャラの画像を投稿したので、調べてみると、星空という名前のキャラクターだった。最後にようやく参加した如月さんが一言添えてある画像を投稿した。夜空に一本の白い光が流れている画像だった。それは如月さんが撮影した流れ星のようだった。如月さんは「止まっているから、願い事言い放題だよ!(笑)」というメッセージを添えていたので、今度は願い事合戦になった。俺はそこまで見て、スマホをポケットに入れ、再び歩み始めた。そして、帰り着くとつゆりが怒りながら出迎えてくれた。つゆりが怒っているのも当然だった。時計を見ると午後十時になっていた。それから俺は、つゆりの説教を一時間正座して聞くことになった。


 翌日、学校の靴箱に着くと、十文字が待っていた。

「顔に痛みはないか?」と十文字は聞いてきた。どうやら俺を心配しているようだ。

「あぁ、大丈夫だ!」と俺は答えた。

「ありがとな! 俺の個人的な事情に付き合ってくれて…」と十文字は、随分畏まった感じで言ってきた。試合の時の十文字とのギャップに少し驚いた。

「別に……それが俺たちの活動だから…」

「お前、気づいていただろ? 俺の計画に…」と十文字は聞いてきた。

「まぁ、分かりやすかったからな…」と俺は正直に答えた。

「そんなに分かりやすかったか?」と十文字は心配そうに聞いてきた。

「あぁ! とっても分かりやすかった!」と俺は念を押した。

「そうか…」と十文字は肩を落として落ち込んでいるようだったので、少しフォローしてやることにした。

「まぁ、別に気にしなくてもいいだろ! その分かりやすさが、十文字の良いところだと俺は思う!」と言った。

「そうか! そうだな!!」と十文字はすぐに立ち直って笑顔になっていた。その姿を見て、世に中の悩んでいる人みんなが、十文字くらい単純ならどれだけ楽だろうか、と思った。この単純さの方が十文字の強みかもしれないな、と思った。

「まぁ今回はいろいろ世話になったから、お前が困った時は力を貸すからな!」と十文字が言った。

「別に見返りが欲しくて受けたわけじゃないから、気にしなくてもいい!」と俺は返答した。

「それじゃあ俺の気が収まらん! 俺はこう見えて義理堅いんだ!」と十文字は自慢げに言った。

「じゃあ相談部の用心棒でもしてもらうか!」と俺は冗談で言った。

「それはいいな! 俺の方がお前より強いから、頼りになるところを如月さんにアピールできる!」と十文字はシャドーボクシングをしながら俺に言った。それを聞いて俺は少しイラっとした。

「まぁ、俺が本格的に訓練すれば、十文字ごとき簡単に捻り潰せるけどな!」と俺は冷静さを装いながら言った。

「それはないな! たとえお前が訓練しても、俺に勝つことは絶対にできない!」と十文字も反論してきた。

「いや、俺ならあらゆる知識を駆使して勝つことができる! 十文字みたいな単純な奴には絶対負けない!」とさらに反論した。

「それならもう一度やってみてもいいんだぞ! 俺はいつでも大歓迎だ!」と十文字が煽ってきた。

そんなことを言い合っていると、A組の教室に着いてしまった。まだ言い足りなかったので、A組前の廊下で言い争いをしていると、それに気づいた如月さんが声を掛けてきた。

「おはよー! 翔くん…と十文字くん!」と如月さんは笑顔であいさつしてきたので、俺は如月さんを見て「おはよう!」と返事をしたが、十文字の返事が聞こえなかった。こいつ如月さんのあいさつを無視するのか、と思いながら十文字を見ると、恥ずかしそうにモジモジしていた。どうやら十文字は如月さんの前になると畏まるようである。今度から十文字と会う時は、如月さんを連れて会いに行こうかと考えたが、それは如月さんが嫌がるかもしれないので断念した。そして、始業のチャイムが鳴り始めたので、廊下にいた人たちはみんな教室に入り始めた。十文字は最後に俺の首の後ろに腕を回して、耳元で「如月さんのことも、まだ諦めてねぇから!」という言葉を吐いてから、自分の教室に向かった。

「翔くん、十文字くんと仲良くなったんだね!」と如月さんが言ってきた。

「全っ然、仲良くなってない!」と俺は強く否定した。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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