結成、相談部!!
翌日、学校に着くと靴箱で担任の師走ゆず(しわすゆず)先生に呼び止められた。
「水無月くん。ちょっといい?」
「はい」
俺は頷いて、先生についていき、進路指導室に連れて来られた。
「昨日、どうして途中で帰ったの?」
おそらく先生は、事情をほとんど知っているのだろうが、こうして二人で話すことも教師の仕事なのだろうと思って俺は正直に伝えた。
「数学の先生と口論になって、その後また関わると面倒になると思ったので帰りました」
「そう…。どうして口論になったの?」
「授業中、俺が一人で勉強していたらそれが気に入らなかったらしくて、人格を否定してきたのでムカついて反論しました」
「……そっか。わかった! じゃあ、教室に行きましょう!」
「え! もういいんですか?」予想外のあっさりした対応に俺は少し驚いて聞いた。
「ん? まだ何か言いたいことがあるの?」
「いえ、もうないです」
「じゃあこの話は終わり。ごめんね、時間取っちゃって」
そして俺と師走先生は教室に向かった。
放課後、帰る準備をしていたら、霜月が話しかけてきた。
「なぁ翔、ちょっと相談があるんだけど…いい?」
いつもは笑顔で接してくる霜月だが、その時は少し真面目な顔だったので、俺も真面目に聞くことにした。
「いいけど…ここでいいのか?」
「うん、大丈夫。そんな重い話じゃないから…」
そう言って、俺の前の席に座り話し始めた。
「俺と一緒に部活やらねぇか?」
「はぁ!? 部活!? 何の?」俺は思わず声を張り上げてしまった。
「いや、それはまだ決まってないんだけど…」霜月は視線を下に逸らしていた。
「決まってないってどういうことだ?」
「まだ何部にするか名前を決めてないっていうか……」
霜月の煮え切らない発言に疑問を感じながらも俺は気づいたことを聞いてみた。
「ん? それって新しく部活を創ろうとしてるってことか?」
「うん! そう。そういうこと!」霜月が急に目線を合わせてきた。
「そうか。じゃあ、何をするかまだ決めてないけど、とりあえず新しい部活を創りたいから協力しろと?」
「いや、何をするかはなんとなく決めてるんだ。名前がまだ決まってないだけで…」
「そうか。で、何をするんだ?」俺がそう尋ねると、霜月は少し考え込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「悩みの相談に乗って、それを解決するのをやりたいんだ!」
それを聞いて、俺は正直驚いた。まさか学園一の人気者がこんなことを言うとは思ってもいなかったからだ。それから俺は霜月の話に耳を傾けた。
霜月の話を簡単にまとめると、生徒の悩み相談に乗って、それを解決する手助けをしたいということだった。霜月曰く、みんなそれぞれ悩みを抱えており、日々それに悪戦苦闘しながら過ごしている。そんな人たちの悩みを解決することができたら、もっと学園生活を楽しめるんじゃないかと思ったらしい。そしてそのためには、俺の力が必要とのことだった。
「なんで俺なんだよ? 他にも適任者はいるだろ?」俺は探るように質問をぶつけた。
「いや、翔以上の適任者はいないと思ってる」
「そんな褒めたって、簡単には受けないぞ」
「別に褒めたつもりはない。事実を言っただけだ」
「もし、その部活をするとしても、正直すごく難しいと思う。人の悩みって、そう簡単に解決できるものじゃない。変に介入すれば余計にややこしくなることだってある。テストと違って答えがあるとは限らないからな」
「それでも……困っている人がいたら、助けたいと思わないか?」
霜月はいつなく真剣な表情で訴えて来る。俺が思っていたよりも霜月は結構頑固だということがわかった。
「お前の言いたいことはわかった。だけど一つ注意することがある」
「何?」
「仮に相談者が悩み相談に来た時、霜月はどう対応する?」
俺の質問に対して、霜月は顎に手を当て、少し考えてから意見を述べ始めた。
「まず、相談者の話を聞いて何に悩んでいるかを確認してから、その解決策を一緒に考える…かな」
「そうだな。相談者が来たとしてもやみくもに魚を与えたら意味がない。俺たちは魚の釣り方を教えた方がいい」
「ん!? なんで急に魚なんだ!? どういう意味だ?」
「今のは比喩だ」
そう言って俺はたとえ話を霜月に説明することにした。相談者がわからない問題があって相談に来たとする。その答えと解き方を俺たちは知っている。そして俺たちは手っ取り早くその答えを相談者に教える。結果、相談者はその時は答えることができるが、解き方がわからないので、同じ問題が出た時にまた聞きに来る。それだと相談者は何も成長していないし、最悪依存関係になってしまう。これが魚を与えるってことだ。
霜月はうんうんと頷きながら話を聞いているので、俺も気分が乗ってつい語ってしまったことに気づいた。俺ばかり語るのも嫌だったので、少し話を振ってみた。
「じゃあどうすればいいと思う?」
「え!? うーん、そうだな」霜月は顎に手を当て少し考えてから続けた。
「答えを教えるんじゃなくて、解き方を教えればいいんじゃないか。そして答えは自分で導くようにする」
「そう。そういうこと! それが魚の釣り方を教えるってことだ」
「おお、マジか! よっしゃ!」霜月はガッツポーズをして喜んでいた。
安易に答えを教えても人は成長しない。行き過ぎると過干渉や過保護になってしまい、自立できなくなってしまう。人生は必ずどこかで挫折や失敗をする。その壁を乗り越えるためには、自分でなんとかできるっていう信念が大事だ。もちろん、他者の力が必要な時もあるだろうが、それも限界がある。自分の人生を切り開くには、自分を信じて乗り越えなければならないのである。
「人を助けたいっていう気持ちはわかるが、助ける方も気を付けなければならないことはある。助けを求めていない人を助けるとお節介になるからな。そこを見分けるのも結構難しいんだけどな」
「そう言われればそうだな。良かったぁ。翔に相談して」
霜月は胸に手を当て安堵の表情をしていた。そして急に前のめりになった。
「ってことは、この話の流れからすると、翔も部活に協力してくれるってことでいいんだな?」
霜月がウキウキした様子で聞いてきたので、少しからかいたくなった。
「いや、アドバイスをしただけで、協力するとは言ってない」
「え!」それを聞いて、霜月のテンションは一気に急降下した。
「冗談だって」
「え!? 何が冗談!?」
「だから、俺も部活協力するってこと。少し面白そうだし」
「本当か!!」霜月のテンションがまた一気に急上昇した。
「まぁ、つまんなかったらすぐやめるけど…」
「うん、それでいい。よっしゃ!」再びガッツポーズする霜月だった。
正直、他人の悩みなんてどうでもよかった。俺は自分がやりたいようにやるだけで満足していたからだ。だから学校をサボって勉強もするし、一人で旅行することもあった。だけど、なんとなく今の生活に変化が欲しいと無意識に思っていたのかもしれない。本を読んで知識はあるが、実践したことはあまりなかった。だから自分の能力を試したかったのかもしれない。それにいろんな人の価値観や意見に触れるのは自身の成長に繋がるとも何かの本に書いていた。もしつまらなかったらすぐにやめようとも思っていた。この時は、気まぐれでオッケーしたが、自分の直観を信じてみることにした。
「いや~よかったぁ。翔がオッケーしてくれて…」
そう言って霜月は鞄から用紙を一枚取り出した。その用紙に部活申請書の文字が書かれているのを見て俺は察したが霜月は話を続けた。
「実はもう申請は許可されたんだよな。顧問は担任の師走先生」
「そんな簡単に許可って下りるんだな」
「まあな」霜月は得意げになっていた。
おそらく霜月時雨だから許されたのだろう。彼はリーダー的存在で教師陣からも人気がある。もしこれが俺だったら絶対許可は下りなかっただろう、と思った。
「それで部長なんだけど、翔どう?」
「やだ」俺はきっぱり断った。
「そっか。じゃあ俺が部長な。じゃあ俺の下に名前書いてくれ」
そういって、用紙とボールペンを渡してきたので、指示通りに名前を書いて戻した。
「それで部活名なんだけど、何がいいと思う?」
霜月は腕を組んで首を傾げながら聞いてきた。
「内容が内容だからな。部活名で何をしているのかわからないと、人も来ないと思う」
「そっか! じゃあ、悩み相談部ってのはどうだ?」霜月が超シンプルな名前を提案してきたので、ネーミングセンスはないのだろうと思った。
「うーん。悪くないが、悩み相談部だとなんとなく重く感じないか?」
「じゃあ、人生相談部は?」
「余計に重くなっただろ!」
「じゃあ……」
それから数分間考えたが、なかなかいい名前が思い浮かばなかったので、初心に戻ることにした。
「もう相談部でいいんじゃないか?」俺は適当に提案した。
「相談部。いいね! シンプルイズベスト!」霜月が誇らしげに言った。
「まぁ変に横文字とかでカッコつけるより、この方がいいかもな。俺たちの目的は、相談者の悩み解決の手助けだから正直名前なんてどうでもいいし、質の高いサービスをすれば、評判は勝手に上がるからな」
「お! なんだかやる気じゃん! 翔」霜月はニヤニヤしながら言ってきた。
「当たり前だ。やるからには本気でやる」
「いいね! じゃあこれからよろしくな」
俺と霜月は握手をして、その日は解散した。これが相談部の始まりである。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




