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眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第一章
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4.転移

「オイ…オイ!何故……る。」


「っっは!!」

トラックは…!?目前に迫っていたトラックのライトに目を細めるも、その光は燦々と降り注ぐ太陽の光だった。

「あれ?夜だった、はず…」


「オイ。……。」

ゴシゴシと目をこすっていると、低い男性の声がした。

ハッとして、顔を向けると、太陽を背に、真っ黒な人影がセトカを覗き込んでいた。


「あっ、大丈夫です。怪我はしていません。」

そう言いながら地面に寝転んでいた身体を起こすが、交差点にいた筈のセトカは草原に寝転んでいた。

あんなにいた歩行者もひとりもいない。

「えっ!?」

慌てて当たりを見回すと、スカートからポトリとハーブの小さな花束が転げ落ちた。

(あ…私がさっき作ったのだわ。まだ、夢の中?と言うか、天国?)


「夢でも天国でも無い。こんな所で何をしている。」

太陽を背に仁王立ちしているその人は、真っ黒なマントを羽織った筋骨隆々の厳つい男性だった。


「神様?では無さそうね。」

「チッ。何をしていると聞いているんだ。神な訳があるか。」

盛大に舌打ちをした男性は不機嫌そうに持っていた板を揺らした。


板…だと思っていたのは、セトカのウエストほど幅広の大剣だった。

剣!?え…本物!?

「きっ、気がついたら此処に居て…私も何故此処に居るかよく解りません。

あの、此処が何処か教えて頂けるとありがたいのですが。」

向けられた剣に動揺しつつも、冷静を装って現状把握に努める。

「はっ。そんななりで、呑気に花を毟ってるような女が何を言っている。

此処が何処か知りたかったら、取り巻きの護衛にでも聞くんだな。…目障りだ。サッサと山を下りろ。」


何やらご立腹の様子のその人は、威嚇するように眉間に皺を寄せて睨み付けてくるが、コッチだって、散々男社会の中で揉まれてきた戦うワーカホリックだ。そんな睨み如き、沢田課長の絶対零度の無表情に比べたら可愛い物だ。


「何を言っている、は貴方の方だわ。

初対面の人間に対してそんな物騒な物を突きつけるなんて失礼では無いですか?

大体、取り巻きなんて…」

もしかして、一緒に事故に巻き込まれた人達が居るのかしら?そう思って周りを見回すが人の気配は感じられない。


「他にも誰か居ましたか?」

急いで立ち上がり、その人に質問を投げるも、その人は大きな身体をスッと引き私と距離を取ってから、鼻で笑った。

「とぼけるな。取り巻きの存在がバレて慌てて繕っているのだろうが、お粗末だな。

後数刻で雨が降る。取り巻きに迷惑を掛けたく無いのであれば、川上の洞窟で雨宿りするんだな。いずれにせよ、お帰りはあちらだ、サッサと消え失せろ。」


取り付くシマもないとはこのことだろう。全くかみ合わない会話にげんなりする。


「ですから、私に連れは居ません。気付いたら此処に居たんだもの。もし同じような人が居たら、と思って聞いただけです。質も…」

質問に答えて。と言おうと一歩踏み出すと、彼はザッと更に距離を取り、大剣を構えた。


「軽々しく近寄るな。話しかけられるのも迷惑だ。」


射殺す様な凶悪な視線と剣先を向けられて固まっていると、男性は私に示した方角と反対側に歩き出して、あっという間に見えなくなってしまった。



顔は整っているし、身長も高くてかっこよかったのに…あの無愛想では台無しね。

セトカは、彼が消えていった森を眺めながらため息をついた。


正直、強面の顔も、がっしりとした体格も、170と長身のセトカより30センチは優に超えて居たであろう身長も、腹に響く低音ボイスも、全てがセトカの好みど真ん中だった。

ただ一つ、会話が成り立たないほどの傲慢さを除いては。


セトカは足元に落ちていたハーブの花束を拾い上げると、深呼吸を一つしてから改めて周囲を見回した。

広い草原の真ん中に立っているが、その周囲は森に囲まれ、更に遠くにはスイスの山々を彷彿とさせる険しい山岳が連なっていた。

以前訪れた大垣町のカモミール畑は、こんな山岳に囲まれては居なかったけれど、最早日本どころか地球なのかも疑わしい。


先ほどの彼は、流ちょうな日本語を話していたけれど、顔立ちはヨーロッパ系の鼻筋の通った顔だった。

夢なら覚めて欲しいけれど、覚めたらトラックと正面衝突であっという間にあの世行きだろう。

とすると、此処があの世かも知れないが、あんな不親切な人が居る天国ってあるのかしら?地獄、にしては余りにも平和だし、心地良過ぎるわよね。

あの男性は、向こうに川があると言っていたが、まさか<三途の川>なのだろうか。

だとしたら、彼はイケメンのお兄さんでは無く<鬼ぃさん>?

手にしていた大剣も、棍棒の変わりと思えば、なんとなくそう思えても来るが、此処でじっとしているわけにも行かない。



若干の不安を抱きながらも、セトカは先ほど示された<お帰りはあちら>ルートに向って歩き出した。

久々に履いた7センチのヒールが土に埋まって歩き難くくて閉口するが、とりあえず、進むしかなさそうだ。彼の言うとおり、雨が降るなら、早く洞窟にたどり着かなければ。

たどり着いた後は…?心に広がる不安を押し込めるように、セトカは目印にした、三本の大木を目指した。

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