食事処の新人さん。
ガキ共にもみくちゃにされた後、俺は馴染みのカルカばーさんがやっている食事処に向かって歩いて行く、ここら辺は職人街で、ばーさんの店は量が多くて酒に合うような塩っ辛い飯を出すからお気に入りだ。
「しっかし、職人街でも男が減ったな……」
前と変わらず賑やかで活気があるのは変わらねぇが、気が付きゃ今の王都は職人街の男が減っちまった、ここら辺を歩くと下働きの小僧が減って、最近は様々な年頃の女が代わりに増えたと感じる。
力仕事も多い職人てのは男の職場って言われているが、大狂乱の所為で村出身のモンは故郷に引っ込んだり軍に残ったりした、なんとか仕事を熟そうとするとそうなるのは分かるんだが足りねぇ力仕事の人手を女子供がやるってのはいいもんじゃねぇ、元々女はそう重くねー材料の選別や仕上げ商人の繋ぎや計算をしてたんだ。
さっきの物売りのガキ共ももう少し大きくなれば職人街の手伝いや商人街で荷運びの仕事なんかをやるだろうな、店番や売り子なんてのは人気の仕事でガキ共には絶対に回ってこない。
能力や経験があれば雇う方は選んじまうのは納得はできる、未経験のガキ共に出来る事なんてそう多くはないし、教える余裕を維持出来てる所なんざ稀になった、そうした力仕事をする女子供の中にゃ無理が祟って大きな怪我をしちまったり、体を壊しちまうような奴も居るんだよ。
それでも職人や商人の下働きや荷運びでもまだマシな方だ、そいつらはなんとか口を利いてもらえるコネを持ってるし真面目にやりゃ少しは仕事を仕込んでもらえる、上手くいきゃより高度な仕事を任せられたりする。
だが親を無くした孤児共はそんなコネすら持たねぇ奴も居る、女だてらに冒険者みてぇなヤクザな商売始めやがって魔鼠や毒虫が居るような危ねえ下水道確認の仕事で命を落としたり、台車でゴミを集めて呪い師のやっているゴミの処分場に持っていく罪人仕事でもやるようになっちまう。
「本当はちゃんとガキ共に勉強させて、女仕事と男仕事に分けれりゃいいんだが、如何せん男の数が少ないのがどうにもな……」
大狂乱の所為で当時軍に居た奴らは五割近く死んだらしい、新人だけじゃなく全体で五割ってのは相当痛い、穴を埋めるために徴兵期間が過ぎても軍に残る奴も多く居て王都も村も男手が足らねえ、その分を女子供がなんとか埋めて、野郎が一気に減ったせいで種も減って余裕も無いから最近は赤ん坊も減ってる。
「こういうのを八方塞がりって言うのかね本当にいやんなるぜ……、女ばっかりに苦労掛けて男どもは魔物と戦ってさっさと死んじまう、呪ってのはこんな遣る瀬無ぇ世の中を望んでるって聞いたが何がしてぇんだよ……」
昔、神社で聞いた呪の話を思い出す、奴らは女ばっかの世の中を望んだりハーレムとか言う一人の男が女を何人も囲う様な事がしたいんだとさ、じゃあどうやって生活に必要なもんを作ったり畑を起こしたり狩りするんだよって、俺が洟垂れのクソガキの頃に疑問だった答えが今の有り様って訳だ。
「こんなもん誰も幸せじゃねぇよ……、ふざけるなよチキショウ……」
男手の少ない村を守る為に少しでも早く駆けつけて、異常を見つけ冒険者として間引きをする、やばそうなら少しでも早く軍に知らせて、村が被害を受ける前に軍なり騎士団なりを派遣させる。
自分がやっている事は無駄じゃねえしそれで助かる女やガキが居る、それでも呪は許せねぇし自分の出来る事の少なさに泣きたくなる時がある。
「あークソ!色々考えてたら暗くなっちまった、ここはやっぱりバルンバルン揺れるおっぱいでも見て癒されるしかねーな!あ、ムチムチの尻でもいいな!」
ガキ共の事を考えてたら少しばっかり感傷的になりすぎちまった、こう言う時こそ酒をかっくらって女の揺れる乳で癒されるのが一番だ。
俺が暗い顔していると周りの奴らも暗くなる、だからスケベで馬鹿な冒険者ベルガスが必要なんだ、女共は男が減ったせいで男に求められる事が無くなって、女としての自信も失ってやがる。
これくらい不躾な位が丁度良くて、おめえぇは美人でいい女だから胸張って笑って生きろって言ってやれる。
クソ真面目にしてたらその気にさせちまうが、これくらい適当でいい加減なら自分も捨てたもんじゃねぇって思ってくれるのさ、人間は女と男二つ居てやっと真っ当に生きれるように神様が拵えたんだ、ただえさえ男が少ねえのに女に自信を失って自棄になるのは見てらんねぇよ。
そんな事をウジウジ考えてたら、気がついたら店の前にたどり着いちまった、よっしゃ気分入れ替えて一発いくか!
「おはようさん!ムチムチのバルンバルンの新人が入ったって聞いたけど、カルカばーさんそいつはマジか?」
暗い気持ちを切り替えるように店の敷居を跨いた瞬間、俺は自分でも中々酷いと思える挨拶をする、この店じゃいつも大体こんなもんでやってるので、ばーさんの方も慣れたもんだ。
「朝っぱらから元気だねぇスケベ小僧、新人なら入ったが未婚のおぼこだからね、ちゃあんと加減するんだよ」
どうやら新人は若い娘らしいそれなら適当にからかう程度にしておかんとな、やり過ぎて男が怖くなったら元も子もねぇ。
「へいへい、せいぜい遠くからねちっこく見守るだけにするさ」
勝手知ったるばーさんの店だ、朝の食事の時間が終って閑散とした店内を通り抜け適当にカウンター近くのテーブル席に腰を下ろすと、あっちも手慣れたもんで何も言わんでもワインを出してくれる。
「で、今日は何にするんだい?肉は生のうさぎ、あとは羊と豚の塩漬けがあるよ、魚は冬だから掘りで取れる大口しか無いね」
大口は骨が多いからあんま好きじゃねえんだよ、やっぱここは温まりそうなスープと酒の肴に腸詰め辺りを頼むかね?
「んじゃ腸詰めがあればそれで、なけりゃ羊の肋肉を胡椒多めで、それとなんか腹に溜まりそうなスープ頼むわ」
「あいよ、腸詰めは切れてるから羊の肋を出してやるよ、スープはうさぎの肉団子と根菜の煮込みだけどそれでいいかい?」
スープはこの時期なら陳物になるのは当然だわな、葉物食いたきゃ別の店行ってるさ。
「それでいいぜ、後サービスの酢漬け野菜はいらんからな!」
ばーさんは世話焼きだから、俺が野菜をあんま食わねーからってやたら酢漬けのウリやら葉物やらを出してくる、残すと文句をグチグチ言うからしゃあねーから毎回食うんだが、俺はどうもあいつらが苦手だ。
「全く、酒と肉ばっかりじゃ体壊しちまうから気を使ってやってるのにアンタは贅沢たね、しょうがないから付け合せは今日はパンにしてやるよ」
「おう、ソッチの方が俺も嬉しいぜ」
ぶつくさ言いながらばーさんが厨房へ入っていく、あのばーさんは山の民だからナリは小せえが、切れるとここらの喧嘩っ早い職人達が恐れる程におっかねぇ。
山の民の女ってのは普段はそうでもねぇが、一度切れると怒りが収まるまでど偉い大立ち回りをやりやがる、前に一度ばーさんが切れた所を見たが鉄鍋とお玉で男三人をボコボコにしていた。
もちろん男の方もばーさん相手だし遠慮はしてたが、途中でその余裕もなくなって最後は地面に頭を擦り付けて謝ってた。
この店にゃばーさんのカラッとした性格が好きで通う奴も多いから、男の方を持つ奴が居なかったのもあるが、あれを見てからこのばーさんを敵に回すのだけは止めておこうと俺は思っている。
そんなばーさんの無双っぷりを思い出しながら、出されたワインをちびちび舐めてると、熱々だと言わんが如く湯気を立ち上らせるスープがカウンターに出て来た、それを若い娘がこちらに持ってくる。
「うっほ、噂通りのバルンバルンなおっぱい様じゃあないか!」
中々ナイスな乳揺れ、ばーさんは毎度いい人選をするぜ!コイツはいい目の保養になりますなぁ。
「あ、あのっ、う、うさぎのスープでよかったですか?」
俺がニヤニヤと縦横無尽に揺れるおっぱい様を拝んでいると、少しくすんだ茶髪のお嬢さんが怯えるように注文が正しいか聞いてきた、これはどうやら視線のせいで無く、俺自身の格好が問題らしいと何となく無く分かった、冒険者ってのは仕事帰りの格好って、素人の娘さんにゃ少し刺激が強すぎるんだよ。
洗ったり浄化しても皮と鋼で拵えた鎧にゃ魔獣共の爪痕がそこら中にあるし、かなり付き合いの長い厚手の片手半剣は鞘に入れちゃあるが殺しの道具然としている風貌だ、兵士や衛兵みたいなのが持ってるお行儀良い奴と比べたら随分汚ぇし、ぱっと見はおっかなく感じるわな。
「あんがとよ、俺はばーさんトコの常連でベルガスつー冒険者やってるもんだ、アンタの名前も良かったら教えてくれねーか?」
なるべく怖がらせないように笑顔で言うが装備以外にも俺自身が強面らしいから、この店で初対面から打ち解けた相手ってばーさんしか居ないんだよなぁ。
だから今回もダメだろな、なんて思っていると目の前の少女は、やったらキラキラした明るい笑顔で俺に予想外の返事を返してきた。
「え……、あ、貴方が小銅貨のベルガスさん?!弱き者の守護者!?お店に来る草原の民の吟遊詩人が歌ってる冒険者様?!」
なんで勝手に酒場歌になってんだ!ちゅうかなんだその妙にカッコつけた二つ名は!俺の二つ名はスケベのとか、女好きのだったはずだぞ?
興奮するメーリアと同世代と思われるお嬢さんの発言に、さっきのガキ共がチーズに向けたような視線を浴びながら、誰がそんなアホな詩をここでやってるのかを必死になって考えてみた。




