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鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
狭い室内に身を寄せ合い、僕らはこれからゲームをする。
6人用のゲーム。けれど、僕らは7人。
どうするのかと思っていたら、一人が席を立ってくれた。
「ちょうど、一人多かったんだ。ありがとうね。」
ゲームが始まる前に、一人いなくなった。
少し間が開いて、ゲームが始まる。
どこからともなく、カチカチカチカチカチカチと音が聞こえる。
あまりこういうゲームは得意じゃない。
やってる人をみているだけで、ハラハラする。
ああ、僕の番か。
いいさ。しょうがない。
■ ■ ■
鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
もうすぐ、夏が終わる。
なんてことのない雑談のように、君は言う。
「ねえ、定期考査が終わったら遊びに行こうよ。」
当たり前の様に言うけどさ。君と遊びにいくなんて、僕にはハードルが高いんだよ。
「みんな一緒ならいいよ。」
頬を少し膨らませて、不満げに唸る彼女。
そんな彼女を見て、つい微笑んでしまう。
「わかったよ。定期考査が終わったら、二人で何処かに行こう。」
けれど、その約束は果たされなかった。
いつもの帰り道を、取り留めとなく君と歩く。
停留所からバスに乗り込んだ。
「これから、ゲームをはじめまーす。大丈夫。全員知ってるやつだからさ。」
バスに偶然居合わせた人たちと、ゲームをすることになった。
狭い室内に身を寄せ合い、僕らはこれからゲームをする。
6人用のゲーム。けれど、僕らは7人。
一人が声を上げる。
「ふざけんなよ。俺は帰る。」
ほんとうに、ありがたいと思った。彼を見習いたい。
「ちょうど、一人多かったんだ。ありがとうね。」
ゲームが始まる前に、一人いなくなった。
雰囲気が悪い。
少しだけ時間を空けて、ゲームが始まる。
どこからともなく、カチカチカチカチカチカチと音が聞こえる。
みんながみんな、喋ることも忘れ、それを眺めている。
あまりこういうゲームは得意じゃない。
今ゲームをしているのは、僕の同級生。
小学校の頃から付き合いがあるが、僕は彼が好きじゃない。
多分。彼も同じ思いだろう。
でも、そんなことは些細な問題だ。
今は彼がこの難局を切り抜けるのを、複雑な思いでただただ祈る。
彼はなんとか、やってのけた。本当に心臓に悪い。
次いで彼女。まだ続くのか。
もういいだろ。勘弁してくれ。
僕の隣から、カチカチカチカチカチカチと音が聞こえる。
彼女もまた、なんとか難局を切り抜ける。
緊迫感から解き放たれ、ほっと息が漏れる。
最後に、僕の番。
いいさ。しょうがない。
■ ■
鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
夏の残暑も総量を減らし、次の季節へと足を踏み入れている。
いつもの帰り道を、取り留めとなく君と歩く。
二人で歩くときは彼女に合わせて歩調を落とす。
そんな時はいつも思う。君の歩幅は、そんなに狭かっただろうか。
まあ、指摘することは一生ないだろう。
なんてことのない雑談のように、君は言う。
「ねえ、定期考査が終わったら遊びに行こうよ。」
当たり前の様に言うけどさ。君と遊びにいくなんて、僕にはハードルが高いんだよ。
彼女の目を見ないように、ぼそっと吐き出す。
「みんな一緒ならいいよ。」
視界の端に彼女が無理やり映り込む。
頬を少し膨らませて、わざとらしく、不満げに唸る。
そんな彼女を見て、つい微笑んでしまう。
ほんとに、敵わないな。
「わかったよ。定期考査が終わったら、二人で何処かに行こう。」
学校帰りのいつもの道を、いつもの様にゆっくり歩く。
どんなに時間を引き延ばしても、ついぞ目的地に辿り着く。
バスの停留所でバスを待つ。ほんの数分待つだけなのに、何故か彼女はそわそわと身体を揺らしていた。
「ねえ、さっきの約束。絶対だよ?」
決して嫌だったわけではないけれど、何故か言葉に詰まってしまった。
返事をする前に、バスが停留所に止まる。
最後尾からほど近い、二人掛けの席に腰を落とした。
バスの揺れのせいだろうか、瞼を開けていられない。
隣に座った彼女のが僕に持たれかかった。
それを最後に、意識がまどろみに落ちていく。
ねえ、起きて。お願いだから。
身体を揺すられる感覚に、意識がゆっくりと浮上する。
「これから、ゲームをはじめまーす。大丈夫。全員知ってるやつだからさ。」
状況が飲み込めない。バスに乗ったところまでは覚えている。
彼女を見やれば、僕を揺すった体制のままの彼女と目がった。
動揺を押し殺すように、微細に揺れる瞳。
身体を起こし、辺りを見渡す。
全く知らない部屋。窓には鉄格子と木の板。
老若男女を問わない、見ず知らずの人たち。
いや、一人だけ見知った顔がある。
それによくよく見れば、僕が使っているバスの利用客ばかりか。
数は7人。僕らは、部屋の隅に押し込まれていた。
「一応聞いておくけどねえ。ロシアンルーレットって知ってる? 」
無邪気な子供のような声。先ほどの声と同じ人物だ。
視線を向ければ、彼はおもちゃをいじるような手つきでカチャカチャとシリンダーを回している。
深いフードを目深に被り、顔は見えない。
ただただ不愉快だった。なんのつもりだ。
テレビか何か分からないが、度を超している。
けれど、異様な雰囲気に飲まれて声が出せない。
僕らの中から、声が上がる。たまに見かける、鳶職のお兄さん。
一見怖そうな雰囲気だけど、彼が優しい人なのを知っている。
優先席でなくとも、座席を必要とする誰かに、率先して席を明け渡せる。そんな人。
「ふざけんなよ。冗談でも済まないことがある。俺らは帰るぞ。」
ほんとうに、ありがたいと思った。彼を見習いたい。
「ちょうど、一人多かったんだ。ありがとうね。」
乾いた音が室内に響く。
鳶職のお兄さんが、弾けた。
突然だった。突然すぎて、声が出ない。息すら、出来ない。
掠れた空気だけが、喉を鳴らす。
少し遅れて、彼女の目を塞ぐ。
誰一人として、動けない。声も出せない。
心臓の音がうるさい。背筋が凍る。手先が震える。
どこからともなく、カチカチカチカチカチカチと音が聞こえる。
みんながみんな、喋ることも忘れ、それを眺めている。
「それじゃあ、左から順番に行こうか。」
断続的に聞こえていた、カチャカチャという音が止まる。
左から、左からなら、彼女は5番目。僕は最後。僕は最後。
大丈夫。大丈夫だ。僕は、僕らは、大丈夫だ。
身体が冷たい。寒い。寒い。
身体が動かない。思考も動かない。
大丈夫、大丈夫と、ただただ頭の中で繰り返す。
きっと誰かが引いてくれる。僕らより早く。早く。
鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
1人目。不発。
なんでだ。
2人目。不発。
来るな。
3人目。不発。
来るなよ。やめてくれ。
4人目。僕の同級生。
僕は彼が嫌いだ。多分。彼も同じ思いだろう。
そんな彼が、僕を見ている。震える手で、乾いた唇で、涙に濡れた相貌で。
好きにしろ、恨んでくれ。蔑んでくれていい。
頼む、頼むから。お願いだ。なんでもする。だから。
腕の中から、
鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
彼は、一番思い切りが良かった。
依然として、手が震えている。唇は渇き、涙で濡れた相貌は、信じられないほど、赤い。
にも拘わらず、目をつむり、受け取ったそれを、顎下に宛がう。
数秒もしないうちに、引き金が引かれた。
シリンダーが空転する。
4人目。不発。
「なんでだ、なんでだよ! 俺でっ、俺でいい! お願いだ。やめてくれ。」
微かに、途切れ途切れに、空気を揺らす。彼の声。
僕は……
頭上から声が聞こえる。
「ねえ、いつまでそうしてるの?早くしてよ。」
いやだ。いやだ。いやだ。それだけは。
やんわりと、彼女に体を押された。
僕の隣から、カチカチカチカチカチカチと音が聞こえる。
鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
彼女は、僕の知らない表情をしている。
頬が強張り、目が見開き、唇が中途半端に開いている。
唇が、小刻みに動いている。
おねがい。おねがい。おねがい。
彼女もまた、銃口を顎下に宛がい、目をつむる。
そして、引き金が……引かれた。
5人目。不発。
僕の口から、息が漏れる。
極度の緊張と恐怖から解放されたからだろうか。
彼女の顔から、表情が消えた。
虚ろな相貌が、ゆっくりとこちらを向く。
最後に、僕の番だ。
ゆっくりと彼女に手を差し出す。
彼女と目が合った。
僕は思わず。微笑んだ。
彼女の手からそれを・・・・・。
乾いた音が室内に響く。
鈴の音の様な泣き声が------------。
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鈴の音の様な泣き声が聞こえている。
すいませんでした。