12.親切心~B
~B:バローザ視点です
「この…人の…言うとおり。私、とは他人。冷たいわけ、では、ない。
貴方の希望通り、話さな、い。近寄らない。女と、関わらせて、ごめんな…さい。助けてくれたこと、だけ、感謝…し…うぅっ。」
「無理してはいけません!!」
セルギリオが俺を押しのけて寝台の令嬢に駆け寄り、周りの看護婦達も慌ただしく薬湯を準備し始めた。
上半身を起こし、セルギリオに凭れる令嬢の顔色は真っ青で、支えが無ければ今にも崩れ落ちそうなほど弱々しかった。
セルギリオは、まだ何かを喋ろうとする令嬢を宥めて、薬湯を与えている。
「大丈夫。そう、ゆっくり飲めば良いですよ。今は何も喋る必要は無い。安心して休みなさい。」
その言葉に安心したのか、令嬢は力なく頷くと、目を閉じた。
セルギリオは、何故か令嬢を後ろから抱えたまま、布団を被り直し、更に毛布を追加するよう指示を出している。
「おい、何をしている。」
令嬢の身体は見せられないと言っていたセルギリオが、何故初対面の令嬢と布団にくるまっているのだ。
こみ上げる感情を押し殺し、セルギリオに視線をやるがすいっと目線を外され、さも当然とばかりに、身体を温めていると言ってのけた。
「今、女性陣が保温寝具に魔気を溜めている所です。準備が整うまで俺がこうして温めるより仕方が無いでしょう?女性より、男の俺の方が体温高いですからね。」
役得ですよ、と呟いているのがまた頭にくる。
「此処は、泊りの患者は受け付けていないだろう。」
「それはそうですが、行き場の無い患者が出たときにはその限りでは無いですよ。ギルド受付は夜間は閉まるとは言っても、人が全く居なくなるわけでは無いからね。今晩は俺と、女の子の二人態勢で泊りになるかなぁ。
こんな状態の患者を放置するわけには行かないからね。
え、まさか、女嫌いのバローザくんが引き取って、面倒を見てくれるわけはないですよねぇ?
彼女からも、<貴方の希望通り>話さない、近寄らない…って言われてましたもんね。一体病気の女性相手にどんな非道な言葉を吐いたのか気になるところですが。」
「ふん、ほざけ。親切心を起こしたお陰でえらい目に会ったぜ。」
吐き捨てる様に呟いて、顔を背けようとしたが、黒い双眸が俺を捉えた。
起きていたのか…。令嬢は困ったように目を彷わせた後、小さく呟いた。
(ごめん…なさ、い。)
薄らと滲む涙と共に小さく動いた唇に、俺は釘付けになった。
ごめん、だと?…俺の言葉に対して、か?
「畜生」
そんなつもりでは無かったが、言い訳じみたことを口にする前に、憤慨したデグスレイから病室の外に連れ出されてした。
「お前、病床の婦女子に向ってえらいめにあわされた、畜生、はないだろう。あんな小さな子を泣かせてどうするつもりだ。」
「そんなつもりはない。あいつは山ではひたすら憎まれ口を叩いていてまさか泣くと思わなかった。」
「貴様、まだ非道な発言を重ねるか!」
いや、違う。傷付けるつもりでは無かったと言いたかっただけで、畜生は、自分に対しての言葉だった。
そんな事を言おうとするも、ギルドのカウンターが騒がしくなり、デグスレイはドカドカと足音を立ててそちらの対応に去って行ってしまった。
俺は一人、病室前の廊下に佇んでいたが、慌ただしく走り出した看護婦達に邪魔だ、と押しのけられてギルドのロビーに追いやられた。
そろそろ、夕食時だ。宿へ帰り熱い風呂を浴び、酒を煽って寝てしまいたい。
なんとも後味の悪い一日を、綺麗に洗い流したくなった。
だが、何故かこの場を立ち去りがたく、手持ち無沙汰に討伐の依頼書の掲示板を眺めたりしていたが、脳裏には、令嬢の涙が何時までも焼き付いていた。
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