鬼女
昔、夫に先立たれた女がいた。
女は悲しみの余り鬼女と化し、山中に庵を結んで時折訪れる旅人を喰らっていた。
時には一夜を共にした男を喰らうこともあった。
ある晩、庵の戸を叩いたのは亡き夫に生き写しの男であった。
女は何もすることが出来なかった。
手すら触れず、男を生きたまま送り出した。
女の庵が討伐の火を受けたのはその夜。
夫に生き写しの男は都で噂の鬼女の様子見をしたのであった。
女は射かけられた火矢を消そうともせず、庵の中で自害して果てた。
まだ煙燻る庵の跡、討伐の大将から賛辞を賜りながら、様子見をした男は己の前世を思い出した。
妻を手に掛けたと悟った男は、止める周囲の手を振り切って、己もまた自害した。
事情を察した大将が、庵の跡に二人の菩提を弔う寺を建立させたのは後のこと。
因果は巡る。
来世で二人が邂逅を果たしたかどうかは解らない。