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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第二章 戦争の予兆
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第92話 予想以上

今回は少し長めです。

ワンシーンをそう何度も切るのはどうかと思いまして、今回はそうさせてもらいます。

『相変わらず、予想通りに予想外のことをしてくれますね』

「それは結局予想外ということでは?」

『細かいことは良いんです。ひとまず、探査を解いてください』

「わかった」


 リベルは魔力の制御を放し、青い世界が消えていくと、目を開けた。

 隣を向くと、そこには目に輝きを持ったソフィーがいた。

 そのことに嫌な予感がしたリベルは、恐る恐ると尋ねた。


「えっと、どうかした?」


 その質問に対して、ソフィーはニコリと笑顔になった。

 そして、それがリベルには余計に嫌な予感を感じさせるものでしかなかった。


『リベルはやっぱりすごいですね』

「それは、どうもありがとう」

『教えたこと以上のことをやっちゃうんですから、ここはもう、先へ行くしかないですよね』

「その先というのは、予想できるけど、一応言ってみて」


 リベルは自分の嫌な予感があたっていないことを祈りつつも、それが無駄であることを何となくわかっていた。


『もっと、本格的な魔法を覚えましょう』

「却下!」


 予想できていたがゆえに、即答だった。

 その答えに、ソフィーは本当に残念そうな顔をした。


『え~、もったいないですよ、才能があるのに。覚えておくに越したことはないですよ』

「それでも却下。探査魔法以外を覚える気は、今の僕にはない」


 頑なに拒否するリベルに、ソフィーはなおも言い続ける。


『そんなに嫌ですか?できることは多い方が、いろいろと便利ですよ』

「かもね。でも却下」

『却下却下って……そこまでですか、リベルに意地は』

「維持という言い方には少なからず言いたいところはあるけど、そこを押し込めると、ソフィーの言う通りだよ」

『そして、言い回しが面倒です』

「それが僕だからね」

『そこは自慢できるようなところではないと思いますが……今はいいです。とにかく、そんんに魔法を覚えようとしないのは、どうしてですか?普通の人なら、魔法を使えるというだけで、結構思い上がると思うんですが』

「ソフィーも大概言い回しがすごいよね」


 リベルが呆れたように言うと、ソフィーは、てへっ、と舌を出して誤魔化そうとした。

 リベルはそこまで突っ込もうとは思わなかったので、それで誤魔化すのに乗ってあげたが、一応記憶だけはしておいた。


「思い上がるかどうかはともかくとして、確かに魔法が使えることをアドバンテージとする人は多いよね。僕でも理解できるくらいに」

『でしょう?だったら、どこに納得できないんですか?魔法を覚えるのに、悪いことは特にないと思いますけど』

「そうだね。<ハーモニクス>みたいな面倒なのを例外として、基本的に魔法を覚えることは不利にはならないよね」

『そこで自分の使える魔法を、さらりと否定するのはどうなんでしょう。気持ちはわかりますが……』


 ソフィーは実際に<ハーモニクス>の影響で見た目の年齢は変わらなかったわけだが、それが良いことかどうかは微妙なところだ。

 何事にも良いこと悪いことがあるのだから、一概に決めることはできない。

 それゆえに、<ハーモニクス>を否定するリベルを、ソフィーは否定できない。

 むしろ、普通でないという意味ではとても面倒な魔法なので、賛成できるくらいだ。


『それで、他の魔法は別に面倒でもないのに、どうして覚えようとしないんですか?別に、絶対に強制したいわけではないですが、何だか勿体ないような気がするので』


 落ち込むように顔を伏せるソフィーの肩をリベルは叩こうとしたが、触れないことも思い出して、手持ち無沙汰になった手を振って、苦笑いを浮かべた。


「勿体ないって言ってくれるのはうれしいけど、そもそも僕が探査魔法を教えてもらおうと思ったのは、それが必要だと思ったからで、必要だと思わなければ、覚えようとは思わないよ」

『それは……正論ではありますが、手に入れられるものはできるだけ手に入れようとは思いませんか、普通?』

「そうかな?必要な時に、必要なものをっていう風にすれば、それでいいと僕は思うんだけど」


 ソフィーは反射的にさらに言い返そうと思ったが、途中で理性の思考が入って、それを止めた。

 こうなってリベルが自分の意見を主張するなら、それを尊重しようとしていたはずだった。

 いくらソフィーが勿体ないと思っても、リベルがそれを必要としなければそれまで。

 結局、無駄になってしまう。

 それなら、ソフィーはリベルに頼まれたことだけやって、それ以上は本当に必要になった時だけにした方が、リベルのモチベーション管理においては良いことだ。


『……わかりました。リベルがそう言うなら、そうします。いきなりたくさん教えても、それらを吸収できなければ、まったくの無駄ですからね。今は探査魔法に集中しましょうか』


 魔法使いの一人として、ソフィーのその決断は苦渋の決断とも言えたが、リベルがソフィーに対して笑みを浮かべると、ソフィーは別に苦渋の決断でもいいかなと思った。


「ありがとう。じゃあ、さっそくだけど、探査魔法って、今僕が使ったのとは別の種類があるんだよね」

『あ~』


 リベルの言う今使った探査魔法というのを、ソフィーは思い出して、再び呆れてため息が漏れた。


「えっと、そこで何でため息を吐くのかを聞いていいかな?」

『えっとですね、何というか、改めてリベルは私の予想を超えてくれましたねって思ったら、ため息が、つい……』

「……まぁ、使ってる個人にはわからないから、そこは別にどうでも良いことじゃないかな?」

『いや、使ってる本人はわかっていなければダメでしょう?』

「うぅ、そういうものか。でも、実際どういう所がソフィーの予想を超えていたわけ?」


 リベルは自分でやってみて、特に変なことをしたつもりはない。

 ちゃんと、ソフィーので感じた感覚と同じようにやっただけだ。

 そこにどこか違うところがあったかどうかは、リベルにはさっぱりだった。


『簡単に言えば、私が使った時よりも、リベルが使った時の方が、得られる情報量が多かったという所ですね』

「というと?」

『探査魔法に映っていた人たちが、一体どう人か、という所が、リベルの魔法ではわかりました。種族、性別、個人の体格。そこまでわかれば、個人が特定できます』


 そこまで言われて、リベルはやっと気づくことができた。

 あまりにも当然のように情報がわかったので、そこに違和感を覚えることがなかったのだ。


「そういえば、ソフィーの方では、そこに人がいるということしかわからなかったね。その人の種族や性別、体格はわからなかったよね」

『私が手本で使ったのは、探査魔法の中でも基本的なものですからね。そこまで詳しくはわかりません。ですが、リベルは私と全く同じ条件でやったのに、私以上の情報を得ることができました。それがすごいんです』

「う~ん、人から言われるだけだとなかなか実感が湧かないけど……まぁ、いいか。それより、ソフィーが手本で使った魔法だけど、さらに情報を得たい場合はどうすればいいのかな?」

『はい。それを次に説明しようと思っていたところです。また手本を見せますので、感覚を感じ取ってください』

「わかった」


 リベルは頷くと目を閉じ、ソフィーとの感覚の繋がりに集中した。


『それでは、行きます』

「わかった」


 ソフィーは先ほどと同じだけの魔力を集め、そして、それらを先ほどと同じように放出した。

 しかし、リベルは先ほどとは違う部分を感じ取った。

 ただ、それをどう言えば良いのかがわからず、悩んでいると、その間に周囲の探査が完了していた。


「こうなるんだ……」


 リベルは探査でできた青い世界に意識を戻すと、すぐに気づいた。

 今度の変化は、よくわかった。

 人々から得られる情報が、先ほどリベルがやったのと同じように、種族、性別、そして体格がわかるようになっていた。

 しかし、リベルが真っ先にわかった変化はそこではなく、青い世界の範囲が、先ほどよりも狭まっているということだ。


『これが、さらに情報を得た結果です。見てわかると思いますが、範囲が狭まっています。精度を挙げると、このように探査できる範囲が狭まります』

「この範囲を広げるには、やっぱり、消費する魔力量を増やすの?」

『正解です。この探査の範囲は、調べたい情報の精度と、使う魔力の量に応じて変化します』

「そのほしい情報っていうのは、どういう風に選べるの?さっき何だか変な感じがあったけど、よくわからなかったんだけど」


 リベルは先ほどの感覚を思い返すと、頷いた。

 ソフィーと感覚が共有できているとはいえ、その感覚を理解できなくては、わからない。

 感覚の共有で、すべてがわかるわけではないのだ。


『そうですか。まぁ、そこら辺は、人によっては完全に感覚頼りで適当にやる人もいますし、それで何とかなっちゃうところもありますからね』

「マジか……」

『マジです。ちなみに、実は私も感覚頼りなところがあるので、それに関しては何とも。ですが、イメージすることはありますよ』

「イメージ?」

『はい。結局のところ、魔法とは個々人によって、使い方や発動の仕方が少しづつ変わってくるものです。大まかな基盤となるものはありますが、そこからはその人が使いやすいようにアレンジすることもあります』

「……そういうことね」


 すなわち、魔法とは十人十色なのだ。

 同じ魔法であっても、発動の仕方が違ってきて、人それぞれの使い方がある。

 同じ魔法に対して抱くイメージも、人それぞれ。


『一応、私が探査魔法で情報を得る時にイメージすることは、水の中、ですけど』

「水の中?」

『はい。情報を得るために、水という情報の深くまで潜っていく、という感じです』

「あぁ、何となくわかるかも。僕もそれでやってみようかな」

『そうですか。それでは、やってみてください』

「うん」


 目を閉じたリベルは、手元に魔力を集める。

 その量は、最初と同じ。

 同じにしなければ、範囲が狭まったことがわからなくなってしまう。

 そして、次が本番。

 ソフィーの言うように、水の中を徐々に進んでいくのをイメージする。

 その水は、深みが真っ暗で何も見えない。

 その深みへと、進んでいくイメージをする。

 そうしてしばらく沈んで、もういいだろうと思ったリベルは、さらなる情報を得るために、探査魔法を放った。


「!?」


 リベルは次の瞬間、驚きに目を見開いてしまった。

 そうすることで二つの世界が合わさり、変に見えたので、すぐに目を閉じた。

 しかし、目を閉じることで、リベルが驚いた青い世界が、鮮明に見えた。

 予想通り、狙った通りに、リベルは青い世界の範囲が狭まっているのがわかった。

 大体、半分くらいまで狭まっているだろうか。

 さっきのソフィーの時よりも少し狭い。

 だが、そんなことは驚くことではない。

 一度目にリベルが使った時に、情報量の変化に気付かなかったが、今度は注意していたため、よくわかった。

 リベルが見た世界の情報量は、圧倒的に多かった。


『これは……ここまでとは思っていませんでしたよ』

「ソフィーでもそうなんだね。僕は詳しくはわからないけど、これには驚いたよ」


 二人して驚愕していた。

 リベルでもわかったことだ。

 熟練しているソフィーには、もっとインパクトの強いものとして映っていることだろう。

 一度目は、得られた情報は、人がいること、種族、性別、そして体格。

 そして今回は、一度目の情報に加え、様々なことが見えた。

 それぞれの人の歩く速度、手の正確な大きさ、声の大きさ、年齢、健康状態。

 人でない物体に関しては、その耐久度、使用されている年数など、もうたくさんの情報がリベルの脳内を駆け巡っている。

 それはソフィーも同時に感じていることで、その情報量の多さに、若干頭が痛くなってきていた。


『リベル、魔法を解いてください。よくわかりました』

「わかった」


 何だか辛そうにしているソフィーのことを気遣い、リベルは即座に魔法を解いた。

 そして、示し合わせるでもなく、お互い念のために感覚の共有を止めた。


『結構辛いですね』

「僕も予想できてなかった。いきなりあそこまで行くんだね」

『リベルが予想できないのは当然です。初めてなんですから。本来なら、私が想定すべきでした』

「そうかもね。でも、ソフィーも想定できてなかったんじゃないの?その反応からするとそう思えるんだけど」

『その通りです。またしても、予想を超えてくれましたね。……いえ、こちらでもどれくらいまでやればいいかを決めていなかったので、準備不足ということですかね』

「つまり、お互いさま?」

『そうなりますね』

「ははっ、ならいいか」

『私もそう思います』


 この後、二人してしばらく笑っていた。

 心構えもなく一気に多くの情報を得てしまったがゆえに、二人とも疲れが見えていた。

 特に、ソフィーの方は頭痛もあるということで、笑っていれば少しは気が楽だった。

 リベルも、何だか申し訳なくて、笑っていることにした。

 この時、お互い感覚を共有していなくて良かった、と本気で思った。

 繋いでいないおかげで、リベルへソフィーの痛みが伝わることはなかったし、ソフィーにリベルの心の中が伝わることもなかったのだから。

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