表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
相談部始動編!!
35/78

大切な人!!

昨日の夜はよく眠れず、寝不足になり、朝も頭がボーっとしていたので、学校を休んだ。昼過ぎに何かの気分転換になるかもしれないと思って、公園を散歩していると、雛月さんに偶然出会った。俺に気づいた雛月さんは、「あれ!? 翔くん!! チャオチャオ!」と笑顔で声を掛けてきた。「あっ、あぁ、どうも」と俺は軽く会釈をして返事をした。雛月さんは「また、学校をサボってるの?」と笑顔のままからかうように聞いてきたので、「まぁ、そんな感じです」といつも通り素っ気ない態度で返答した。その返答を聞いた雛月さんは何かを察したようで「何かあったの?」と真面目な顔で聞いてきた。「別に何もないです」と素っ気なく答えると、雛月さんは少しの時間、俺を見つめてから「そっか!」と言って、それ以上追及してこなかった。

そして続けて「ねぇ、この後時間ある?」と聞いてきたので、「特に用事はないです」と答えると、ちょっと付き合って欲しいと誘われた。俺は、昨日一人で考えても無駄だったことから、付き合ってみることにした。誰かと一緒にいることで、何か見えていないものが見つかるかもしれないと思ったからだ。それに予定もなかったからだ。

それから俺は行く当てもわからず、ただ雛月さんに付いて行った。街でショッピングしたり、ゲームセンターでゲームをしたりした後、前に一緒に行ったカフェで休憩することになった。俺は抹茶ラテ、雛月さんは前と同じカフェラテを注文し、届くのを待っている間、雛月さんは最近の出来事を語ってくれた。俺の様子がいつもと違うのを察して、気遣いから話をしてくれたのかもしれないと思った。

さすが普段から配信しているだけあって、一人で話すのは慣れているようだった。俺はうわの空で、雛月さんの日常的あるある話や人気インフルエンサーあるあるの話を聞いていた。

雛月さんの話が盛り上がっている時に喉が渇いたので、水を手に取り飲もうとしたが、もうすでに空だった。その時、ふと注文したはずのものが一向に届いていないことに気づいた。お店も混んでいないし、時間的には届いていてもおかしくないくらいだったので、「そういえば、ラテ、まだ来ないですね」と呟くと、雛月さんがベルを押して、店員さんを呼んだ。

雛月さんが店員さんに確認すると、注文されていないということだった。どうやら店員さんの注文ミスで忘れられていたようだった。俺は焦った様子で謝る店員さんに「大丈夫ですよ」と声を掛けて、改めて同じものを注文した。

店員さんがすごく申し訳なさそうに何度も謝ってきたので、こっちも気にしていないということを、なるべく丁寧な口調で伝えた。それから、急いだ様子の店員さんがすぐに抹茶ラテとカフェラテが届けてくれたので、俺は持ってきてくれた店員さんに「ありがとうございます」と言葉を掛けた。

その一連の光景を、両肘を机について頬杖をしながら見ていた雛月さんが「翔くん、やっぱりやさしいね!」と言った。

「別にやさしくないですよ。これくらい普通じゃないですか?」

「それを普通と思ってやっていることが、やさしいってことだよ!」雛月さんは少し微笑みながら言った。

「そう…ですか?」

「そうだよ! …意外と店員さんに対して横暴な人っているんだよ!」

「俺もそれは聞いたことがありますけど、マンガやドラマみたいなフィクションの存在だと思っていました」

「フィクションじゃなくて実際にいるんだよ! 客は神様だ! っていう人が! たまに見かけるの!」雛月さんはそう言って少し悲しそうな顔をした。

俺は雛月さんの話を聞いて気をつけようと思った。実は、店員さんに対して横暴な態度で接するのは、嫌われる要素の上位にランクインするのである。正直、ほとんど知らない相手に対して、そんな態度をできる奴の神経が俺には理解できない。店員さんが変な奴で害を与えてくるようなら反論の余地はあるが、そんな店はそもそもやっていけずに、すぐ潰れるだろう。

店員さんとは、基本的にWINWIN関係を築いた方が得なのである。良好な関係になれば、特別にサービスしてくれるようになるかもしれないし、客が常連になれば、店側も得をするからだ。

お金を払っているからと言って調子に乗るような横暴な奴に、店側は怯む必要はない。むしろそんな奴はすぐに追い出した方がいいだろう。客を追い出すと店の評判が傷つくと思うかもしれないが、ガラの悪い奴がいる方が一般人にとっては脅威だ。たとえ美味しい店だとしても、ガラの悪い奴がいる店に入りたいと思うだろうか? 人間は感情で判断することが多いので、店の雰囲気作りは結構重要な要素だ。

おそらく気になるのは売り上げだろうが、それもそこまで気にする必要はない。一人の横暴な客が減ったところで、そこまで変わらないだろう。それよりも新規で感じの良い客を常連にする方が得策だ。つまり、店員に対して横暴な態度で接してくるような奴は、すぐに追い出した方が良いということだ。

「そうなんですね。ちなみに、雛月さんはどう接しているんですか?」

「私はなるべくやさしくしようと心掛けているつもりだよ! 上手くできているかはわからないけど…」

「雛月さんは上手くできていると思いますよ」俺はフォローのつもりではなく、率直に思ったことを言った。

「え!? そ、そうかな…」

「はい」

雛月さんは俺に言われたことが嬉しかったのか、目を逸らして照れているようだった。

「まぁでも、人は必ず失敗するからね! それを責めたところで何の意味もないよ! 大事なのはそこから学ぶことだと思うから」

雛月さんのこの言葉を聞いて、俺は再び胸の辺りにモヤモヤ、ズキズキを感じた。胸に手を当てると、心拍数が上昇しているのがわかった。何度か深呼吸しても収まる様子がなかったので、俺は雛月さんに相談しようと思った。

「ちょっと相談したいことがあるんですけど……、聞いてもらえますか?」

「うん! いいよ! その言葉を待ってたの!」雛月さんは即答してくれた。

「やっぱり気づいていましたか?」

「まぁね。翔くん、心ここにあらずって感じだったよ! 私の渾身の話も全然聞いてくれていなかったし!」雛月さんは少しからかっているような言い方で言った。

「すみません」。

「冗談だよ!」雛月さんは笑顔で許してくれ、「で、相談したいことってなに?」と改めて聞いてくれた。

「……雛月さんには大切な人っていますか?」

「大切な人?」雛月さんは繰り返し、少し考えてから「いるよ!」と答えてくれた。

「そう…ですか」俺は一度その答えを受け入れてから、次の質問を言う勇気を振り絞っていた。そして声を震わせながら「その…大切な人を……失うのって……怖くないですか?」と尋ねた。

「……失うって具体的にどういうこと?」雛月さんは真面目な顔をして質問で返してきた。

「たとえば…裏切られるとか……もう会えないようになるとか……」俺が例を示すと一瞬沈黙になった。

「そうだね。怖いよ」

「怖い…ですよね。そうですよね」

俺は雛月さんの答えを聞いて少し安心した。この時の俺は、もし否定されたらどうしようかと恐れていたのだ。

「翔くんも怖いの?」

「はい、とても怖い…です」

俺はそう答えてから、自分の今までの人付き合いの仕方を話すことにした。

俺は前に大切な人を失ったこと、周りの人が信じられずに無意識に壁を作るようになったことを雛月さんに話した。そして今、相談部のみんなを大切な人だと認めてしまうことが怖いこと、また失ってしまうかもしれないという恐怖があることも説明した。

雛月さんは、俺の話を途中で止めることなく、頷きながら聞いてくれていた。俺が一通り話し終わると、雛月さんが口を開いた。

「その気持ち、わかるよ」雛月さんはやさしい口調と微笑みでそう言ってくれた。

それから雛月さんは、俺に共感した意見を述べ始めた。大切な人を失うのが怖いこと、裏切られた経験は辛いということ、そのために人間不信に陥り、壁を作るようになってしまったことに共感してくれた。その後、雛月さんは、根本的な質問を投げかけてきた。

「で、翔くんはこれからどうしたいの?」雛月さんは直球に聞いてきた。

正直この質問には混乱した。そもそもそのことで悩んでいるのだから、こうして相談しているのである。そのことを伝えると、雛月さんは「まぁ、そうだよね。…でも、翔くんの中ではもう答えは決まっているような気がする」と言ってから、自分の体験談を話し始めた。

雛月さんも前に友達に裏切られて、人を避けていた時期があったらしい。それでネットの世界に入ってたくさんの人と繋がることができたけど、いつまでもこの状態が続くわけではない、いつかは失うかもしれないと常に考えているらしい。それは俺も同じだったので共感した。最近になり、ネットの関係はそんなものだと割り切ることができるようになったようで、あまり気にしなくなったと言った。

それは、リアルで大切な人ができたかららしい。そしてその大切な人とは、相談部であり、俺もその一人だと言ってくれた。雛月さんも大切な人を失うことは怖いと言っていたが、それでも、しっかりそのことと向き合わなければならないと教えてくれた。人は出会いと別れを繰り返して成長していけるものだと、強く語ってくれた。そして一通り語り終えると、最後にもう一度同じ質問を投げかけてきた。

「で、翔くんはこれからどうしたいの?」

「どうしたい…か…」

二回目の雛月さんと問いかけは、先程よりも深く俺の心に響いた。そしてこの時、俺は自分がどうしたいと思っているのかもわかった。

「なんだかこの前とは逆の立場になっているね!」雛月さんが笑いながら言った。

「そうですね」俺も同意して笑った。

その後、雛月さんとはカフェで別れた。

「私にとって、翔くんは大切な人だからね!」

雛月さんは最後に笑顔でそう言って、手を振ってくれた。その姿を見た俺はドキッとして心拍数が上昇するのがわかった。


 帰り道、俺は考えていた。雛月さんのおかげで、俺の本当の思いはわかった。しかし、まだ怖かった。トラウマというものは、そう簡単に乗り越えられるものではない。簡単ならこんなに苦しんでいる人は多くないだろう。でも、けっして乗り越えられないものでもない。俺はあと一歩を踏み出すところまで来ていた。恐怖心と向き合うことさえできれば…。

家に帰り着くと、つゆりが晩御飯の支度をしていた。俺に気づいたつゆりは「あっ! お兄ちゃん、おかえり! もうすぐできるから待ってて!」と言ってくれた。

今日のつゆり謹製メニューは、白米、味噌汁、サラダ、肉じゃがという和食料理だった。味噌汁と肉じゃがを食べた時、ゆのさんの顔が俺の頭の中に思い浮かんだ。味付けが同じだったからである。このメニューは、ゆのさんがよく作ってくれた料理でもある。つゆりもしっかりと家の伝統の味を引き継いでいるようだ。

あまりの懐かしさに、食べている途中で少し涙が頬を流れてしまった。つゆりに気づかれないように咄嗟に後ろを向いて涙を拭いていると、つゆりが料理の感想を聞いてきた。俺は向き直して「あぁ、美味しいよ!」と感想を述べると、つゆりは「そう」と一言だけの薄い反応だった。それから続けて「ねぇ、お兄ちゃん」とつゆりは真剣な顔で言ってきたので、「なっ、なんだ?」と俺は聞いた。

そして少しの沈黙が流れてからつゆりが言葉を発した。

「わっ、私は……お兄ちゃんがどんな選択をしても……ずっと味方だからね!」

つゆりは少し恥ずかしそうにしながらも、真剣に言ってくれたようだった。そして、その一言は俺の心の内の深くまで響いた。

「ありがとう。ごめんな、こんな兄で」俺は申し訳なさそうに言った。

「そんなの今更でしょ! お兄ちゃんと上手くやれる人なんて私くらいしかいないんだから!」つゆりは堂々とした態度で言った。そして「それに……もう二度とお兄ちゃんを見捨てたりしないんだから」と小さな声で呟いた気がした。

雛月さんとつゆりのおかげで、俺は覚悟を決めることができた。明日、相談部のみんなにしっかりと自分の思いを伝えようと思い、相談部のグループチャットに「放課後、話したいことがあります」とだけ送って、返信を待たずに俺は眠りについた。

が、そんな簡単に眠れるわけもなく、どんな風に言おうか、どこで言おうか、などが思い浮かんで、結局熟睡することができなかった。

翌朝目が覚めると、頭がボーとしていた。完全な寝不足だった。いつの間にか眠りについていたようだが、記憶が正しければ深夜の三時までは起きていたと思う。そして今は午前六時。睡眠時間が足りないので、俺は二度寝した。

そして次に目覚めた時には十一時になっていた。スマホを見ると、全員から了解の返信が来ていたので、俺は学校に向かうことにした。もう遅刻は確定しているので、俺はゆっくり準備をしてから、学校に向かった。天気が良く、玄関を出て空を見上げると、太陽がやけに眩しかった。そしてこの大空で見守ってくれているだろうゆのさんに、俺は心の中で頑張ることを誓った。

 学校に着いた頃はまだ授業中だった。いつもなら途中からでも参加するのだが、もう少しで昼休みだったし、今日はそういう気分でもなかったので、そのまま屋上に向かい、放課後になるまで一人読書をして過ごすことにした。屋上は基本立ち入り禁止なので、誰も来ないだろうと思っていると、ドアが開く音が聞こえた。

ドアの方に視線を送ると、如月さんがいた。俺は予想外の登場にビックリして、持っていた本を落としてしまった。相談部のみんなには特に見つからないように来たつもりだったが、如月さんは偶然靴箱にいて、俺を見かけたのでついて来たらしい。

「久しぶりだね! 隣、いい?」如月さんが声を掛けてきた。

「あっ、あぁ。いいよ」俺がそう答えると、如月さんは隣に座った。

「体調、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫」

「よかった! この前帰る時、不安そうな顔をしていたから心配だったんだ」

「そっか。ごめん、心配させて」

「ううん。私が勝手に心配しただけだから、気にしないで。……大丈夫ならよかった!」如月さんはそう言い、続けて「……私ね。もう水無月くんとは会えないかもしれないって思ってたの」と空を見上げながら言った。

「え!?」予想外の発言内容に俺は驚いた。

「この前の水無月くんの顔を見た時、そう思ったの。もしかしたら、このまま別れてしまうんじゃないかって……だから、昨日連絡が来て安心したんだ!」そう言う如月さんは笑顔だったが、その笑顔は無理して作っているように見えた。

それから、如月さんは過去に大切な人を失った経験があることを話してくれた。如月さんは二歳年上の姉を失くした経験があるらしい。だから、大切な人と別れるのはもう嫌だと少し感情的に言っていた。如月さんも俺と似た経験をしていることをこの時初めて知った。そう言った後、自分で落ち着きを取り戻した如月さんが、少し話題を変えて質問してきた。

「ねぇ、水無月くんと私がこの学校で初めて会った時のこと、覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。最初に相談に来た時だろ?」

「やっぱり覚えてないか…」如月さんは小さな声で少し寂しそうに言った。

「え!?」

「実はね、もっと前に私たちは会ってるんだよ!」

「もっと前に……?」そう言われて俺は思い出そうとしたが、思い出せなかった。

俺が思い出せないでいると、如月さんが教えてくれた。

如月さんの話によると、俺と如月さんは、一年の最初の頃にすでに出会っていたらしい。俺たちが一年だった頃のある日の放課後、駐輪場で如月さんが赤い髪のチンピラと茶髪のチンピラの二人に絡まれていたらしい。しつこく遊びに誘ってくるチンピラ二人の対応に困っていると、如月さんとチンピラの間を俺が本を読みながら通過したらしい。そのことに腹を立てたチンピラがターゲットを俺に変更して、絡んできたという。

ここまで話を聞いて、なんとなくそんなことがあったような気がするくらいしか思い出せなかった。それから、俺とチンピラは少し会話をしたらしい。如月さんもよく覚えていないようだったが、うろ覚えの記憶を頼りに説明してくれた。

「おい、お前! なに俺たちの前を通ってんだよ!」チンピラが俺にそう言ったらしい。

 しかし俺はそれを無視して行ったらしい。如月さん曰く、聞こえていなかったのか、あえて無視していたのか、わからなかったらしい。おそらく、当時のあえて無視していたのだろうと思う。なぜなら、余程声が小さくなければ聞こえるはずだからだ。

「おい、無視してんじゃねぇよ!」チンピラがそう言って俺の肩を掴んだらしい。

その時ようやく俺は振り返り、肩に掛けられたチンピラの手を振り払い、相手を睨みつけながら「俺の帰り道に、お前らがいただけだ。邪魔だったけど避けるのが面倒だったからそのまま行っただけだ」と言ったたらしい。

「なんだと! お前が俺の邪魔したんだろ!」チンピラはこの時すでにすごい形相で怒っていたらしい。なんと沸点の低いことだ。

「邪魔なのはお前らだ。こんなところで女子に嫌がらせをして、バカじゃねぇの?」俺は火に油を注ぐかのように煽ったらしい。

「嫌がらせなんてしてねぇよ! ただ遊びに誘っているだけだろうが!」チンピラは怒りながらそう答えたらしい。

「それが嫌がられているってことがわかんねぇのか? お前らもう少し共感力を鍛えた方がいいぞ」

俺がさらに煽ると、茶髪のチンピラの俺に殴りかかってきたらしい。それを俺は避けて、足を引っかけて転ばせたらしい。それから赤髪のチンピラが構えを作って、俺に殴りかかろうとしていたので、俺も本を鞄に入れて、臨戦態勢をとったらしい。

そして、赤髪のチンピラが右ストレートで殴りかかってきたので、さっきと同じように横に避けながら、奴の手首を掴んで、足を引っかけて転ばせ、奴の腕に関節技を決めて動けないようにしたらしい。

茶髪のチンピラが立ち上がり、襲ってきそうだったので、「もし近づいたらこいつの腕を折るぞ!」と脅したらしい。茶髪のチンピラは「そんなことできないだろ?」と言い、俺の脅しがハッタリだと思ったらしいが、俺は自分の行為が正当防衛であることと、目撃者がいることを理由に、本気で赤髪の腕の骨を折りそうだったので、チンピラたちは諦めて、如月さんに謝り、逃げるように去って行ったらしい。

如月さんはお礼を言おうとしたらしいが、すぐに俺が帰って行ったので、ちゃんと言えなかったらしい。それからも、何度もお礼を言おうとしたが、俺はすでに学校内で変人扱いされていたので、友達に止められたり、いろんな邪魔が入ったりしていたらしい。そのまま時間が経っていき、今年になって俺が相談部を創ったことを知り、最初に相談に来たということらしい。

つまり、俺と如月さんが出会ったのは、相談の時が初めてではなく、約一年前の駐輪場での出来事だということだ。如月さんにそんな経緯があったとは全然知らなかったし、その話を聞いた今でも、そんなことがあったような、なかったような、というくらいうろ覚えだ。

どうしてそこまで話してくれたのかを如月さんに聞くと、なんとなく話したくなったらしい。そして俺を見て如月さんは「今までありがとう! そして、これからもよろしくね!」と笑顔で言ってくれた。俺も嬉しくなったので、返事を言おうとした時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。それを聞いた如月さんは、立ち上がり、俺にこの後どうするのかと聞いてきた。放課後まで屋上で読書することを伝えると、如月さんは納得した様子で「じゃあ、またあとでね!」と言って、教室に戻って行った。


 それから、俺は読書をして時間を潰していると、日差しの暖かさと寝不足のせいで、いつの間にか寝てしまっていた。そして目を覚まして腕時計で時間を確認すると、午後四時三十分になる頃だった。俺は飛び起きて、急いで部室に向かった。全速力で向かっていたので、部室の前に着いた時には息が切れていた。俺は一旦冷静さを取り戻すために、息を四秒吸って、八秒吐く、深呼吸を五回して落ち着こうとした。落ち着くためには、ただ深呼吸をするのではなく、吐く息を長くすることが大事だ。そうすれば、副交感神経が働くので落ち着くことができるからだ。

深呼吸をした後、俺は覚悟を決めて、ドアをノックした。中から「どうぞ」という霜月の声が聞こえたので、俺はドアを開けて中に入った。見渡すと、みんながいつもの定位置に座っていた。如月さんはやさしい微笑みで、ベルさんは安心したような顔で、二宮さんと桔梗さんは少し心配しているような顔で、カスミンは変わらない顔で、神無月は何か焦っているような顔で、霜月は真面目な顔で俺を見ていた。

普段なら定位置に座るのだが、今日はクライエントが座る席に座った。そして少し沈黙が流れた後、霜月がいつも通りの流れで相談を始めた。学年、クラス、名前を聞かれたので、俺は「二年A組、水無月翔」と答えた。次に、誰に相談したいかを聞かれたので、「全員です」と答えた。それから、相談内容を聞かれたので、俺は自分の決心したことを伝えることにした。

しかし、その時心拍数が急上昇しているのがわかった。恐怖が俺を襲っているようだった。また裏切られるかもしれないという考えが俺の頭を過り、何を言えばいいかわからなくなってしまった。俺は頭の中が真っ白になり、呼吸も浅くなり始めていた。その時、「大丈夫だよ」と如月さんがやさしい声で言ってくれた。如月さんを見ると、とてもやさしい表情をして、俺の言葉を待っているようだった。俺は再び深呼吸を三回して、落ち着いてから話し始めた。頭も正常に働いていないような気がしたので、俺は短く端的に述べようと決めた。

「俺にとってみんなは大切な人だ。そしてここも大切な場所だ! だから……だから、これからもどうか…仲良くしてほしい!」俺はそう言って懇願するように頭を下げた。

少し沈黙が流れた後、ベルさんが沈黙を破った。

「そんなの当たり前じゃないデスか! ワタシの方こそ、よろしくデス! 『翔サン』!」ベルさんが笑顔を向けてそう言ってくれた。

「そうだね! よろしくね! 『翔くん』!」如月さんも笑顔で言ってくれた。

「いやー、正直ボク、水無月くんが辞めるって言うんじゃニャいかと思っていたニャ!」カスミンが安心した様子で言った。

「わ、わ、我はわかっていたぞ! 汝が我らを大事にしていることを!」桔梗さんが必死にキャラを保ちながら言った。

「私も、ここが大好きです」二宮さんが小さな声で言った。

「お、お前がそこまで言うのなら、仲良くしてやってもいいけどな!」神無月がツンデレみたいな気持ちの悪いことを言ったので、少しイラっとした。

「前にも言ったけど、この部活は翔がいないと成立しないからな!」霜月が言った。

「そんなことないだろ! このメンツなら、俺がいてもいなくても、そんなに変わらないだろ?」

「そういう意味じゃないんだよなぁ! ……まぁ、残ってくれるのなら良かった!」

 霜月は自分が言いたいことが上手く伝えられていない様子だったが、最後はホッとした様子でそう言ってくれた。

それから重い雰囲気はなくなり、いつも通りの雑談になった。霜月はもし俺が部活を辞めていたら、自分も辞めるつもりだったと言っていた。そうしたらみんなも次々に辞めると言い出した。相談部は廃部の危機を乗り越えたのであった。


家に帰り着くと、俺が上機嫌だったことに気づいたのか、つゆりが「よかったね!」と笑顔で言ってくれたので、俺は「ありがとう」と返事をした。

夕食の片づけが終わった後、俺は自分の部屋でパソコンを開いた。帰り際にベルさんに久しぶりにオンラインで話しをしようと誘われたからである。そして、ベルさんと繋がるとなんだか懐かしさを感じた。ベルさんも「なんだか懐かしいデスね!」と言っていた。俺は「何かオンラインで話したいことがあったのか?」と聞くと、ベルさんは俺とオンラインで交流し始めた時の話をしてくれた。

ベルさんの話によると、当時のベルさんは、何もかもが嫌になっていた時期だったらしい。勉学では弟のレオさんと常に比べられ劣等感を抱き、それ以外では、何かしらの習い事を大人に言われた通りにやる毎日に大きなストレスを感じていたらしい。その反抗でネットを始め、オンラインチャットに出会い、自分のまだ知らない国の文化を知ることにハマったらしい。

その中でも特に日本に興味を持って、日本人の何人かとオンライン交流した結果、俺との話を一番気に入ってくれたそうだ。あの時、すべてのことがどうでもいいと思っていたベルさんにとって、俺との話はとても楽しい時間だったらしい。それは俺も同じ気持ちだったということを伝えると、ベルさんは喜んでくれた。どうしてその話してくれたのかを聞くと、ベルさんは、「なんとなく話したくなったデス!」と笑顔で答えた。

そして、最後にベルさんは、しばらく連絡していなかった両親に久しぶりに連絡してみると言っていた。俺と話しているうちにそんな気分になったらしい。


ベルさんとのチャットを終えた後、俺も久しぶりに松さんに電話してみようと思い立った。何をしているかわからないし、忙しいかもしれないから、五コールして出なかったら切ろうと思って、電話を掛けると、予想外の一コールで応答があった。「はい」と言う松さん声を聞いて、俺は懐かしさを感じながらも、少し焦ってしまった。「あっ、あっ、あの、俺だけど…」と言うと、松さんは「あぁ、久しぶりだな。元気か?」とやさしく落ち着いた声で聞いてきた。「まぁ、それなりに元気かな!」と答えると、松さんは「そうか」と言った。「松さんは、元気か?」と聞くと、「まぁ、そうだな」と松さんは答えた。

それから俺は相談部を創ったこと、大切な友達ができたことなど最近の出来事を話した。それを松さんは「そうか」と相槌しながら淡々と聞いてくれた。気が付くと一時間程話していたので、そろそろ終わろうと思い、最後に、つゆりにもたまには連絡するように言うと、予想外の返答があった。松さんはつゆりと頻繁に連絡しているということだった。最低でも週に一回、多い時は三日に一回のペースで連絡を取り合っているらしい。まったく知らなったので、俺は驚いた。というより、そんなに話すことってあるのかと聞くと、つゆりは俺の話をよくするらしい。だから今日俺が話したことも、松さんはすでに知っていたようだった。

もう少し詳しくその話を聞こうと思ったら、つゆりが突然俺の部屋に入ってきて、俺の手からスマホを取り、「松さん、後で話があるから」と怖い声で言ってから、通話を切った。俺が唖然としていると、「早くお風呂入らないと冷めるよ!」と怖い顔で言ってきたので、俺は「はっ、はい」と答えて、黙って従うことにした。つゆりと松さんが頻繁に連絡を取っているのは、驚いたが、仲が良さそうだったので安心した。俺もこれからは定期的に連絡しようと思った。


俺は選択をした。相談部のみんなを大切な人だと認めて、受け入れることを。それでも、安心してはいけない。むしろ大切なのはこれからだ。もしかしたら、意見がぶつかったり、喧嘩をしたりするかもしれない。社会に出ると疎遠になるかもしれない。ただ、今の俺にとって大切であることに変わりはない。この関係を維持する努力も必要だろう。

ありのままの自分をさらけ出すといいと言われているが、それは自分勝手にしていいというわけではない。自分と同じように相手を大事にする必要がある。それに、今後もみんなとずっと一緒だということは無理だろう。必ずどこかで別れる時が来る。しかし、それは悲しいことでも辛いことでもない。雛月さんも言っていたが、人は出会いと別れを繰り返して成長していけるのだ。たとえもう会えないとしても、ゆのさんと桃華さんは、俺の中でずっと生き続けている。ある人は言っていた。人が死ぬのは生命活動が止まった時ではない。人に忘れられた時だと。俺も二人のように、強くなり、誰かの支えになれるような人になりたいと思った。


 今回のことを教訓にして、相談部のルールが少し変更された。基本的なルールは大きく変わっていないが、追加された項目がある。

・相談部は、基本どんな悩み相談でも支援する。しかし、自分の力量を超える内容やクライエントが最低限のマナーを逸脱していると判断した場合は、断ることもある。

という項目が変更された。おそらく、これからも変更箇所は出てくると思うが、その都度また考えればいいだろうということになった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ