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眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第二章
168/363

167.いつかって…今、でしょ?~D

~D:ギルド長、デグスレイ視点です。

「ここから2時間くらいの処にある山麓の小川で、見つけたんですよ。」


そう言って例によって見るからに只の雑草を取りだしたセトカの言葉に耳を疑った。

…山麓の小川まで、2時間、ダト!?

空いた口が塞がらないとはこのことだろう。


俺たちの驚きを鼻で笑うかのように、バローザが口を開いた。

「ああ、そうだろう。<2時間前の>摘みたてだからな。」

念を押すように怒気を含ませてくる。


ああ、セトカに真実を伝えてくれるな、と言うことか。

俺たちが3人がかりで山麓からこの草原まで4時間を要した。そこから一番近い川までは騎馬で2時間だ。

夜通し馬を走らせ疲労が溜まっていたとは言え、かなりのスピードで辿り着いている。

それをこの男は…。


「はぁ~。何だかな、涙が出るぜ。」

「全くですよ。」

「ふふふっ、その辛みが身体に良い効果があるのですよ。」

辛みに涙したと思ったのか、セトカが幸せそうに笑っているから良しとするか。

だが…。


「バローザと一緒だから問題は無いが、他の冒険者に採りに行きたいなどと気軽に言っては駄目だぞ。

此処にはA級冒険者でも手を焼くような魔獣も多く出る……ことも、あるからな。」

「はい。十分に成長して、一人で来ても大丈夫とデグスレイさんの許可が出てから来るようにします。」


素直に頷くセトカに良心が痛むが、バローザも怒気を収めて一件落着と言ったところか。


「さ、腹も膨れたし調査を始めるとするか。セトカはセルギリオと薬草の調査を行っていてくれ。余り中心部から離れるなよ。バローザはコッチだ。色々聞きたいことがある」


セトカと離され機嫌の悪くなったバローザを引き連れ、草原の隅々を隈無く調べたがセトカの両親がいた形跡も、セトカ以外の足跡も残ってはいなかった。

万が一、セトカ以外の異世界人が過去に来ていた場合、骨か装飾品の類いが残っているのでは、と推測していたのだがそれすらも見当たらない。


一通り草原の調査が終わったところで、俺はサムを連れてセトカとバローザが二晩を過ごしたという洞窟に向った。

だが、そこにも異世界人を匂わすような形跡は何も残されてはいなかった。


仕方なく、バローザから聞いていた川上に向い、滝壺で貴重なシェルサーモンを4尾捕まえて草原に戻ると、セトカは草原の真ん中で昼寝をしていた。


「この場所か?」

「ああ。此処で青い服を着て今みたいに横たわっていた。あの時と全く一緒だ。」

セトカが目を覚ますまで、あれこれと検証を続けたが、結局、セトカの魔力が戻ることも、ご両親と出会うことも無く日が傾き始めた。

そろそろ町に戻るかと話していたところに、セトカが目を覚ました。


「セトカ。」

すかさずバローザが歩み寄るが、セトカは寝ぼけているのか、ぼーっと草むらを眺めていた。


「バローザさん…私、此処で両親に会っていたのですね。」

「会えたのか!?」

誰も、セトカの両親の姿を見ることが出来なかったが、セトカの元には現われたのだろうか?

二人の様子を伺っていると、セトカは力なく首を振った。


「いいえ、今日は会えませんでした。でも、思い出したの。」

そう言ってセトカは顔を覆って泣き出した。

バローザがその小さな身体を抱き上げて胸に抱え込んでいる。


二人の間に、確かな信頼関係が生まれているようで不謹慎にも嬉しくなった。


「父と母が、あの矢車菊の茂みに立っていたわ。」

セトカは涙に濡れた瞳をあげると、少し離れた場所を指差した。

バローザから聞いていたあの茂みのことだろうが、特に変わったところは見られなかった。


「この世界で幸せになりなさいって。追いかけてきては駄目だって…私が取るべき手をしっかりと握りなさいって。お母さんはお父さんと手を繋いでいたの。お兄ちゃん達も、奥さんと、子供と手を繋いでいた…」

「ああ、ご両親は仲睦まじい様子だったな。」

「っっ!!ええ。とっても仲がよかったの。いつも、手を繋いで、笑顔で見つめ合っていた…」

セトカは、ひとしきり泣いた後、バローザを見上げた。


「両親の後を追おうとしていた私を引き留めてくれたのはバローザさんだったのですね。

ありがとうございました。」

しっかりした口調で礼を伝えた後、バローザの膝から降りたセトカは俺たちに向き直り、此処で生きていく決心が固まった、と語った。


「心の何処かで、いつか元の世界に戻る日が来るのかなって思っていたんです。

逃げ道を作るみたいに。でも、両親の願った通り、この世界で幸せになれるよう。頑張ります。」

「応。俺も、他の者達もいつでも支えてやる。」

「はい、ありがとうございます!私も、いつか出会う人の手を自信を持って取れるように精進します!」



(((………ん!?)))



手って、今、そこに差し出されてる、ソレだろ?

いつかって…いつだよ!?今、だろう?


俺はそっとセトカの後ろに聳え立つ黒い固まりを…見ようとして余りの怖さに目線を逸らした。

あの禍々しさ、キマイラも真っ青だぜ。

8月中2話ずつ投稿予定です。順番にご注意下さい。

毎日8時/20時更新予定

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