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HEROごっこ  作者: 大新楼
1/4

始まりは噂から



ええと、今日は何をされたっけ?確か、朝にドロップキックをされて、トイレで殴られて、財布をとられて、そのあと水をかけられて…

教室に入ったら机がなくて……


ああ、だめだ。思い出すと目からなにか出てくる。


ほろりと目から涙がこぼれる。

泣くなよ…!何泣いてんだよ…!

泣いてどうなる…!?抜け出せるのか?泣けばあの地獄から…?

もう一人の自分からの問い、答えはノーだ。何も起きない。泣いたところで何がどうなるわけもない。

自分の涙に気づき言い聞かせる。


そんなことわかりきっているのに、目からあふれ出る液体は一向に渇く気配がない。


僕は自分の顔をごしごしと擦った。


その時、すれ違いざま、夜の道路で、女子高生であろう二人組の会話が、僕の耳に遠慮がちに入ってきた。


「HERO屋って知ってる?」


「なにそれー?」

舌足らずな言葉が、その女子高生の外見上、低い知能であろうという予想に、拍車をかける。


「トモコいるじゃん?彼女、一回妊娠疑惑で騒ぎになったことがあるのね」


妙な語尾のアクセントに苦闘しながらも、話の内容に聞き入っている自分がいた。

HERO屋という単語に聞き覚えがないので、余計に気になっていた。

距離を離さないように、歩を緩める。



「あー、そんなことあったねー」


「でさ、相手の男がタチ悪くて、ヤクザの準構成員みたいな奴だったのね」


「うんうん、それで?」


うんうん、それで?

心の中で自分も相槌を打つ。

いつのまにか歩は完全に止まっていた。


「お腹の子は堕ろせって言うし、お前とは縁を切るとか、最悪だったみたいなのね?」


「その男最悪ー」


「でね、そこの仲介に入ったのがHERO屋。

これがまたすごいの!その男のバックにいたヤクザ黙らせて、円満に解決しちゃったんだって」


ヤクザを黙らせた?それが本当ならすごいことだが、そんなことが現実的にできるのだろうか?そんなのは漫画の世界だけだ。


「じゃあ今トモコどうしてるの?」


「その男と結婚したみたいよ」


「へー、で、そのHERO屋ってどこにあるの?」


「噂だと、深夜の東高校の科学室で受け付けてるみたいよ。あくまで噂だけどねー」


そこまで聞くと、僕は歩を再開していた。足の先は、東高校に向かっていた。




そこから歩いて、三十分、東高校についた。時刻は午前零時。

校門の前に立った時に、自分が今やっていることをなんとなく理解した。このまま校内に入ることは不法侵入。下手したら裁判ものだ。


そんなことはわかっているのに、校門を登っている僕がいた。

硬い門に擦りつけられ、体がひりひりと痛んだ。


僕は足音に注意し、ゆっくりと校舎に向かった。

ガラスの扉の取っ手をつかむ。引くがびくともしない。もう少し強めに引くが、手ごたえはなく、扉が開くことはなかった。

当然のことだが、扉の鍵は閉められていた。


普通ならそこで諦めるだろう。だがその日の僕は普通じゃなかった。


校舎裏に回り、開いている窓はないか、探していった。

探して十分足らずでそれは見つかった。


学校と外界をつなぐ穴が開いた。そこに足をかけて、校舎に入ろうとしたとき、窓枠に泥が付いているのに気がついた。

ということは、すでに、僕がここに来る前に、ここから校舎内に入った人間がいる、ということだ。僕の中の期待は一気に高まった。


僕は窓をよじ登り、校舎内に入った。

薄暗い(暗闇に目が慣れた僕にはそう感じた)校舎内には、無人の廊下と教室が並べられていた。人の気配は一切しない。だから恐怖心は全くなかった。

ホラー映画なんかは、そこに何かがある、という不確定な確証が恐怖心を煽るのだ。それがない学校は昼間の学校と変わらない。



勘を頼りに校舎内を歩き回り、科学室を探した。

三階に上がってすぐに、光が目に入った。

一室から、蛍光灯の光が漏れている。あそこだ。というか、あそこしかない。


僕は自然と駆け出していた。

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