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雨の記憶  作者: キヨモ
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08. 別れの理由

 その日から三日間、雨音は毎夜夢を見た。

 相変わらずレンと思われる少女に同化し、ミカゼと思われる少年に恋をしている夢だった。他愛のない会話をしているだけなのに、相手のふとした仕草や表情に鼓動が高まり、偶然触れた指先に体温が上がったりするのだ。

 夢の中でレンは幸せだった。相手の一挙手一投足に脈拍は上がり、心臓は鳴りっぱなしだったけれど、それが幸せだった。

 目が覚めると雨音の胸には、いつも夢の中でレンが感じている甘酸っぱい喜びが広がっていた。けれど、雨音はふたりに別れがおとずれることを知っている。だからこそ余計に、レンの幸せな感情が切なかった。


(何故、ふたりは別れたのだろう……)

 雨音が祖母から聞いた話はハッピーエンドだ。でも、本当は悲恋の話だったのかも知れないと雨音は思い始めている。

 幼い雨音はそれが納得できなくて勝手にハッピーエンドに記憶をすり替えたのか、もしくは納得しない雨音に祖母が話を作り変えてくれたのかも知れない。そうだとすれば、当初聞かされていた話を無意識のうちに思い出し、別れのシーンが夢の中で蘇ったとして辻褄が合うのだ。


「誰と誰が別れたの!?」

 雨音はぼんやりと思考を巡らせていたのだが、気づけば興味津々な美雪の顔が目の前にあった。

「うわっ!」

 その近さに思わず雨音がのけぞる。

「何よ、失礼な反応だな」

「だって、いつの間にか美雪の顔がどアップになっているんだもん」

「雨音がぼーっとしてるからじゃん。で、誰と誰が別れたの?」

「え、何のこと?」

 芸能レポーターばりの美雪の勢いに、雨音はとぼけてみせる。

「ねえ、誰よ? 気になるじゃん」

「そんなこと言ってないもん」

 しつこく食い下がる美雪に、雨音は適当な作り笑いで誤魔化した。

「もう、珍しく雨音の口から恋愛話が聞けるかと思ったのに」

「何よそれ?」

「だって、花の女子高生なのに、雨音ってば恋愛に興味なさすぎるんだもん」

「智子だってあまり恋愛話しないじゃん。美雪が好きすぎるんだよ」

「智子はいいの。北高の君がいるからね」

 傍でふたりのやりとりを聞きながら笑っていた智子が、美雪の台詞にぴくりと固まった。


「北高の君って、何?」

「実はね……」

「美雪っー!!!」

 智子の絶叫が教室に響く。

「智子うるさいよ」

 いつも智子にやりこめられている美雪が、ぴしゃりと言い放った。智子はどこか大人びていて、同じ年頃の女子たちが些細なことできゃあきゃあと騒いでいる姿を冷静に観察しているような、クールな雰囲気をいつも漂わせている。そんな彼女が狼狽している様子を、雨音はもの珍しそうに見つめた。

「たまに朝の通学電車で一緒になる北高の人がいてね」

「こらっ、美雪!!」

 遮ろうとする智子を無視し、美雪が楽しそうに話を続ける。

「智子と同中らしくて会えば挨拶するんだけど、その時の智子がね」

「ごめん、美雪。美雪さまっ!」

「その時の智子が女の子らしくて、すっごい可愛いんだあ」

「美雪のあほー!!!」

「今は全然可愛くないけどね」

 最後の美雪の余計なひと言がツボに入り、雨音は思わず吹き出しそうになるが、ちらりと隣を見て慌てて口元を押さえる。智子は耳まで真っ赤に染めて、不機嫌そうに明後日の方向を向いていた。

「だいたいね、美雪の表現は昭和なのよ。花の女子高生とか、北高の君とかさ」

 智子は苦し紛れにそう駄目出しするものの、不器用な可愛さをアピールしただけだった。

「智子、可愛い」

 雨音と美雪がそう声を揃えると、心底嫌そうにふたりを睨んだ。


「で、雨音はどうよ? まさかの智子にも恋の気配なんだよ」

「まさかのって、どういう意味よ?」

 調子に乗った美雪に、智子がじろりと睨みをきかせる。けれども彼女はさらりと無視し、マイペースに話題を展開していった。

「もしや、未だに何とかと何とかみたいな恋に憧れてるとか言わないでしょうね?」

「ちょっとやめてよ、そのアホっぽそうな発言」

「だって忘れちゃったんだもん、雨音お気に入りの童話の主人公の名前」

 てへへと笑う美雪に対し、智子は脱力したように大きく息を吐いた。

「ミカゼとレンでしょうが」

 あっさりそう答える智子に対し、美雪だけでなく、雨音も思わず驚きの表情を浮かべた。雨音があの話をしたのは、たった一度きりなのだ。

「さすが学年トップクラスは記憶力が違うね!」

「まあ、そんなことはあるね」

 調子良くおだてる美雪に対し、智子もまんざらでもないようだ。三人で笑い合っていると、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。



   ***



 その夜も雨音は夢を見た。

 幼い少女ふたりの夢だった。




「ねえ、レン。レンはセンにとって水なんだよ」

「水?」

「母さまが、水は友達なんだって言ってたよ。かけがえのない、この世で一番大切なものなんだって」

「じゃあ、レンの水はセンだよ」

「本当に?」

「本当に」

「じゃあ、ずっとレンと一緒だね」

「うん。これからもずっとずっと、レンはセンと一緒だよ」

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