30.女冒険者
何か不具合があった様で、一旦デグスレイさんの執務室に戻ることになったが、歩き始めて直ぐにデグスレイさんが立ち止まった。
デグスレイさんの脇から様子を覗くとバローザさんが行く手に立ちふさがっている。
「随分と時間が掛ったな。」
「ん?あぁ、まだいたのか。って、あーあー。冒険者が居なくなっちまったじゃねぇか。ったく。
彼処のギルドは閑古鳥なんて噂が立ったらどうしてくれる。」
「アホぬかせ」
仲よさげに話しているので、バローザさんの<話しかけるな、近寄るな>は、人間嫌いというわけでは無く、私だけに向けられた言葉だったのかも知れないと、悲しくなる。
「依頼を探してんなら、セトカの件がすんだら聞いてやるから、お前も来い。
S級が掲示板の前で睨み効かせてたんじゃぁ、ヒヨッコたちが入っても来れねぇや。行くぞ。」
デグスレイさんはそう言うと、執務室に向けて歩き出した。
ガシガシと髭を撫でながらデグスレイさんが前を行くが、大股のデグスレイさんに早くも置いてきぼりにされそうだ。小走りで追いかけ、大きな段差を両足で飛び降りていると、デグスレイさんが遠くから声を掛けてきた。
「走るとまた転ぶぞ。俺は先に行っているから、ゆっくりでいい。迷子にならないように、バローザに連れてきて貰え。」
「ええっ!?」
後ろに立っていたバローザさんを振り返ると例によって、舌打ちが聞こえてきた。
…解ります。迷惑ですよね。
嫌われている自覚があるのに、連れて行って下さいなんてとても言えない。
「あの、執務室の場所は解りますので、一人で大丈夫です。
どうぞ先に行って、バローザさんの用事を先に済ませて下さい。私はゆっくり向いますので。」
「頼まれた以上、責任を取る。」
そう言うと、苦虫を噛んだような顔で近づいて、さっと身体をひっくり返された。
!?お姫様抱っこ!?
「いえ、もう大、大丈夫ですから。ホントに、これ以上迷惑はっ。」
「暴れるな。舌を噛むぞ。」
ずんずんと大きく上下する振動で本当に舌を噛みそうだ。
私は、抵抗を諦め、大人しく身体をできるだけ小さくして運ばれていった。
が、直ぐにバローザさんの歩みが停まり、バサリとマントが被せられた。
「退け。」
へ?退けって、…降りろと言うこと?
どういうことかと視線を上げるも、大きな腕に固定されて首も回せない。それ以前に、マントで覆われて視界が真っ暗だ。
何事!?
「あの…」
「ちょっとぉ。怖い顔しないでよぉ。久々に会ったんだから挨拶位させてよねぇ。ふふふっ。」
確認する間もなく、とってもセクシーな女性の声が聞こえてきた。
明らかにお誘いを受けている御様子。
あ、それで退け…だったのかな?であれば下ろしてくれたら直ぐにでも退きます。
身体を起こそうとするが、バローザさんの腕に更に力が籠り痛いくらいだ。
「あの、下ろして頂ければ、後は一人で。」
「黙ってろ。」
「ひゃっ。」
今までに無い、いや、今まで通りというか、不機嫌を露わにした声で、一喝された。
「あらぁ。何を隠し持っているのかしら。もしかして、噂の妖精もどきかしら。
どれだけの男をたぶらかすのかと思ってたけど、まさか眠らずの獅子まで落とされるとは、気になっちゃうわぁ。」
噂の妖精もどき…なんだか妖怪みたいなネーミングだけれど、状況からして、私のコトらしい。とすると、<眠らずの獅子>はバローザさんか。
<眠らずの獅子>一体どんな謂われがあるのだろうか。
ライオンの雄は基本寝てばっかりで、狩りも雌にさせる。その代わり、群れの雌と子を生し、家族を守るのは雄の役目と言われている。
眠る暇が無いほど大量の女性を囲っていて、縄張り死守するのに、さらに寝る暇を削ってる?
あんまりピンとこないけれど、この不機嫌は寝不足から来る物だとしたらちょっとだけ納得できるかも。
でも、そんな感じでは無いわね。「ふふっ」自分の可笑しな想像に笑いが零れるが、それがいけなかった。
私の失笑を合図にしたようにバローザさんは話しかけてきた女性に返事もしないで歩き出したが…。
「ちょっと、何笑ってんのよ。」
先ほど迄のお色気たっぷりの声色から一転、ドスの利いた声は、明らかに私に向けられたものだ。
しまった。タイミングがとっても悪かった。女性を笑い飛ばしたと思われてもおかしくないタイミングになってしまったことを悔いる。
「すみません。」
「失礼な女ね。皆にちやほやされていい気になってんじゃ無いの。
バローザの胸に縋ってないで、出てきたらどうなのよ。」
「黙れ。」
「ちょっとぉ。その女の肩を持つつもりぃ?何なのよその女。もしかして、狂言自殺であんたを追い込んだって言う貴族令嬢じゃ無いでしょうね。
そんな女、アタシが望通りあの世に送ってやるわ。」
怖っ、怖いぃぃ。声だけで迫力満点だ。
話の内容も、<狂言自殺で追い込む>?なんとも物騒な話しである。
マントの暗闇の中でわたわたと動揺していると、バローザさんは再び歩き出した。
が、直ぐにキンッと高い音が鳴り響いた。
……金属音?
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