いじめの価値
兎にも角にも僕はこのHERO屋に依頼することに決めた。
知能や言動などはさておき、腕っ節にはかなり信頼できそうだ。これなら高橋も長野も難なく倒せるはずだ。
「ところで金はあるかい??」
彼の言葉で夢想から帰る。
金??なんのことだ??
「かね??」僕は素っ頓狂な声を上げた。
金のことを指しているのは何となくわかったが、この場で金という意味は不釣り合いであり、結局僕はこの場での「かね」の意味は理解できなかった。
「金だよ、か・ね。マネーのことだ」彼は親指と人差し指をくっつけてできた円を僕に向かい見せてきた。
「お金を…とるんですか??」
僕が聞くと、彼は乾いた笑い声をあげた。
「お前さ、俺をなんだと思ってるんだよ??」
何って…なに??
彼の問にどんな意図が隠されているのか考えていると、時間切れのブザーのように彼がしゃべり始めた。
「俺はさ、慈善事業やボランティアでやってるんじゃない。まっとうな商売でやってるんだ。そこに金を求めるのは当然だろう??」
商売人としては極々普通の、ヒーローとしてはかなり意外な答えだった。
彼がヒーローなのか、それとも商売人なのかと聞かれれば、現状では商売人と言わざるを得ない。なぜなら僕はまだ彼のヒーローらしさを見ていないからだ。
「いくらくらいあればいいんですか??」
僕がそう聞くと彼は指を五本立てた。
五千か…それくらいなら、確か財布にある。
そう思った時、彼は明確な金額を口にした。
「五万だ」
「五万!?」声がひっくり返った。高校生の僕には高額であり、リアリティーのある数字。
「あのなぁ……」
彼は驚いた僕に、呆れたように言う。
「日本にどれだけの人間がいると思ってんだ??いじめる奴もいれば、いじめられる奴だっている。それを助けようとする奴もいれば、傍観する奴もいるんだ。
その助けようとする奴は大抵、無償でボランティア精神で助けようとする奴ばかりだ。
ただその中で何人の人間が実際に助けられたんだ??
助けようとしてくれるだけで嬉しいという奴もいるかもしれんが、根本の解決にはなってない。
そんな人間があふれてる中で俺は根本から解決してやろうって言ってるんだ。金を取ってなにが悪いんだ??
そもそもお前が受けてるいじめって言うのは、五万円程度の価値を下回るような内容なのかい??
もしそうなら、気長に金八先生みてえな教師を探せばいいんじゃねえの??」
彼は言っている途中から鼻をほじり始めた。彼には僕のいじめのことなど、どうでもいいのだろう。
……冷静になって考えると彼の言うことはもっともだった。
五万円の価値を下回るいじめなどありはしない。百万あったって足りないものなのだ。
「わかりました。五万円払います」
僕が言うと彼はニヤリと笑う。
「毎度あり」
「ただ」僕は彼の言葉を遮って言う。
「後払いです」
「あぁ??」
「僕はまだあなたのことを信用したわけじゃない。あなたが確実にいじめを止めさせる自信があるなら構わないでしょう??」
「俺を試す気かい??」
一瞬の長い間があく。
「いいだろう。すぐにやめさせてやるさ。お前がなにをさせるかにもよるが三日ってとこかな」
「ありがとうございます」
「ただ、ぜってぇ払えよ!!ばっくれたらテメェ……」彼は身をこちらに近づける。
「払いますよ!!ちゃんと!!」僕は腰を引く。
「ならいいがな…こっちは日の飯代にも四苦八苦してんだ」
かれはぽつりと言った。