表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
41/78

体育祭!!!

 今日は体育祭だ。スポーツの秋と言うが、今日は朝から快晴で、まさに絶好の運動日和だった。俺は多少疲れが残っていたが、いつも通りのルーティーンで自分自身を整えた。うちの学園の体育祭では、一般的な体育祭と同じように紅白に分かれて得点を競うルールだ。クラスでも紅白に分かれており、俺は白組だった。俺の知っている人で同じ白組は、如月さん、ベルさん、藤さん、二宮さん、芙蓉さん、八月一日さんだ。一方、紅組は、霜月、神無月、桔梗さん、文月さん、睦月会長、一ノ瀬さん、雛月さん、七海さん、十七里だ。

 正直、俺は紅白の勝ち負けには興味がなく、俺自身が勝てるかどうかを競っている。俺が出場する種目は、100メートル走(これは全員参加だ)、クラス対抗リレー(クラスで足が速い人が選ばれるということで選ばれてしまった)、借り物競争だ。俺は走るのが得意と自負しているので、三つとも走る競技を選んだ。この競技では絶対に負けたくないと思っている。ちなみに、クラス対抗リレーのメンバーは男女六人ということになっている。俺たち二年A組は男子が俺と霜月と十七里、女子が如月さんとベルさんと八月一日さんだ。相談部のメンバーは知っていたが、十七里と八月一日さんの足が速いというのには驚いた。八月一日さんは中学まで陸上部だったらしい。十七里も小学校から中学校までサッカー部で結構な実力者だったらしい。どうして高校でも続けなかったのかを尋ねると、映画の方が面白いからという理由らしい。人は見かけによらないということを改めて思い知った。A組は陸上部や運動部がいないので、一位を取れないだろうと予想されているが、このメンバーならどうなるか分からないと俺は思っている。個人的には、結構いい線いっていると思っている。それに人気がないことで、絶対見返してやるという思いになり、逆に燃えていた。

 第一種目は100メートル走だ。俺は自分の番が来るまで、ウォーミングアップをしたり、精神を落ち着かせたりしていた。そして、順番が回ってきた。一緒に走る人の情報はよく知らないが、おそらくライバルは隣の陸上部の人と神無月だろう。神無月も足は速いので油断できない。走るメンバーが決まった時から、神無月は俺に勝てるチャンスだと豪語していたが、俺は無視して自分に集中していた。そして、スタート位置に構え、音と同時にいいスタートを切ることができた。やはり隣の陸上部の人と接戦になったが、僅差で勝つことができた。これでまず一勝。残りは二種目だ。

 次の俺の出場競技は、借り物競争だ。これは純粋に走る速さだけでなく、思考の早さも重要だ。お題を見てから、すぐにそれがある場所へ向かわなければならないので、判断力も試されている。どちらも得意だと俺は自負しているので、負けるつもりはなかった。この競技では、霜月と一緒のグループだった。いくら友達でも一位を譲わけにはいかないと、俺は始まる前に霜月に宣言した。霜月はそこまで真剣に捉えていない様子だったので、勝てるだろうと思った。そして、順番が来て、スタート位置に並び、音と共にこれまたいいスタートを切ることができた。お題場所には一番に着いた。そして、適当に紙を一枚選び、紙に書かれていた文字を見ると俺の思考は停止した。見間違えたかと思って、目を擦ってもう一度見返したが、見間違えではなかった。俺の引いたお題は、『好きな人(異性)』だった。ご丁寧に同性を選んで友達として好きという選択肢を消していやがる。一体誰がこんなお題を書いたんだと思いながら、俺は誰にしようか探しながら考えた。最初に目に飛び込んできたのは如月さんだが、如月さんは霜月のことが好きだから、迷惑をかけるのでダメだろう。次はベルさんと思ったが、ベルさんだと後から何か対価を要求されそうなので、なしだ。睦月会長を選べば本人は協力してくれそうだが、文月さんに殺されるだろう。同じ理由で、一ノ瀬さんを選ぶと、睦月会長に殺されるだろう。雛月さんを選ぶと、ファンの全員に殺されるだろう。なら藤さんならどうだろうか。俺に好意を持ってくれているから、引き受けてくれるだろうが、俺自身が藤さんに対してはっきりしない感情を抱いている今はやめておいた方がいいと思った。それは藤さんに対して失礼になるんじゃないかと思った。それなら一年生はどうだろうか。桔梗さんは、本人はいいが、後から長月兄が面倒なことを言ってくる可能性があるのでダメだ。二宮さんは、目立つのは嫌だろうし、走るのも苦手だったのでやめておいた方がいいだろう。カスミンは、人と認識されない可能性があるのでダメだ。文月さんには断られるだろう。そうだ。八月一日さんは…と思ったが、同じ種目に参加しているのでダメだ。芙蓉さんや七海さんもいるが二人とはほとんど話したこともないので、誘うと引かれるかもしれないし、断られる可能性がある。このままでは失格になってしまうと思いながらも、どうすればいいのか分からず、お手上げ状態になっていた時、ふと俺の視界にその人は飛び込んできた。彼女とならこの窮地を切り抜けられるだろうと思って、急いで向かい、手を引っ張ってコースに戻り、無事ゴールすることができた。結果は最下位だったが、とりあえずゴールできたので良しとすることにした。

「水無月くん、お疲れ!」と競技を終えた俺に、睦月会長が言葉を掛けてきた。

「あぁ、ありがとう!」と俺は答えた。

「お題を引いた時、しばらく周りを見ながら動かなかったけれど、一体なんだったの? 結局、師走先生と一緒に走っていたけれど…」と睦月会長は聞いてきた。どうやら俺が何に悩んでいたのか気になったらしい。そう、俺は師走先生を選んだのである。師走先生は、担任であり、相談部の顧問でもあるので、好きな理由をいくらでも挙げられる。実際、師走先生は、美術に関する知識が豊富で、授業でいつも面白い話をしてくれるので好きだ。それに年齢も25歳なので、俺と近いから選びやすかった。

「ご想像にお任せします…」と俺は当たり障りのない返答をしたが、その時、後ろから雛月さんがコッソリとやって来て、俺が右手に持っていたお題の紙を取り上げた。

「えーと、翔くんのお題は………すっ、すっ、好きな人(異性)!!」と雛月さんは大袈裟な声で俺の引いたお題を言った。その声は近くにいた人にも聞こえたようだ。

「かっ、翔くんって、師走先生みたいな人が好みなの?」と雛月さんが言った。

「そうだったの!? なんか、ごめんなさい」となぜか睦月会長が謝ってきた。

「水無月くんって結構チャレンジャーなんだね!」と一ノ瀬さんが煽ってきた。

「そうだったんデスか!? 翔サン!?」とベルさんが疑うことを知らないような顔で聞いてきた。

「しっ、知らなかったよ。翔くんが師走先生のことを好きだったなんて…」と如月さんはまるで信じているかのような感じで言った。

「水無月くん、大人な女性が好みニャんだ!」とカスミンが確信を得たように言った。

「びっくりです!」と二宮さんが小さな声で言った。

「フッ、わわ、我は知っておったぞ! この魔眼で見通していたからな!」と桔梗さんは言っていたが、少し動揺しているように見えた。

「先輩、人の恋愛をとやかく言うつもりはないですが、禁断の恋はオススメしません」と文月さんに注意された。

「私はまだ二番目でも大丈夫だよ!」と藤さんが冗談のように言った。このメンバーで唯一俺の考えに気づいている様子だった。さすがストーカー、もとい、藤さんの観察力だなと思った。俺は、この後自分の考えを説明したが、みんながどこまで納得してくれたかはよく分からなかった。なぜか如月さん、ベルさん、雛月さんは不満そうな顔をしていたし、桔梗さんと二宮さんは説明の途中で競技に行くし、睦月会長と一ノ瀬さんは同情するし、藤さんは全く変わらないし…。予想外にも文月さんが俺の判断が正しかったと認めてくれたが、一つミスをしたことを指摘された。師走先生とは年が近かったために、リアルさが増したということだった。それでみんな本気なのか冗談なのか分からなくなったというらしい。たしかに言われてみればそうだ。俺は選びやすいと思っていたが、みんなにとっては逆効果だったらしい。もう少し年上の先生を選んでいればリアルさが減り、みんなもこんなに混乱しなかっただろうと言われた。そして最後に「もし、睦月会長を選んでいたら、大変なことになっていたかもしれません」と耳元で妙にやさしい声で言われた。それを聞いた俺はゾッとした。


 二競技を終えて、俺の残りの競技は午後からのクラス対抗リレーだけになった。昼になったので。俺は一人屋上で食べようと思っていたが、みんなも付いて来たので、大所帯で昼食をとることになった。相談部のメンバーに、睦月会長、一ノ瀬さん、雛月さん、藤さんを加えて、計12人になった。それぞれいろんな話をして盛り上がっていたので、たまにはこんな昼食もいいかもしれないなと思った。この時、雛月さんと藤さんの仲が良いということを意外に思ったベルさんが、二人に質問攻めをして、藤さんの正体がVチューバーの五月さつきであることが、バレそうになったが、睦月会長が上手くフォローをして、バレずに済んだ。そういえば、藤さんのことを知っているのは、この学園では、雛月さんと睦月会長と俺しかいないんだった。俺も口を割らないように気を付けなければならないと思った。昼食を終えて、俺たちはグラウンドに戻った。昼からはメイン競技が行われることが多く、団体による騎馬戦や綱引き、棒倒しなどが行われる。クラス対抗リレーは紅白関係ないので点数はないが、意外とみんな燃えている競技の一つだ。大体は、スポーツ推薦のクラスや運動部の多いクラスが毎年上位を占めている。俺たちのような進学クラスはいつも下位争いだった。そんな現状を変えるため、今年の俺はいつも以上に本気だった。それにメンバーもベストな選択だと思っている。クラス対抗リレーのルールは、女子が半周で、男子が一周し、男女交互に走る。A組の走順は、第一走が八月一日さん、第二走が十七里、第三走がベルさん、第四走が霜月、第五走が如月さん、そしてアンカーが俺だ。正直、アンカーなんて嫌だったがジャンケンで負けてしまったので仕方なかった。そう、俺たちはジャンケンで走順を決めたのだ。俺たち男子は、50メートル走を6秒台というほぼ同じタイムだったので、走順はそこまで拘らなかった。それぞれどこがいいか意見を言うと、全員が第二走者を希望し、アンカーを嫌がったので、公平にジャンケンで決めることになったのだ。本気で勝ちたいと思っているのに、作戦もなしにそんなことでいいのかと思うかもしれないが、それとこれとは別だ。アンカーだけは嫌だったのだ。その報いか、結局アンカーになってしまったのだが…。そして、とうとう時間が来た。始まる前に俺たちは集まって円陣を組んだ。ベルさんが「絶対勝つゾー!」と声を掛けたので、みんなで「オー!!」と言って、気合を入れた。おそらく強敵は3チームだろう。俺たちと同じ進学クラスのC組も睦月会長や神無月がメンバーだ。そしてスポーツクラスのF組は全員が現役バリバリの運動部だ。G組に至っては、6人中4人が陸上部だという。そんなのありか、と不満を言ってもしょうがないので、自分にできることだけに集中することにした。そして、ピストルの音と共に第一走者が一斉に走り出した。八月一日さんはいいスタートを切り、上位4クラスのバトンはほぼ同時に第二走者に渡った。俺の予想通り上位争いはA組、C組、F組、G組だった。十七里もいい走りをして、前との距離を話されずにG組、F組に続いて三位でバトンを繋いだ。そしてベルさんが猛烈に速く、前の二人を追い抜いて一位になり、バトンを霜月に繋いだ。霜月も一位をなんとか死守して、如月さんにバトンを繋いだ。如月さんも安定した走りで一位を守り抜き、後は俺にバトンを渡すだけだった。しかし、俺が少し早めに助走をしてしまったせいで、バトンを受け取る前に、如月さんがバランスを崩して転んでしまった。俺が如月さんの元へ行くと、如月さんは転んだ態勢のまま腕を伸ばして、バトンを俺に渡してくれた。そのタイムロスでG組に追い抜かれたが、俺は全力で走り、中盤で追いつくことができた。最後の最後まで接戦だったが、僅差でG組に負けてしまった。結果二位だったが、俺はそれどころではないと思っていた。走り終えた後、すぐに如月さんのところへ行き、怪我を確認すると、両膝を擦りむいて血が出ていた。如月さんは「気にしないで」と言っていたが、そんなわけにもいかなかった。退場するまで待つ意味もないので、俺は「ちょっとごめん」と許可を取り、如月さんをお姫様抱っこして、救護テントまで連れて行った。その間、如月さんは「え!? ちょっと、待って!」と動揺しているようだったが、すぐに静かになったので、運びやすかった。救護テントの椅子に如月さんを座らせてから、保健の先生に怪我の状況を診てもらった。擦り傷なので、洗浄してから消毒し、テープで保護すれば大丈夫ということだった。俺に何かできることはないかと聞いたが、後は先生に任せてと言われたので、任せることにした。

「ごめん。俺が、早く走り出してしまったから…」と俺は如月さんに謝った。

「そんな! 翔くんのせいじゃないよ! 私がバランスを崩してコケたんだよ!」と如月さんは言った。

「いや、俺が焦っていたから…」

「翔くんは何も悪くないよ! ……それよりも、私のせいで負けちゃった」と如月さんは悲しそうな表情で言った。

「如月さんのせいじゃない!」と俺は強く言った。

「でも、私がコケなければ……」という如月さんはネガティブ思考に陥っているように見えた。

「それは…」と俺が言いかけたところで、ベルさんが息を切らしながらやって来た。どうやら競技が終わってから走って来たようだ。

「牡丹! 怪我の具合はどうデスか?」と勢いよく言ったベルさんは心配そうな顔をしていた。その勢いに俺と如月さんは少しビックリした。

「大丈夫だよ。ちょっと膝を擦っただけだから…」と如月さんは冷静に答えた。

「ホッ、そうデスか!」とベルさんは安心していた。

「ごめんね。心配かけて…」と如月さんは申し訳なさそうに言った。

「気にしなくていいデス! 大きな怪我じゃなくてよかったデス!」とベルさんは言った。

「ありがとう。………でも、私のせいでリレー負けちゃった」と再び如月さんは肩を落としてネガティブモードに陥っていた。

「何言っているんデスか!? 牡丹のせいじゃないデスよ!」とベルさんも俺と同じ意見を言った。

「でも、私がコケたから…」

「リレーはチームで行う競技デス。負けたのはチームみんなの責任デス。牡丹だけの責任じゃありまセン!」とベルさんが俺の言いたいことを代弁してくれた。

「そうそう! 如月さんのせいじゃない。責任は俺にもある」と如月さんを心配して駆け付けた霜月が言った。

「そうだよ。私も最初一位になれなかったし!」と八月一日さんが続けて言った。

「もし誰かのせいだと言うのなら、僕は水無月くんのせいだと思うけどな」と十七里が流れに乗って言った。「十七里、てめぇ、この野郎、事実だけど、こいつにだけは言われたくねぇ」と俺は心の中で怒りながら、十七里を睨みつけた。この時、十七里に対する復讐心が増した。それから、雛月さんや睦月会長、二宮さん、桔梗さん、文月さん、藤さん、芙蓉さんも心配して来てくれた。おそらく如月さんの隠れファンだろう、その他も群がって来て、予想以上に大袈裟な感じになってしまっていたので、如月さんも混乱しそうになっていた。救護テントの狭い空間に大勢の人が集まり、このままだと収拾がつかなくなると思ったが、睦月会長と文月さんが上手く捌いたので、全員解散することができた。帰り際に如月さんを見ると、表情が柔らかくなっている気がしたので、安心した。大袈裟になったが、結果的には良かった。俺がクラスのテントに戻っていると、芙蓉さんが「水無月くん、結構やるねぇ!」と肘をつきながら俺に言ってきた。「え!? 何が?」と聞いたが、芙蓉さんは詳しく教えてくれなかった。それから、なんとなく変なアピール合戦が始まった気がした。障害物競走に参加していた藤さんが俺の見ている目の前でコケたのである。俺の見た感じではわざとコケたように見えたが、心配だったので声を掛けると、すぐに俺の方を向いて、立てないアピールをし始めたから、スルーすることにした。同じ競技に参加していた雛月さんも偶然なのか俺の目の前でコケた。心配だったが、一瞬で雛月さんのファンが大勢駆け付けて助けていたので、俺はその光景を見ていることにした。騎馬戦には一年ズが全員出ており、全員騎手だった。俺は全員応援しようか、色的に同じチームの二宮さんを応援した方がいいのだろうか、と考えていた。二宮さんは騎手でも変わらずカスミンを付けていたので、ハンデにならないかと思った。試合が始まると、二宮さんと桔梗さんが争っていたが、なぜか二人ともわざと負けようとしているように見えた。相手のハチマキを取ろうとするのではなく、相手に落としてもらおうとしているように見えたのだ。おそらく勘違いだろうと俺は思った。そうでなければ、危ない。結果、二人の争いは時間まで勝負がつかなかった。

 

 そんなこんなで、メイン競技も終わり最後の種目になった。暦学園は昔から続く謎な伝統があるようで、最後の種目は毎年決まっている。最後の種目は部活対抗仮装リレーだ。これはエキシビションとして行われるため、点数や競争は関係なく、どれだけ盛り上げることができるかが重視される。おそらく毎年ハロウィンが近いから取り入れたのではないかと推測している。参加する部活は事前申し込み制で自由参加だ。伝統的な競技ということもあり、毎年多くの部活が参加するため、運動部と文化部とに分かれて行われる。競技では大体その部活らしさをアピールしながら走る人が多い。過去の例で言うと、野球部ならぐるぐるバットをしてから走ったり、サッカー部ならリフティングしながら走ったり、バスケ部ならドリブルしながら走ったり、バレー部なら二人でトスをしながら走ったり、テニス部ならラケットでボールを落とさないように走ったりしている。一人で走らないといけないというルールもないため、バレー部のようにペアで走ってもいいらしい。この仮装リレーには意外と文化系の部活も参加することが多く、吹奏楽部は演奏しながら走ったり、写真部は走っている人たちを撮りながら走ったり、ロボット研究会に至っては、自分たちで作成したロボットを操縦して走っていたりする。前回はラジコンカーと一緒に走っていた。そんな何でもありなリレーに俺は出場しないが、他の相談部のメンバーは、各々部活の助っ人として参加することになっていた。如月さんも出場予定だったが、足を怪我したため辞退したそうだ。本来なら、料理研究会として、シェフの格好をし、お玉に卵を乗せて走る予定だったらしい。正直、如月さんのシェフ姿を拝みたかったが、仕方がない。俺と同じ気持ちの同志も少なからずいるだろう。

 俺は、クラステントから見ていてもよかったが、せっかくなので、如月さんのいる救護テントに向かった。「隣、いい?」と如月さんに確認すると、「え!? あっ、うん! いいよ!」と答えてくれたので、俺は如月さんに隣に座った。しばらくすると、仮装リレーが始まった。

最初は運動部で、ベルさんと霜月と神無月が出場していた。ベルさんはテニスウェアを来て、ラケットでボールを上に打ちながら落とさないように走っていた。霜月はサッカーボールをリフティングしながら落とさないように進んでいた。神無月はバスケットボールを指の上で高速に回転させバランスを取りながら走っていた。運動部が全員ゴールし、続いて文化部の仮装リレーがスタートした。二宮さんは美術部の助っ人として参加し、ベレー帽を被り、筆をバトン代わりにして走っていた。とても可愛らしかった。中にはモナ・リザやムンクの叫びなど有名な絵画の顔をくり抜いて顔はめをして走っている人もいた。桔梗さんはオカルト研究部の助っ人として参加し、幽霊の格好をして走っていた。怖さは全然なく、ただ可愛かった。他には頭にUFOを被って走っている人もいれば、タコの宇宙人みたいな格好をして走っている人もいた。意外にも一番仮装リレーに合っているように感じた。文月さんは生徒会として出場していた。ということで、もちろん睦月会長も出ていた。生徒会だけでは人数が足りないので、雛月さんと藤さんも参加していた。おそらく藤さんの提案だと思うが、生徒会は人気Vチューバーのコスプレをしていた。もちろん藤さんは五月さつきのコスプレをしていた。この人、本当に正体がバレてもいいのか、と少し心配になった。この他にも奇抜なコスプレをした部活もあった。八月一日さんと十七里の映画研究会は、全員が映画の最初に出てくる映画泥棒のコスプレをしていたので、もはや誰が誰だか分からなかった。工学部は、今年は人型のロボットを作ったようで、ロボットと並走して走っていた。みんな笑顔で楽しそうに走っている姿を見ている時、如月さんが話しかけてきた。

「みんな楽しそうだね!」

「そうだな!」

「翔くんは出なくてよかったの?」

「あぁ、今年はもう満足だ! ……如月さんこそ、怪我がなければ出たかっただろ?」

「そうだね……でも、こうして翔くんと見ているのも楽しいから、どっちでもよかったかも!」と如月さんは笑顔で言った。それを見た俺は、一瞬ドキっと胸が高鳴るのを感じた。そして如月さんは続けて聞いてきた。

「翔くんは、今年の体育祭、楽しかった?」と如月さんは下から覗き込むように俺の目を見ながら言った。

「あっ、あぁ! 楽しかったよ!」と俺は声を震わせ、動揺しながら答えてしまった。

「そっか! よかった!」と如月さんは満面の笑みで言った。

 そして、無事閉会式も終わり、今年の暦学園学園祭は終わった。今日の夜、クラスで焼肉パーティーとカラオケを予定していたらしいが、俺は断った。三日間のハードなスケジュールでもう体力も残っていなかったからだ。というより、みんなよくそんな元気があるな、と少し感心した。こんなに高揚した体育祭は久しぶりだった。ゆのさんが亡くなってから俺は運動会や体育祭は嫌いだった。なぜなら、団体競技が強制だからだ。だから当日は休むことが多かった。暦学園では出場競技が希望制だったので、昨年はたまたま希望した競技に決まったため参加しただけだった。俺にとって体育祭は、ただ自分の運動能力を確かめるための行事だった。しかし、今年の体育祭はいつもと少し違った。もちろん団体競技に出たくない気持ちは変わらないが、信頼している友達となら、検討してみてもいいと思うようになった。これは俺自身も大きな変化だと感じた。来年はどんな体育祭になるのか分からないが、以前の俺よりも前向きに考えられるようになったと思う。

俺が家に帰ると、つゆりが家事をしてくれた。俺が疲れているのに気づいて、気を遣ってくれたようだ。俺はそれに甘えて、家に帰ってから何もしなかった。布団に横になると、疲れが一気に押し寄せてきたので、いつもより早めに眠りについた。


 翌朝、目が覚めると少し疲れが残っているようだったが、気分もスッキリしていたので、いつも通りのルーティーンを行った。久しぶりに一人の時間だったので、俺は目一杯、一人の休日を満喫する予定だったが、午後一時頃につゆりにカラオケに誘われた。今回は一人の休日を楽しみたかったので、正直に行きたくないと答えたが、つゆりは粘ってきた。一人カラオケを勧めたが、今日は一人の気分ではないらしい。それなら友達を誘えばいいじゃないかと言うと、友達はみんな用事で都合が合わないらしい。そもそも俺は歌が苦手なので、カラオケ自体ほとんど行かないと言っても、それでもついて来てくれるだけでいいから、とつゆりは言った。つゆりにしては、雑な言い訳だなと感じたので、何か裏があるのかもしれないと思った。おそらく、如月さんかベルさんが絡んでいるんじゃないかと推測した。つゆりが困っているようだったので、俺は一時間だけだと約束して、誘いを受けることにした。おそらく、つゆりは俺のことを気遣いつつも、如月さんやベルさんのお願いも断れなかったんじゃないかと推測した。なんとまぁ、やさしい妹を持ったもんだと俺は感激していた。俺が了承すると、つゆりは笑顔になり、急いで自分の部屋に走って行き、着替えを始めた。俺もせっかくの外出なので、オシャレに着替えることにした。5分程で準備ができたので、俺とつゆりは街のカラオケ館に向かった。

 俺の予想通り、カラオケ館の前では如月さんとベルさんが待っていたが、予想以上に人が多かった。相談部の全員に加え、雛月さん、藤さん、睦月会長、一ノ瀬さん、芙蓉さん、七海さん、八月一日さん、十七里が来ていた。これだけの人数をよく集めたなと思いながらも、今日もまた騒がしい日になりそうな予感がした。しかし、十七里が来ているのが意外だった。十七里になぜ来たのか尋ねると、暇だったからと言っていた。そういえば、こいつには何か復讐をしようと思っていたので、いい機会だと思った。そしてもう一つ、到着して気づいたことがある。つゆりは、雛月さんの大ファンだったので、今回のカラオケパーティーに参加するのをすごく楽しみにしていたようだった。どうやら俺を気遣っていたわけではなく、雛月さんに会えることが嬉しくて、俺にもやさしくなっていたらしい。つゆり的には、俺がいようがいまいがどっちでもよかったようなのだ。あの感激を返してほしい。

 俺は普段カラオケに行かないが、歌を聴くのは好きなので、みんなの歌の好みが少し気になった。トップバッターはベルさんだった。ベルさんは何を歌うのだろうか。やはりイギリス出身の有名なミュージシャンの歌だろうか。イギリスを代表するミュージシャンと言えば、Queenやビートルズ、ローリング・ストーンズなどが挙げられるだろう。それともベルさんはあえて日本の歌を歌うのだろうか…、と考えていると、メロディが流れ出した。そのメロディを聴いて俺は驚いた。俺だけではない、周りを見るとみんなも驚いていた顔をしていた。ベルさんが選曲したのは、演歌だった。しかも、この曲は〇川きよしの曲だった。ベルさんは、ズンドコズンドコ歌っていた。さすがベルさんで、安定した上手さだった。ベルさんが歌い終わった後、選曲の理由を聞くと、演歌は日本の風流を感じられて好きだと言っていた。次は、雛月さんが場を盛り上げる明るいポップな歌を歌ってくれた。さすが歌も上手く盛り上げ上手だなと思った。つゆりは感激していた。こういう時は、自分の歌は歌わないのかと尋ねると、気分次第らしい。絶対歌いたくないわけではないし、頼まれれば歌うこともあるらしい。プロでも人によって様々だと言っていた。次は如月さんが歌った。如月さんとは前にも来たことがあるので、何が好みかはなんとなく知っていた。如月さんは最近人気のJ‐ポップにハマっているらしく、特にヨル〇カ、〇OASOBI、〇〇と真夜中でいいのに、にハマっているらしい。如月さんは夜が好きなのかと思った。如月さんも安定して上手い。桔梗さんは予想通り、アニソンやボカロ曲を歌っていた。桔梗さんの歌声を初めて聴いたが、上手かった。ボカロ曲特有の早口もよく歌えていた。二宮さんは桔梗さんの歌を一緒に歌ったり、マラカスやタンバリンで盛り上げたりしていた。一人で歌いのは恥ずかしいらしい。睦月会長は文月さんと一緒に80年代から90年代の懐メロを歌っていた。睦月会長は当時の歌手の振り付けを真似して歌っていた。親の影響でハマったらしい。霜月や神無月は2000年代の定番の歌を歌っていた。藤さんは、五月さつきさんの持ち歌を歌っていた。この人本当に隠す気ないんだなと思った。藤さんの歌声を聴いて、ベルさんを始め、何人かは本人に似ていると言って驚いていた。まぁ本人だから似ていて当たり前なのだが…。この事実を知っているのは、俺と雛月さんと睦月会長だけだった。知っている分、どう反応すればいいのか迷った。すごく似ているねと同意を求められても、苦笑いしながら頷くことしかできなかった。みんな順番に歌い、十七里の番になった。こいつが何を歌うのかも気になったが、もし下手だったら、からかってやろうと、随分程度の低い嫌がらせをしようと考えていた。十七里が選曲したのはまさかの洋楽だった。みんなが知っている世界的に有名なミュージシャンの歌だった。しかも、滅茶苦茶上手かった。低音から高音まで綺麗な声でみんなを魅了していた。こいつ歌手を目指した方がいいんじゃないかと思うほどだった。一通り歌い終わって気づいたが、このメンバーみんな歌が上手い。俺以外…。まだ俺が歌っていないということで、俺にマイクが回ってきた。俺は歌うよりも聴く方が好きだと言ったが、一曲くらい歌いましょうということで押し切られてしまった。「何を歌うか考える時間が欲しい」と言うと、時間をくれた。俺は他の人が歌っている間に、何を歌うのか考えていた。すると、藤さんが隣に来て、「これはどうかな?」と一曲勧めてきた。それは『〇さな恋のうた』だった。この曲は俺もよく知っていたし、カラオケの定番曲でもあるので、いいとチョイスだと思った。それに藤さんは「一緒に歌えば上手いか下手かなんて分からないよ!」と言ってくれた。さすが藤さんの情報網、俺が歌下手なのと、どの歌なら歌えそうかも知っているようだった。俺はそれを歌うことにした。俺と藤さんが話していると、雛月さんが会話に入ってきた。

「二人で何コソコソ話しているの?」と雛月さんは聞いてきた。

「次に私と水無月くんで『〇さな恋のうた』を歌うの!」と藤さんが答えた。

「えー! ズルい! 私も翔くんと歌いたい!」と雛月さんが言った。

「フフン! 一歩遅かったね、弥生! それにあなたには文化祭の貸もあるんだけど…」と藤さんが勝ち誇ったように言った。

「それとこれとは、話が別だよ!」と雛月さんは食い下がった。

「いーや、別じゃない! 水無月くんと一緒に歌うのは私の特権なんだから!」と藤さんも意固地になっていた。

「それなら二人で歌ってくれても…」と俺は提案した。極力、俺は歌いたくなかったので、そんなにこの歌が歌いたいのなら全然譲る気だった。

「それはなし!」と二人は俺の方を向き、声を揃えて言った。二人が争っている間に、俺の順番になり、メロディが流れ始めたので、俺は歌い出した。二つのうちのもう一つのマイクを最初は藤さんがゲットし、一緒に歌ってくれた。Bメロになると、雛月さんが藤さんの手からマイクを奪い、歌い出した。そして一番のサビになると、ベルさんが雛月さんの手からマイクを奪い一緒に歌い出した。それからもマイクはつゆり、桔梗さん、カスミン、文月さん、睦月会長と順番に回り、二番のサビで如月さんと一緒に歌った。そして最後は十七里にマイクが渡り、綺麗な歌声で締めてもらった。

 最初は一時間だけのつもりだったが、気が付いたら四時間程経っていたので、そろそろお開きすることにした。みんなたくさん歌えたことで満足している様子だったので良かった。今回このメンバーで集まるのを計画してくれたのは、ベルさんと如月さんと睦月会長と雛月さんだったらしい。学園祭を頑張ったので、その分パーッとしたかったらしい。最後に計画してくれた四人に感謝して、俺たちは解散した。明日も休みなので、俺は気楽に考えていたが、まさか明日は明日で同じメンバーで焼肉を食べに行くとは思わなかった。結局、一人で過ごすという俺の当初の予定は叶わなかった。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ