映画の魅力とは!?
8月上旬の某日、昼頃、俺は暇だったので、映画を見に行くことにした。つゆりも誘ったが、用事があるとのことだったので、いつも通り一人で映画を見ることになった。
俺は映画が好きだ。大きなスクリーンと響き渡る音響は、映画の迫力を何倍にもしてくれる。小さい頃は、よくアニメやSF、アクション、アドベンチャー、ファンタジーなど、とにかく派手に爆発したり、建物が壊れたりする映画を観ることが多かった。観るとスッキリした気持ちになってストレス発散ができていたと思う。ストレス発散には、ホラー映画がオススメらしいが、俺は少し苦手だ。家のテレビやパソコンで観るのも怖いのに、映画館の大スクリーンで観るのはどれほど怖いのだろうかと想像するだけで参ってしまう。
これでも最近は観るジャンルが増えて、ドキュメンタリーやサスペンス、ミュージカル、コメディ、恋愛まで観るようになった。俺は感情移入しやすいので、痛いシーンになると目を逸らすし、感動的なシーンになると泣いてしまう。なので、いろんな映画を観ることで、俺の感性は磨かれていると思っている。
それに、フィクションといえども様々な知識を学んだり、いろんな人の経験や価値観を知ったりすることができる。さらに、他人とのコミュニケーションを取る時の話題にもなる。俺は特に話す相手がいないのだが、映画が好きな人は、一緒の映画を観た人と自分の感想を言い合っているらしい。たしかに映画評論家というような人がいると聞いたことがある。映画を観て感想を言うだけで、収入が得られるのはなんとも羨ましい。それだけの本数を観るのは大変だろうが…。
俺は映画鑑賞には大きなメリットがあると考えている。まず感情の起伏を経験し、内省を深めることができる。人間は基本的に感情を揺さぶられることに快を覚える生き物だ。この感情の揺らぎには、「楽しい」「嬉しい」などのポジティブなものだけでなく、「怖い」「悲しい」などのネガティブなものも含まれる。人間は涙を流すために悲しいエピソードのドラマを観たり、恐怖を感じるためにホラーを観たりする不思議な生き物なのである。そして、映画はその感情の起伏を経験するのに最適なのである。また、他人の人生を疑似体験できたり、異文化に触れることができたり、知識を身につけることができたり、魅力が増したりすることができるのである。
現代では膨大な数の映画が世の中に出回っている。その中には好きじゃない映画やつまらない映画もあるだろう。俺も稀につまらないと思う映画を選んで観てしまう時がある。こういう時、合理的な人は、始まって数分でつまらないと判断したら、退出して他のことに時間を使うらしい。有限な時間を少しも無駄にしないためだ。しかし、多くの人は、支払ったお金を気にして最後まで映画を観るのではないだろうか。つまらないとわかっていても、観続けると、どこかで面白くなるという期待を抱きながら、結局最後までつまらなかったという経験をした人はどのくらいいるだろうか。
俺も基本映画は最後まで観るようにしている。序盤でつまらないと思った時は、どうしてつまらないと思うのかを意識して観るようにしている。ストーリーなのか、演出なのか、それとも全部なのか、ということを意識して観るようにシフトチェンジする。その中で、一部でも面白いところはあったか、自分ならこんな風に演出するかな、といったことも考えて観ている。これを時間の無駄と言う人もいるかもしれないが、俺はつまらない映画からも何か学ぶことがあるのではないかと思っている。
ここまで、つまらない映画を選んでしまった時について語ったが、俺が今まで観た映画は、自分では満足している。俺にとってつまらない映画でも、誰かにとっては面白い映画ということはある。その逆も然りだ。つまり、映画は好みだということだ。もちろん、売れる映画と売れない映画があることは事実だが、売れる映画が面白くて、売れない映画が面白くないなんてことはない。自分にとっては逆の時もあるだろう。他人の意見を参考にするのもいいが、自分の観たいものを観て、どんな感想を抱いてもいい。映画を観るのは自由だ。自分が観たい映画を選び、観ればいいのだ。それでいろんな経験ができるだろう。
映画館が苦手な人は、無理に映画館で観なくてもいい。密閉された暗い空間や大きな音が苦手な人もいるだろう。今の時代はレンタルに行かなくても、契約さえすれば、自宅で観ることができる動画配信サービスがたくさんある。なんとも便利な世の中になったと思う。映画やドラマばかりを観て、運動をしなくなるのは健康に良くないが、しっかりと時間を決め、自制ができれば、楽しく過ごすことができるだろう。
映画館に向かっている途中、着物専門店の前に立っている、一人の男の子が目に入った。金髪で短髪、碧眼で耳にはピアスをしていた。身長は俺より低く、見た目は中学生くらいに見えた。ユニオンジャック柄のパーカーを着ており、如何にも「外国人です!」と言っているような風貌の子だった。ベルさんが転校して来てから、やたらと外国人が目に付くようになった気がする。今までは意識していなかったから、気づかなかったが、ベルさんをきっかけに意識するようになり、気づくようになったのだろう。別に外国人が増えたわけではなく、元々いた人に俺が気づくようになっただけだ。そう、カラーバス効果と言われている心理効果だ。これはある特定のものを意識し始めると、関連情報が自然と目に留まりやすくなる現象のことだ。多くの人も日常で感じることがあるのではないだろうか。
ついその男の子が気になって見ていると、気づかれて俺の方に向かって来た。ジロジロと見てしまっていたので、不快に思われたのかもしれない。殴られる前に謝ろうと思っていたが、その男の子は、英語で普通に話しかけてきた。
「Excuse me, do you have something to ask?」(すみません、お聞きしたいことがあるのですが、いいですか?)
「Yes please.」(はい)
「Do you know any delicious Japanese restaurants around here?」(この辺で美味しい日本食のお店を知っていますか?)
「Let me see, How about sushi?」(えーと、お寿司はどうですか?)
「Oh! Mi piace il sushi.」と少年は答えた。
その言葉がよく聞き取れなかったので、俺はもう一度尋ねた。
「I’m sorry.Could you say that again?」(すみません。もう一度言って頂けますか?)
すると少年は「チッ」と舌打ちして、もう一度「Mi piace il sushi.」と言った。
二回目で明らかに英語ではないことはわかったが、何語で、なんという意味かわからなかった。おそらくイタリア語で「寿司が好きです」と言ったのだろうと思ったが、確信がなかったので、イタリア語はわからないと英語で伝えることにした。
「I'm sorry. I don't understand italian.」(すみません。イタリア語はわかりません)
そう伝えると、少年は「チッ、イタリア語も話せないのか」と日本語で呟いた気がした。そして少年は改めて言い直した。
「Comprenez-vous le français?J'aime les sushi.」と少年は言った。
また、言葉が変わったのがわかった。聞いた感じ、おそらくフランス語だろうと思ったが、確信がなかったので、フランス語はわからないと英語で伝えた。
「I'm sorry. I don't understand French.」(すみません。フランス語もわかりません)
そう伝えると、少年は「チッ、フランス語も話せないのか」と呆れたように呟いたのが聞こえた。そして、もう一度言い直した。
「Verstehen Sie Deutsch?Es ist selbstverständlich,Deutsch zu sprechen.」と少年は言った。
また言葉が変わったのがわかった。おそらくドイツ語だと思うが、ドイツ語もわからない。
「I don't understand German.」(すみません。ドイツ語もわかりません。)と伝えた。
最初はこの少年にバカにされていると思ったが、ここまでくると、一体何ヶ国語話せるんだということの方が気になりだした。少なくとも英語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、それに日本語の五か国語を話すことができている。この歳でマルチリンガルということは、超天才なのかもしれないと少し興奮していた。少年は確実に呆れているのがわかったが…。
「¿Qué idioma sabes?」と少年は言った。
今度の言葉はもう何語かもわからないし、なんと言ったのかもわからなかった。俺は驚嘆しながらも、少年の特徴を見て、以前にベルさんと話した内容を思い出した。ちょうどその時、店の中からベルさんが出てきた。
「お待たせしまシタ! レオ!」
「あぁ」少年は不愛想な態度で答えた。
その少年に話しかけているベルさんを見て、彼がベルさんの言っていた弟であることを確信した。それに聞いた通りのギフテッドだということもわかった。
「Oh! 水無月サン! 奇遇デスね! お買い物デスか?」ベルさんが俺に気づいて声を掛けてきた。
「あぁ、映画を観に行こうと思って」
それがそう答えた時、ベルさんは「そうなんデスかー!」と頷いていたが、弟さんには睨まれた気がした。それから、ベルさんは弟さんの紹介を始めた。
「ア! この子は弟のレオ・エイプリルデス! 前に話したと思うのデスが、覚えていマスか?」
「あぁ、覚えてるよ。俺は水無月翔です。ブルーベルさんとは同じ学校に通っている学友です」
そう言って、自己紹介をすると、「チッ、やっぱりそうか!」と弟さんがと呟いたのが聞こえた。どうやら俺のことを知っているようだった。もしかしたら、ベルさんと交流していた時に知ったのかもしれないと思った。それから弟さんは、ベルさんに肘をつかれて自己紹介するように促されると、明らかに面倒そうな表情をしながらも名乗ってくれた。
「レオ・エイプリル。よろしく」
シンプルな自己紹介を日本語で嫌々してくれた。彼のフルネームを聞いて、俺はどこかで聞き覚えがある気がした。数秒間考えていると、最近、科学雑誌ネイチャーで掲載された論文の執筆者だった気がしたので、確認してみることにした。
「レオ・エイプリルさん!? …もしかして、最近論文を発表しましたか?」
「へぇー、俺のこと知ってるんだな!」弟さんは少し高飛車な感じで答えた。
この返答から、どうやら俺の知っている『レオ・エイプリルさん』と同一人物だということがわかった。
レオ・エイプリルさんは、飛び級でオックスフォード大学に入学し、十五歳の時に書いた論文が、あの有名な科学雑誌ネイチャーに掲載される程の超天才だ。
「コラ! 態度が悪いデスよ! レオ!」ベルさんが弟さんを注意すると、少し反省しているようだった。
「あっ、いえ、気にしないでください。お会いできて光栄です」俺はそう言って、右手を差し出し、握手を求めた。
「俺と簡単に握手できると思うなよ!」弟さんはそう言って俺の手をパンッと払い、握手を拒否した。
どうやら、俺は弟さんに嫌われているかもしれない、と思った。いつも周りから天才ともてはやされるのが、どんな気持ちか俺にはわからないが、もしかしたら、他の人と関わるのが嫌になっているのかもしれないと考えた。天才と言っても、まだ生まれて十五年しか経っていないので、そんなものだろうと思っていた。俺自身は気にしていなかったが、ベルさんが「コラ!」と注意すると、弟さんは渋々手を差し出してきて握手をしてくれた。俺は握手した右手を見た後、「ありがとうございます!」と感謝すると、弟さんは「フン!」と素っ気ない態度だったが、少し照れているような気がした。
ベルさんの話によると、ベルさんが夏休みに入ったのを知ったレオさんが、休みを合わせて日本に遊びに来ているとのことだった。それで、初めて日本に来たレオさんに日本の良さを知ってもらおうと、ベルさんが街を案内をしているらしい。ベルさんに一緒にどうかと誘われたが、映画に行く予定があることと、レオさんすごい目つきで睨んでくるので、二人の邪魔をしたくないと思って断った。それなら、一緒に映画を観に行って、その後どこか行きましょう、とベルさんに提案された。レオさんが明らかに嫌なオーラを出して、俺を睨んできたので、なるべく丁寧に断ったが、ベルさんの強引さに押し負けて、結局受け入れてしまった。
それから、三人で映画館に向かう途中、レオさんはベルさんと話す時は笑顔で楽しそうだが、俺に話題が振られると、不快な感じの表情をしていた。無理もない。レオさんの態度を見ていると、ベルさんを慕っているのがわかる。そこに俺という異物が混入してしまったのだから、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ベルさんは特に意識していないようだったが、俺は緊張や罪悪感やらが混じった感情を抱いていた。
映画館に着くと、「何を観るのデスか?」とベルさんに聞かれたので、元々観ようと思っていたのは洋画のSF映画だということを伝え、別に他の映画でも構わないということも伝えた。それを聞いたレオさんが、「これにしよう!」と言って、洋画のミュージカル映画を指さした。俺はそれでも構わなかったが、ベルさんは俺が観たいのを観ようと言った。そんなベルさんも洋画の恋愛映画が気になっているようで、視線を送っているのがわかった。俺が「恋愛映画も観てみたいな!」と言うと、ベルさんは「本当デスか!」と言って、喜んでいるように見えたが、レオさんが「それは絶対ダメ!」と強く拒否した。俺はなんでもよかったが、ベルさんとレオさんの意見がなかなかまとまらなかったので、間を取って日本のアニメ映画を観ることになった。
この選択は、誰も得をしない結果になるのではないかと心配していたが、観終わった後、二人は思いのほか満足していたようだった。無論、俺も面白いと思った。改めて、日本のアニメ映画のレベルの高さを実感した。ストーリーはもちろん、演出や作画、声優さんの演技、音楽など、どれをとっても良かった。
映画の後、昼食を取っていなかったので、どこで食べようかという話題になった。レオさんが初めて俺に話を振ってきたので、俺は考えた。この時、以前ベルさんと出かけたことを思い出したので、近くにあった〇ックを指さして、「あそこはどうですか?」と言うと、レオさんは「本気で言っているのか?」と言いながら、すごい形相で睨んできた。ベルさんは「いいデスよ!」と言っていた。どうやらレオさんとベルさんは姉弟でも志向が違うらしい。俺はすぐに謝って、冗談だということにした。その後、寿司屋はどうかと提案すると、二人とも頷いたので、俺たちは寿司屋に行った。
寿司を食べ終わった後、そろそろ解散しようと提案すると、レオさんは賛成したが、ベルさんはまだ遊び足りないと言って反対した。それから、ベルさんが行きたいと言っていた、神社に行くことになった。それなら俺がいなくてもいいのではないかと言ったが、一緒の方が楽しいということで押し切られた。
神社の参拝方法を二人は知らないようだったので、俺はうろ覚えの記憶を頼りに説明しながら参拝した。参拝した後はおみくじを引いた。ベルさんは大吉でとても喜んでいた。そのおみくじを凝視していたので、「何か気になることがあるのか?」と聞いたが、「秘密デス!」と言われてはぐらかされた。レオさんは末吉だったらしく、「こんなのなんの意味ないけどな!」と言っていたが、実は気にしているのか、微妙な表情をしていた。俺は凶だった。書いてある運勢はなかなか酷いものだった。自分の行いを見つめ直して改善すれば、運は上昇していくらしい。今の俺の行いは良くないらしい。俺もこういうものは基本信じないが、せっかくなので少し見つめ直そうと思った。信じないと言いつつも、いざ神様からのお告げと言われると、気にしてしまっている自分を自覚した。
その後、いい時間になっていたので、解散することになった。別れる場所まで歩いている時、レオさんが論文についての感想を聞いてきた。レオさんは遺伝子の研究をしており、その論文は、人間の老化について書かれていた。内容はとても面白く、魅力的な研究だということを率直に伝えた。すると、レオさんに「お前は人間が不死になれると思うか?」と聞かれたので、「わかりません」と正直に言った。
レオさんは、人間が不死になれると信じて毎日研究に励んでいるらしい。そんなこと馬鹿げていると言う人がいるかもしれないが、レオさんは真剣に取り組んでいた。それを俺は尊敬するし、応援する。それに、もし不死になれなかったとしても、レオさんの研究は多くの人の役に立つ研究になるだろうと思う。少なからず、病気の改善や健康寿命の増加に寄与する可能性がある。それだけでも十分すごいことだ。俺の感想を聞いてもレオさんの表情は変わらなかった。結局、別れる時もレオさんは俺を睨みながら、仕方なく手を振ってくれているようだった。最後までレオさんには嫌われていたようだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




