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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
新・相談部始動編!!
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文化祭!!!①

 学園祭。ここ暦学園では、毎年10月末から11月初旬にかけて学園祭が開催される。文化祭が二日間、その後、体育祭が一日行われる。俺としては、なんとまあハードなスケジュールなのだろうといつも思う。文化祭では様々な催しものがあるが、一年生は作品展示で、二年生は劇というのが大体決まっている。そして申請すれば、部活で出店も行える。この学校の文化祭は結構規模も大きいようで、他校の生徒や地域の住民なども多数来るという。そして、今回は歴代最多の来場者になるのではないかと言われている。なぜなら、今回の目玉として、人気Vチューバーの五月さつきと人気インフルエンサーの雛月弥生のライブが開催されるからだ。二人が出演するということは、おそらく睦月会長がオファーしたのだろうと思った。それに毎年ハロウィンの時期と重なっているため、当日は仮装して参加する人も多いと聞く。昨年は作品展示だったので、作品はちゃんと作ったが、当日は休んだ。ただでさえ人が多い場所が苦手だと分かっているのに、わざわざ自分から参加しようとは思わない。しかし、今年はそういうわけにはいかないようだ。ベルさんの推薦により、クラスの劇の脚本をすることになり、相談部でも店を出すことになった。前の俺なら全力で断っただろうが、今回は少しやる気に満ちていた。この気持ちの変化も相談部での活動によるものだろう。どうせなら、記憶に残る劇を作って、出店でも売り上げ一位を目指そうと意気込んでいた。

 脚本作りは、俺とベルさんと映画研究部の二人、八月一日風鈴ほずみふうりん十七里条憲となりじょうけんの四人ですることになった。映画研究部の二人は、なかなか癖があるらしく、独特な感性を持っているらしいが、作品を見る目はあるようで、演劇にも詳しいということで、みんなからも信頼され選別されたようだった。最初の会議では、まず、題材を何にするのか、各々意見を出し合った。ベルさんは日本の童謡が好きらしく、桃太郎や金太郎、浦島太郎などをしてみたいと言っていた。八月一日さんは、ディ〇ニーが好きなようで、シン〇レラや〇雪姫をやりたいと言っていた。十七里は、演劇と言えばシェイクスピア作品だろうということで、定番のロミオとジュリエットを推していた。俺は特に思いつかなかったので、適当にそれらを混ぜてみればと冗談で発言すると、思いのほか三人が乗ってきて、俺がまとめて来ることになってしまった。それから、俺は脚本を考えては修正したり、他の人に意見を求めたりして、数日間でなんとなく形ある作品にできた気がした。プロットができた時は、夜だったので気づかなかったが、翌朝に読み返すと、なかなかカオスな内容になっていた。頭を使いすぎて、変なテンションになっていたのかもしれない。これ以上考えると、もっと変なストーリーになる気がしたので、とりあえず見てもらうことにした。正直、やり直しを覚悟していたが、なぜか好評だった。ベルさんは面白いと言ってくれ、八月一日さんと十七里も今まで見たことない作品だと言っていた。もしかしたら、この人たちの感性がズレているのかもしれないと思ったので、クラスのみんなに聞いてもらうことにした。その結果、そのまま採用になり、配役を決めることになった。なぜか俺だけが心配しているようだった。まぁ、これから演じていくうちに変更点が出てくるだろうと思って、この時は自分を納得させた。今回俺が考えた脚本は、こんな話だ。


 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると、上流の方から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこと流れてきました。あまりの大きさにビックリしたおばあさんは、感激してその桃を家に持ち帰りました。どうやらその桃でしばらく食費が浮くのが嬉しかったようです。おじいさんが山から帰って来ると、大きな桃を見てビックリしていました。そして、おじいさんも喜びました。これでしばらくの間、お腹いっぱい食べることができることが嬉しかったようです。その夜、おじいさんとおばあさんは、早速、桃を切って一口食べました。すると、なんということでしょう。桃を食べたおじいさんとおばあさんが、どんどん若返っていきます。最終的に二人とも二十歳くらいになりました。そして、元気になった元おじいさんと元おばあさんは、催しました。それから一年後、元おばあさんは元気な三つ子を産みました。三人の子どもはそれぞれ、桃太郎、金太郎、浦島太郎と名付けられ、大事に育てられました。月日が経ち、三太郎は十七歳になっていました。桃太郎は剣技の才に恵まれ、金太郎は筋力の才に恵まれ、浦島太郎は釣りの才に恵まれ、それぞれ立派に成長していました。

 ある日、三太郎が旅行に行っている間に、村が鬼に襲われる事件がありました。三太郎が旅行から帰ると、元おじいさんと元おばあさんから事情を聞きました。村人の全員が、角が一つの赤鬼と角が二つの青鬼と角がない黄鬼に大事な金品を奪われたそうなのです。その話を聞いた三太郎は大事な金品を取り戻すために、鬼退治に行くことを決めました。元おじいさんの情報によると、赤鬼は北、青鬼は南、黄鬼は西にそれぞれ帰って行ったそうです。ということで、桃太郎は北へ、金太郎は南へ、浦島太郎は西へそれぞれ向かうことになりました。桃太郎が旅をしている途中で、一人の女性に出会いました。その女性はシンデレラという名前で、ガラスの靴を失くしたから探しているとのことでした。桃太郎は一緒に探すのを手伝って、見つけることができました。そのお礼ということで、シンデレラが旅の仲間に加わりました。場面は変わり、金太郎は、旅の途中である街にいました。その街には、毒リンゴを食べて意識を失った白雪姫という女の子がいることを知りました。どうにかして助けようと思った金太郎は、すると目が覚めると噂されていたキスを白雪姫にしました。すると、白雪姫が目を覚ましました。そのお礼として、白雪姫が金太郎の旅の仲間に加わりました。そして場面は変わり、浦島太郎は黄鬼のアジトに到着していました。でも、そこに黄鬼はいませんでした。出迎えてくれたのは、ジュリエットという金髪の綺麗な女の子でした。実はその女の子が黄鬼の正体だったのです。ジュリエットは赤鬼、青鬼と仲良しだったのです。浦島太郎は、どうして村を襲って金品を奪ったのか、ジュリエットに理由を聞きました。ジュリエットによると、赤鬼と青鬼はとてもやさしい鬼らしいのです。しかし、怖い見た目を恐れた人間が、彼らを街から追い出し、村からも追い出し、辺境に追いやってしまったのです。それでも彼らは仕方のないことだと受け入れていました。自分たちが鬼である以上、人間と仲良くなんかなれないんだと諦めていました。その話を聞いたジュリエットは、自分の家系の事情と重ねて、人間に対する不信感を募らせていました。ジュリエットは家柄のせいで自由がないことに、生きづらさを感じていたのです。そこで、ジュリエットは黄鬼になりすまし、赤鬼、青鬼に近づき、人間たちに復讐する計画を提案しました。最初は赤鬼、青鬼も乗り気でなかったようですが、黄鬼の説得により、渋々了承したそうです。事情を聞いた浦島太郎は、ジュリエットに共感しつつも、それは間違っているということを伝え、他に解決方法がないかを一緒に考えないかと提案した。ジュリエットは、今、国を支配している国王が全ての元凶だと言った。ジュリエットによると、国王は横暴で、傲慢で、自分勝手で、民のことなんか全然考えていないらしい。鬼を辺境に追いやったのも、国王が嫌ったからというだけの理由らしい。浦島太郎は、どうしてそこまで国王に詳しいのかと尋ねると、ジュリエットは国王の娘だと言った。ジュリエット以外にも国王に不信感を抱いている人はいるらしいが、気づかれると、捕まってしまうので、下手に動けないでいるらしい。ジュリエットは国王(父親)を今の地位から引きずり下ろしたいと考えていた。でも、どうすればいいのか分からないようだった。浦島太郎も一緒に考えていると、そこに、桃太郎とシンデレラと赤鬼、金太郎と白雪姫と青鬼が現れた。みんなもすでに事情を知っていた。赤鬼と青鬼は奪った金品を村に返したそうだ。

 それから、八人でジュリエットの父親、もとい国王を懲らしめようということになった。善は急げということで、準備をしてから早速、八人は王宮に向かった。赤鬼と青鬼は正体がバレないようにフードを深く被っていた。正門に着くと、門番がいたが、ジュリエットの友人ということで、難なく入ることができた。しかし、王宮ということもあり、中の警備はそれなりに厳しく、親衛隊に鬼の正体がバレてしまった。三太郎は仲間を守るため、親衛隊と戦った。三人それぞれの特技を生かした攻撃で、親衛隊を一網打尽にした。そして、八人は王のいる王室に辿り着いた。そこには王と、親衛隊最強のロミオがいた。ロミオはとても強く、三太郎が三人がかりでも敵わなかった。そして、ピンチになった時、ジュリエットが王を説得し始めた。もう圧政をやめて、一人ひとりの民を大事にしてほしいということを必死に述べたが、王の態度は変わらなかった。そして、王は次々に自分勝手な発言をして、昔犯した罪まで告白しだした。その時、ロミオが王を裏切り、王に剣を向けた。そしてポケットから機械を取り出し、今国王が言ったことは、全国の人々が聞いていたことを説明した。このままでは、反乱が起こることは間違いないとして、早めに国王の座を降りることを勧めた。それでも国王はなかなか譲らなかったが、首元に剣を突きつけられて、最終的に降参した。思っていたよりも国王の仲間はいなかったので、トントンでことは進んでいき、次期国王はジュリエットになった。ジュリエットは、国を良くするために、現地の声を大事にした。困っている人がいたら声を掛けたり、手を差し伸べたりするやさしい国王として、支持率は歴代でトップになった。そして、数年が経ち、桃太郎はシンデレラと結婚し、金太郎は白雪姫と結婚していた。浦島太郎は独身だった。ジュリエットはロミオと結ばれる予定だ。そして、元おじいさんと元おばあさんは、あの日から大事に保管していた桃を再び食べて若返り、今度は何人子どもを産むかと楽しそうに語り合っていたそうな。めでたしめでたし。


 とまぁこんな感じになっている。改めて振り返ると、やはりカオスだなと自分でも思う。タイトルは『三太郎物語!!!』に決まった。俺はメインシナリオを考えたということで、あとの細かい設定やセリフ、演出は八月一日さんと十七里に任せた。個人的な意見として、明確な主人公を設定せずに、それぞれのキャラクターに均等にセリフが振られればいいと思っていることを伝えた。その方が一人ひとりの負担が軽減できると思ったからだ。また、変えたい箇所があれば自由に変えていいと伝えているので、俺のクラスでの仕事はほとんど終わったことになる。今度は、部活での出し物を考えなくてはならない。これも相談部で、すでに話し合っていたが、文月さんが生徒会の方が忙しくなるということで、文化祭が終わるまでは、部活を休むことになった。痛い損失だが、まぁ仕方のないことだ。残りのメンバーで、まずは何を出店するのかを話し合った。出店という固定観念に縛られず、多様な意見が欲しかったため、話し合う前にそれぞれ事前に考えて来てもらうことにした。その結果、各々からいろんな意見が出た。ベルさんからは、たこ焼き、焼きそばなどの食べ物をどうかという意見が挙がった。たしかに、出店の定番メニューで人気のある食べ物だ。桔梗さんからは、占いならできるという意見が挙がった。たしかに、占いは昔から人気のサービスであり、いまだに根強い人気がある。如月さんは、相談部だから相談に近い何かができないかという意見を出した。たしかに、相談部ならではのことをしたいという気持ちも分かる。神無月からは、霜月とそれぞれ特技を披露し、どちらがより人気かを勝負するのはどうかという意見が出た。神無月にしては、まともな意見だと思った。競い合いは人を惹きつけることができるかもしれない。霜月は、無難にチョコバナナなパンケーキなどのスイーツを出してはどうかという意見を出した。スイーツも出店の定番メニューで人気がある。カスミンからは、似顔絵を描くのはどうかという意見が出た。たしかに、どのくらいニーズがあるか知らないが、似顔絵師という仕事が存在しているのは事実だ。予想以上にそれぞれ個性的な意見が出たので、これを上手く活かしたいと思った。それぞれどの意見を採用しようか、なかなか話がまとまらなかった時、ふと、どれかに一つに限定しなければならないのかという疑問が浮かんだ。その考え自体がすでに固定観念に縛られているのではないかと思った。なので、お互いの意見を上手く取り入れて、今までになかったことをするのはどうだろうか? と提案したところ、みんな賛成してくれた。売り上げ一位を目指すのなら、他と同じことをしても意味がない。他よりも魅力的でかつ相談部らしくかつ強みを生かせるようなことを考えなければならない。その日はここまで話したところで、解散した。俺は家に帰ってから、一人で考えていた。翌日、一つ思いついたことを、提案してみることにした。俺の思いつきはこうだ。出店するものは、各自が得意とするもの、例えば、桔梗さんなら占いで二宮さんなら似顔絵、そしてサービスを買ってくれた人には、如月さんの手作りスイーツを提供するというのだ。一人で作るのは大変だろうから、スイーツ作りは如月さんとベルさんにお願いしたい。さらに、どちらが売り上げで勝つのか、勝負事として客を煽る。人は勝負ごとに参加することが好きだろうから、上手くいけば売上を伸ばすことができるかもしれない。つまり、桔梗さん対二宮さん、霜月対神無月で売り上げ勝負をしてもらう。そして、いくつかサービスのパターンを用意しようと思っている。サービスだけなら100円、スイーツだけなら300円、サービスとスイーツなら300円の三パターンを考えている。一つはダミーとして、本命の両方を買ってもらう狙いがある。高校生に300円はちょっと高いと思われるかもしれないが、年に一度の学園祭でみんな浮かれていると思うから、それくらいは出してくれるだろうと予想している。それに、如月さんが何を作るかによっては、もっと取っていいのではないかと思っている。俺の仕事は何かと問われれば、事務処理くらいしか思いつかなかった。俺がこのメンバーでできる最大限のことは何かと考えた時、これが浮かんだが、反対されても文句は言えないだろうと思っていた。桔梗さんや二宮さんは勝負事が好きじゃないだろうし、如月さんやベルさんも勝手に仕事を決められて、嫌かもしれないと思っていたが、予想外にみんな賛成してくれた。懸念していた勝負事についても、なぜか二人ともやる気に満ちているようだった。ということで、今度は如月さんとベルさんと何を作るかを話し合うことにした。スイーツならその場で食べてもいいし、持ち帰りもしやすいものとしてロールケーキはどうかと如月さんが提案してきた。俺はロールケーキを作る手順を詳しく知らなったが、如月さんが言うのなら大丈夫だろうと思って、賛成した。それなら、もっと値段を上げていいと思ったので、ロールケーキを500円で販売することにした。原価率なども考えなければいけないが、ロールケーキは作った後、切るときに大きさを調整できるらしいので、融通が利くらしい。それに売り物として作るなら、お客さんに美味しいと思ってもらえるようなものを作りたいと、如月さんは意気込んでいた。なんともみんな頼もしいなと思った。さらに、ハロウィンということなので、桔梗さんがみんなの衣装を作ってくれると提案した。忙しいだろうから無理はしなくていいと言ったが、桔梗さんは作る気満々のようだった。それから、俺は部活の出店準備やクラスの劇の確認などをして毎日忙しく過ごしていた。ちなみに劇の配役は、予想通りジュリエット役はベルさんになった。みんな文句なしの満場一致だった。そして、桃太郎は霜月、シンデレラは如月さん、金太郎は柔道部の人、白雪姫は八月一日さん、浦島太郎は釣り同好会の人、ロミオは十七里、王様は委員長、おじいさんとおばあさんは演劇部の二人になった。ちゃっかり、八月一日さんと十七里もメインで出演しているのに驚いた。二人は観るのも好きらしいが、自分で演じるのも好きらしい。というか、この学校に釣り同好会なんてあったことにも驚いた。今まで知らなかった。授業で劇の練習の時、通しで見たが、ほとんど流れは変わっていなかった。というより、八月一日さんと十七里が考えたセリフや演出のおかげで、なんか感動するような展開になっているように感じた。これならもしかして、最優秀賞に選ばれるかもしれないと思った。そして、あっという間に時間が過ぎて、文化祭初日を迎えた。


 文化祭の流れはこうだ。初日に二年生による演劇を体育館で行う。俺たちは順番決めで午後一時三十分からになった。それ以外は自由に過ごしていいことになっている。出店を手伝ったり、いろいろ見て回ったりしていいということだ。そして、二日目にメインステージである、五月さつきと雛月弥生のライブがある。俺は劇以外特に予定がないから、ずっと店番をするつもりだ。一年生の二宮さんと桔梗さんは展示だけなので、それまでは大変だったが、文化祭当日はずっと自由時間らしい。出店を頑張ると言っていたが、せっかくなので、休憩時間を設けなければなと考えた。そして俺が学校に着いてすぐに、桔梗さんが俺たちの教室に完成した衣装を持って来た。「集まる前に着替えて来るがよい!」という言葉を残して、すぐに立ち去った。そして集まった時、みんな真面目に桔梗作の衣装を着ていた。如月さんとベルさんは黒やオレンジ、紫をしようしたハロウィンらしい魔女の衣装、二宮さんは猫耳に尻尾、カスミンもハロウィン仕様になっている。霜月と神無月は吸血鬼、俺はジャック・オー・ランタンの帽子、桔梗さんはミイラの仮装をしていた。それぞれの衣装は桔梗さんがイメージして選んだらしい。桔梗さんにとって俺はカボチャに見えているのかと思った。

 そして、ついに文化祭初日が開催された。始まる前から如月さんとベルさんはロールケーキを作り始めていた。ハロウィンということで、カボチャのロールケーキにしたらしい。前日に味見をさせてもらったが、とても美味しかった。専門店のロールケーキと言われても遜色ない感じだ。サービスは桔梗さんが占い、二宮さんが似顔絵と当初の提案通りだった。そして、霜月は考えるのが面倒になったのか、マッサージしながら相談に乗りますという、申し訳程度の相談部らしさを選んでいた。一方、神無月は改めてアホだということが分かった。サービスの内容が、肩を揉んでくれたら相談に乗ってやるという意味不明なサービスだった。というより、最早サービスとも呼べないんじゃないかと思った。これで売り上げ一位はなくなったなと、始まる前から諦めていたが、俺の予想に反して、二人は行列ができるほど人気になった。そういえば、この二人には一定数のファンがいて、お互いに競い合っているという噂を聞いたことがある。今回どちらが人気かを競うように設定したのが、功を奏したようである。ファンの間で、どちらを推すのかということが白熱しているようだった。一方、二宮さんと桔梗さんにも順調にお客さんが来ていた。桔梗さんの占いには、同年代の女子高生がたくさん集まっているようだった。中には男子生徒も何人かいた。今回は水晶玉占の他にも、タロット占いや手相占いのサービスを提供していた。どの占いをしてもらいたいのか、お客さんに選ばせているようだ。たしかに、人は、自分で選びたいという欲求があるので、お客に選ばせるのは良い戦略だ。あまり選択肢が多すぎると逆効果になるが、三つ程度なら問題ないだろう。二宮さんの方は、カップルや小さい子ども連れ家族、それに男子生徒もいた。似顔絵と言うので時間が掛かるかと思ったら、一人五分程でクオリティの高い似顔絵を描いてくれる。その中には、似顔絵と言うよりアートに近い感じがするものもあった。その似顔絵は、どことなくピカソの絵に似ている気がするのだ。そう、あの有名なピカソの絵に…。前に描いている絵を見せてもらった時は、普通の人物画や風景画だったので、どうやら、二宮さんもどんな画風にするのか、お客さんに選ばせているようだ。結構ピカソ風は、お客さんにはウケが良さそうだった。さらに、前に神無月情報で聞いた話だが、二宮さんと桔梗さんは一年でも人気があるらしいから、隠れファンがいるということらしい。もしかしたら、並んでいる男子生徒がそうなのかと思った。一人で並んでいる猛者もいれば、グループで並んでいる人もいた。開店してしばらくすると、藤さんがお客として来た。俺は何かサービスしていないのかと聞かれたので、特に何もしていないと答えると、少しがっかりしている様子だった。「俺の需要ないだろ!」と言うと、「そんなことないのに」と藤さんはお世辞を言ってくれた。サービスはあまり興味なさそうだったが、選んでいる時に何か閃いた様子で、二宮さんの似顔絵を選んだ。そして、俺を近くに呼び、二人のツーショットを描いてもらった。描いてもらっている時間は、何とも言えない恥ずかしさを抱いていたが、あまり悪くない気持ちだった。二宮さんも真剣に描いてくれて、いい似顔絵ができた。思いのほか藤さんが喜んでくれたので、俺も嬉しくなった。藤さんはこの後、明日の打ち合わせがあるらしい。藤さんが行こうとした時、俺は藤さんの耳元で小さな声で、明日のライブを頑張るように応援した。藤さんも頑張ると張り切っていた。藤さんが去った後、女子たちに何をこっそり話していたのか問い詰められたが、藤さんがVチューバーの五月さつきさんであることを言うわけにはいかないので、適当に誤魔化して仕事に戻った。あまり納得していない様子だったが、そこはスルーした。その後、お客さんが増えた気がした。特に意識していなかったが、お客さんが五月さつきさんの話をしているので、もしかしてと思ってスマホで調べてみると、五月さつきさんがSNSで、ここのサービスが面白いと呟いていた。それを見たファンが次々と来店しているようだった。さすが、人気Vチューバーだなと思った。心の中で藤さんに改めて感謝した。午前の十時三十分になり、神無月が劇のために抜けるので、霜月も休憩になり、少し落ち着くことができた。神無月が戻ってきてから、男子の方が再開したので、二宮さんと桔梗さんに休憩するように言った。何時まで休憩していいか聞かれたので、何時でもいいと答えた。午前中頑張っていたので、こっちのことは気にせずに文化祭を楽しんでほしかった。そうは言っても二人とも真面目なので、三十分程で戻ってきた。ここで働いている方が落ち着くらしい。

 昼の十二時になったので、俺と霜月と如月さんとベルさんは劇のため、体育館に向かった。俺以外はずっと働いていたので、ギリギリになるとキツイと思って、少し早めに劇の準備することにした。時間になるまでは体育館でゆっくり過ごすことにした。三十分前になるとクラスのみんなも集まって来て、それぞれ準備を始めた。俺は特にすることないが、舞台袖で補助として手伝い係になっていた。そして、一時三十分になり、『三太郎物語!!!』が始まった。出だしは順調に進んだ。さすがは演劇部だと感心した。それに他のみんなもそれぞれいい演技をしていた。そして終盤に差し掛かり、出番を控えていたロミオ役の十七里が突然腹痛を訴えだした。もうすぐ出番だというのに、我慢できない様子で「もし、僕が間に合わなかったら、水無月くんお願い!」という言葉を言い残して、急いで衣装を脱ぎ捨て、トイレに走って行った。嘘だろ!? と俺は混乱しそうになっていた。今はもう三太郎と親衛隊が争っている場面だ。いくら俺が脚本したからって、セリフは覚えていないし、そもそも演技なんてできない。周りを見るとみんなも焦っているのが分かったので、このままではマズいと思って、俺は落ち着くために目を閉じて深呼吸をした。そして落ち着きを取り戻し、目を開けると、目の前にベルさんがいた。俺たちの様子がおかしかったので、争いから身を守るという体でこっそり袖に隠れたらしい。「どうしたんデスか?みなさん!」とベルさんが聞いてきたので、事情を説明すると、ベルさんは俺が出ることを勧めた。俺が脚本を書いたことも理由の一つだが、もしもの時はアドリブでなんとかできると言っている。俺が自信ないと言うと、「翔サンなら大丈夫デス! ワタシは信じていマス!」と励ましてくれた。そのベルさんの目を見て、俺はやる気になり、素早く衣装に着替えて準備した。そして、王様役の委員長に説明する暇もなく、俺は舞台に上がった。正直、そこからの記憶はほとんどないが、たくさんミスをしたことは覚えている。まず、俺はロミオの衣装に着替えたはいいが、桔梗さんに貰ったジャック・オー・ランタンの帽子を被ったまま出てしまった。体は騎士の衣装で、頭はハロウィンというカオスなロミオになってしまった。他にも、何箇所かセリフを忘れたのでアドリブで繋げたが、ベルさんが上手く対応してくれたおかげでなんとかなった。そして気づいた時には終わっていた。幕が下りた後、張り詰めていた緊張が一気に解けた。みんなは「水無月くんのアドリブ良かったよ!」と言ってくれたが、俺自身どこがアドリブで、どこがセリフ通りだったのか全然分からなかった。十七里も拍手をしながら笑顔で迎えてくれたが、こいつには学園祭が終わった後で、きっちり復讐しようと誓った。

 そして、俺たちは店に戻り、仕事を再開した。三時頃になると、雛月さんが訪ねてきた。明日の打ち合わせが終わったので、散策していたらしい。せっかくなので、何かやりますかと誘うと、俺は何かサービスをしていないのかと聞かれたので、特にしていないと答えた。俺のサービスは需要ないだろうと言うと、雛月さんは「そんなことないのになぁ」と言ってくれた。お世辞でも嬉しかった。雛月さんは占いを選んだが、特別サービスということで、二宮さんに似顔絵も描いてもらった。雛月さんが去った後、お客が増えた気がした。急に増えたのでなぜだろうと考えていると、並んでいる女子高生のお客さんが雛月さんの話をしていた。どうやら雛月さんが、ここの店のカボチャのロールケーキが美味しいとSNSで呟いたらしい。それを見たファンの人たちがこぞって来客してきたようだ。改めて、雛月さんの影響力のすごさを実感した。その後、見回りという体で文化祭を楽しんでいた睦月会長と一ノ瀬さん、同じく真面目に見回りをしていた文月さん、完全にお祭りモードの七海さん、適度にお祭りモードの芙蓉さんなど今まで相談で関わっていた人たちがどんどん来てくれた。そのおかげで俺以外の人は、終わりの時間まで忙しく働いた。俺としては、劇が無事に終わったことで、残りは安心して過ごせると思っていたが、現実はそう簡単に行くわけではなかった。

 文化祭一日目は、急遽、劇に出演するというトラブルが発生したが、なんとか無事にやり過ごすことができた。それに、出店の売り上げの方も順調で、このままいけばトップを狙えるんじゃないかと思っている。しかし。現実は何が起こるか分からない。今日みたいなトラブルもないとは言い切れないため、もしもの時のために心の準備はしておいた方がいいだろう。もう直前であんな思いをするのはこりごりだ。寿命が数年縮まったと思うくらい、心拍数が上昇していたのを覚えている。あのドキドキは普段全力で運動した時以上だったと思う。それに、明日は藤さんと雛月さんのライブがある。もし、早めに完売したら見に行きたいと思っている。今日の感じだと、俺の仕事は特に必要なさそうだったから、明日はロールケーキ作りを手伝おうと思っている。今日の反省点を踏まえながら俺は眠りについた。この時の俺は、まだ知らなかった。二日目にあんなトラブルに巻き込まれるなんてことを…。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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