《閑話休題》盾の騎士の評判とは
時は少し戻り光太郎が魔力切れで倒れている頃。アリスがMPポーションを求めてベントの冒険者ギルドに赴いた時の事だ。
(コータローさんの為にも、私に出来ることをやらなくちゃ……!)
光太郎がこの世界に来てからアリスの生活は目に見えて良くなっている。収入面は元より3年前から一人暮らしをしているアリスにとって、自分を獣人だからと蔑んで見ない光太郎との日常会話はアリスの心に彩りを取り戻してくれた。おはようやおやすみといった普通の挨拶は勿論、獣人の彼女に『ありがとう』と感謝を述べてくれる稀有な存在の光太郎。そんな彼にアリスがなつくのも相当早いものだった。
ちなみに光太郎はたまにアリスの頭を撫でたりするのだがアリスはそうする時の彼の手がかなり好きで、撫でられている時は終始顔のにやけが止まっていないことに本人は気付いていない。
そんな彼女は度々思う事がある。それは自分は光太郎の役に立っているかという疑問だ。仕事も最初は自分が教えたとは言え生産力の大幅アップは彼のお陰だし、今回の庭の拡張も彼がいないと出来なかっただろう。最近はギルドへのポーション販売も彼が代わってくれているし、自分は今何も出来ていないんじゃないかと不安に思う事が増えていた。
ただし彼女が気付いていないだけで光太郎はアリスに相当な感謝の気持ちを持っている。常に家の中は綺麗にしてくれているし、何より彼女の料理が光太郎は大好きだ。アリスがいるから自分は頑張れる、光太郎は常にそう考えていた。
「すみません、MPポーションを1ついただけますか」
「少々お待ち下さい」
売買担当の受付嬢が奥に下がったので少々待つ事になる。そんなに時間は掛かるまいと思いその場で待っているとカウンターの上にポーションが置かれる。
「ほらよ、今日は売りにきたわけじゃないんだな」
「……ジャンさん?」
それをもってきたのはさっきの受付嬢ではなく、どっしりとした体格の男で、このベントの街の冒険者ギルドのギルドマスター、ジャン・ロバートであった。
「滅多に表にでて来ない貴方が珍しいですね?」
「お前さんに話があったからな」
落ち着いた雰囲気で熊を想像させるような彼は、普通に話すだけでちょっとした威圧感を出している。
「話とは?」
代金を渡しMPポーションをローブのポケットにしまいながらアリスは聞き返す。
「お前さん方、《盾の騎士》に肩入れするつもりかい?」
「……さぁ?どうでしょうね」
他人が聞いたら意味深に聞こえるかもしれないが、正直アリスもよく分かってはいないのだ。何故ならそれを決めたのは光太郎であり、彼女はそれに乗っかっただけだからである。
「悪い事は言うつもりはないが、騎士団に取り入るつもりなら他を当たった方がいいと思うぞ?」
「それはどういう理由でかしら?」
「単純に騎士団内で評判が宜しくないのさ。何でも落ちこぼれ扱いされてるんだとか」
あくまで一般論はなと付け加える。
「まぁ俺は別に落ちこぼれだとは思わんけどな」
「そうそう!しかも結構可愛いしね!」
そこへこのギルドを拠点としている冒険者のナットが割り入ってきた。彼は若くお調子者に見えるが、レベルも高い手練れの冒険者だ。
「ナット、急に割り込んでくるな」
「えー、でも盾の騎士の話でしょ?俺も交ぜてよ」
そう言って他の2人の返答も待たずに彼は話し出す。
「前に1度手合わせして貰った事ぎあるんだけどさ、全然こっちの攻撃が通らないの。凄いよね」
「そりゃあ伊達に《盾の騎士》を名乗ってる訳じゃないからな。うちにいる冒険者連中じゃ束になっても彼女にダメージは通らないさ」
(えぇ~、そんな人が家に来てたんですかー!?)
顔には出さない様には気を付けつつも、アリスはとんでもない人物が来訪していたことに驚いていた。
「ただ攻撃手段が無いのがねぇ……可愛いんだけど」
「可愛いは関係無いだろ。まぁそこが騎士団内で落ちこぼれと評されてる所以だからな」
「武器とか持てないんですか?」
「元々魔力量を買われて騎士団入りしたらしいよ。でもシールド魔法以外全然使えなくてさ。武器なんてお察しだよ」
「そのシールド魔法のみで二つ名持ちになってんだから、魔力量やその精度は半端無いわけなんだが」
どうやら彼女は防御に一点特化し過ぎて評価が悪くなっているらしい。とは言え騎士団に所属している事に変わりはなく、それこそ騎士団内の事は自分達には関係無いのでアリスはそれ以上気にしない事にした。
「あ、でも何故私達が《盾の騎士》に肩入れすると思ったんです?」
「ん?あぁ、本人が嬉々として話してくれたからな。最初はここにポーションを買いに来て、そこからお前さんの事を教えたんだよ。その後出てってしばらくしたら嬉しそうな顔で戻ってきてな。『いやー、本当にアリスさん達の情報を教えていただきありがとうございました!これまでで1番の買い物が出来ましたよ』だとさ。それにまた何か売るつもりなんだろ?何かまでは聞いてないがそれも話してたぜ」
「本人は直接的には言ってなかったけどさ。色んな所1人で回ってるみたいだけど、どこも彼女に売るのを渋ってるみたいだね」
(人間同士なのに色々しがらみがあるんですね)
獣人である自分に売ってくれない、そんな経験は何度もある。ただ人間同士で何故そんな事になるのか、アリスには理解出来なかった。
「わかったわ。情報ありがとう。ちなみに今度からはハイポーションも作るつもりなんだけど買ってくれるかしら?」
「えー本当!?買うよ、買う買う!ハイポーション有るだけで全然違うもん」
「何でお前が応えるんだよ。まぁこいつの言う通り回復魔法を覚えていない冒険者にはポーションは必須だからな。うちに所属してる連中にハイポーションが行き渡れば生存率がかなり上がるのは確かだ。買わせて貰うよ」
「ありがとう、それじゃあまた」
ハイポーションが出来れば売る算段はたった。だがその前に盾の騎士の評判を光太郎は知っているのか。知ったとして彼はどう判断するのか。
期待と不安を胸に、アリスは光太郎が待つ家へと足を速めるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
感想などいただけるとありがたいです。




