表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠らずの獅子と目覚めのハーブ  作者: 煎茶
第一章
110/363

109.縞々カップ

「セトカ嬢!」


嗄れた、だがとても力強い声にハッと目を覚ますと、工房のシマカップさんがオレンジと白の縦縞のカップを手にセトカを覗き込んでいた。

調理指導を終えて、年中組さん達と休憩がてらうたた寝していたところだった。


「疲れているところすまんな、セトカ嬢。」

80才を過ぎてなお、有り余るような元気を振りまいているシマカップさんは、工房の職人の一人で、ギルドの倉庫に積み上げられていた廃材ポップリーの木の幹の皮を使ってポップコーン販売用の入れ物を作ってくれたのだ。


ポップリーの木は、可愛らしい白とオレンジのストライプ柄の木だ。

幹の太さが2mを超えると幹の芯は強度が増し武具の材料となる。その加工の際に大量に出る木の幹の薄い削り片は、蝋引きの厚紙のような材質で、これを使って試作を繰り返して貰っていた。


使い捨て紙コップの無いこの世界では、なかなか概要が伝わらず、試作品は異様に手の込んだ作りで量産が難しかったり、逆に簡易すぎてあっという間に崩壊してしまったりと試行錯誤が続いていたが、今回の物は完璧だった。


折り畳み式で嵩張らず、四角の筒状のカップが簡単に作れる。

「凄いわ、シマカップさん!これなら場所も取らず、子供達でも扱いやすいし、強度も十分だわ。」

こちらの注文以上の出来映えに、賞賛の言葉が止まらない。


「いや何。最初はゴミを押しつけた上に、無理難題をふっかけると思ったが、こうして出来てみると、セトカ嬢の伝えようとしていたことがよく解る。

子供達と、使い手のことを考えた、良い品だ。儂の威嚇にもめげずに、よう付き合ってくれた。こちらこそ礼を言う。」


最初は、明らかに不機嫌そうで、販売開始までに仕上がるのか不安もあったが、日本での怖いおじさん相手に交渉を重ねてきた社会人の経験が大いに役に立った。

<もっとこうしたいけれど、怒ってるみたいだからこれでいいか…そんな気持ちが少しでも垣間見えた瞬間、その人との付き合いは絶たれるわよ>その通りだった。


自分の矜持を持って仕事している人に対して、怖じ気づいて妥協するのが一番の悪手と沢田課長から散々言い聞かせられていたのだ。



シマカップさんは、工房でも古参の職人さんだが、今回はポップコーンワゴンの制作では無く、カップの制作を担当してくれた。本人はそれが不満だったようで、何故自分がゴミ相手に試行錯誤しなくてはいけないのか、と漏らしていたが、それでも試作品に対する要望を細かく聞き取り、都度修正してくれていた。


魔法で何とか様になってしまうワゴンより、誤魔化しのきかないカップの方がずっと困難な作業だったのだ。


出来上がったカップを持って、ポップコーンワゴンに子供達を集める。

早速、ワゴンから次々に作り出されるポップコーンをシマカップさん特製の縞々カップに入れて皆に感想を聞く。


「すげぇ!シマカップさん!紙袋より断然食べやすいよ。」

「それに、何か格好いいぜ!」

「あら、可愛いって言ってよ。これは女の子向けだわ!」

「そんな事ねぇよ!格好いいに決まってる!」


子供達の騒ぎを聞きつけて工房の職人達も集まってきた。

「おお、これは良いな!紙袋じゃぁ、俺っちみてぇな手じゃあ直ぐに破けちまったからなぁ。折角のポップコーンも鳩のエサにしちまってたが、これなら安心して最後まで喰えるぜ。」

「お前、鳩を蹴散らして拾って喰ってただろうが!」

「がはは、ちげぇねぇ。」


一際ゴツい体格のガルゴンさんが豪快に笑っている。あんまり勢い良く手を突っ込むと、流石にこのカップでも崩壊してしまいそうだが、シマカップさんの作ったカップはびくともしないようだ。

私は、満足げにその様子を眺めているシマカップさんと目を合わせると、にっこりと微笑んだ。


薄らと隈の出来た目元を緩めて微笑むシマカップさんは、この数日、寝る間を惜しんで改善に改善を重ねてきたのだろう。妥協を許さない職人の姿が其所にあった。


その後は、手の空いている職人総出でポップコーンカップを量産し、子供達が味を示すマークを焼き鏝で付けていく。

ワゴンは塩、ハーブ、キャラメルの3台だ。カップを三分割して、ハーブを表す葉っぱのマークと、ミルクキャラメルの牛乳瓶のマークを焼き付ける。


明日は一日、北区再建記念祭に供えてマドレーヌとバウムクーヘンを大量生産して準備する。

8月中2話ずつ投稿予定です。順番にご注意下さい。

毎日8時/20時更新予定


誤字報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ