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眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第一章
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3.進む道

「不味そうな代物ね。ハーブ好きを気取った勘違い女しかターゲットにしないなら、それでいいんじゃ無い。」

嫌いだったカモミールティーの販売ルートを確立する為のプレゼンで沢田課長に言われた言葉だ。

「いえ、カモミールは、女性だけで無く、男性にも是非飲んで貰いたい商品です。」

よく覚えていないが、私は、ネットで齧ったカモミールの効能をあれこれ並べ連ねた気がする。

私が口を開く度に課長は般若のような表情を険しくして黙り込んでいた。

課長はプレゼンが終わるや否や私を車に押し込み、岐阜まで連れて行かれたのだ。

質問しようとする私を黙らせ、沢田課長と私はカモミール祭り真っ最中の大垣の地を巡った。

フレッシュなカモミールを堪能し、夜になって地元のバーでとことんハーブについて話し合った。

「本質を見誤っては駄目よ。最高のプレゼンは、最高のファンである自身の気持ちを伝えること。

偽りの商品を喜ぶクライアントが何処にいるの。」

そう言いながら最後に出されたのは、<カモミール・モヒート>だった。

フレッシュなカモミールの花束がそのままグラスに活けられた様なカクテルを飲んで、私はハーブに対する概念ががらりと変わった。美味しい。身体に良いかどうかなんて、二の次だ。

店主のカクテルに対する情熱と、大垣のカモミールへの愛情が感じられるその一杯に、思わず涙した。

<自らが一番のファンであれ>沢田課長から何度も言われてきた言葉が、爽やかなカモミールの香りと共にすっと自分の身体に浸透して行く。

可憐で可愛らしい見た目のカモミールは大柄で女らしさの足りない自分には向かないのではないかと、なんとなく敬遠していたのだ。セトカがプレゼンした商品も、実は匂いが苦手と思いつつ、女子受けしそうな可愛らしいイラストとキャッチフレーズで何とか大衆受けしそうな要素をちりばめた。

課長にはそれが全てお見通しだったのだ。

「岸田の良さは、真っ直ぐ、努力を怠らないところでしょう。

自身の力を信じて、最高のパフォーマンスを見せなさい。

男勝りに頑張るのも貴方らしさではあるけれど、決して女らしさを捨てろと言うわけでは無いの。

無責任に甘えたり、下卑た媚びを売るとか、そんな下らない女々しさなんて他の者にくれてやりなさい。」


都会の雑踏でふと香ってきたカモミールの香りに、私の支えとなってきた課長の言葉が鮮明に蘇った。

あの時から、沢田課長はこの未来を予想していたのかも知れない。


<自らが一番のファンであれ>商品に対しても、自分に対しても、だ。

私は真っ直ぐ努力する、何処にいても、進む道を信じて努力する。

そう迷いを吹っ切ると、ざわついていた気持ちが落ち着きを取り戻した。

そう、私が考えるべきはドイツのことだわ。ハーブの本場に渡り、本格的に薬用ハーブの研究職に就く。

やりたいこと、学びたいことは山ほどある。

オンナラシイより、楽しいことが待っている。

自信を取り戻した私を、課長がギュッと抱きしめてくれた。

「忘れないで。あなたの頑張りを何時でも見守っている人間がいるということを。」

私は沢田課長にお礼を伝えると、意気揚々と前を向いた。


少し離れた場所で、ケンとケイコが言い争っていた。

「さっきの沢田課長の話は本当か?」

「ケンちゃんまで、私を疑うの?」

「いや、疑うって、裁判になるんだろう?根岸部長に、綾並課長、それに何人も…」

「もう良いわよ!沖縄だって、岸田先輩と行ってくれば良いじゃないですか!ほら、そこで待ってるじゃない。未練無いとか見え透いた嘘ついてケンちゃんを待ってるなんて、二人で私の事馬鹿にしてるんですか?」

「何言ってんだよ。」

落ち着かせようとするケンの言葉も聞かず、ケイコは怒りに任せてゴロゴロと引き摺っていたトランクを蹴飛ばした。

ガタンッ!!思いがけず勢いの付いたトランクは、歩道を転がり、車道へと飛び出た。

夕方の交通量の多い道に飛び出たトランクは、けたたましいクラクションと共に軽自動車の進路を妨害し、突然車線変更した軽に驚いたトラックが、青信号を渡る歩行者の一塊に突進した。



「岸田!!!」

名前を呼ばれセトカが振り向くと、直ぐそこにトラックのライトが光っていた

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