第96話 王宮戦
「雷よー」
呆然としている兵士たちに向けて、グレンが雷撃を放ち、一瞬で全員を戦闘不能にした。
「本当に、手際が良いね」
目の前の様子に感心するリベルは、グレンに向けて言った。
「そうでなくちゃ、意味がねぇだろ。それよりも、次だ。さっきよりも範囲を絞って、王宮内に限って探査をしてくれ」
「それで強い人を探すんだね」
リベルはもう一度、探査魔法を発動させる。
今度はより正確な情報を掴むことができた。
調べる対象の人間の数が、もう相当数減っているのも、調べやすかった要因だ。
「三人、見つけたよ。一人は男で、真っ直ぐにこっちに向かってる。ここに着くまで、あと五分くらいってとこかな?たぶんだけど、前回グレンの探査魔法に反応したのは、この人だと思う」
「どうしてそう思う?」
「この人が一番最初に、僕の探査魔法に反応したから。他の二人は、一拍遅れて、だったし」
「そうか。残りの二人は?」
「一人の女もこっちに向かってる。でも、さっきの人よりも数分後になると思う。ただし、こっちに来るまでのルートが違うね」
「そうか。残りの一人は?」
「残り一人の男は、最上階にいるみたいだね。傍にもう一人何だかわからない人がいるから、おそらく国王の護衛でもしてるんじゃないかな?」
リベルの言い様に、ソフィーが苦笑いしていた。
『国王を何だかわからない人と表現しますか。面白い言い方ですね』
「しょうがないでしょ。情報の密度が、さっき言った三人とは桁違いに薄いんだから」
「逆に言えば、その三人が相当に強いってことか」
「そういうことだね」
グレンはリベルの報告を受けて、考え込んだ。
当初の予定では、元を破壊した後は、グレンとリベルは二手に分かれる予定だったのだが、いくらソフィーが付いているとはいえ、三人のうちの一人と鉢合わせる可能性が高い。
趣味レーションでもその可能性は考えていたが、実際に直面すると、その可能性が現実味を増してきた。
いくらリベルに<ハーモニクス>があるとはいえ、リベルは戦闘など全くと言っていいほどしていないので、熟練度では三人に圧倒的に劣る。
<ハーモニクス>なら最悪のことまでは起きないだろうが、人に対して使うという状況はできれば避けなければならない状況だ。
なら、このまま一緒に行動し続けるか。
しかし、それでは速さが劣る。
迅速に動くには、やはり二手に分かれる方が賢明だ。
グレンは二択に苦しみ、すぐにでも結論を出さなければならないということに、焦りが見えた。
それを見たリベルは、自分から口にした。
「グレン、予定通り、ここからは二手に分かれよう」
「おい、ちょっと待て」
咄嗟にリベルの考えを止めようとするグレンだったが、リベルが向けた冷ややかな視線に声を詰まらせた。
「グレン、決断できなければ、どんな想定も準備も無意味なんだということくらい、僕よりもわかっているはずでしょ?さんざん考えて、計画を立てたんでしょ?その結果が、別行動という選択なんでしょ?この状況も想定していたでしょ?想定通りでしょ?」
「っ!?」
「どうあっても、どうにかしなくちゃいけないんだよ。悩んでいる暇はないんだ。今この時は、即断即決で最適解を出すしかないんだよ。大丈夫、僕はどんなことがあってもお前を恨むことはないし、ソフィーだっているんだから、問題ないよ。こうしてずっとここにいることの方が、むしろ危険だったりするしね」
そう言って笑みを浮かべるリベルだったが、確かにリベルに言う通り、ずっとここで考えている方がより危険だ。
そうせざるを得ない状況に追い込まれて決断するよりも、そうなる前に決断する方が、同じ結果となるとしても、後者の方が圧倒的にいいに決まっている。
それをグレンは、わかっていたはずなのだ。
ただ、優先順位でリベルを高くし過ぎているがために、グレンの判断が遅れた。
だが。
(ここでリベルに諭されるとか、あっちゃいけないことだろうが。リベルの言う通りだが……もっとちゃんとしなくちゃな)
グレンは一回深呼吸をして、リベルとソフィーに向き直る。
「それじゃあ、二人はこのまま予定通りに進んでくれ。俺も後で合流する」
「了解」
『一応、気を付けてくださいね』
そう言うと、二人はすぐさまその場を後にする。
最初の男が到着するまで、もうあまり時間がない。迂回して、出くわさないよう、先ほどの探査で把握しておいた道へと進んだ。
一方、グレンはリベルたちとは逆に、むしろ向かっていくように、気配のする方へと足を進めていく。
歩きながら、グレンはもう一度深呼吸をして、気持ちを落ち着けるのと同時に、静かに闘志を燃やす。
その気配を感じ取ったのか、向かっていた気配が少したじろぐのを感じた。
敵との距離はもうわずか。
この機を逃す手はなかった。
「豪炎よー」
そう唱え、グレンの身長ほどの火球を出現させ、それを相手に放る。
正確な居場所はわからないが、この炎はほぼ確実に届くだろう。
なにせここは限られた空間である地下だ。孫通路を通って、炎は伝わっていく。
グレンの放った火球は、一直線に進んでいき、一瞬、白い鎧が映し出された瞬間に爆発した。
「うおっ!?」
そんな声がその男から上がるが、それは爆発の音でかき消された。
熱気がグレンの頬を撫で、目の前には赤く燃える炎がゆらゆらと爆発の残滓となって残っている。
その様子を見て、グレンは笑みを浮かべざるを得なかった。
「やっぱり、このくらいじゃ終わらねぇか」
ブワッとひと際強い風が起き、燃え盛る炎が吹き飛ばされた。
その中央に立つのは、変わらずに白い鎧を着た男。
剣を構えたその姿は、グレンにはとても清いもののように見えた。
その目に映っているのは、確かな意志だった。
「へぇ、こんな国の騎士様がどんなもんか気になってたけど、案外良い面構えしてるじゃん。ちょっと意外だな」
「なめた口をきいていると、その口を命とともに散らすことになるぞ、小僧」
「はははっ、小僧か。そんな風に言われるのも、相当久しぶりな感じがするな」
「貴様、なぜこのようなことをする?数日前、この王宮に入り込んだのもお前だろう?」
その言葉で、グレンはこの男が、リベルの言ったようにグレンを感知した男だと確信できた。
そのことをグレンは、良いことだと思った。
「このような、ね。まぁ、ぶっちゃけて言えば、気に入らないから潰す。それだけだ。生憎と、俺の連れのやりたいことのためには、この国の制度が邪魔になるんだ」
「そんな、勝手な理由で、国一つを潰すのか、貴様は!」
「そうだな。俺にとっては、この国はどうでもいいものだ。おそらく、俺の連れにとっても、この国はどうなってもいいもののうちの一つに過ぎないだろう。だが、気に入らないものは気に入らない。それだけのことだ」
「それを勝手だとは思わんのか」
「思うぞ。こう見えて、俺だって国を治めていたことがある。そっち側の言い分も理解できなくはない。だが、今の俺はどうあってもあいつの味方だからな。あいつの邪魔になるものはすべて消すだけだ」
男の意志が固いのと同じように、グレンの意志もまた固い。
それがわかった男は、グレンの闘気に向かい合う。
「俺は、エクリア王国軍第一部隊隊長、エドモンド=ルーク。殺す前に、貴様の名を聞いておこう」
向かい合うエドモンドの気に、今度はグレンの方がたじろぐ番だった。
部隊長を任されているだけのことはあって、それなりのもので、予想以上だった。
ただ、名乗りを要求されたことに関しては、グレンは肩を竦めた。
「今の俺には、名乗るような肩書もねぇし、大層な名前じゃねぇよ。ただのグレンだ。グレン=フィル。それが今の俺の名だ」
「意味深なことを言うのだな。出来れば、そこら辺の事情も聞かせてもらえるといいのだが」
「断るに決まってるだろ。なぜ、お前に言わなくちゃならん」
「だろうな。まぁ、いい。ここから先は、殺し合いだ」
殺し合い、という一単語で、エドモンドの気がさらに高まった。
もう慣れてグレンはたじろぐこともなかったが、それでも内心では感心していた。
グレンは思わず、ぼそりと口にしていた。
「なるほど、これは面白くなりそうだ」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。そっちが殺し合いと言うなら別に構わんが、こっちとしては殺す気はないからな。独り相撲には気を付けろ」
「安心しろ。すぐにお前も、殺す気でやらなくてはならなくなる」
「ほう。それは面白いな。なら、精々頑張ってみろ」
そこから数秒後、王宮内で戦いが始まった。




