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眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第一章
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19.獅子の微睡み~D

~D:デグスレイ視点です。

令嬢に関する情報は何も得られないまま救護室へ戻ると、セルギリオが待ち構えてていた。

「ああ、バローザくんにギルド長。丁度診察も終わって呼びに行くところでした。」


小さな寝台が、巨大に感じるほど、令嬢は細く、小柄でバローザの話を聞いていなければ成人前の子供と勘違いしていたところだ。


セルギリオは、バローザに対して、令嬢への冷遇を疑っているようだが、コイツのこの態度を見れば、明らかに今までとは違う心遣いをしていると判る。

つれない言葉を吐いてはいるが、目線は落ち着き無く令嬢の様子を伺っている。


と、令嬢の意識が戻ったようだ。

今までの他人行儀を装う台詞をすっかり無視して令嬢に駆け寄ったバローザに対し、令嬢は震える唇で、拒絶の意思を示した。

バローザを他人と断言し、あの山中で食料を分けてやらなかったことも当然だと、言っているようだ。

バローザとの関わりを拒絶したうえで、救助に関してだけは感謝している、と囁くようなか細い声で告げると苦しげに目を閉じ、セルギリオが慌ててバローザを引き剥がした。

セルギリオがあの巨体を軽々と押しのけられたのは、恐らく令嬢の言葉にショックを受けて呆けているからだろう。


さっきまで俺は関係ないとばかりに強がっていたのが嘘のようだ。

いや、実際虚勢だったのだろう。


令嬢に過剰に接触しているセルギリオに対し怒りを露わにしているが、後の祭りだ。

セルギリオも医者という立場を持ってしても過剰な接触ではあるが、面白いのでそのまま二人のやり取りを観察していた。

だが、少しいきすぎたセルギリオの挑発に乗せられて、令嬢に悪態を聞かせてしまったところで、バローザを病室から連れ出した。


自身の気持ちに気付いていないバローザにどう話をするか考えあぐねていると、タイミング悪いことに町中で騒動が起こった。

スパイダーリリーの魔材を狙った貴族の犯行だったが、お陰で町の北側がごっそりと焼け落ちた。

前々から黒い噂の絶えなかった子爵家嫡男が、間抜けにも逃げ遅れて火災に巻き込まれていたところをしっかりと捕縛した。

証拠となる自白めいた告白も音声記録を取り、直ぐにギルド庁総本部に転送している。


町の人間は、工房のとばっちりを受けて家を失ったが、冒険者の町だけあって、皆気っぷのいい者ばかりだった。

「なぁに、散々工房のおこぼれで甘い汁を吸わせて貰ってきてんだ。」

「家の一つや二つ、何ってこたぁないな。」

朝日に照らされながら、皆真っ黒に煤けた顔で笑い合っている。


ガンツが咄嗟に張ったシールドのお陰で、町人に重症人は出なかった。皆、軽度の火傷と転倒による骨折、か擦り傷位だ。工房の従業員は重軽傷者12名。いずれも命には問題無い。


日が昇り、漸く騒動も落ち着いて、救護にあたっていたセルギリオと共にギルドに戻ると驚きの光景が待っていた。



ここ数年、人前で眠る姿を見せなくなっていた<眠らずの獅子>バローザが寝台に寝そべり、令嬢を守るようにして眠っている。


セルギリオと共に顔を見合わせるも、起きる気配がない。欠損のないスパイダーリリーよりもよっぽど貴重なその光景にしばし見入ってしまったが、セルギリオに小突かれ、仕方なく可愛い顔で眠るバローザに声を掛けた。

一瞬で飛び起きて剣を構える辺り、流石ではあるが、先ほどの可愛らしい寝顔を思い出し顔がにやける。


バローザは、居心地悪そうに騒動について聞いてきたが、貴族が原因と聞いて表情を曇らせたが、令嬢との関連は、十中八九、白、だと伝えると、その表情を緩めた。


(令嬢が一味でなくて良かったな。尤も、その令嬢からはすっかり嫌われている様だが…。)


一晩明けて、新たな情報が首都ミントレーのギルド本部から届いているが、サムによると、令嬢との関連を疑わせるような物は無かったそうだ。

仮に、バローザの言う通り、トラック領の令嬢となるとかなりやっかいな事になりそうだ。


平民服に見せかけて、見たことも無い高級素材で仕立てられた衣服や、か細く栄養不足にも関わらず、労働とは無縁であろう柔らかな手足。

恐らく、高位貴族に囲われていた愛人といったところだろう。


幼女趣味が横行しているトラック領では、奴隷に最小限の栄養のみを与え、成長を止めて小さい女を愛でるという悪趣味が流行っていると聞く。

出来るなら、残虐な習慣の蔓延るトラック領には帰らず、このままバローザと一緒になって添い遂げてくれればと願わずにはいられない。


冷血漢を装ってはいるが、バローザも昔はS級冒険者のシーファをミントレイノの父と慕って甘えていた可愛い面があったのだ。


結婚はいい。愛する家族が出来て初めて、男の強さとは何たるかを理解した気がする。

誰かを守り、頼り頼られるこの充足感を押しつけるつもりは無いが、誰にも弱みを見せずに孤高を貫くバローザには、いつの日か、守り、守られる存在を見つけて欲しいと願っていた。

面と向って結婚はいいぞ等と言えないが、これくらいは言わせてくれ。


「あぁ~。疲れた。丸一日出ずっぱりだったからな。俺もかみさんに添い寝でもして貰うかぁ。がっはっはっははは。」

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