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夢見がちなお嬢ちゃん

「弱き者の守護者ベルガスさんにお会い出来るなんて思っていませんでした!お会いできて光栄です!」


 頭を下げると彼女のでっかいおっぱいが目の前で深い谷間を見せてるが気分は最悪だ、俺みたいな凡人にそんな大層な二つ名は似合わねぇ、俺はあくまで気に入らねぇからやってるだけで、そんな守護者なんてご立派な事をやってねぇ。


「あ~。盛り上がってる所ワリィが俺ぁただ、自分が気に入らねぇし納得できねぇからやってるだけだ、そんな大層な二つ名を付けてもらうような立派な志なんて、これっぽっちもねえよ」


 そう、俺は気に入らないからやっている、ガキ共がちゃんと大人になって恋も出来ねえ今が嫌いだ、女共が忙しさに笑顔を忘れ女として胸を張れねえ今が嫌いだ、そんな女好きな俺の軽薄な夢のガキ共がきちんと大人になって、いい女になって笑顔で笑いながら胸張って乳を揺らせん世界が気に食わねぇんだ。


「そんな事ないです!小銅貨の冒険者の歌は何個もあるんです、それは全部事実だって聞きました!」


 俺の気持ちを無視して、目の前のお嬢ちゃんはやたら熱っぽく頬を染めて胸の前で手を組んで妙にくねくねしながら瞳を潤ませて否定して、自身の聞いた歌の内容を説明してみせた。


「病気の母親のを思う物売りの少女ために痛み止めの薬草を昼夜問わず駆け抜けて取ってくる話とか、親が残した借金で奴隷になりそうな少女の為にワザと財布を落として拾ってくれたお礼と言って売れば大金になる宝石を恵んだり、冒険者に成らざるをえなかった姉妹が森で魔物に襲われているのを颯爽と助ける、あ~、本当に英雄歌みたいな殿方が居るなんて~、しかもそんな方にお会いできるなんて!」


 ん?最後が身に覚えがねぇぞ、多分最初のはリリーナだろ?次はレーシアだ、その姉妹ってやつが全く分からん。


「なぁお嬢ちゃん、その酒場歌を歌ってる草原の民っつ―ヤツの名前を教えてくれねぇか?」

 

 良く分からんがきっとそいつは誤解をしてる、リリーナん時は、国の急ぎ仕事を頼まれて終わった後の帰り道に偶然アイツのお袋さんの病気に効く奴が生えてから、ついでに採ってきただけなんだよな。


 レーシアの時は確か魔物の巣を見っけて報奨金代わりに宝石貰って、懐があったけぇからしこたま飲んで酔った勢いでアイツに渡しちまって、次の日酔いが冷めてからすげー後悔したんだがアイツが喜ぶ姿に返せと言えんかっただけだ。


 だからその姉妹って奴らも吟遊詩人が好意的に誤解してんだよ、女ってのは皆こういう英雄歌みたいな話が大好きだからな。


「名前ですか?アミーラさんというお名前の方ですね、とっても綺麗な声でその方もベルガスさんに褒めてもらったから吟遊詩人を目指したっておっしゃってました、弱き者を救い芸術まで嗜むなんて素敵です!」


 名前を聞いただけでやたら細かい情報と見当違いな妄想をぶつけられ、お嬢ちゃんの勢いにちょいと引いちまった、なんだか思い込みのすげー子だしあんま馴れ馴れしくしない方が良いかもな。


「アミーラね、どっかで聞いたことある名前だがどこだっけかなぁ……」


 喉奥に大口の骨でも引っかかったような不快感、思い出せそうで思い出せないなんとも言えねぇ感覚でもやもやする、確かにどっかで聞いたことがあるような気がするんだよな。


「あっ!」


「どうした?なんかあったか?」


 いきなりでかい声を上げられたので、頭の中のアミーラとか言う吟遊詩人の件はとりあえず置いといて、目の前で妙に深刻な顔しておっぱい揺らしてるお嬢ちゃんに注目する。


「名前です、私の名前言ってませんでした!」


 思わず力が抜けた、確かにさっき聞いたが確かに聞いてなかったなぁ、このお嬢ちゃん悪い子じゃねぇんだがどうにも話してて調子が狂うな、なんつうか振り回されてる気がするな。


「マーリンです、高名な小銅貨の冒険者様にお会いできて光栄です」


 にっこり笑って名前を伝えられたが、そんな高名でも高尚な思いもねぇ俺はメーリアのお説教食らうのとも違うケツの収まりの悪さを感じる。


「あー感動してる所わりいが、俺はそんな立派なことしてねぇよ、むしろその薬草の話は別の仕事のついでで偶然拾ってきただけだし、宝石の件だって酔っ払って間違って渡して後ですんげー後悔したんだぜ?」


 自分をデカく見せる気はない、そんな虚像って奴は持ってるだけで後悔するようなもんだ、後で痛い目会うの自分だから地に足の着いた評価の方が絶対にいい。


「謙遜ですね!分かります!流石はベルガスさんです!」


 分かってねえええええ!オメェは何も分かってねえよ!その『私は全部知ってるのよ』みたいなドヤ顔浮かべてウンウン頷くのはやめてくれ、褒め殺しってのがこんなに辛いなんて俺はこの歳になるまで知らなかったぞ……。


「ちげえよ!俺は二つ名でスケベのとか女好きのベルガスなんて言われてんだよ、だからそのやたらご立派な二つ名は全部勘違いってやつさ」


 言いながら不躾な視線で目の前にたわわに実った立派なおっぱいガン見してやる、大人しい娘さんだとばあさんが言ってたし、これで少しは現実に気が付くだろうさ。


 俺はそんなお行儀のいい英雄様なんかじゃねぇ、ただの年食っても落ち着かねぇ根無し草の冒険者なんだよ、このお嬢ちゃんが言うような立派な奴は、俺が軍に居た時の後輩のようにしっかり騎士をやってるさ。


 俺はそんな堅苦しい生活が出来ねぇから、こうして冒険者みてぇなヤクザな商売やってるし、朝っぱらから酒かっくらって幸せ満喫してんだよ。


 まぁこれで少しは分かったろうさ、とりあえず目の前で湯気の勢いなくなってきたスープが冷める前に食っておこう、折角のばぁさんの料理を不味くすることねぇからな。


 そう思ってお嬢ちゃんから視線を外し、目の前に置かれたスープを口にする、ん~いいねぇ、この塩加減も香草の香りも中々俺好みだ、相変わらずカルカばあさんの料理は酒が進む良い味付けだわ。

 

「えっと、もしかして私の胸、触りたいんすか?」


 相変わらず美味い飯だと考えながら食ってた俺に、マーリンがちょっと恥ずかしそうに聞いてきた台詞が予想外過ぎて スープが喉の奥で変なところに入っていくのを感じた。


「ブホォッ!」


「もう!お行儀悪いですよベルガスさん、ちゃんと落ち着いて食べてください、ご飯は逃げませんから」


 マーリンが仕方ないなぁみたいに笑い、手の掛かる子供を見るような表情を浮かべて俺がテーブルに零しちまったスープを拭いているが、このお嬢ちゃんは自分が何言ってるのか理解してんのか?


「何いってんるんだおめぇ!嫁入り前の娘っ子が出会って直ぐの男に乳揉みてぇかなんて聞くんじゃねえ!オメェの親御さんが聞いたら卒倒するぞ!」


 思わず怒鳴っちまったが、会話の中で掛け合いの冗談で言ってんならともかく、そんな風に聞いたりするのはさすがにまずいぞ、コイツ男との付き合い方ってのをまるでしらねぇんじゃねえか?


「ベルガス、騒ぐんなら他所でやんな、うちはそう云うのは夜しか認めてないよ」


 カルカばあさんが羊の肋をテーブルに置きながら呆れたように声をかけてくる、とりあえず誤解で殴られるのはゴメンなんで、とりあえず事情をばあさんに話す。


「ちげえよ!この娘っ子があんまりにはしたねぇ事を言うから、男として叱ってただけだ、アンタの店で騒ぐなんておっかねえ事はしねえよ」


「え?ベルガスさんは女性の胸が大好きだってアミーラさんから聞いて居ましたので、もしかしたらと思って聞いてみたんですが、お気に召しませんでしたか?」


「いやその立派なもんはお気には召すがよ、それを揉みたいかどうかを本人に聞くのは流石に可怪しいぞ?」


 不思議そうに聞いてくる目の前の娘っ子、コイツどっか絶対にずれてるわ。


「あー成る程ね……、マーリン!コイツは私が相手してるからアンタは片付けを頼む」


 ばあさんは何かを納得したように顔に手を当てると、マーリンに片付けを指示する、どうやら何か訳ありのようだな。


「あ、はい、分かりましたカルカさん!それじゃベルガスさん、またお話しましょうね!」


 そう言いながら彼女は裏へ向かって小走りで消えていった、さっきまでの騒がしさの代わりに羊の肋の美味そうな香りとカルカばあさんの少し疲れた顔が目の前にある。


 どうやらコイツはなにか事情がありそうだと、目の前の飯が冷めるのを諦めてばあさんに詳しい事情を聞いてみることにした。

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