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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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如月牡丹を守りたい!!

 食欲は人間の三大欲求の内の一つだ。人間生きていれば誰でもお腹は空くし、美味しいものを食べたいという欲求がある。昔の人は、食べ物が少なかったので食べるだけでマシだったようだが、現代の豊かな国では、逆に食べ物で溢れている。こうなると今度は美味しく食べたいという欲求が出てくる。今は様々な調理法や食材があるため、料理の種類もたくさんある。人間は生きていくうえで食べ物と切っても切り離せないことを考えると、もう少し料理や栄養について学校で詳しく学んだ方が良いと個人的には思っている。なぜなら、将来的には多くの人が自立して自分で食べ物を管理しなければならないからだ。料理なんかしなくても、コンビニや外食、ファストフードがあるだろうという意見もあるかもしれないが、それらは健康的にはあまりよくない。高カロリーで高糖質なメニューが多いので、食べ続けると不調の原因になってしまう。もし今現在、身体的でも精神的でも何か悩み事があるとしたら、食事内容を変えることを勧める。食事を変えると人生が変わる、人は食べたものでできているという人もいるくらい食事は重要なのだ。それなのに、現代は簡単に食事を済ませるビジネスが台頭しているため、それに頼っている人が増えている気がする。たしかにファストフードは、美味しいと思うし、手軽だし、それに安い。忙しい人にとっては魅力的だろう。しかし、本当にそれでいいのだろうか。本当に美味しい料理というのもがどんなものか、食べてみたいと思わないだろうか。本来、料理は楽しいものだ。クリエイティブで自分なりにいろんな味付けができるし、作ったものを美味しいと言って食べてもらえるのは嬉しいことだ。それなのに、忙しくて考えるのが億劫だとか、作ったものを食べてもらえなかったとかで料理を嫌いになるのはもったいないことだ。それは一時的な感情に過ぎないため、気にする必要はない。今では料理本や料理のレシピを公開しているアプリ、料理番組などいろんな料理に関するツールが数多く存在している。それだけ料理というものが人間にとって大きな関心事であることが分かるだろう。つまり、食べものに関する知識は、生きる上で必ず役に立つということだ。

 たまにこんな輩がいると聞く。「美味しくなくても、愛情があればいいよね!」「料理で一番大事なのは愛情だ!」と言うような輩だ。これは非常にナンセンスだ。料理というものは、如何に美味しくできるのか、ということが大事だと思う。本当に愛情を込めているのであれば、相手に美味しくないものを食べてもらうなどさせたくないはずだ。美味しいものを食べてもらいたに決まっている。自分の失敗を正当化して、このようなことを言う輩は、言語道断だ。愛情という言葉を使って逃げているだけだ。そんな言い訳をするよりも、料理の練習をした方がいいだろう。何度も練習すれば必ず上手くなるのだから。俺も最初は失敗だらけだった。それでも続けていくことで上達する。

 食事は、調理法も大事だが、健康に生きるには何を食べるのかも同じくらい重要だ。現代では、様々な食事法が存在する。低糖質、ヴィーガン、マクロビ、ローフードなど一体どの食事法が最も健康的なのかということはいろんな意見があるが、どの食事法も共通することがある。重要なのはカロリーの質を高めることだということだ。では、カロリーの質が高い食品とは、どのようなものかというと、できるだけ一食のあたりの満足度と栄養価が高く、体脂肪になりにくい食品のことだ。分かりやすく言い換えると、加工食品を減らし、野菜をたくさん食べ、上等な肉と魚を適度に食べるということだ。さらに具体的に言うと、野菜では特にホウレン草やブロッコリー、キャベツなどの緑系の野菜は食物繊維が多く、満腹感も得やすいのでオススメだ。肉、魚、卵などはたんぱく質を得られると同時に必須脂肪やビタミンも得られる。特に卵白はたんぱく質が90%と多く含まれている。肉類だと鶏むね肉がたんぱく質量80%と他の肉と比べて多く含まれているのでオススメだ。それに引き換え、ハムやソーセージなどの加工肉は減らした方がいい。たんぱく源として魚を選ぶ時は、カワハギ、タラ、カジキ、キスなどがオススメだ。また、サバやカツオなど脂質が多い魚でも新鮮に食べられるのであれば、積極的に食べてもいいだろう。フルーツでは、ブルーベリーやイチゴなどのベリー類、みかんやグレープフルーツなどのシトラス系の二つがオススメだ。どちらもビタミンとフィトケミカルが豊富に含まれている。また、健康食として有名なのが、発酵食品だろう。納豆やキムチ、味噌、ヨーグルトなどの発酵食品は腸内環境を整える作用がある。これらを一日40グラムから50グラム食べるのがオススメだが、注意することもある。特定の食品ばかりを食べないことだ。すべての発酵食品は、それぞれに特有の細菌を持っている。ヨーグルトならサーモフィラス菌、味噌ならハロフィラス菌などだ。腸内細菌は多様である方が健康的になるため、幅広いジャンルの発酵食品を食べた方が良いのである。健康に関して言うなら、料理油も拘っている。オリーブオイルは、ポリフェノールを多く含み、コレステロールもゼロであるためオススメだ。

 このように言い出したらキリがないが、何も完璧に健康食をこなそうとしなくてもいいと思う。時には、外食やファストフードなどで家事を休むことも必要だろう。大事なのはバランスだ。基本を健康食にしながらも、たまに楽をしてもいいくらいがちょうどいいのではないかと思う。俺自身は、幸い料理が好きな性格だったので、献立を考えるのもそこまで苦痛ではないが、苦手な人もいるだろう。それでも、自分が過度にストレスを溜め込まない程度に食事は気を付けた方がいいと思う。


 11月になり少し肌寒くなってきた季節のある日の放課後、いつも通り部室で過ごしていると、神無月が遅れてやって来た。手にはドーナツの箱を持っていた。人数分のドーナツを買って来たので、遅れたらしい。どういう風の吹き回しかと尋ねると、なんとなくドーナツが食べたくなったから、ついでにみんなの分も買って来たらしい。神無月は買って来たドーナツは、ポン・デ・リング、チョコファッション、エンゼルフレンチ、ハニーディップ、エンゼルクリーム、ココナツチョコレート、ゴールデンチョコレート、ハニーチュロと全部違う種類を買って来ていた。というわけで、ジャンケンをして勝った人から食べたいドーナツを選ぶことになった。俺は最後に余ったのでいいと言ったが、ジャンケン大会は強制参加とのことだった。ジャンケンの結果、俺は最後から二番目で、最後は二宮さんだった。勝った順にドーナツを取っていき、最後にゴールデンチョコレートとハニーチュロが残っていた。正直、俺はどっちでもよかったので、適当にゴールデンチョコレートを取ろうとしたら、二宮さんの反応が明らかにそれを選ぶなという感じだった。一応確認のため、ハニーチュロを取ろうとすると、明るい表情になった。念のためもう一度、ゴールデンチョコレートを取ろうとすると、悲しそうな表情になった。その変化が面白くて癒されたので、つい調子に乗って何度か繰り返した後、ハニーチュロを取った。最後にゴールデンチョコレートを取った二宮さんは嬉しそうな顔をしていたので、俺の選択は正解だったのだろうと思った。

「知ってるか!? ドーナツって、カロリーゼロなんだぞ!」と突然神無月が持っているココナツチョコレートを突き付けながら言った。

「あ! 知ってます! ドーナツってゼロの形をしているから、カロリーゼロなんデスよね!」とベルさんがチョコファッションの穴を覗き込みながら神無月のノリに乗った。

「たしか揚げ物って、油で揚げてるからカロリーが全部逃げて、ゼロになるらしいな!」と霜月はエンゼルフレンチを食べながら言った。

「それなら、いくら食べても大丈夫だね!」と如月さんはエンゼルクリームを食べながら言った。

「なぬ!! そうなのか!?」と桔梗さんがポン・デ・リングを見つめながら驚いていた。

「カスミンはいくら食べても太らないから、気にしたことにゃいにゃ!」とカスミンが言った。

(え!? 何、この流れに乗らないといけないのか?)と心の中で思っていると、文月さんが流れを止めてくれた。

「それって、科学的根拠あるんですか?」と文月さんは真面目なトーンで質問した。俺はそれを聞いて(ナイス! 文月さん!)と心の中で褒めた。

「いやいや、文月ちゃんは分かってないなぁ。これはドーナツを食べる時の儀式みたいなもんなんだよ!」と神無月が答えた。

「そうなんですか! すみません、私、知らなくて…」と文月さんは真面目に謝っていた。文月さんは俺以外の人にはやさしくて素直なんだよなぁと改めて思った。

「Oh! そういえば、ワタシも新作のクッキーを作っていたんでした!」とベルさんが唐突に思い出して、かばんの中からタッパーを取り出した。

 それを聞いて俺は青ざめた。他のみんなも同じような反応をしていた。なぜなら、ベルさんの作る料理やお菓子は味がしないのだ。前にもベルさんはクッキーを作って持ってきてくれたことがあって、食べたことがあるのだが、そのクッキーは無味だった。砂糖と塩を入れ間違えたなどのベタなミスではなく、ただ味がなかったのである。俺は、つくづく思っていたことがある。アニメや漫画でよく料理下手なキャラクターが出てくるが、俺には理解ができなかった。なぜ料理がずっと下手なのか。練習したら上手くなるはずなのに、料理下手なキャラはなぜ一向に下手なままなのか。途中でなぜ味見をしないのか。大切な相手になぜ美味しくないと分かっている料理を振舞うのかなど、ずっと疑問に思っていた。まぁ、アニメや漫画はフィクションなので、料理が下手なのは、キャラクターの個性として魅力を出しているのかもしれない、と勝手に解釈していた。しかし、現実にも料理下手はいるのかもしれないと思うようになってきた。最初は、ベルさんの味覚を疑った。もしかしたら味音痴なのかもしれないと推測した。それを確かめるために、見た目が同じで味が違う5つのクッキーを準備した。番号を振った5つのクッキーはそれぞれ甘い、苦い、しょっぱい、辛い、無味だ。それをベルさんに食べてもらい、どれがどの味か、番号と味を一致できるのかという実験を行った。その結果は、全問正解。しかも、何を配合していたのかも言い当てた。この実験により、ベルさんの味覚には何の問題もないことが分かった。では、なぜベルさんの作る料理は、味がしないのか。もしかしたら、ベルさんは薄味が好みかもしれない、と思って、二つの同じ料理を食べてもらったことがある。一つは普通の味付けで料理して、もう一つは全体的に薄味にしたものだ。どっちが好みか感想を聞くと、普通の味付けの方が美味しいと答えた。どうやら薄味が好みというわけでもなさそうだ。ベルさんは、一人暮らしをしているらしいので、自炊もするという。もう俺は何がなんだか分からなくなり、深く追求することはやめた。ベルさん自身があまり気にしていない様子なので、俺がどうこう言っても仕方がないのである。ベルさんの料理はもはや相談部七不思議の一つと言っていいのかもしれない。毎回、もしかしたら、今回のクッキーは味があるかもしれない、と期待して食べているが、案の定、今回も無味だった。俺は感想を正直に言うタイプなので、毎回、味が薄いんじゃないかという感想を言っている。できるだけ丁寧にベルさんを傷つけないような表現を使って、言っているつもりだが、それでも改善はされない。いや、今日のは少し甘みを感じたような、といったとても細かい味を探すようになってしまった。

 ベルさんの作る料理は、味さえ付けば素晴らしい料理になるはずだ。なぜなら、見た目はとても綺麗だからだ。料理なら盛り付けが上手く、お菓子なら可愛くデコレーションしたり、可愛い形にしたりしている。そう、ベルさんの料理はとても映えるのである。料理は味のみでなく、見た目も重要というが、ベルさんはこれに関しては素晴らしい能力を持っている。俺も見習いたいくらいだ。一度ベルさんの料理をしているところを見てみたいと思った。そうすれば、謎が解決できるかもしれないと思った。まぁ、味がしないということは、単純に調味料を入れていない可能性が高いだけなのだが…。


 そんなやり取りをしていると、ドアをノックする音が聞こえ、その後に「たのもー!」という言葉が聞こえた。俺は直感で無視した方がいいと思ったが、霜月が「どうぞ」と声を掛けたので、ドアが開き、二人の女の子が入ってきた。

「あ! 九鬼さん !九門さん!」と如月さんが言った。

「久しぶり! 如月ちゃん!」と二人は声を揃えて笑顔で答えてから、用意していた椅子に座った。

 如月さんによると、二人は料理研究会に所属している部長の九鬼月見くきつきみさんと副部長の九門稲穂くもんいなほさんらしい。二人とも二年B組で、藤さんと同じクラスということだ。調理技術や栄養学などにとても詳しく、如月さんも二人とよく交流して、いろいろ教えてもらっているらしい。ここの料理研究会はレベルが高いらしく、全国の様々なコンテストで金賞を取っているらしい。中でもこの二人、九鬼さんと九門さんは別格で料理の腕がすごいらしい。二人の実家は料理屋さんで、休みの日は厨房で働いているらしい。そんな二人がここで一体何を相談するのだろうと、少し興味が湧いた。いつも通り霜月が仕切り、相談内容を尋ねると、九鬼さんが最初に口を開いた。

「今日我々がここに来たのは他でもない、如月ちゃんに料理研究会に入部してもらうためだ!」と九鬼さんは如月さんを指さしながらビシッと言った。

「え!?」と俺は思った。他のみんなも同じような反応をしていたが、如月さんは冷静だった。

「その話は前にお断りしましたよ」と如月さんは笑顔で丁寧に答えた。

「そう! 前は断られた! だから再度、こうして頼みに来たのだ!」と今度は九門さんが言った。

「それなら、もう一度断らせて頂きます」と如月さんは丁寧に答えた。

「なぜだ!? なぜ、如月ちゃんは料理研究会に入らないのだ?」と九鬼さんが迫真の演技でもしているような感じで言った。

「それ程の腕がありながら、なぜ我々と共に来ないのだ?」と九門さんも劣らない演技力で言っていた。

「この前のロールケーキも絶品だった! 一般的なスーパーの食材で、あのレベルを作れる者はそうそういない!」と九鬼さんがべた褒めしていた。

「それに、最近は健康を意識した調理法になっているようだな。ただ、美味しいものを作るのではなく、美味しくかつ健康に良いものを作るようになっている!」と九門さんも続けて褒めた。

如月さんの話によると、この二人の料理の腕は一流レベルのような言い方だった。現に多くの賞を取っているのが、実力の証だろう。その二人が如月さんをここまでべた揉めするということは、やはり如月さんの料理の腕も一流だったということだ。もし、料理研究会に入っていたら、如月さんも賞を総なめしていたかもしれない、と思った。

「そう言ってもらえるのは素直に嬉しいけど、今はこの部活も大切だから…」と如月さんは冷静に答えた。

「そうか…。如月ちゃんにとってこの部活は大切なんだな!」と真剣な顔をした九鬼さんが言った。隣の九門さんも頷いていたので、二人とも納得してくれたのかと思いきや、九鬼さんは続けてこう発言した。

「では、勝負をしないか?」と九鬼さんは提案してきた。

「勝負……ですか?」と如月さんは返答した。

「そう、勝負だ! 私たち料理研究会と如月ちゃんたち相談部とで、料理勝負!!」と九鬼さんが力強く言った。そしてこう続けた。

「私たちが勝ったら、如月ちゃんは料理研究会に入部してもらう!」と九鬼さんが言った。

「私たちが勝ったら…?」と如月さんが聞いた。

「その時は………、料理研究会の部長の座を、如月ちゃんに譲る!」と九鬼さんは胸に手を当て、真剣な顔で答えた。

「いやいや、それどっちにしても入部決定じゃないか!」と俺は思わずツッコミを入れてしまった。

「何を言う! キミは料理研究会の部長というものが、どんなものか知らないのか!」と九門さんに怒られてしまった。俺、何か間違ったことを言ったのか、と疑問に思ったが、他のみんなは何も言わなかった。それにしても、この学園の部活の部長というものはそんなに誇らしいことなのだろうか。個人的には、仕事と責任が増えるので、あまりやりたいとは思わないのだが、何かメリットでもあるのだろうか。俺の思いついたメリットとしては、就職面接でアピールできるくらいしか思いつかないのだが…。この学園は伝統があるらしいので、俺の知らない何かがあるのかもしれない。まぁそれでも俺は興味がないのだが…。ていうか、相談部に勝負を挑んでくる奴に、まともな奴は一人もいないのか。今までを振り返ると対等な対価で申し込んできた奴はいないことに気づいた。テスト勝負然り、テニス勝負然り、そして今回は料理勝負。まぁ受ける必要もないのだが、なぜか毎回乗せられてしまう俺たちにも問題はあるのかもしれない。

「それだとさすがに対等じゃないので、私からも提案していいですか?」と如月さんは冷静な態度で言った。この二人の対応になれているような感じだった。というより、このやり取りをするということは、如月さんは勝負を受けるつもりなのだろうか、と思った。

「あぁ! いいぞ!」と九鬼さんが答えた。

「私たちが勝ったら、二人のスペシャリテを相談部のみんなに振舞ってください!」と如月さんは屈託のない笑顔でお願いした。それは俺も良い提案だと思った。先ほどの話を聞いて、二人の作った料理を食べたいと思っていたからだ。

「そんなことでいいのか?」と九鬼さんが唖然とした表情で言った。

「はい! その条件なら受けて立ちます!」と如月さんは宣言した。

「いいだろう! 成立だ!」と九鬼さんは言って、立ち上がり、如月さんを指さしながら「では、今度の休日に料理勝負だ!」と宣言した。

その後、俺たちと九鬼さん、九門さんは勝負の内容を決める話し合いを始めた。その話し合いでは次のように決まった。まず、相談部と料理研究会の団体戦ということになった。それぞれ三チーム構成し三戦行い、先に二勝した方が勝ち。場所は調理室、チーム編成は自由。審査員を三名、料理研究会顧問の栗山十和くりやまとわ先生、29歳独身、彼氏募集中と相談部顧問、師走ゆず先生、25歳、まだまだ若さを活かしています、とあと一名誰かを用意することになった。それぞれのチームがお題に沿った料理を提供し、より多くの票を獲得した方が勝ち。俺たちは先鋒が二宮さん、桔梗さん、文月さんの一年ズチームになった。それを聞いた料理研究会も一年を先鋒にすると言っていた。続いて中堅は、俺、霜月、神無月のメンズチームになった。料理研究会も対抗して男子を中堅にすると宣言していた。そして相談部の大将は如月さんとベルさんが務めることになった。当然と言えば当然だ。相談部で如月さん以上に料理が上手い人はいないからだ。対する料理研究会も大将は、九鬼さんと九門さんの鬼門コンビだそうだ。正直、大将戦だけの方がいいのではないかと思った。なぜなら、もし先鋒戦と中堅戦で俺たちが負けてしまったら、相談部の負けが決まってしまい、如月さんが料理研究会に入部してしまうことになるかもしれないからだ。如月さんを見ると、そんな心配をしているようには見えなかった。料理のお題は、久門さんが準備して持ってきていた箱の中に紙が入っているので、それを引いて決めた。この箱を見て、この二人最初から入部の交渉をするつもりじゃなく、料理勝負をするつもりでここに来たな、と俺は確信した。先鋒戦のお題は卵料理。中堅戦は肉料理。大将戦はデザートになった。そこまで話し合いをして、二人は帰って行った。

「料理勝負! なんだか面白そうデスね!」とベルさんがワクワクしている様子で言った。

「ごめんね。私の問題にみんなを巻き込んでしまって…」と如月さんが申し訳なさそうに謝った。

「気にすることはない! 汝の敵は我らの敵でもあるのだ!」と桔梗さんがフォローした。

「そうだねぇ! 勝負を受けたからには、勝ちたいにゃー!」とカスミンが言って、二宮さんも頷いていた。

「でも、団体戦にしてよかったのですか? 先輩が料理上手なのは知ってますけど、他のみんなはそうでもないですよ!」と文月さんが俺の気になっていることを聞いてくれた。

「大丈夫だよ! みんなと一緒なら勝てる! いや…みんなと一緒じゃないと勝てないと思ったの!」と如月さんは答えた。俺たちを信頼してくれているのは嬉しいが、今回は相手が相手だ。そう簡単にはいかないだろう。とにかく、決まったことをくよくよ考えても仕方がないので、俺は自分のできることに集中することにした。


 俺たちはそれぞれチームに分かれて、何を作るのか、どう作るのかなどの作戦を練ることにした。何か困ったことがある時は気軽に相談していいが、基本はチームに任せることにした。俺と霜月と神無月は、お題が肉料理ということなので、まずは何を作るか話し合った。肉料理ということで幅が広く、たくさんの意見が出た。まず何肉にするのかだけでも、種類が多い。牛、豚、鶏、羊、鹿、馬などまだまだたくさんある。それに、部位や調理法も合わせると、数えきれない程ある。俺たちはそこまで料理に詳しいわけではないので、意見として挙がるのは定番の料理だった。たとえば、ステーキ、ハンバーグ、とんかつ、唐揚げ、生姜焼き、ローストビーフなどが挙がった。他にもカツ丼、牛丼、親子丼など丼ものという意見もあった。たくさんありすぎて収拾がつかなくなってきたので、話題を変えることにした。今度は相手がどんな肉料理を出してくるのかを考えた。相手は料理研究会で日々料理の鍛錬をしている人だ。おそらく最高の肉料理を提供してくるだろう。俺たちの知らない調理法や料理をしてくる可能性もある。そう思ったので、相手が何を作るのかを考えるのは意味がないということを悟った。この時、俺の頭の中にある考えが過った。俺たちが注目しなければならないのは、料理研究会ではなく、食べてもらう人だということが…。そして、俺たち三人はそれぞれの顧問、栗山先生と師走先生に話を聞きに行った。栗山先生は、全般的に肉料理は好きだと言っていた。最近は仕事が忙しくてストレスが溜まっているからガッツリ系が食べたいと言っていた。これはとても有益な情報だった。続いて、師走先生に話を聞いた。師走先生も肉料理全般好きだと言っていた。その中でも最近は大人な味付けにハマりだしたと言っていた。これも有益な情報だった。この情報により、俺たちが作る料理も的を絞ることができた。二人の意見を合わせると、ガッツリした大人な味付けの肉料理ということになる。残りの一人は誰になるのか分からないので、諦めることにした。二票獲得すれば勝利なのだから。俺たちは各自でガッツリ系の肉料理を調べ、翌日いくつかの候補の中から一つに絞り、残りの日をその練習に当てた。俺がメインで作ることになっていたので、つゆりにも協力してもらい、夕食で何度も練習した。作り慣れていたので、いろんなアレンジを試し、どの味付けが一番しっくりくるのか、つゆりに評価してもらった。審査員の先生たちが、どんな料理なら美味しく食べてくれるのかを考え続け、いろいろチャレンジした。そして料理研究会との勝負の日を迎えた。


 午前9時には全員集合し、準備は万端だった。気になっていた最後の審査員は、まさかの当日にベルさんが中庭で見つけた謎のちょび髭おじさんだった。作業服を着ていたので、庭師か清掃係の人だと思って、ベルさんに尋ねると、このちょび髭おじさんは、暦学園の学園長、暦千年こよみせんねんさんだと言っていた。こんなチャランポランした見た目の人がこの学園の学園長だということを、すぐには信じられず、ベルさんを疑ってしまった。師走先生と栗山先生がちょび髭おじさんを学園長と呼んでいたので、仕方なく信じたくらいだ。それより、なぜ学園長は何でオーケーしたんだ? 何か考えがあって引き受けたのか? と俺が学園長の意図を読み取ろうとしていると、学園長が「ところで、今から何があるのかな?」と言っていたので、この人はテキトーなんだな、と確信した。ていうか、学園長って暇なのか、とも思った。そして、急遽参加することになった学園長への説明もかねて、料理研究会の九門さんが今回の料理勝負の説明を始めた。


 説明が終わり、先鋒戦の準備が始まった。相談部は二宮さん、桔梗さん、文月さんの三人だ。それに対し、料理研究会は、七草なずなさんという一年生一人だけだった。彼女は料理研究会の一年生エースとして将来料理研究会を引っ張っていくことを期待されているらしい。九鬼さん、九門さんに認められているということは、相当の腕の持ち主だということは分かる。先鋒戦のお題は卵料理。結局、俺たちはチームに分かれてから一度も相談をしなかった。もしかしたら自分たちの力でどうにかしたいと思ったのかもしれない。さて、この作戦が吉と出るか凶と出るか。

 開始の合図が鳴ると、まずは桔梗さんが卵を大量に割り始めた。そしてボウルに入れた卵を二宮さんが味付けしながらかき混ぜた。それを文月さんが玉子焼き機に流し込み焼き始めた。どうやら一年ズは、だし巻き卵を作っているようだった。三人がそれぞれ作業を分担し、自分ができることをしていた。文月さんは焼くのがとても上手く、ふわとろの卵焼きができていた。そして最後にパンで挟み、だし巻き卵のサンドイッチが完成した。七草さんよりも早く完成したので、桔梗さんと二宮さんがそれぞれの先生のもとへサーブし、最初に審査員に食べてもらう料理ということになった。先生たちはサーブされた卵サンドを手に取り、食べ始めた。それを一年ズと俺たちは唾を飲み込みながら緊張した様子で見守っていた。「美味しい!」と師走先生が最初に感想を言ってくれた。続いて「だし巻き卵がとても丁度いい味付けで美味しいです!」と栗山先生が上品な態度で感想を言ってくれた。そして学園長は、黙々と食べ続け、全部食べ終わった後に、とても早口で感想を言っていた。学園長がなんて言っているのか聞き取れなかったが「美味しい!」という言葉は聞こえたので、高評価であるということは分かった。それを聞いた一年ズは手を取り合って喜んでいた。そして、俺たちが喜んでいる間に、料理研究会の一年生エース、七草なずなさんの卵料理が完成していた。七草さんの作った卵料理は、定番中の定番、オムライスだった。七草さん謹製『究極のふわとろオムライス』は、サーブされた後に上の卵をナイフで割って、ライスを包むようになっていた。師走先生は、卵を割っている時、あまりのふわとろ感にビックリしていた。味ももちろん逸品で、オムライスと濃厚なデミグラスソースの味がマッチしていて互いを高め合っていると学園長が早口で解説していた。そして、判定の時間になった。最初の判定は、後の勝負に精神的に影響を与えるので、結構重要だ。一年ズはよく頑張ったと思う。今、俺たちができることは、先生たちがどんな判定をするのか、祈ることしかできない。一年ズVS七草さんの結果は、1対2で七草さんの勝ちになった。一年ズのサンドイッチには、栗山先生が票を入れてくれ、師走先生と学園長は、七草さんのオムライスに票を入れていた。結果を聞いた一年ズは、悲しそうな顔をして「すみません」謝ってきたが、如月さんとベルさんが「よく頑張ったね!」と言って、やさしく抱きしめていた。二宮さんが涙を流していたので、俺は二宮さんの頭に手をポンと乗せ、「後は俺たち先輩に任せろ!」と言って、励ました。

 そして、第二試合の準備が始まった。俺たちの相手は、料理研究会所属、二年C組の八ツ橋抹茶やつはしまっちゃという男だった。なんだか甘くて美味しそうな名前だな、と思った。八ツ橋は、準備している俺に話しかけてきた。

「キミが水無月翔くんだね?」

「あぁ、そうだけど…」

「キミの噂は聞いているよ! あの如月さんに料理を教えてもらっているそうじゃないか?」

「まぁ、時々な!」と俺が答えると、八ツ橋は悔しそうな顔をしたように見えた。

「どうやら本当だったんだね……。でも、その場所にキミは相応しくない!」と八ツ橋は少し強い口調で言った。

「は? どういう意味だ?」

「キミは、如月さんのパートナーとして相応しくないと言っているんだ!」

「パートナーってなんだよ? 俺はただ、如月さんに料理を教えてもらっているだけで…」と言ったが、八ツ橋はもう俺の話を聞いていなかった。

「この勝負は、誰が如月さんのパートナーに相応しいのかを示せるいい機会だ!」と八ツ橋は調子に乗って言い、続けて「よって、キミには絶対に負けないよ…水無月くん!」と指を差しながら言ってきた。こいつ、もしかして神無月が言っていた如月さんの隠れファンか、と思った。

「……こっちにも負けられない理由があるんだ!……俺たちの力、甘く見るなよ!」と俺は反論した。

料理勝負が始まる前からバチバチの俺たちだったが、いざ調理が始まるとみんな真剣な顔になった。俺たちも作業を分担して取り組んだ。俺は玉ねぎをみじん切りにしてから、フライパンでバター、水と一緒に加熱し、辛みがなくなるまで炒めた。炒め終わったら、粗熱が取れるまで冷ましてから冷蔵庫に入れる。その後、ボウルに牛乳、パン粉、卵を入れ、混ぜ合わせた。次に、別のボウルの底に氷を当てながら牛ひき肉3分の2の量を入れ、塩を加えながら、へらを使ってつぶすように混ぜた。混ぜた牛ひき肉に先程混ぜ合わせたものを加え、さらに練る。この時、肉が温かくなりすぎないように気を付けた。牛ひき肉がペースト状になったら、残りの牛ひき肉と黒コショウ、冷やしていた玉ねぎを加え、さっくりと混ぜる。これを等分し、空気を抜いて楕円形にまとめ、フライパンで焼く。焼きあがったら取り出し、続けてソースを作る。同じフライパンを強火で熱し、赤ワインビネガーを入れて酸味を飛ばす。それに醤油、水、ケチャップ、ウスターソース、マスタードと加えてひと煮たちさせる。これで、ソースも完成だ。俺がハンバーグを作っている間、霜月と神無月には付け合わせを作ってもらっていた。人参のグラッセ、じゃがいものソテー、茹でたブロッコリーを作ってもらい、それをハンバーグと一緒に皿に盛り付けてから、特製ソースをかけて完成した。俺たちが作ったのはハンバーグだ。名づけるなら『肉汁たっぷりハンバーグ』だろうか。俺たちの方が先にできたようなので、審査員にサーブした。師走先生はハンバーグがとても柔らかく、ジューシーにできている、と評価してくれた。栗山先生は付け合わせの野菜もよく味付けされて、ハンバーグと合う、と評価してくれた。学園長はいつも通り、早口でなんて言っているのか聞き取れなかったが、「美味しい!」と言っていることだけは分かった。そして、少し後に八ツ橋の料理がサーブされた。八ツ橋の作った料理は、『鹿肉のロースト ~赤ワイン仕立て~』だった。なんともオシャレな逸品だった。まるで、どこかのレストランで提供されているようなレベルの料理に見えた。審査員の先生も初めて食べたかのような驚いた顔をしていた。ジビエ特有の臭みが全くなく、とても美味しいという意見が多かった。見ている俺も食べたくなってきた程だ。正直、負けるかもしれないとこの時思った。八ツ橋も勝ち誇った顔をしていた。そして判定の時間になった。俺、霜月、神無月チームVS八ツ橋の結果は、2対1で俺たちの勝ちとなった。栗山先生と学園長が俺たちに入れ、師走先生が八ツ橋に入れていた。八ツ橋は納得がいかない様子で、栗山先生に異議を申し立てていたが、次の勝負があるので、後回しにされた。

 1対1で迎えた最終決戦。いよいよ大将戦の時間になった。正直今回の目玉はこの勝負だと思っていた。いつの間にか、噂を聞きつけた部活生が調理室の周りを囲んでいた。それだけみんなにも注目されているのかもしれない。そして調理が始まった。九鬼さん、九門さんの料理する姿は初めて見たが、とても息の合ったコンビネーションで次々と工程を進めていた。一方、如月さんとベルさんは落ち着いて作っていた。九鬼さんと九門さんのパフォーマンスは圧巻であり、見ているだけで楽しかった。段々と作っているデザートも形を成していき、あっという間に派手なデザートが完成していた。九鬼さんと九門さんが作ったデザートは、お菓子の家だった。子どもの頃、本で読んだり、動画で見たりして一度は憧れたであろう、あのお菓子の家だ。壁から屋根、ドア、窓などすべてがお菓子でできていた。クッキーやチョコレート、水あめなど様々な材料が使われていた。この前の如月さんに対抗してか、ロールケーキもあった。巨大なお菓子の家にみんな圧倒されていた。師走先生は食べるのがもったいないと言いつつ、すぐに食べ始め、頬に手を当て「んー!美味しい!」と感動していた。栗山先生は冷静に一口、また一口と食べてから頷いていた。学園長はいつも通りだった。九鬼さん、九門さんのお菓子の家は味、見た目、パフォーマンスとすべてが完璧にできていた。如月さんはこれにどう対応するのだろうか、と思って視線を送ると、自分の作るデザートの集中しているようで、周りを気にしていない様子だった。そして鬼門コンビニ少し遅れて、如月さんがデザートをサーブした。如月さんが作ったデザートは、ガトーショコラだった。その名も『濃厚ガトーショコラ』らしい。鬼門コンビに比べるとシンプルなデザートだが、その繊細な見た目からは、どことなく惹かれる魅力を感じた。お皿に盛りつけられたガトーショコラは綺麗に盛り付けされていたので、おそらくベルさんが盛り付けたのだろうと思った。フォークで切った断面を見るだけで超濃厚だろうな、ということが分かった。先生たちも一口食べた瞬間に頬っぺたが落ちるほど美味しいと絶賛していた。そして、判定の時間になった。如月さん、ベルさんVS鬼門コンビのデザート対決を制したのは………2対1で如月さん、ベルさんチームの勝利だった。如月さん、ベルさんに栗山先生、師走先生が入れ、学園長が鬼門コンビに入れていた。この結果を聞いて、如月さんとベルさん、他の相談部のみんなも飛んで喜んでいた。鬼門コンビはしばらく唖然としてから、栗山先生に負けた理由を尋ねていた。振り返ると、栗山先生は全票俺たちに入れてくれていた。その理由が気になったので、俺も尋ねてみた。すると、栗山先生はその理由を語りだした。

 栗山先生によると、俺たちのチームは全員、事前に先生たちにどんなものが食べたいのか、リサーチをしていたらしい。そのことは俺たちも知らなかった。みんながそれぞれ判断して行動したようだ。なんとも相談部らしいな、と思った。そして、もし料理の味で拮抗していたら、栗山先生は相談部に一票を入れることを決めていたらしい。その結果、俺たちに全票入れることになったと言っていた。八ツ橋が、なぜそんなことを決めていたのか尋ねると、栗山先生は「料理において大事なものがあります!」と言って、それが何か、料理研究会一人ひとりに聞き始めた。八ツ橋は味と見た目と答えた。栗山先生は頷きながら同意し、他にもないか尋ねた。九鬼さん、九門さんはパフォーマンスと答えた。美味しい味と綺麗な盛り付けは前提で、あとはどれだけお客さんを驚かせることができるのか、と言っていた。栗山先生はそのことにも同意し、再度尋ねた。今度は七草さんが、愛情と答えた。栗山先生はそのことにも同意し、他にもないか尋ねた。料理研究会のメンバーは考え込んでいたが、思いつかない様子だった。正直、俺も分からなかった。こういう展開の時は、どうせ愛情なんだろうな、と思っていたからだ。しかし、栗山先生の言いたいことはそういうことではないらしい。相談部にあって、料理研究会に足りないものとはなんだろうか、と一同考えていると、栗山先生は如月さんを指名した。如月さんなら答えを知っているというのである。如月さんは「食べてくれる人を想って、料理を作ること…ですか?」と答えた。一瞬沈黙が流れてから、栗山先生は頷いた。それを聞いた八ツ橋が「それって愛情と一緒じゃないですか?」と栗山先生に尋ねると、栗山先生は「少し違う!」と否定した。栗山先生によると、愛情という一言で済ませると勘違いする人がいるので、あまり使いたくないらしい。それよりも、食べてくれる人を想って、何を提供すればその人が一番喜んでくれるのか、美味しいと思ってくれるのか、を考えることが大事だと言っていた。相談部は全チームが事前に先生にリサーチをしていたので、食べる相手のことを考えてから料理を決めていた。一方、料理研究会は自分たちの力を見せびらかすために料理をしていた、ということらしい。それでは味や見た目は一級品でも想いまで伝わってこないというらしい。栗山先生曰く、一流の料理人になると、提供された料理を食べるだけで、その人の想いが、生きてきた証が、伝わってくるらしい。なんとも非科学的な精神論だな、と思ったが勝ったので、まあいっか、と思った。正直、栗山先生がこの考えじゃなければ、俺のチームは負けていた気がする。栗山先生は最後に「この信念は私の個人的なものだから、気に入らなければ支持しなくてもいい!」と言って、生徒の自由を尊重した。それでも、今回の結果は紛れもない事実なので、しっかりと受け入れてこれから前に進んでほしいと願っていた。それを聞いた料理研究会のみんなは黙っていたが、その目はやる気に満ちているように見えた。


 無事、料理勝負が終わり、とりあえず如月さんが料理研究会に無理やり入ることはなくなった。終わった後は互いに作った料理を食べ合った。特に鬼門コンビの作った巨大なお菓子の家がたくさん残っていたので、見学していた部活生も参加して、みんなで食べることになった。俺はその光景を隅の方で眺めていると、ちょび髭学園長が話しかけてきた。

「チャオチャオ! 水無月クン! キミのハンバーグとっても美味しかったヨ!」と学園長は気さくに話しかけてきた。

「ありがとうございます」と俺は答えながら、心の中で、あんたも雛月さんのファンなのか、と思った。

「キミの噂は聞いているヨ! 学費免除で入学してから、ずっと学年首位をキープしているようだネ!」と学園長は少し驚いているような感じで言った。

「はぁ」と俺は素っ気ない態度で答えた。

「それ以外にもいろいろ聞いているヨ! だけど、キミみたいに極端に分かれた評価をされている人は珍しいヨ!」と学園長は笑いながら言った。

「そうですか」と俺は素っ気なく答えた。俺を嫌っている教師は多いだろうから、学園長はそのことを言っているんだろうと思った。

「本当のキミは……一体どっちなんだい?」と学園長は意味深な感じで質問してきた。

「さぁ? 他人が俺をどう思うかは、分かりません。他人の心を操作することはできませんから…」

「ハッハッハッ、そうだね! 他人が何を考えているなんて分からないネ!」と学園長は笑いだした。そして続けて「じゃあ、私はキミのことをどう思っていると思うかい?」と質問してきた。俺は少し考えてから答えた。

「美味しいハンバーグを作る生徒……ですか?」と答えると、学園長はなぜか一瞬目を大きく見開いた。

「ハッハッハッ、たしかにそうだネ! 私はまだキミとあまり話したことがないからネ。そう思うのも納得だヨ!」と学園長はちょび髭を触りながら言い、続けて「でも、自分が知らない相手だからといって、相手が自分のことを知らないとは限らないんだヨ!」と警告するような感じで言ってきた。それは俺も十分理解しているつもりだった。なぜなら藤さんの件があったからだ。

「そうですね。気を付けておきます」と俺は素直に警告を受け入れた。

「キミの部活、随分面白いことをやっているんだネ?」

「相談部をご存じなんですね?」

「まぁ、一応私は学園長だからネ!」と学園長は言いながら胸を張って威張った。

「その節はお世話になりました」と俺はとりあえずお礼をした。おそらく部活創設の時に無理したことを知っていると思ったからだ。

「ハッハッハッ、構わないヨ。ただ、あまり強引なやり方はしないようにネ。私にも立場があるからネ」

「はい、気を付けます」

「まぁ、生きていればいろんなことがある。キミもなるべく後悔しないように、今を生きるんだヨ!」と学園長はカッコつけて言い、調理室を出て行くのかと思ったら、まだ残っていたお菓子の家を食べ始めた。その姿を見て、こんな人でも学園長になれるんだな、と思いこの学園の将来が心配になった。


 後日、俺たち相談部は、約束通り九鬼さんと九門さんのお店に招待された。それぞれの店の定休日に招かれたので、まるで店を貸し切っているような感覚だった。二人ともサービス精神旺盛で、スペシャリテの他にもたくさんの料理を振舞ってくれた。平日だったので、学校が終わった後ということもあり、ちゃっかりつゆりも混ざっていたが、二人とも快く受け入れてくれた。今更一人増えたところで変わらないと言っていた。料理研究会のみんなも来ていたので、大人数のパーティーのようになったが、みんな笑顔で楽しんでいるようだった。料理の話をしたり、日常の悩み事の相談をしたりとお互いの強みを活かしたパーティーになった。昨日の敵は今日の友と言うが、まさにそんな感じだった。後から神無月から聞いて知ったのだが、この日、八つ橋は如月さんにパートナーの申請をして丁重に断られたらしい。八ツ橋は帰る直前妙に沈んでいるな、と思っていたが、この話を聞いて納得した。今回は運よく勝てたが、もしこれから似たような状況が起こったら今度は負けるかもしれないと思ったので、俺はさらに料理の腕を磨くため、練習することにした。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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