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どんな悩みも水無月くんにお任せ!!  作者: たかべー
相談部始動編!!
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ブラコンの妹など現実には存在しない!!

ベルさん、如月さんとの買い物が終わって、俺は一人で帰っていた。せっかく外出しているので、途中で晩御飯の材料を買おうと思い立って、スーパーに寄った。そして帰り着くと玄関には妹の靴がなかったので、どこかに出掛けているのだろうと思った。いつもは手を洗って、すぐに夕飯の準備をするが、今日は疲れていたので手を洗った後、そのままソファーに直行して少し休むことにした。

俺がソファーで休み始めて5分程経った頃、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえた。どうやら妹のつゆりが帰って来たようだ。


今この家には、俺とつゆりの二人、それと猫のうめあめの2匹、計4人で暮らしている。元々は父と母、俺、つゆりの4人で暮らしていた。母は俺が小学三年の時に病気で亡くなっている。父は俺が中学三年まで一緒に暮らしていたが、高校に進学すると「家とつゆりを任せた!」と言って、どこかに行ってしまった。毎月お金は振り込まれているので、どこかで仕事をしているのだろうと思う。家に帰って来ることは年に一回あるか、ないかだ。けれど、毎年、母の命日にはお墓に花が供えられているので、近くに帰って来ることもあるようだ。連絡をあまり取らないから、父が今どこで何をしているのか、俺は全然知らない。おそらく、つゆりもそうだろう。

父は昔から放任主義なところがあったが、まさか放浪者になるとは予想外だった。それでも俺は父のことは嫌いじゃない。特に好きでもないが…。

梅と雨は、父が出ていく前に自分の代わりということで、保護猫を引き取ってきた。ちなみに名前はつゆりがつけた。俺は2匹合わせて梅雨猫つゆねこと呼んでいる。

妹のつゆりは、現在中学三年生である。俺とは正反対の性格で、明るく元気で、友達は多く、生徒会長をやっているらしい。成績も良く、学年トップらしい。運動神経も抜群で部活はテニス部。全国レベルの実力があるらしいが、俺はつゆりのプレーを見たことない…。

見た目は母親似で整った顔立ちをしている。髪型はいつもツインテールで服装もオシャレだ。俺は父親似で不愛想な顔立ちだが、妹は母親に似て良かったと思う。自分で言うのもなんだが、今振り返ると母は結構キレイな顔立ちだったと思う。つゆりはその遺伝子を多く受け継いだのだろう。成長するにつれてだんだん母に似てきている。

しかし、つゆりと俺はあまり仲が良くない。むしろ、つゆりは俺のことを嫌っている。心当たりはあるが俺からは触れないようにしている。つゆりとは一緒の家に暮らしているが、ほとんど会話することはない。俺が「おはよう」と声を掛けても基本無視。いや、頷いてくれている気はする。

晩御飯の要望を聞くと、メモ用紙に書いて、リビングの机に置いて知らせてくる。当然、晩御飯も別々に食べている。ご飯ができたら、俺は自分の分を準備してから、二階の自分の部屋で食べている。その間につゆりはダイニングで食べている。早く戻ると、まだつゆりが食べているかもしれないので、食べ終わってもすぐには片付けないようにしている。

晩御飯の後片付けが終わると、次は風呂の準備をする。ほぼ毎日20時頃には準備ができるため、わざわざつゆりに知らせなくても、時間になれば一人で風呂に入りに来る。そう! 一番風呂はいつもつゆりなのである。その間、俺は自分の部屋で読書をしている。

洗濯も別々にしている。俺は朝にしているが、つゆりは夜にしている。年頃の女の子だからこれは仕方のないことだろう。兄と同じ洗濯機で服を洗うなんて、変なにおいが移りそうで嫌なのだろう。俺はそんなに臭くないと思うが…。そんな感じで、俺とつゆりは同じ家に住んでいるが会話することはない。

よくラノベやアニメでブラコンの妹が登場するが、そんなものは現実には存在しない。現実はもっと冷めているのである。俺たち程ではないにしても、兄妹なんてものは、普段あまり干渉することはない。だけど、正直な気持ちを言うと、少しはコミュニケーションを取りたいと思うことはあるが、過去に負い目があるため、俺からは話しかけにくいのが現状である。

これからもこの状態が続くのだろうと思っていたが、今日は少し違った。つゆりはいつもだと、帰って来て手を洗ったら、すぐに二階の自分の部屋に向かうのだが、今日は俺の方に近づいて来て、話しかけてきた。

「ねぇ、お兄ちゃん。疲れているようだけど大丈夫?」

「え!?」

久しぶりに話しかけられたのに驚いて、声が裏返ってしまった。

「あ、あぁ。大丈夫だよ」

「そっか。よかった」

俺のことを心配してくれているようで、少し嬉しかった。

「ところでお兄ちゃん、今日はどこに行ってたの?」

「今日…? いつも通り、図書館だけど…」

「ふーん……図書館だけ?」

「いや、その後は街の方に買い物に行った」

「街に買い物に行ったんだ! 珍しいね! それ買ったの?」

つゆりは、俺が横に置いていた袋を指さして聞いてきた。

「あぁ。服を一式買って来た!」

「そうなんだ! あれ? お兄ちゃんってファッションに興味あったの?」

なんだか誘導尋問されているような気がしたが、それよりも話したいという感情が勝ってあまり気にしなかった。

「まぁたまにはいいかなと思って!」

「ふーん……で! 一人で買い物してたの?」

つゆりの口調が少し強くなった気がした。

「いや、途中で同じ部活の人に会って、一緒に行動していた」

「そうなんだ。ていうか、お兄ちゃん部活入ってたの!?」

「あぁ! 4月に入ったんだ! 知り合いに誘われて」

「そういえば! この前から少し帰りが遅くなってたのは、そういうことだったんだ…」つゆりは呟くように小さな声で言った。「何の部活に入ったの?」とつゆりは続けて聞いてきた。

「入ったというよりか、新しく創ったんだけど。『相談部』っていう、人の悩み相談を受けて、一緒に解決しようって感じの活動をしている」

「ふーん……いいじゃん! お兄ちゃんに向いてそう」

「そうか?」

俺は笑われると思ったが、つゆりは笑わなかった。

「部員何人いるの?」

「今は俺を含めて三人だけ」

「他の二人ってもしかして女子?」

つゆりの声が少し大きくなり、早口になった気がした。

「いや、一人は霜月っていう同じクラスの男子で、もう一人は如月さんっていう同じクラスの女子」

「その如月さんってどんな人?」

なぜか、つゆりの質問の圧が少しずつ強くなっている気がした。

「どんな人って、いい人だよ」

「そうじゃなくて! 見た目を聞いてるの!」

「見た目!? そうだなぁ、髪は黒くてセミロングくらいの…」

「あの人か!」説明の途中でつゆりが小さな声で呟いた。

「ん? つゆり、如月さんを知ってるのか?」

「え!? いっ、いや、しっ、知らないよ!」

つゆりは目を逸らして、明らかに動揺しているのがわかったので、おそらく嘘をついているのだろうと思った。だけど、つゆりは如月さんをいつ知ったのだろうか。俺も4月に知り合ったばかりなのに…と思ったが、それ以上追及しないことにした。つゆりが困るだろうと思ったからだ。それに、つゆりが如月さんを知っていたとしても俺には関係ない。つゆりは外向的だから、俺の知らないところでもたくさん活動しているため、その時に出会ったのかもしれない、と思うようにした。

「それにしても、今日はやけに話しかけてくるな! どうしたんだ?」

「え!? べっ、別に、普通でしょ、これくらい。兄妹なんだから!」

今まで俺が話しかけても無視していたのは誰なのかな、と心の中で呟いたが口に出さなかった。

「そっか。ところで、つゆりも出かけてたみたいだけど、どこに行ってたんだ?」

今度は交代して、俺がつゆりに質問する流れを作ろうと思って聞いてみた。

「私、私は……って、何でお兄ちゃんにそんなこと教えないといけないの?」

「えーー!!」

つゆりに強い口調で拒否された。俺はつゆりの質問に全部答えたのになんで? と俺は心の中で泣いていた。

「それより、お腹すいたんだけど、今日の晩御飯は何?」つゆりは俺を睨みながら聞いてきた。

「そっ、そうだな。今日はつゆりの好きなチーズハンバーグにしようと思ってた! どうだ?」

「ふっ、ふーん。いいじゃん!」

一瞬つゆりの表情が緩み、すぐに不愛想な顔に戻ったが、表情を崩さないように我慢しているのがわかった。どうやら作戦は成功したらしい。元々、チーズハンバーグを作る予定ではなかったが、つゆりの機嫌を取るためにとっさに変更したのである。材料もあるので問題ない。

「じゃあ、今から準備するから、ちょっと待ってて!」

「うん!」

それから俺は、キッチンで晩御飯の準備、つゆりはリビングでテレビを見始めた。いつもだと俺が御飯を作っている間、つゆりは自分の部屋でテレビを見て過ごしていたが、今日は違うようだった。

晩御飯の準備ができたことをつゆりに伝えて、俺は自分の分を準備して部屋に向かおうと階段に足を一歩掛けた時、つゆりに声を掛けられた。

「お兄ちゃんどこ行くの?」

「え? どこって、部屋だけど…」

「もうそれ面倒でしょ! 今日からここで食べて」

「え!? いいのか?」

「いいもなにも、ここは私とお兄ちゃんの家なんだから、どこで食べてもいいでしょ! それともなに? 私と一緒に食べるのが嫌っていうの?」

「いや、嫌じゃない。そんなわけないだろ」

俺とつゆりは久しぶりに一緒に晩御飯を食べた。特に何かを話すこともなかったが、俺は嬉しかった。それから、俺が片付けをする時も、風呂の準備をする時も、つゆりはリビングでテレビを見ていた。


なにがあったかはわからないが、つゆりなりに俺とコミュニケーションを取ろうとしているのかもしれない。もしかしたら、つゆりは俺のことを許してくれたのかもしれない、と思った。

今日一日は、なんだかいつもと違う日常で、俺にとっては新鮮だった。いろんなことを経験したし、新しいことも学んだ。楽しかったけど、すっごく疲れた。今日はぐっすり眠れるだろうと思いながら、俺は布団に入った。

翌日、いつも通り朝の6時に目覚め、ルーティーンをこなした。身体的には元気に回復していたが、精神的な疲労がまだ残っていた気がしたので、今日は学校を休むことにした。朝の散歩から帰ると、パジャマ姿のつゆりが目を擦りながら階段を下りてきた。「おはよう!」といつもより元気な感じで言ったが、無視された。もしかしたら、昨日の出来事は夢だったのかもしれないと思ったが、その後小さな声で「おはよう」というつゆりの声が聞こえた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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