新しいことに挑戦する時は誰でも不安になる!!
霜月がドアの鍵を開けてから部室に入り、俺たちはそれぞれいつもの定位置に座った。それから、俺と如月さんは読書、霜月はスマホでSNSを始めた。その間、ベルさんはボーと窓の外を眺めて過ごしていた。そしてそのまま30分程経った頃、ベルさんが突然声を上げた。
「ンモー! みなさん一体何をやっているんデスか!? ここはソウダンブじゃなかったんデスか? 悩んでいる人の相談に乗って、解決に導くんじゃなかったんデスか!? これじゃあ、ただの読書部じゃないデスか!」
ベルさんは思っていたのと違ったために、不満を爆発させたようだった。それより、30分間何も言わずによく待てたな、と感心してしまった。しかし、これはどうしようもないことでもある。なぜなら、相談部はクライエントがいなければ活動することがないのだから。
「まぁそう言わずに。相談者がいなければ、俺たちはすることがないんだから。それに誰も来ないってことは、悩んでいる人がいないって考えれば、いいことなんだし!」霜月が俺の代弁をして、ベルさんを説得していた。
「それは…そうデスが……。あ! じゃあ、ワタシの相談に乗ってくれまセンか?」
「えっ! エイプリルさん何か悩み事でもあるんですか?」霜月が驚きながら尋ねた。
「ハイ! いろいろありマス!」
という流れになり、俺と霜月と如月さんは、転校生のエイプリル・ブルーベルさんの相談に乗ることになった。俺たちは、それぞれ持っていた本とスマホを鞄に入れ、話を聞く態勢になった。ベルさんは向かいのクライエントの椅子に座って、話し始めた。
「実は…ワタシ…勢いで日本に来たので、これから上手くやっていけるのか不安デス。友達ができるのか、日本の暮らし方に合うのか心配デス」
想像していたことと違ったため、俺は少し驚いた。ベルさんは明るくて社交的で友達が多い、というのが俺の抱いていたイメージだったが、そんな人でもやはり最初は不安なんだな、と改めて気づかされた。
人は誰でも新しいことに挑戦したり、初めての場所に行ったりすることに対して、恐怖や不安を抱くように進化したらしいが、多くの人がそれを隠してやり過ごしているため、時々そのことを忘れてしまう。特にベルさんのような社交的なタイプの人は、そんな不安はないと思われやすいだろう。しかし、自分に当てはめて考えてみると、イギリスから日本の学校に転校してくるのに、不安な気持ちがないわけがない。もちろん人それぞれ不安に思う気持ちとワクワクする気持ちの程度に違いはあるが、多くの人は不安な気持ちを持っている。ベルさんもその一人にすぎないのである。
「まぁ、そうだよな! 俺も転校経験あるから、その気持ちわかる! エイプリルさんみたいに国境を越えたことはないけど…」霜月が共感して言った。
「そうなんデスか!?」ベルさんが霜月の話に食いついた。相談の始まりとしてはいいスタートを切れたと思う。自分と同じ経験をした人の話を聞くのは、自分は一人じゃないと気づいて安心したり、乗り越えるための活力にもなったりすることがあるからだ。
「うん。中学三年の時に、この街に引っ越して来たんだ」
「そうだったんだ!」隣で如月さんが言った。如月さんとは高校で同じになったから霜月が転校してきたことを知らないのは当然だ。俺は霜月と同じ中学だったので、霜月が転校して来たことは覚えていた。
「霜月サンも最初は不安だったんデスか?」
「不安だったよ。だって中学三年っていう中途半端な時期だったしな。もうほとんどは仲の良いグループができてるし、そこに入って行くの、すっげー怖かった!」
「そうデスよね! 怖いデスよね! 霜月サンはどうやって友達を作ったんデスか?」
「うーん、俺は勇気を出して自分から話しかけたかな。そうしたら、みんな意外とすんなり受け入れてくれるし、話しかけてくれる人もいたから。それで気づいたら友達ができてたって感じ」
いかにも外交的で人と話すことが好きな人の手段だと思った。それに霜月は顔が良いから上手くいったのだろう。俺が同じことをやってもまず上手くいかない。だがこのアドバイスはベルさんにも有効だろうと思う。おそらくベルさんも性格的には霜月に近いところがあるように思う。それに誰がどう見ても美少女である。もしかすると何人かの同性に嫉妬されることはあるかもしれないし、多くの男に言い寄られることがあるかもしれないが、そんな人は無視していい存在だ。
「ウーン、ワタシも上手くできるでしょうか?」まだ少し不安な様子のベルさんだった。
「エイプリルさんなら大丈夫な気がするけど…なあ、翔」霜月が俺に振ってきた。
「まぁそうだな。俺もベルさんなら上手くやっていけると思う。実際、俺たち三人とは話せているわけだし。如月さんはどう思う?」
「私もエイプリルさんなら大丈夫だと思います! というより、私もエイプリルさんと仲良くなりたいなって思ってます…」少し恥ずかしそうにしながら如月さんが言った。
「本当デスか!? ワタシもみなさんと仲良くなりたいデス!」最初の元気なイメージのベルさんに戻った気がした。
「まぁ同じクラスだし。何もしなくても仲良くなったと思うけど…。改めて、俺は霜月時雨。一応相談部の部長をしている。よろしく!」そう言って霜月は俺に視線を送って来た。この流れは崩してはいけないと思い、俺は同じように自己紹介を続けた。
「俺は水無月翔。よろしく」
次に如月さんに視線を送ると、同じ流れで如月さんは自己紹介を始めた。。
「私は如月牡丹! よろしくね!」
相談部の自己紹介が終わり、次はベルさんが自己紹介を始めた。
「ワタシは、ブルーベル・エイプリルです! 『ベル』って呼んでくだサイ! よろしくデス!」
そのあと、なぜか霜月と如月さんとベルさんは笑った。なんだかよくわからない雰囲気が面白かったのかもしれない。俺も三人につられて少し笑ってしまった。
「アノー。…実はもう一つソウダンというか、お願いがあるんデスが…」
相談が一段落着いたと思ったら、ベルさんはもう一つ言いたいことがあるようで、改まった様子で言った。
「お願い?」霜月が尋ねた。
「ハイ。ワタシ、まだこの街に引っ越して来たばかりなので、どこに何があるのか全然わからないので、もしよければ今度の休みに街を案内してくれまセンか?」
「おっ、いいね!」と霜月が真っ先に答え、如月さんもノリノリで頷いていた。
しかし俺は内心、嫌だった。俺は人混みが苦手だ。なぜわざわざ人が多いとわかっている場所に自分から行くのかわからない。俺なら、なるべく人の少ない平日に行くようにしている。その方が、刺激が少なくゆっくりと過ごすことができるからだ。
「水無月さんはどうデスか?」ベルさんが聞いてきた。
俺は自分の思っていることを隠すのがあまり好きじゃないので、はっきりと言うことにした。
「俺はパスで。人混み苦手だし、休みの日は一人で過ごしたいから」
「そうデスか…」場の雰囲気が少し悪くなった感じがしたが、俺はそんなことは気にしない。自分の意見をはっきり言うことの方が大事だ。
「まっ、まぁもしよかったら、俺たちだけでも付き合うけど! ね、如月さん!」
「うっ、うん! 私もベルさんとお出かけできるの、楽しみ!」
霜月と如月さんがフォローをしてくれた。
「そうデスね! アリガトウゴザイマス!」
それにベルさんは笑顔で答えていた。
その後、三人は週末の予定を話し合って、今日の相談部の活動はお開きになった。
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次回もお楽しみに。