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眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第二章
175/363

174.継続は力なり

「ボングス、それは違うなぁ~。教えるだけだったら、一日や其処らですむんだ。何も毎日のように通う必要も無いだろう~?」


何か思うところがあるのか、不満げな声をあげた大柄な男の子に、クーモンさんは優しく微笑み返し、言葉を続けた。


「ギルドが考えているのは<知っている>から<習得している>になるまで面倒みるぞ~って事だ。

此処に居る全員が、<大陸文字>は知っては居るだろう~?だが完璧に覚えているのは、20人にも満たない。それは、知っては居るけれど、身についてはいないってことなんだ~。

もし、文字が読めて書ければ、ギルドの職員試験を受けることが出来る。他にも役場だとか、働き口はぐんと増えるんだ~。

ギルドの掲示板で、人より早く文字を読むことが出来れば、割の良い仕事を見つける確率だって高くなるぞ~。薬草集めや砂ヘビの採取だけで無く、もっと町に近いところで短時間で済ませられる依頼とかな~。」


「えっ…そんな依頼…」

「ああ~。あるんだよ、ボングス。西区の鶏牧場に大量発生するムカデの駆除とか、しょっちゅう脱走してるハスマ婆ちゃんとこの猫の捜索とか、な~。お前猫好きだろう~?あっという間に見つけられんじゃ~ないのか?一回2,000ケードで二月に一回は張り出されてるぞぅ。」


「!!!!」


ボングス君はツンツンしていて反抗期真っ盛りの駆け出し冒険者と言う感じだ。文字が読めないから依頼探しに苦慮していたみたいね。

「文字や計算だけじゃないぞ~。

知らないよりは、知っているだけでも断然有利ではあるんだが~。

知っているだけと、使いこなせる程身についているかっていうのは大きな差がある。

弁当に付いてくるマヨネーズ、な。俺は作り方を知っている。簡単に作れんだぞ~。」


「「「「「うううぇぇぇぇっぇ~~~!!!!」」」」」


嘘だ!!本当!?の阿鼻叫喚…

「作れるって言っても、ここのバガースみたいに旨く作る事は出来ないから、やっぱり弁当で食べるのを楽しみにしているんだ~。知ってるだけで、俺の食欲を満たす事はできない~ってことだ。

なんだ、皆信じてないのか~?

商売するには商業ギルドに払う金が必要だが、家で家族に作るのは許されている。トーリオ、そうだな~?」


話を振られたトーリオ君は、スチャっと姿勢を整えると、ハキハキと話し始めた。

「はい!商業ギルドに登録されたマヨネーズのレシピはうちの商会でも確認しています。

それによると、ミルトレンさんは販売用にのみ課税とされていました。父がそれをみて聖人降臨だとミルトレンさんを崇めていましたから。クーモンさんと同じく我が屋でも毎日のようにマヨネーズを作っていますが、なかなか弁当に付いてくるような円やかで濃厚な味付けになりません。」


「だな~。俺も何度か作ってみたが、な~んか違うんだよ。だから此処でマヨネーズが出た日には皿まで舐めてるぞ~」

「「「「ははははっ」」」」

「ま、そういう事で、勉強に限らず、身につけるのは聞いておしまいって訳じゃぁない。

何度も繰り返し練習する事が重要って訳だ~。筋肉だってそうだろう~?一日教わったくらいで筋肉付いたら、幸せだよなぁ~。」


「そっ、そんなふざけたことあるか。俺がどれほど苦労してっ…」

ボングス君は、真っ赤になって拳を見つめていた。きっと、大変な努力をして、今の大きな身体に鍛えあげたのだろう。


そう思うと、バローザさんのあの鋼の山の如き強靱な肉体はどれほどの困難を乗り越えてきたのだろうか、と落ち着かない気持ちになった。


「ああ。ボングス。解ってる。継続は力なりって誰かが言っていたが、肉体はそれが顕著に表れるからな~。

お前の筋肉は5年前とは比べものにならないもんな~。その5年間の頑張りをギルドの職員はみんな解っている。

筋肉だけじゃ無いぞ~肉体だってそうだ~。弁当も、一日二日食ったくらいでは、腹が膨れるだけで終わってしまうが、毎日食べ続ければ、健康で丈夫な身体になるんだ~。」


「えっ?美味しいだけ、じゃないのか?」

「ははっ。そうなんだ、ボングス。野菜なんて、只の添え物と思っていただろう~?どうも違うみたいなんだ、肉と野菜を一緒に食べる様になったギルドの職員達は、前より体付きが良くなっているし、疲れも感じにくくなった。身体が強くなっているんだ。

まだ、町中では野菜を食べれる処は多くは無いが、野菜たっぷりのバガースの弁当を残さず食べ続けるコトで、健康な身体も作られるんだ~。

学校は勉強だけを学ぶところじゃあ無い。お前達の身体も含めて、成長を見守ってやりたいと思っている。

だから~!!みんな一生懸命学んで、しっかり食って、知識と、知恵と、健康を身につけて欲しいんだぁ!!」


今まで見掛ける屋台は何処も肉か小麦系オンリーだった。屋台だからかな?と思っていたが、野菜自体余り好んで食べる人は居なかったそうだ。

バローザさんの食事を見ても野菜不足は明白。冒険者の町らしい肉食系に偏っていた。

野菜の重要性を彼方此方で押しつけるような真似をしてしまったが、その効果は直ぐに現われたそうだ。今ではギルド職員も、ミルトレンさんの無言の圧に負けて嫌々野菜を食べていたギルナーゼのお客さん達も、進んで野菜を食べる様になっていた。



「と言うことで今日の講義は、学んでおいて損は無いって事と、勉強と弁当は続けよう!ってことだ。以上!!

さぁ~。お待ちかねの昼食の時間だ。今日はみんなお待ちかねのアレだぞ~。」

「はっはっっはっっは。クーモンさんの言うとおり、野菜も残さず食べるんだぞ。今日の弁当はハンバーガーだ!」


キッチンの小窓から乗り出すようにして声をあげたバガースさんに子供達の歓声が上がる。

バガースさんのハンバーガーは、バローザさんの不健康バーガーとは異なり、トマトやレタス、ピクルスのふんだんに入ったバランスの良い物だった。しかも、小さい子用には、小ぶりなバーガー二つにしてくれている。


お洒落なワンピースを着ている女子達は、迷わず小ぶりな物を頼んでいた。

そんな中、イエーニアは、こっちの方が断然肉が多い、と言ってビッグサイズを迷わず頼んで、女の子達から笑われていたが、馬鹿にされているわけでは無さそうだ。

呆れられているというか、流石ね、なんてからかわれているので、良好な関係を気付けているようだ。


食後、さようならの号令でビシッと挨拶を済ませた子供達は揃って弁当受け取りの小窓に並んだ。

セトカもその列に並ぼうとしていると、クーモンさんがやって来た。


「セトカ、今日は一人で帰るんだって?バローザから宜しく言われたぞ~。」

「はい。そろそろ、バローザさんも町を離れる様ですし、私も一人で行動できるようにならなくちゃいけないと思って。ギルドまで、クーモンさん達とご一緒させて貰って良いですか?」

「あっ!?あああっ。もちろんだ。ははっ。そう、ギルドまでは毎日皆を引率することになっているからな~。

じゃあ弁当買い終わったら扉の処に集合してくれ~。」


若干挙動不審なクーモンさんの様子が気になるが、ミケジェーロ君に誘われて、セトカもお弁当購入の列に並んだ。

毎日8時/20時更新予定

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