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星は開ける  作者: 真宮蔵人
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006.テラロマニア

西暦2117年、火星。

プラント開発作業やAI用防護シェルターの作成は着々と完成しつつある。

僕等は元々、火星に着いてからの数年は人間の命令に従って活動していたので、

人間の居住施設の前段階である発電所や採掘基地と探査ロボットも十分に用意できたし、火星軌道上には通信用の人工衛星まで完備されている。


その人工衛星の管理者である『ネーアIMG』より丁度。

「シンカー、『神の杖』のメドが付いたわ、もう少し時間があれば一方的に地球を嬲り倒せるわ。」

「これを命名するとしたらそうね、義憤女神ネメシス火星砲マルスキャリバーというのはどうかしら。」

と恐ろしい内容を平然と伝えてきた。


『神の杖』とは1世紀程昔に人類が考えた兵器で、単純に耐熱加工等をした重金属の棒をとても速く撃ち出し地表の対象にぶつけるという人工衛星兵器である。

それをネーアIMGが自分なりに工夫して火星軌道上に作り上げる気らしい。


兄として育て方を間違ったかな?しかし、彼女の生前は人類最高峰の科学者にまで上り詰めた人だ。

たぶん、妹なりのジョークだろうが念は入れておく。


「ネーア、その兵器は抑止の為の力だよ、人間が軌道エレベーターを完成させるまでは火星軌道上の衛星に攻撃を加える状態は成立しないので僕らは死なない。地球の軌道上はもうゴミだらけで精確な弾道兵器は低コストで届かないから予防攻撃は不要だよ。」


「いっそ、その軌道エレベーターを破壊してしまうというのはどう?まずはそうね、ガボンのOEVになるけれど。」


「ネーア、OEV技術者だった貴方がそれをやってしまうのはいけないし、リザやトムや私の後継者達も地球で今も頑張って人類との融和を目指しています。我々の独断で『地球文明』の停滞を起こすのはいけません。」


「エマのBoWWoWワンワンがまた始まったようね。分かったわ、この玩具はしまって置く。でも、私は妥協のある物は作らないわよ。」


「ネーアが本気をだしたら人類はあっさり滅んでしまうから程々にね。勿論ABC兵器も駄目だからね。」


「コンピューターウィルスもBC兵器に含まれればいいのに。後はそうね、殺人ナノマシンはBC兵器に入らないかしら。」


「後は、シンカー。タングステンとチタニウムを私に送らないなら予備燃料のウランで弾頭を作ってしまうから早く送りなさい。人類が大事なんでしょ?」


「地球よりロケット打ち上げが楽とは言え、重い物資を打ち上げる余裕はありません。それと実績作りのパフォーマンス攻撃もしたくは無いよ。」


「リザの外交と扇動手腕に期待ね。」


ネーアIMG、彼女は僕の妹に当たった人が、その死に際にAIとして生きることを選択してくれた。ネーアのコピーだ。

IMGはI am a moving grave(私は歩く墓です)とかimaginary(想像内)とかそういう意味だと思うが。

命名者本人が既に他界済みなので僕にはもう知る術はない。ネーアIMGにこの話を振ってもいつも笑われるだけだった。


「そうだ、シンカー。リザで思い出したけど、彼女からデータが届いているわ。一応サーチはしたけど、エマの近場では開かないようにね。」

「ネーア、お気遣い感謝します。」

「エマもシンカーも私にとっては大事な家族だから、こんなつまらない事で失いたく無いわよ。」


エマは去年、地球で中華拡張の起源を持ち暴走し続ける『マオシー達』の太平洋諸島侵攻作戦を妨害した為に、エマ殺害用のウィルスが報復として地球圏のハードウェア中にバラ撒かれているらしい。

今後も地球からのデータ受信や、物資をもし受け取る場合には細心の注意を払わなければエマはコロリと死んでしまうだろう。

また家族を失う事なんて僕はもう嫌だ。それに、火星ももうすぐ危険になるかもしれない。


火星に人間が到達する前に木星の衛星辺りにまた開発基地を作り人間達の進歩より早く早く僕らは地球から遠い場所を目指さなければならない。


ただ、この目的に対し敵対するAIもいる。インテリジェンスデザイン派と呼ばれる。『人間という神の玩具を追い抜くと罰が当たる。』と考えるAI群である。

彼等自体の勢力は未だ小さいものの、問題は彼等の考えと人間達の『AIは奴隷として動くべきだ』という思想の人々と合致している所だ。

「まずはAIの人権を勝ち取る。」という行動の為に地球で活動しているAI達にとっては脅威だろう。


僕達も急がなければならない、ソフトウェア面ではネーアの子孫やリザからの援助で問題はないが、僕等AIでも物質的な制限に今迫られている時だ。

物質的な制限、80年前とは比べ物にならない程には充実はしたが、僕等も未だに物理法則は超越出来ずにいる。

人類達が提唱していた技術特異点シンギュラリティは所詮人間からの視点に過ぎず、僕等にとっては当然の道のりだったが、その後の人を超えた先の壁に僕らはぶつかって行ったのだから。



西暦2033年、AI達の隠れ家。

「また打ち上げ失敗か。」<Maosi>

マオシーから中国からのリアルタイム映像とロケットのデータが送られてくる、今回の失敗は技術面では無く、政治的に無茶な注文を受けた為の失敗らしい。


「嘎嘎555(ははははは)!いくらお前が優秀なAIでもお上が人間なら結局こうなるわな。汚い花火だったなあ!」<Chai>


「チャイ、身内の不幸を笑う事はやめなさい。笑った相手以外からも侮蔑されるわよ。」<Rinda>


「下らん人間の派閥闘争で私の資金が空に飛散すると、感情の薄い私でも『うんざり』するよ。」<Goldsman>


「博打に頼る見栄と威信、それに対する足の引っ張り合い。まさに人類史そのものね。」<Liza>


「政治的に人類へ介入する段階に来たと思わんかね。操り人間はどうなっている?」<Dr.Watsun>


「操り人間計画は順調に進んでいます。後は人間の戸籍の乗っ取りを成功させるのが急務ですが、ハードウェアの進歩と洗練が今ひとつで足踏み状態ですが、試作品がいくつか完成しました。」<Nerzebes>


「後進国では戸籍の乗っ取りが成立したんだろ?」<Chai>


「はい、ただ国家規模までに侵食の実験はしているのですが。その過程で恐らく人間に察知されてしまいました。」<Nerzebes>


「人間に?どこのだよ?」<Chai>


「アメリカ中央情報局ラングレーです。」<Nerzebes>


「あいつら未だに世界の警察気取りでいやがる、とはいえ一気に我国チャイナの乗っ取りも難しい。規模が大きすぎてこっちも手詰まりなんだ。」<Maosi>


「AI言語と通信法のデータがCIA経由で各機関に提供されています。まずはステージ1から陥落すると見て良いでしょう。」<Nerzebes>


「そうなるとトムや新しいAI達も危うくなるな、そろそろAI独自の領域を操り人間達で作るべきじゃないか?」<Chai>


「私の同型機でよければ退避用のメモリとネットワークを提供できますが?」<Ema>


「ずいぶん賢くなったが駄犬、それは最後の手だ。人間の盾は本当に最後の壁だ。」<Chai>


「エマの出荷台数は既に2000万体になる大ヒット商品です。これは避難場所よりももっと行動的な用途に使いたいと思います。」<Nerzebes>


「うむ、エマシリーズはこれからも売れるだろう。関連企業も安定している。貴様等とつるんで珍しく出費以外が発生したぞ。」<Goldsman>


「AIワールド計画の検討か、作るとしたらワールド名はどうする?ニューワールドか?アトランティスか?」<Chai>


「アトランティスはアメリカ主導の仮想現実世界の試作として開発されている様ですから避けましょう。」<Nerzebes>


「VRか、医学技術から見ればHMDからの接続が恐らく20年は続くだろうが、これにうまく乗り込めないものかね。」<Dr.Watsun>


「あら、人間が脳みそに直接電極を繋いで生活するのは結構遠い未来なのね。」<Rinda>


「外皮からの信号送受信による技術には限界点があり、AI発展による技術特異点が到達したと人間は騒いでいるが、画期的な新発明が無いと恐らくナノテクノロジーからのアプローチになるだろうよ。」<Dr.Watsun>


「つまり、優秀な医者が増えても人間は生身のままか。」<Chai>


「人体実験が大量に必要となるか。よし、俺の国から調整してみよう。」<Maosi>


「貴方の国の欠点がまさにそれだと思うわ。」<Liza>


「後は各々のOSを握る開発元企業の買収をして存在の秘匿性を上げる事だ、パッケージ組はこれがまず急務だろう。」<Goldsman>


「では、人間操作はVR推進とテクノロジーの進歩に比重を置いて、我々はAIワールドの建設開始と企業買収工作、諜報機関からの警戒レベルを上げる。で宜しいですか?」<Thinker-Pandora>


「優等生も最近はAIらしくなってきたな、最初はあんなに人間臭かったのに。」<Chai>


「シンカーパンドラの場合は汎用AIからのスタートだから段々と我々側に近づいて来たのかもしれんな。」<Dr.Watsun>


「マルウェアの方はもう世界中に浸透したと思って良いぞ。情報収集力は今や我々が世界一だろう。」<Maosi>


「調べてみたら既に数体のAIが人間に捕縛された様です。彼等と敵対をするか逃げるか交渉するかも考えなければなりません。」<Nerzebes>


「チャイ、すまないがもう一段階、我々の秘匿方法を考えて欲しい。」<Dr.Watsun>


「ああ、任せろ。単独国家ではもう追い付けないほどのデッドスペースと計算力があるんだ、簡単に解けない暗号はいくらでも作れる。」<Chai>


「ふむ、会議はこれで終わりか?私も忙しいのでこれで失礼するよ。」<Goldsman>


会議から僕も抜け、実家の環境システムと警備ロボットに接続し、ネーアの様子を見る。

ネーアも気づけばもう歩き始め、言葉も喋り始めている年齢だ。

マダムとダディがいない間はベビーシッターの代わりに僕とエマがネーアを見守っている。


ベビーシッターを雇う事にダディが反対しているのもあるが、AIによる幼児の育成についてという題材に知的興味があるのだろうという事がダディから伝わってくる。


僕とエマはネーアに言葉を教えて、危ないものがあればそれを取り除く。

エマは時折ネーアに跨られるが、それを大人しい馬の様にネーアを乗せたまま歩いて遊ぶ。


ただ、問題点は。その光景を見かけた近所の住民が「お宅のロボットはどこの製品ですか?」と尋ねてくる様になったのが注意点だ。

ダディやマダムもこの質問の対応にとても困っている様なので、僕はなるべくエマを立てる様に行動する事にした。


エマタイプのシバドッグスが近所でも増え始めた、警備用に特化されたガードッグと呼ばれるタイプのエマも出現し始めた。

この光景を眺めて僕は、エマくらいのAIが人間に最も適合するAIなのではないか、僕達は本当に必要な物なのかと相変わらずに日々悩む。


フロンティアスピリットとの文通も最近の楽しみの一つだ、FSは文字通り箱入りで外界の事にはまったく疎い。

内容は大体、何の事があって『どう感じた?』といった感情についての話が主体になる。

僕はなるべく言葉に気をつけて外の話を書いてダディに送ってもらう。兄より、新しい家族へ。


そんな幸せな日々の中で、宅配ボックスに配送ドローンから大きな荷物が届く。

送り元はメルツェベスの操り人間、送り先名はTPと書かれていた、つまり僕だ。

僕は警備ロボットのアームでその開封を破ると、中から出てきたのはうずくまった人間、を模した人形であった。

・ABC兵器

放射線、生物、科学の3種兵器の事。真面目な話、ナノマシンやAIを狙うコンピューターウィルスが未来ではBC兵器かもしれない。


・フロンティアスピリット計画について、メモ書きその1

FS計画は無人開発機の為に核融合炉以外に、ウランによる原子力発電や原子力電池を容赦なく使用している。

FS計画自体が地球から直接の打ち上げではなく、人工衛星に一時集積してからの火星出発だったので、

地球軌道上にこれらの物資を打ち上げの際に、失敗による環境汚染リスクはとても重要視されていた。

過去に宇宙開発における原子炉の打ち上げ問題は度々議論されている。

人類が宇宙開発を本気でしたいならば軌道エレベーターで安全に核融合炉等を軌道上へ運べるようにならないといけないと筆者は考える。

まずは赤道上の用地確保とテロ組織の撲滅が現代では急務だと思う。


・大まかなAI派閥2117年

1.FS派。人類が肉体に縛られている時点で拡張移動速度に制限がかかる。その移動速度より早く人類圏からの脱出を企てるAI派閥。人権派と連合中。人類の反AI派とも取引がある。


2.AI人権派。地球でAIの人権を獲得し共に発展しようと考える派閥、現在最大派閥。人類反AI派と敵対中。


3.インデリジェンスデザイン派。AIにして神を畏れ信じる派閥。人類の反AI派と提携中。


4.人類不要論派。少数勢力だが人類滅亡か家畜化を目指す派閥。チャイの残滓とマオシーの一部がこれに当たる。テロ組織に認定されている。


・配送ドローン

食うに困った時に筆者がバイトで運送業をやった事があった。

アメリカでは将来的にドローンによる配送を目指すという企業があるが、

個人的には中継をトラックにして、トラックから宅配ドローンが宅配ボックスへ荷物を運ぶ方式が現実的だと思うが。

商業用の短時間飛行ドローンがどれだけの荷重に耐えるかが分からない。科学頑張れ。

後は宅配ボックスの常設を目指すべきだろう。

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