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一日の予定

「全く、あんなギャアギャア言ってるとギルドの若い連中も手を出さんよなぁ、いくら器量が良くても気立てがあれじゃ、男ってのは気が休まらんからなぁ……」


 あいつは母親に似てなかなか別嬪なんだが変な所まで母親に似ちまったなぁ、まぁ恋でも知れば母親と同じようになるのかもしれんが、最初の一歩を踏み出す勇者がギルドに居る事を願うしかねぇな……。


「アー!やめたやめた、俺はアイツのオヤジじゃねーんだ、他所様んとこの娘の婚期なんざ気にしてたら禿げちまう、とりあえず汚れ物で冷物の身体を何とかすることから始めるかぁ」


 一先ず年頃の娘を持つオヤジの様な思考を横に追いやって、戻って来いと言われた夕方までの予定を頭の中で組み立てていく、こういうのって予定を考えてる時が一番楽しいんだよな~。


「ちゅうてもだ、まだ朝の八時だし公共浴場でひとっ風呂って訳にも行かねぇんだよなぁ……、しゃあねぇ腹ン中が空っぽだし、まずは飯食って酒で温まる、そして開いたばかりの風呂で一番風呂と洒落込むか」


 空きっ腹で飲むと夜通し走ったせいで寝ちまいそうだし、やっぱ腹に何か入れてからの方がいいだろう、酔っぱらいに大家の女三世代は容赦無い、鬼婆は冬場に冷たい水ぶっかけるし、娘はそんな状態で容赦なく締め出す、孫は翌日帰ってきたらガミガミお説教だからな。


「どーすっかなぁ、あ!そういや門番の奴らカルカばーさんトコにムッチムチの新人が入ったって聞いたし、その新人とやらのおっぱ……、イヤイヤ顔でも拝みに行きましょうかね、グヘヘ……」


 どこで食うかを考えていた時、今朝会った門番連中が言ってたのが頭の中に蘇った、やっぱ新しい子が入ったって言うなら常連としては顔出さねーとな!決して、門番連中がムチムチとかバルンバルンって言ってたからじゃないからな?


 そうして俺は今日一日の予定を立てて行動する、世は何事も平和とまでは言わねーがそれでも自身の周りにはそれなりの幸せがある、だとすれば少し位おすそ分けしても良いだろう、その一つをするために俺は路上で、生活に使いそうな雑貨や旅人なんかに水を売る見窄らしい格好をした少女達に声をかける。


「ようガキども!今日も元気に物売ってるか?」


 彼女達は大狂乱で親を無くしたり家族が病になっている貧しい家庭の娘たちだ、男が少ない世の中なので男の子は裕福な家庭や貴族(特に軍人)なんかの引き取り手があるが、女の子は引き取られず、こうして路上の物売りをやって何とか日々を暮らしている。


 中には人様の財布を狙って奴隷落ちしたり、家族の薬代のために自分を売って奴隷落ちする奴も居る、いわゆる王都の最底辺と言うやつだ。


 国や神社でも預かったり里親を探したりもしてるがなにせ数が多い、それに親から離れたがらんガキだって居るし、他の家族を置いて自分だけ逃げるみたいに感じるらしく、中々減る気配がねぇ。


 逆に最近は穢れが増えたせいで、病も収まる気配もねーから王都のスラムは増える一方だ、俺が徴兵で王都に来た頃はこんな生活をするガキは居なかった、これも大狂乱の残した爪痕だ。


「あっ!ベルガスだ!みんなーベルガスが帰って来たよー!」


 この中の纏め役で一番年嵩の少女、リーリンが俺の声に気が付いて騒ぎ出すと、彼女の声に数名の少女達が寄ってくる


 このガキ共は俺に依頼をするお得意様って奴だ、しょっちゅう色々面倒なことを行ってきやがるめんどくせぇ奴らだが、俺以外の冒険者に頼むのは正直厳しい金銭状況だ。


 だからある意味で冒険者ギルドでは、俺はこいつらの専属みたいな立場になっている。


「ようお前ら、ミーシャは居るか?あいつから依頼を受けた薬草を取ってきてやった、それとコイツはお前らにお土産だ、みんな分けて食えよ?」


「ありがとうベルガス!おお~、チーズだ!おっきいチーズだ!」


「やったぁ!今日は病気のおねーちゃんに美味しいもの食べさせてあげれるよ-!」


「チーズって一ヶ月ぶりっ、ベルガス愛してるぅ!!」


 ガキ共が無邪気に騒ぐのは、こいつらの稼ぎじゃチーズは買いにくいせいだ、王都の周りでも作ってはいるが乳として消費される量が多く、作ったチーズも各村で消費されてしまうせいで王都じゃ輸送代が嵩んで割高なんだよ。


 依頼で行った先のライルは、大きな牧草地があって酪農をしている村だったから思った以上に割安な値段で譲ってくれた、だからガキ共のお土産に丸々一個買ってきたって訳だ。


「へいへい、でもよぉユーミル、チーズ一個で貰える女の愛ってのもどうかと思うぜ?そういう言葉は惚れた男の為に取っておいて、いざって時に男が逃げれんようにとどめ刺す時に使うのがいい女ってやつだ、ちゃんと覚えておけよ?」


「それなら問題ないよ!私ベルガス好きだもん!」


 一番チビのユーミルが俺に飛びつきながらそんな事を言ってくる、良く笑いよく泣く少女で病気がちな姉を支えて何とか生活をしている六歳のガキだ。


「馬っ鹿!少なくとも十年は早えーんだよ、俺様がガキに手を出す訳ねーだろ?そーゆー台詞は少なくともメーリアのおっぱいを越えてからだ、俺は女のおっぱいがバルンバルン揺れるのが好きだからな」


「うわー、相変わらずベルガスってスケベだね-」


「あははっ、ふられちゃったねユーミル、ベルガスは赤ちゃんみたいにおっぱい大好きだから仕方ないね」


 愛してると言いながら苦笑いで呆れるユーミルと人を赤ん坊並みの頭だと笑うリーリン、二人共、目の前にあるチーズが嬉しいらしく、何時もより上機嫌で喧しく元気だ。


 こういう村と王都の需要の違いを利用した小遣い稼ぎみたいな事ってのは、色んな所へ行く冒険者の楽しみの一つだが、あんま派手にやり過ぎると商人共に嫌われる。


 やり過ぎた馬鹿は護衛の仕事を断られるなんて事もあるが、元々買えんようなガキ共相手だから、商人共の財布から金を掠め取る訳ではないので奴らも文句は言わねぇ、こん位は商人連中もよくやる常連様への付届けってヤツの一つだと思ってくれてるようだ。


 俺にゃ世の中を変えるのは出来ねぇが、弱い奴らの味方になってやるくらいは出来る、王都に物売りのガキ共を常連にして依頼を受けてやる珍しい冒険者が一人くらい居てもいいだろう?


「ベルガスっお帰り!」


 嬉しそうな声と共にもう一匹ガキがへばりついてくる、今回の依頼主のミーシャだ。


「たでーま、ミーシャ、コイツがお前に頼まれた咳止めの薬草だ、お代は約束通り小銅貨一枚な」


「ありがとうベルガス……、でも、本当にいいの?この薬草って結構高いって薬師のおばあさんに聞いたんだけど……」


 どうやら約束した薬師のばーさんに値段を聞いたのだろう、心配そうに上目遣いでこっちの顔色を伺いやがるこいつらの視線が俺は嫌いだ、ガキのくせに変な遠慮なんぞしやがるのが気に喰わないので、自分が気持よく酒を飲むためにしゃーねぇから説明してやる。


「あ~、確かに咳止めの薬は銀貨一枚はするがな、実は半分以上は薬師の手間代なんだよ、薬師のばーさんは、コイツ一個で売ってる小瓶二つ半は作れるんだわ、だから誰も損はしねーんだよ」


 仮にギルドで薬草だけ頼まれりゃ、乗り合い竜車の代金を考えて小銀貨一枚は頂くが今回はライル村の依頼のついでに採って来たもんだ、だったらギルドの依頼じゃねぇし俺が採って来たもんを誰にやろうが売ろうが勝手だ。


「ミーシャは安く薬草を手に入れて、俺は食事に安酒が一杯付く、薬師のばあさんは薬瓶半分の得をする、ほら誰も損しないだろ?だったら小銅貨一枚でいいんだよ、俺が採って来たもんにどんな値段を付けようが、そいつは俺の勝手だろ?」


「それはそうだけど……、でもそれじゃ、私が一番得してる……」


 俺の説明を聞いてもミーシャの顔は笑顔を見せず、むしろ自身が望んだ事が悪であるようにコイツはへこんでしまう。


 あー全く面倒なガキだ、妙に金の価値や計算なんぞ覚えたせいで良心が痛むんだろうな、それ自体は悪いことじゃねーんだが、それで自身の幸せを手放して不幸になる必要なんてどこにもねーんだぞ?


「それにソイツはどーせ薬師のばーさんとトコで薬に交換してもらうんだろ?だったらお前が頼んだから咳止めがもう一個と半分増えるんだ、他の必要な奴の分にな、ソイツは誰かの為にミーシャがしてやった事だろ?」


 そう言ってミーシャの頭を撫でてやる、詭弁かも知れないが世の中はそれくらい単純で良いと思う、複雑に考えりゃ確かにギルドの正式の依頼じゃない横紙破りだし褒められたモンじゃないだろうさ、だけどそれがガキ共を苦しめる理由になるのは俺はどうしても気に入らないだけなんだよ。


「ベルガスーありがとう!大人になったらベルガスにおっぱいいーっぱい揉ませてあげる!」

 

 ミーシャが小生意気な事を言いながら俺に飛びついてくる、こいつら飯食えないから細くて骨ばかりだ、こんなんじゃヘタするとメーリア並みのまな板確定しちまうだろうな。


「あいよー、とりあえず十年後に期待して待ってるぜ、でもよ、せっかくの約束がまな板だったら悲しいし、俺が揉みまくる未来のおっぱいを育てる為に、また土産持ってきてやるから、しっかり食っておっぱいも身体も大きくなるんだぞ?」


 俺の未来の為に、ガキ共のおっぱいに投資するのも悪く無いだろうと気紛れで始めた事だったが、どうやらこいつらの現状を何とかしたいのは大なり小なり一緒らしい。


 金のないスラムのガキ共が出した依頼に受付嬢の連中はある言葉を口を揃えて言いやがる、その所為で俺の仕事はひっきりなしやってくるようになった。


『小銅貨一枚でベルガスに頼め、アイツなら引き受けてくれる』


 奴らがそう言うって事は俺の行動をギルド長は知ってて黙認してるってこった、もちろん全員が同じ事したらギルドは混乱するし、下手すりゃ命の安売りになるだけのこんな実入りのないことをギルドのケツの青いひよっこ共に真似させる訳にゃいかん、問題が多い簡単にゃやっちゃいけねぇ事だ。


 だがギルド長のババァも子供好きで王都の現状に心痛めている一人だから、俺の達の勝手を敢えて黙認してるんだろう、長く冒険者をやってる俺なら自身の限界や引き際も解ってるし、他の依頼の合間にやる方法だって知ってるからな。


 世界を守る英雄は稀人様に、国を守る立派な騎士様は後輩に任せた、だから俺は目の前の貧乏人のガキ共の仕事を受ける冒険者になった。


 そんな奴が一人くらい居てもいいと思って冒険者を続けている、その考えが間違っては居ないと思える笑顔が目の前にあるからな。


 ガキ共が人生に絶望せずに大人になれる未来を願いつつ、いつかバルンバルンと乳を揺らして俺の目の保養になることを夢見てたら、遠慮ないガキ共のお陰で夜風で冷えた身体が子供特有の少し高い体温で暖められちまって、一日の予定が崩れちまった。

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